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不思議の国の横島

第8話  『神父からの依頼』


投稿者名:KAZ23
投稿日時:03/12/ 7

起業するってのはそりゃあ大変なものだ。
とにかく一番最初に凄い金がかかる。例外ってのもあるが、大概はそうだ。
普通、経営者はその金をどこかから借りてくる。だから、起業した矢先ってのはだいたい借金持ちで当たり前だ。
さて、それを返済しないうちに経営でコケちまったら、目も当てられない事態になる。
1回そこそこに成功してから、大勝負してコケた人はもっと悲惨だけどね。
だからこそ、みんな必死に頑張って業績を上げようとしているのだ。
勿論、経営の難しさってのが金の問題だけって事も無くて…
その目も当てられない事態になった経営者の何て多い事か。
ちなみにゴーストスイーパーなんて仕事をしていると、そのどうしようもない状態から逃げるために、最終手段を取った元経営者を見ることもそれなりにある。
ここで最終手段っていうのが何を指しているのかは、言わなくても分かるだろう?
結構いたたまれないんだぜ?
今後はもっとかもな……
なにしろ今、俺は起業して、今の俺は経営者だ。
正確にはまだ許可が下りただけで、事務所を経営しているわけじゃ無いけど……
当然だが、俺はそんな目も当てられない状態になんてなりたくないぞ。
最後の手段なんて死んでも(?)ご免だ!
だから頑張る。必死で頑張る。
せめて借金を返済できるまではコケたくない。
俺はこの仕事で、ささやかな幸せを掴むんだ!
そのために今は……
目の前にある仕事を1つ1つ、きっちりと片付けていこう。
安定した業績への道は、細く厳しい茨の道なのだから………

…………………………










「で、これが今回の仕事っすか?」
「そうよ〜。相手はインキュバス、男淫魔の一族で…」
「ちょっと待った!」

俺は今、六道家の一室にいる。
豪邸らしくだだっ広い応接室のソファーに腰掛け、テーブルの上に置かれている何枚かの書類に目を通しながら、今回の仕事の内容について六道理事長と打ち合わせをしていた。

「あら、な〜に〜?」
「俺、言ったじゃないっすか。とりあえずソコソコの難易度の仕事回して欲しいって?!」
「うん〜…だからソコソコの仕事じゃない〜?」

―― ブチッ ――

この人は良くもまあ…ぬけぬけと言ってくれる。

「インキュバスったらかなり強い悪魔じゃないっすか?!確か国連の掛けてる懸賞金もそれなりの額だったっすよねー!?」
「そうそう〜♪きちんと勉強してのね〜。偉いわ〜横島クン〜♪」

俺は紅茶を啜る理事長を睨みつけて言った。

「ソコソコってのはそうじゃ無いでしょーっ!?もっとローカルな幽霊とか妖怪とか、六道家ならそんな依頼だって山ほどあるんでしょう?!国連が懸賞金掛けてる魔族なんてそれだけで超大物じゃ無いっすかーーーっ?!!」
「ご免ね〜〜〜テヘッ♪知り合いから急に手助けが欲しいって連絡が入ってきちゃって〜〜〜。でもでも、横島クンなら大丈夫でしょ〜?お願いね〜♪」

理事長は臆面も無くシレッと切り返してくる。

―― この人は〜〜〜っ! ――

俺がこの人と知り合ってから20日ばかりたった。
あのときの約束どおり、俺が事務所を立ち上げるのに色々と手を貸してもらっている。もう手続きのほうは全部終わっていて、あと1ヶ月程で正式に『横島除霊事務所』が誕生する運びとなった。
書類の手続きは終わったが、今はまだ実際に事務所を持っている訳ではない。
つまり俺は、今の所はフリーのGSと変わらないのである。
そして最近の俺は、GS協会ではなくて六道理事長から仕事を回してもらっていた。

「なんか、意図的に俺に難しい仕事を俺に回してませんか?こないだの『妖刀田吾作(ようとうたごさく)』だってすっげえ厄介な相手だったじゃないっすか!?」
「やぁね〜たまたまよ、たまたま〜…それに、そんな相手でも横島クンはきっちりと解決したじゃない〜♪」

ホホホと微笑む六道理事長が恨めしい。
結果だけ見れば確かに成功だったけど、『妖刀田吾作』には本当に手こずった。あの能力は物凄くやっかいだったぞ!?
でもそんな事よりも……

「問題はそこじゃねーっすよ!?最初に決めた約束を、一方的に反故にされてるんが納得いかんっちゅーとるんですっ!!」
「世の中って、往々にして上手くいかないものなのよ〜?だからもっと柔軟に〜臨機応変にいかなくちゃ〜♪」

