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不思議の国の横島

第13話  『特別なひと』


投稿者名:KAZ23
投稿日時:03/12/25

俺には特別なひとが2人いた。

―― いや ――

別に、その他の人たちがどうでも良い存在って訳じゃない。
特別なひとって言い出せば、俺にとってはどいつもこいつも特別なひとたちだってのは一緒だ。

―― でもな ――

それでもやはり、特別の中にも更に特別ってモンがある。
そして俺には、その特別の中の特別ってひとが2人いた。
『いた』って言い方を使うのは、今は特別じゃないっていう意味じゃないぜ?
それは…今はもう、傍にいないって事……
1人はついこの間、俺の傍からいなくなってしまった。もとい。
いなくなったのは俺の方か……
何にしろ、もう1度会えるのかどうかも分からない。
言って見れば生き別れって状態だ。
そしてもう1人は………………

―― まぁ…な ――

この、あっちの世界とは色々と違うようで、実は意外に共通点の多い不思議な世界。
俺はもう、何人もの向こうの知り合いと出会っている。流石にそろそろ慣れてきた。
よっぽど意外な出会い方でもなければ、そんなには驚かないはずである。

―― でもさ ――

この人だけは別だ。
ああ、特別なのはあっちの世界での話ってのは理解してる。
それでも、それでもさ?
こうしてその人が目の前に現れたってのは凄い驚きで、とても俺は平静ではいられない。

―― 美神令子 ――

俺にとってこの人は、あまりにも特別すぎた。

…………………………










―― パンッ! ――

「?!!」
「………………」

乾いた音が辺りに響く。ジンジンと痺れている右の手の平。
俺は今、何をした?

「ちょ!?何すんのよっ?!」
「馬鹿やろうっっ!!!」

俺は今、何を言おうとしている?

「そんな言葉、簡単に使うんじゃねえぇっ!!!!」
「!!」

おぉーい!俺はなんでこんな事を言ってるんだーーーぁっ!?
俺は自分自身の行動に唖然とする。
だが、そんな俺とは無関係であるかのように『俺』はとてつもない事をしていた。
まだジンジンとする手の平。左の頬を押さえている美神さん……いや、令子ちゃんかな?
そして口をついて出てくる俺の怒声。
俺はなんだって…

―― 頬を張って説教なんかしてるんだ?! ――

相手は、いくら高校生くらいとはいえアノ美神さん。
いったい全体、俺が何を説教してやると?!
いやいやいやいや!
今、目の前にいる娘は美神さんだけど美神さんじゃない。強いて言うなら令子ちゃんだ!
俺の方が年上で、この娘はまだ未成年だろ?
別に俺が説教くれたってそんなにおかしい話じゃ無いじゃんか?

―― 馬鹿野郎ぉっ!! ――

問題はそこじゃねぇっ!!
怖ぇえんだよっ!!?心の底から怖ぇえんだよ俺はっ!!!
美神さんの頬を平手打ち?

―― 命が終わるっ?!! ――

嫌だぁぁぁぁっっ!!!

「何よっ?!アンタにそんな事言われる筋合い無いじゃない!?」
「ふざけんなガキッ!!」

ふざけんな俺ーーーぇぇっ!!?
何でだ!?何でこんな展開になっちまったんだよっ?!!
俺の思考と行動は、面白いくらい離反していた。頭の中と体の動きがこんなにバラバラだなんて…

―― 俺って結構器用だな? ――

だぁからっ!そーじゃねぇだろっ?!!
俺もう…滅茶苦茶やん?!

