椎名作品二次創作小説投稿広場


虹色の笛

綺麗な音色


投稿者名:えび団子
投稿日時:03/12/26

朝は早く、近頃どうも冷たくなってきたアスファルト。
夏は過ぎ秋の到来を告げる風。めっきり電気代が落ちた今日この頃。
日に日に寒さは増していき、枯れ葉が落ちる季節。
前まであんなに五月蠅かった蝉のさえずりもピタっと止んだ。




     ――――――――綺麗な・・・音色ね――――――――




窓から眺めるその世界は寂しげで人が溢れているのに活気がない。
不安と恐怖が一杯で、優しさや安心は過去の産物になってしまった。
記憶によれば数日前か、俺の中にある意識が変わったのは。
少しの失敗も許されないこの世界で。一瞬の気の緩みから。
あってはならない事故が。数秒のコンマの反応が出来ていれば。









 ――――――――時間が、二度も止まっちゃった・・・――――――――









今更で遅いけど、吹かせて欲しい。俺の為に・・・
こんな形でなんて想像もしてなかったけど、君の為に・・・
居場所がなくなってない事務所に、皆の為に・・・
世界中の優しさと安心をいっぺんに受けた、おキヌちゃんの為に・・・





























  ――――――――俺は吹くよ、いつまでも・・・・――――――――




























「あの人、今日も吹いてるわ。・・・見てられないっ!」


オカルトGメン特別医療センターに収容されて一週間。
相部屋ではなく個室にして貰ったのも音色のせいで、防音システム作動中だ。
看護士の決まった時間に往診するのも何度見たか。同じ台詞も。
俺の姿はさぞ哀れだったのか必要最低限の言葉で終わる。
気を遣って貰って何だけど、そんなに落ち込んではないし、
ブルーになったのは、ほんの一日だけで。彼女が夢に現れてからは、
むしろ元気になった。俺の失敗が原因だけど彼女は全然気にしてなく。
『あまり気にしないでくださいね?私のせいで横島さんが悲しむのは・・・』
こう言ったんだぜ?俺の勝手な解釈が夢に出たのかもしれないけど、
気持ちは心は取り戻した。闇に向かってた俺自身を。


「へへへ・・・少しは上手くなっただろ?」


笑ってみる。口元をわざとに緩ませた。


「もう一回吹こうか?」


小部屋の外では西条と美智恵さんが肩を震わせ泣いていたし、
残りの関係者もきっとこの空の下で同じ想いであるだろう。
オレンジになりかかった夕暮れ時に俺は一つだけ・・・一つだけ思った。
何故皆、俺を責めないのか?直ぐに答えは浮かんでしまったけど。
きっと彼女は優しいから、皆に現れたんだな。それと・・・
彼女と言う人間を分かっているからこそ俺に何も言わなかった。








 ――――――――♪〜♪〜〜〜ピロロッ・・・♪〜〜♪――――――――








綺麗な音色が風に乗って、あの世もこの世も何処にでも、
流れていった気がしてた。世界中なんて無理だろうけど、
少なくとも彼女を知る者と不安と恐怖だけの世界には届いたと思う。
これでちょっとでも変われば、と願う。自分勝手で申し訳ない。
















「又、・・・来るよ・・・・。」
















静かに、ゆっくりとドアを閉めた。秋の訪れは儚く、枯れ葉を切り。
肌寒い風を残し消えていった。夕日は窓から照らしガラスに反射し、
永久に輝くだろう。部屋には機械の音だけがカタカタと鳴っていた。
しかし、一つ誤算だったのが謎の機械音は有霊波反応で。
霊死判定を受けてた状態(身体は機能してても霊波が止まっている状態)
奇跡的に彼女の指が動いたのを見逃したことと一番最初に顔を、
見れなかったこと。















  ――――――――ネクロの血が覚醒した瞬間であった――――――――















先の展開はともかく、俺は単純に嬉しかった♪








 スッ・・・スッ・・・スッ・・・スッ・・・っ痛う!