こ…こいつは本当に……
俺は既に、この人にはかなわないという事を嫌と言うほど思い知らされている。
もう……何を言っても最後には俺が言いくるめられてしまう、という事は目に見えてるんだ。
そう。それは分かり切った事。分かっちゃいる……分かっちゃいるんだよ。

―― だがな! ――

分かっちゃいるけど、文句ぐらいは言わんとやってなんねーぞ!
俺は六道理事長にキツイ視線を向ける。

『ふふふ…その状態では手も足も出まい?今日こそ貴様の最後だなAPマン!!』
『くそっ!BKマンめっ!!』

「きゃ〜!APマン〜っ?!」

大体、今度の相手はインキュバスだって!?
そんなの、美神さんクラスのGSに依頼が行く事件(やま)だぞ?!

「ほんと…俺なんかに、そんな事件(やま)回したら後悔しますよ?失敗しても知らないっすよ?」
「でも〜失敗したら困るのは横島クンよね〜?」

理事長はほんと、嫌になるぐらい優雅に紅茶を啜って答えてくる。

『そこまでにしときな!』
『な、何奴っ?!!ぬっ!?貴様はSPマン!それにCPマンもっ?!』
『ドクターJからの預かりモンだ!受け取れAPマンッ!』

「きゃ〜♪SPマンさま〜〜〜♪」

ああそうだよ!失敗して困るのは俺さ!
GSは信用商売。たった1度の失敗だってその後の活動に支障をきたす事もある。
たった1度の失敗……それが命取りになる事だって無いわけじゃない。
失った信用を取り戻すというのは、とても大変なのだ。
特に俺みたいなぺーぺーなら尚更である。
失敗が即、事務所の存亡にかかわる程の事となろう。
たいして理事長の方は、困るっていっても俺ほどの事じゃ無い。
あくまで仕事の斡旋をしているだけだからな。
勿論、斡旋した仕事がことごとく失敗となれば大きな問題だろうが、俺の失敗くらいならどうってことも無いはずだ。
それが良く分かっているからこそ、俺は六道理事長を憎々しく思う。
どう言ってやろうか?

『チェーンジ、ニューフェイスッ!ファイヤーAーPーマーーーーーンッ!!』
『これがファイヤーモード……ふん。これで形勢逆転だな、BKマン?』
『お、おのれぇ…』

「きゃ〜♪きゃ〜♪」

ま、それはひとまず置いておいて……

『くらえっ!ファイナルAPブラスタ…』

―― ピッ ――

「ああっ?!!」

俺はテーブルの隅っこの方に有ったリモコンを手に取ると、電源ボタンを押してテレビを消した。

「とりあえず、冥子ちゃんも仕事の話に参加してね?」
「横島さんひ〜ど〜い〜!今い〜ところだったのに〜〜っ!」
「冥子…貴女って娘は〜……」

一応、俺の弟子って事になった冥子ちゃんは、学校が無いときには俺と一緒に除霊に行く事になっている。
それは、冥子ちゃんになんとか修行をさせたいと思っている六道理事長の申し出だった。
今までに2回一緒に仕事を行っているが……
目標達成は、未だ見ぬ頂の彼方って感じだろうか?
プッツン完滅への道は遠い………

「明日は冥子ちゃんも一緒に行くんだからね?」
「あ〜〜ん、AP〜マン〜〜〜!」

小学生かっ!?

「おたくの娘さん、本当にGSにしちゃっても良いんですか?」
「ううっ!わたしだってこの娘が六道(ウチ)の跡取り娘じゃ無かったら〜〜〜」

六道理事長も、袖で目元を押さえてヨヨヨと言っている。

「えいっ!」

―― ピッ ――

『助かったぜSKマン。』
『ふん、勘違いするな。お前を倒すのは俺だということだ、APマン』
『ふっ!そういう事にしておくさ…』
『ハハハハハハハ!』

―― タラッ♪タラララッタラ〜ン♪ズンチャッチャチャチャチャ… ――

「あ〜ん〜終わっちゃった〜〜〜っ」

頭いてぇ……
俺は体育座りでテレビにかじりつく冥子ちゃんを見て、どうしようもない程の頭痛に襲われた。

「もーいいや、ハァ……で、理事長。俺たちはどうすれば良いんです?」

俺は冥子ちゃんの事は気にしないで、理事長との話を続ける事にする。

「あ、そうそう〜…助っ人を頼んできたGSっていうのがね〜……唐巣クンって言うんだけど〜……」
「!?」

か、唐巣クン!?それってつまり神父?!

「一応この世界じゃ〜5本の指に入る超一流のGSなのよ〜?」

意外なところで意外な人が出てくるな。
でも、あれ?
………唐巣神父が助っ人を頼んできた?