―― なんでだ?どうしてさ? ――

頭をかすめる疑問符の数々の隙間で、俺はちょっと前の事を思い出してみる…

…………………………










「それにしても、横島さんって凄い霊力ね?どうやったらそんなに強くなれるの?」

俺は地べたにへたり込んでいる令子ちゃんに手を差し伸べ、軽く引っ張っぱる。
俺に引かれた令子ちゃんは、そのままゆっくりと立ち上がった。

「そ、そうか?いや…でも霊力の多さとGSとしての強さは比例しないんだぜ?」
「そうは言っても、やっぱり霊力高い方が有利じゃない?貴方の言いたい事は分かるけどさ…何だかんだ言っても、除霊するのに一番必要なのって霊力でしょ?」

令子ちゃんは、俺の言葉を肯定しつつもそう付け足して述べてくる。
でもって、確かにこの意見は正しい。
基本と言うなら、やはり霊力だ。それは疑いようも無い。
霊力ってのは電池のようなモノで、霊能力者のエネルギー源である。瞬発力、持続力が高い方が何をするにしても有利なのだ。
同じ技や道具を使ったとき、霊力が高い方が単純に大きな力を出せるものなのである。

「まあ、その通りだけどな。こればっかりは生まれつきの部分も有るし……っても、君はその生まれつきの部分で、他の奴よりも数段有利な位置にいるって気が付いてる?」
「え?」

令子ちゃんの現時点での霊力は十分に高いと思う。
美神さんの家は美智恵さんをはじめ、代々優秀なGSを排出してるらしいから、これは生まれついた血の力ってやつだ。
俺の知る限りでは、その血の力ってのが一番霊力の高さに直結してるのは冥子ちゃんだろう。はっきり言ってあんな式神を12匹も扱える霊力の高さってのは恐ろしいものがある。
実は瞬発力でなら俺もかなりのモンだが、瞬間的な霊力の高さがどれだけ有っても式神は扱えない。大事なのは高出力を長時間安定させる持続力だからだ。
ま、冥子ちゃんはその『安定』ってのが上手く出来ないから、いっつも暴走させてんだけどさ……

「俺の見たところ、君の霊力はまだまだ伸びるよ。今でも霊力は結構高い方だけど…君はこれからきっと、もっと強くなる。少なくても俺くらいにはなれる。」
「え、え?」

これはちょっとだけ推測入れた話。でも、多分正解だろう。
なにしろ美神さんだからな。きちんと修行して伸びれば、あっちの美神さんと同じだけの強さにはなるはずだ。

「でも!私だってこれでもきちんと修行してるわよ?!そりゃあ、まだまだ強くなる余地はあると思うけど!それでも貴方と同じくらいだなんて?!ちょっと……信じられないわ………よ…」
「ん?なんだよ……随分弱気なんだな?らし……いや、もっと自身持っても大丈夫だぜ?」

危ない危ない、らしくないは駄目だろ。初対面なんだから。でも、なんとか気づかれずに済んだ様だ。
それは置いておいて…
何故だろう?
令子ちゃんは俺から視線を逸らしてうつむく。なんだか、随分としおらしいな?この令子ちゃんは?
俺はてっきり「当然よ!私は負けっぱなしなんて絶対嫌なんだから!」とか言ってくるかと思ったのに。

「だって………私、ママに……」
「ママ?」

ママって事は、美智恵さんのことか?美智恵さんがどうしたんだ?

「私のママって、オカルトGメンの職員で………この間、日本支部の長官ってのになったんだけど……」
「え!?」
「え?…な、何?!」
「あ、ごめん!何でも無いから!続けて続けて!」

この世界では美智恵さんは存命なんですか?
いや、向こうでも結局は死んだ振りだったんだけど。
そうかぁ…じゃあ、この令子ちゃんってやっぱり美神さんとは違ってて当たり前なのか?
美神さんにとっては、美智恵さんが死んだ(と思っていた)のが凄く大きな出来事で、その後の人生に影響与えてたし。
なんだか、美神さんて美智恵さんに対しては甘ったれだった部分もあったしな。
つまりこの令子ちゃんは、ずっと美智恵さんと一緒に暮らしていたって事になるのかな?
そんな美神さんって、いったいどうなったんだろう?