「やっぱり上手くは切れないなあ・・・」


林檎の皮をフルーツナイフで切っていたが何分不器用で、
彼女の凄さが色んな意味で分かった。歪な形になった林檎を
一口サイズに合わせる。真っ白なお皿にそれを乗せると
爪楊枝を数本突き刺す。円形のテーブルに出来上がりを静かに置く。
我ながらまあまあではないのか?と思いつつも食べてくれるか
心配だった。


「まっ、いいか。」


椅子から立ち上がり窓に近づく。彼女を起こさないように
一歩一歩静かに進む。白く且蒼いカーテンを波打たせ、
両手で一気に開ける。朝日が暗がりに慣れた瞳を容赦なく照らす。
一瞬、顔を俯き加減に背け目を細める。窓の鍵を外し、
す〜っと透明なガラスを解き放つ。爽やかな風が全身に
纏わりつき大きく深呼吸する。背伸びをしベットに寄る。










――――――――おはよう・・・昨夜は大変だったよ――――――――










寝顔にそっと朝の挨拶。限界ギリギリまで近づけた顔は、
端から見てると結構危ないワンシーンだった。普段はできない
からこの場を借りて・・・な?おそらくこれが最後になるから。
そう――――――意識が戻ったのだ。昨夜に・・・。











『えっ、・・・』


知らせを受けたのは家に帰ってから10分も経たなかった。
受話器を持つ手に力が入らなかったから落としそうになった
のを覚えている。俺は電気も消さずに鍵も掛けずに出て行った。
ともかく一秒でも早く会いたかったのだ、『おキヌちゃんに』


――――――――ガチャッ・・・――――――――


肩で息をしていた。走りっぱなしだったからな、当然か。
ドアノブに手が伸びそっと開けた。鼓動は加速して行く。


『おキヌちゃん・・・』


優しい瞳がこちらを見ていた。闇の中に消えていた筈の瞳が。
俺は一歩一歩確実に近づきゆっくりとその手を握った。
白くて細かったけど、たしかに熱を含んでいて、温かかった。

『お帰りっ・・・!』


泣き出しそうなくらい堪えた。自分が言った一言に、
言葉が届くことの幸せに。無理に笑ってみせた。


『横島・・・さん』








――――――――聴こえてました、笛の音色が・・・――――――――









「はっ・・・!?」


椅子に座り込んで俯いていた俺の首が持ち上がる。
朝の挨拶をして花の水やりを済ました後、缶コーヒーを
買ってベット近くの椅子に腰掛けてたところ、記憶が・・・
昨夜を辿っていってしまったのだ。


「ふう・・・」


一息つく。窓から見える空を眺める。
いつもは四角い形のそれは高さ東京屈指を誇る
オカルトGメン特別医療センターの上層部からの展望
は少なからず違って映った。青い画用紙の上に白い絵の具
を子供が遊び塗っていったような・・・そんな感じ。


「・・・・っ!?」


ふと思い出した。今日は皆がお見舞いに来る筈だ。
美智恵さんの気遣いで俺しか呼ばなかったと言う。
というより皆、四苦八苦していたからだろう。
美神さんに至っては霊療の権威を探して
世界中を飛び回ってるから連絡が行ったとしても
今日にしかこれないし。余計人が増えて騒ぎになるのを
避けたかったのもあるらしい。


「つーことは何かするなら今がチャンスか・・・!」


ベットに忍び寄る俺・・・










――――――――ガチャッ!!――――――――


「意識が戻ったってっ・・・」


美神さんがドアを勢い良く開けて入って来た。
その両手には花束が。後にシロやタマモも続いて
各々に見舞いの品を片手に。ところが・・・


「へえぇ〜〜、横島くん?何をしてるの一体?」


「先生っ!拙者にも、拙者にもでござるっ!!」


「ふーん、そう言うことね。ヨコシマ」


あんまりにもタイミングが悪く後数cmの場面であった。
俺はこの後延々と弁解を続けるが分かってもらえず、
お仕置きを受けたのは言うまでもなく。『眠りを襲う』
等とレッテルを貼られてしまったのだった。


「くそうっ!しゃーなかったんや、あの唇が俺を誘ったんやあ〜〜!!」









『ヴヴヴヴヴヴヴ・・・』










全員が同じ反応をした。殺気を感じ取る仕草だ。
さっきまでのおちゃらけした雰囲気は微塵もなく、
美神さんの紅い髪がふわっと持ち上がり。
シロは野生の本能が危険を察知し周囲を探る。
タマモは妖しい光を瞳に宿していた。


「来るわよっ・・・。オカルトGメン本部の中に飛び込んでくる
なんてよっぽどの馬鹿か・・・」


神通鞭を床に垂らす。


「実力者ね」


タマモが付け加える。


「誰であろうとおキヌ殿は守ってみせるでござる!」


おそらくは霊波の乱れが現在回復したばかりなので
通常時より霊への耐性が落ちていることを察知しての
ことだろう。まあ、こんなことは10日前から日常茶飯事で。


「大丈夫です、美神さん。」


俺は幾度となく経験している。ざっと数十匹の悪霊を
この場所で葬ってきたのだから。守ってみせる!
ルシオラ・・・力を貸してくれ。お前に出来なかったことを。
果たすべき誓いの為に、だから玉砕覚悟で今までやってきた。


「来るわよっ!!」













              





 


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