「つまり、超一流のGSが助っ人頼んでくるような事件(やま)なんすね?」
「あ!………………」

ジト目で聞き返した俺の問いに、六道理事長は『しまった!』って顔をして固まる。
固まった姿勢のまま、ほんの少し考えたようなそぶりを見せて……

「………………そんな訳で詳しい話は明日、唐巣クンに聞いてね〜♪オバサンちょっと用事思い出したから〜…」

―― スタスタスタスタスタ、ガチャッ ――

「まてやごるぁっ!?」

六道理事長は最後まで笑顔を崩さずにドアの向こうに消えていった。

「俺だって、いつまでもおとなしくしてねーぞっ!!」

俺は、既に見えなくなった六道理事長に言う。
面と向かって言えない自分が、ちょっと可愛いと思う今日この頃です。

『ここで臨時ニュースです。最近街を騒がせている…』

―― クイッ ――

「横島さ〜ん。そろそろご飯ですよ〜…食堂いきましょう〜?」
「あ、もうそんな時間?」

アニメを見終わった冥子ちゃんが俺の腕を引っ張ってきた。
俺は冥子ちゃんに、座っていたソファーから引き上げられる。といっても、冥子ちゃんの力は弱いので半ば俺が自分で立ち上がったんだけどね。

―― ニコニコ ――

さっき途中でテレビを消したのもなんのその、冥子ちゃんはニコニコととても機嫌の良い表情を見せる。
そうなのだ。冥子ちゃんは随分と俺に懐いてくれてる。
どうやら、初めての友達っていうのがとても嬉しかったらしい。
一方の俺の方はと言うと……
この冥子ちゃんが高校生ってことで、いわゆる恋愛やら欲望やらの対象としては正直見れないんだけど、それでも可愛い女の子が懐いてくれると結構嬉しいもんだ。

「じゃあ、行こうか?ほんと、ココん家の飯は豪華で美味いからな〜♪」
「えへへへ〜♪」

―― ブラ〜ン、ブラ〜ン ――

冥子ちゃんは立ち上がった俺の左腕にぶら下がってニコニコしている。何が面白いんだか、これが最近のお気に入りらしい。
俺と冥子ちゃんの身長差でぶら下がれるのか?だなんて疑問は、持っちゃあいけない。
昔からのお約束だ。

―― まだまだ子供だなー♪ ――

とても高校生には見えないぞ。
この行動もだけど、男に対する警戒心の無さとかもね。

―― ま、可愛いんだけどな ――

俺は、冥子ちゃんが子供っぽいって事を改めて認識していた。
そうそう、俺は今、六道家で厄介になっている。居候ってやつだ。
正式に事務所を立ち上げるまでは、ホテル暮らしするつもりだって言ったら、六道理事長が「うちに来るといいわ〜」って薦めてくれたのである。
現在の俺は、仕事の全てを六道家から紹介してもらっているので、その辺の打ち合わせするのにもその方が都合良が良い。
そんな訳で、是非にと薦められた訳だ。
はっきり言って、とても快適な生活です。
快適すぎて逆に居心地悪いときがあるのは、やっぱり俺が根っからの貧乏性だからなんだろうなぁ……

「さて、さっさと食堂行こうか?」
「う〜ん〜♪」

『予告状が届いた金成木財閥では、直ちに警察へ連絡を入れ……』

―― ピッ ――

俺はテレビを消すと、左腕に冥子ちゃんをぶら下げたまま応接室を後にした。

…………………………










―― キィーン ――

「よう?最近の調子はどうだ?」
「ん………ああ、おまえか…」

元はゲームセンターだったと思われる廃れた室内で、1人の男………いや、男の子が椅子に腰掛けて佇んでいた。
その男の子にかけられた声が有る。

「クククク……すこぶる順調だよ。」
「ほー?その割にはお前、全然行動を起こさないじゃねーか?」

その男の子は、どこからどう見ても小学生くらいの男の子に見える。
だが、何処かが違う。少し注意してみれば、絶対に普通の男の子になんか見えない。

「ああ………今は、ちょっと調整中でね。」
「調整?」
「おまえには関係ないことさ。それよりも……」

その…一見男の子に見えるモノは、先ほどから話をしている者に向けて鋭い眼光を向ける。
だが、先ほどから室内にはこの男の子の姿しか見えない。

「何をしに来た?」

男の子の姿をしたモノは、何もいないように見える空間に向けて言葉を投げかける。

「ふふん。俺のほうは順調に進んでいるぜ?残りの奴らもな。何もしてないのはお前だけだ………」

その何も無いはずの空間から、何故か答えが返ってきた。

「だから心配になってね………ちょっと様子を見に来たのさ。」
「敵情視察か……フン。見てろ、今にそんな余裕は無くなるぞ。」
「おお!そりゃあ恐いな。恐いから、今日はもう帰るぜ。又な!」