「ママはね、本当に凄いGSなの。私じゃあ……どうやってもママには敵わないわ。いつも近くで見てきたから分かる。でもね、ママも他の人も………」
「………………」

ああ、これはあれか?
身近に優秀な人間がいるとコンプレックスで自分が見えなくなってしまうってやつ。
令子ちゃんは両の拳を硬く握り、歯を食いしばるようにして言葉を搾り出す。

「…みんなさ……私に過剰な期待しすぎなのよ!私はねぇ!ママみたいにはなれないの!だって…」
「ちょ、ちょっと待ち!!」

令子ちゃんは話していくうちに、段々と感情の昂ぶりを押さえきれなくなったようだ。
俺はそれが爆発する前に令子ちゃんにストップをかける。

「ちょっと待って!随分根が深そうな話だけどさ…そんな話を俺にしても良いのか?!良く思い出してみ?俺達ってさっき会ったばっかだぞ?!」
「あっ!?くっ……」

俺の意見に、令子ちゃんは続けようとした言葉を飲み込むと…

「……ん、すぅー………はぁー…」

激昂した気持ちを抑えるように、大きく1つ深呼吸をした。

「ごめんなさい。ちょっと………熱くなっちゃったわ。」
「ああ、いや…平気平気。」

しかし珍しいな。コンプレックス持ちの美神さんか……
なんだか調子狂うな。あの人はとにかく自信とプライドの塊で、天上天下唯我独尊を地で行く人だったからなぁ。
ま、そんな割りに……たまには可愛い所も見せてくれたけどさ。

「たしかに、良く知りもしない人間にする話じゃ無かったわね。私もどうかしてたわ…」

だいぶ落ち着いたのか、令子ちゃんは今度はクールに話してくる。

「今日はありがとう。助かったわ。」
「いやいや、お互いGS同士…困ったときは助け合おうぜ?」
「え?」

と、そこで令子ちゃんが「は?」という感じの、鳩が豆鉄砲食らったようなとか…そんな間抜けな顔を見せる。
なんだか、とても意外なことを言われたって風だな?

「どした?」
「え?いや、あはははは……な、なんでも無い!そうよね?お互い現役ゴーストスイーパー同士なんだもの!困ったときは助け合わなくちゃね?あは、あはははは!」

怪しい……
令子ちゃんは何か隠してる。しかもあからさまに。
何だ?ヒントは俺の言葉にあるはず。

―― いやいや、お互いGS同士…困ったときは助け合おうぜ? ――

お互い……GS同士……困ったときは……助け合おうぜ……
この中で言われて「え?」って答えてしまう部分はどれだ?

「………………」
「………な、何?」

令子ちゃんは冷や汗を流して俺の様子を伺っている。
ちょっと待てよ?令子ちゃんの台詞……

―― お互い現役ゴーストスイーパー同士なんだもの ――

GS?……現役GS?ん?

「あ!?」
「ビクッ?!」

答えが分かりました。
俺はそれを確認すべく、令子ちゃんをジ〜っと睨みつけてみる。
令子ちゃんはいたずらが見つかった子供が、なんとか誤魔化そうと考えてるようなアセアセとした表情を浮かべていた。
あ〜…この表情だけでも状況証拠には十分だな。

「ねえ、令子ちゃんって………」
「な、何かしら?」

俺は思い至った言葉を口にする。

「GS免許持ってるの?」
「うっ!?そ、それは………も、もち、勿論…あははは!やだなあ、無免許での除霊は犯罪よ?そんな事する、するわけななな…無いじゃないの!」
「つまり、犯罪だって事まで知りつつ除霊してたのか?」
「うきゅ!?」

なんてこったい?!

「だ、だってしょうがないのよっ!唐巣神父……ああ、この間から研修してる私の師匠なんだけど、神父ってば全然生活力無くって、除霊しても殆どお金取らないし!私の他にも弟子が2人いるんだけど、こっちも金銭感覚まるで無いお坊ちゃんお嬢ちゃんで!私がしっかりしないと稼ぎが無いのよーーーぉぉっ!!!私は、みんなの為に…神父の教会の為に………本当はやりたく無いんだけど仕方なく、ううっ!」

美神さんはウルウルした目を見せて俺に迫ってくる。
つまり泣き落としだ。
泣き落としなんだが…

「で、稼いだ金はどうすんの?」
「そりゃあ勿論、自分で稼いだ分は自分の懐に…はっ!?」

美神さんなんで当然そうだよなぁ。
さっきまでは違う部分ばかり目に付いたけど、やっぱこの娘ってば間違いなく美神さんだわ。
でもそうか、あの後で唐巣のおっさんの所に弟子入りしたのか。
でもって、結局の所こうなるわけだ。まあ、当然かもな?美神さんと神父じゃあ「金」に対する態度が180度反対だし…

「お、お願い!見逃して!私今度のGS試験受けて免許取る予定なのよ!ここでこんなのがばれたら試験受けられなくなっちゃう!!」
「ああ…落ち着け落ち着け。別に誰かに言ったりしねぇから。」

なんていうか、コレくらい美神さんにしたら当たり前?
ちょっと面白いな。この程度で慌てる美神さんって。でもまあ、釘は刺しておいたほうが良いかな?

「ほ、ほんと!?」
「ただし、今後は禁止だ。どのみち免許の取得まであとちょっとだろ?おとなしくしてな。

「う………わ、分かったわ。免許取得するまでは我慢する。それで良い?」

ほー…結構素直じゃねーか?
関心関心。
俺は、令子ちゃんの素直な態度にウンウンと頷いた。このへんは少し違うな。

「ん、それで良い。素質はあるけど、君はやっぱりGSとしてはまだ未熟なんだ。きちんと師匠の言う事は聞いとけよ?」
「あ〜はいはい。御免なさ〜い。もうしませ〜ん。」

あ、素直なのは言葉だけかも?
令子ちゃんの返事は、なんだか凄くおざなりだ。この場を切り抜ける為だけの形だけの返事だな?
俺は少しムカつく。

「本当に分かってるのか?除霊作業ってのは危険な仕事なんだ。いつ何があるかも分かんねぇんだぞ?」
「む!分かってるわよ、それくらい!GSが命がけの仕事だってことはちゃんと知ってるもの!何よ、偉ぶって説教しないでよね!だいたい…」

…………………………










そうだ、この辺から俺は歯止めが効かなくなっていったんだっけ……

「失敗したら死ぬ!それくらい分かってるもの!私はいつでも死ぬ覚悟くらい出来てるわ!!?」
「……なんだと?」

―― 死ぬ ――

この単語が決定打だった。
俺はアレ以来、この単語には少し敏感になっていて……
そしてこの台詞を使ったのが令子ちゃんだったこともあり……
更に言えば、その言葉とは裏腹に、令子ちゃんはそれがどう言う事か分かっていないように感じて……

―― パンッ! ――

本当に、無意識に右手が動いてしまったんだ。

…………………………










「こちら、美神。西条君、そっちはどうなってるの!?」
「し、指令…やられました。ユニコーンの角は何処にも有りません!」

こちらは金成木財閥当主、金成木三郎の私邸。
時刻はPM11:04と、11時を回ったばかり。
普段は閑静なこの大邸宅だが、本日は様子が違っていた。

「なんですって?!いったい貴方は何をやっていたの西条君!?」
「す、済みません指令!」

大邸宅の広大な敷地をぐるりと取り囲む人の山。
それらは警察と私設警備隊と…そしてICPO超常犯罪科、通称オカルトGメンの合同警備チームである。

「それで犯人は!?」
「す…既に逃走したものと思われます…」
「この役立たずーーーっっ!!!」

オカルトGメン指令美神美智恵は、彼の部下にしてオカG実働部隊の隊長である西条輝彦に激烈な言葉を投げつけて無線機を叩き付けた。

「なんてこと!?これだけの警備相手に、姿さえ見せずに盗み出すですって?!」

美智恵は焦る。
そして自分の認識が甘かった事を恥じた。
テーブルに置いてあった黒いカードを手に取り、それに書いてある文面に目を通す。

―― ○月×日23:00丁度 ――

とはいえ、それは今まで何度も何度も読んでいるので、今更新しい何かが見つかるわけでもない。

―― ユニコーンの角をいただきに参ります ――

だから、何度読んでも不甲斐ない自分への怒りしか浮かんでこないわけで……
美智恵は叫びたくなる気持ちを落ち着け、椅子から立ち上がると駆け足で現場に向かった。
誰も居なくなった本部。そこには残る黒いカード。
その最後に綴られた1行は……

―― 怪盗ムーンレスナイト ――

今晩は……
まさにその名に相応しい……
全く月の光の届かない……
完全なる闇夜だった……

…………………………










―― パンッ ――

「!!」

室内に乾いた音が響く。

「そのままゆっくりとコチラを向きたまえ。」

銃を構えた男が言った。

「………………」

その言葉の先には女がいる。

「君か………これはなんとも意外な。」

銃口を向けられた女は、ゆっくりと後ろを振り向く。

「大尉、この部屋が立入り禁止な事は知っているはずだね?」
「………………」

男の問いに、女は何も答えなかった。
ただ、女の視線は銃口を向けられているとは思えない程に強く男を睨みつける。

「コレだけの結界を抜けて侵入したのだ。たまたま迷い込んだなんて言い逃れは出来ないぞ?」
「言い逃れ……だと?貴様がソレを言うのか?」
「なに?」

ようやく女が口を開いた。
挑むような視線はそのままに、更に挑発するような口調で男に言い放つ。

「ん?………そうか、見てしまったのか。」

女の後ろ、机の上には散乱した紙の海が見えた。何かの資料だろうか?
男はチラリと目をやってから、もう一度女の顔に視線を戻す。

「…………これは困ったな。」
「フン…軍法会議にかけられないからか?」
「ハハ、確かにそれもある。君にココで知った事実を語られると、私はとても困るからね。」

一見して、平静な態度であること自体は変わらないのだが、男の雰囲気が微妙に変化した。
男の目の色が暗く変わる。

「貴様の目的は理解した。先の、人間の娘を監視するという特務もな…………が、このような事が本当に出来るのか?いや………貴様は出来ると思っているのか?」
「信じられないかね?無理も無い。神々による天地創造以来、1度の例も無い事だからな。」

男は銃口を逸らすことなく構え、微動だにせずに話していた。女が少しでも妙な真似をしたら、銃口からは容赦無く精霊石弾(たま)が飛び出すのだろう。

「……だがね大尉、これは純然たる事実なのだよ。リアルな現実さ。それも直ぐに手の届く………ね?」
「フン……」

男の唇がニィと歪んだ。

「その現実(リアル)に夢を見たか?」
「ははっ!私は、あんな連中とは目指す先が違うよ?私が望むのは……」

そこまで言って、男は一旦言葉を飲みこむ。
左手を額に持って行きあて添えて、髪をかき上げながらもう1度笑った。

「ふふん。少々喋りすぎたかな?」

目を細める男の顔は、酷薄な笑みという表現が似合う。

「どのみち、君にはもうじき関係の無い事になるがね。」
「………………」

銃口に照明が反射して、キラリと光った。
男と女は無言で睨みあう。
だが、それもほんの少しの事だ。
その後で、男が言葉を発する。

「………さようなら、大尉。」

それは別れの言葉。
男の人差し指が静かに動いた。

―― パンッ ――

小さく火花が散り、室内に乾いた音が響く。

―― そして ――

黒い羽が舞った。


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