―― キィーン ――

室内に、甲高い音が響く。

「………フン。おまえなんて相手じゃ無いんだよ。」

男の子の姿をしたモノは少しだけ表情を緩めると、そう呟いた。

「なにしろ私は……クククク………」

そして、楽しそうな笑いを漏らす。とても子供の漏らす笑い声では無かったが……

「ククククク……クハハハハ!」

―― ブゥン ――

笑い声に反応するように、室内のモニターが鈍く点滅を繰り返す。
たくさんのモニターから漏れて来る鈍い光のシャワーの中、そのモノはとても人間の物とは思えない笑い声を響かせていた。

…………………………










―― 翌日 ――

「さて………この教会で間違い無いみたいだな?」
「なんだか〜…随分とぼろっちい教会ね〜〜〜?」

俺たちは、唐巣神父の教会を尋ねて来た。
俺たちはの方はそんなに詳しい情報を持っていないので、まずは今日の除霊の段取りなどを打ち合わせる必要がある。

―― 唐巣神父か ――

こちらの世界の俺は初対面だが、俺はこの人を知っている。
頭が薄くて重度の近眼。人が良くて熱血正義感。
一見して冴えないおっさんに見える。

―― しかし ――

その実、この世界でもTOP5に入るとも言われている超一流のGSである。

―― だが! ――

除霊しても殆ど料金を受け取らないから、常に貧困に喘いでいる。生活能力はゼロだ。
やはり冴えないおっさんである。
まあ貧乏仲間って事で……俺にとっては、ある意味非常に同情できる人物だ。
とてもアノ美神さんの師匠だとは思えない……

―― ん? ――

「あ!?」
「どうしたの〜〜?」
「あ、いや!なんでも無い。」

そうだった!
唐巣神父は美神さんの師匠で、それで美神さんは高校生の時は神父の所で研修してたんだよな!?
今まで俺の出会った奴らって、エミも冥子ちゃんも高校生くらいの年齢になってるだろ?美神さんってこの娘たちと殆ど変わらない年齢な訳だし……

―― って事はだ! ――

もしかして、もしかしたらっ!?

「………ゴクッ!」

―― コンコン ――

「こんにちは〜…六道家の紹介で来た者ですけど〜…」

俺は一つ唾を飲み込むと、少し緊張して扉を叩いた。
そのまま暫し待つ。

―― ガチャッ ――

やがて、内側からドアが開けられた。

「!?」

果たしてそこにいた人物とは…

「六道家の所紹介で来て下さった方ですね?僕はピエトロ、唐巣先生の弟子をしています。ピートと呼んで下さい。」
「お前の方かーーーっ!!!」
「は、はいっ?」

そうだった、唐巣のおっさんの弟子って言ったらこいつもそうだよ!

「俺のドキドキを返せ。」
「あ、あの…何の事かさっぱり……?」

あ〜、損した!ドキドキして損したーーーっ!!
俺のさっきまでのドキドキは、急速に萎えていく。

「あれ……お客様?」
「あ、例の六道家の紹介で来てくれた、今回の助っ人の方達ですよ。」

俺が期待はずれの何とも言えない肩透かし気分を味わっていると、ピートの後ろ、教会内から若い女性の声が聞こえてきた。ピートが後ろを振り返って俺たちのことを紹介する。

―― ま!まさかっ!? ――

今度こそ!?

「はじめまして、アン=ヘルシングと言います。」
「2段オチかいっ!?」

そこで出てきたのは、全く予想外の人物、アン=ヘルシング嬢だった。
あまり詳しい事情は知らんが、ピートの知り合いで、ピートをお兄様だなんて呼んで慕っている。
ああ、これは向こうの世界での話だったな。こっちでどうなのかはまだ分からないか……
アッチでは、いろんな意味で迷惑な姉ちゃんだったなぁ……
でも、この娘がここにいるってのは随分と変則的だ。
ヘルシングさんはあっちの世界での年齢と変わらないように見える。だいたい14〜15歳くらいか?

―― と、なると ――

今まで俺が出会った知り合いは、エミ、冥子ちゃんと立て続けに俺が向こうの世界で知っている年齢より若かった。
だから、俺は『この世界は、俺以外のみんなが少し若い世界なのだろうか?』と考えてみている。
しかし、このヘルシングさんを見る限り、その考えは間違いのようだ。
例えば冥子ちゃんとヘルシングさんを比べると、向こうの世界では2人の年齢には10歳近い差があったのだが、こちらでは多く見積もっても5歳差は無いだろう。
つまり、ここはどこまでも…

―― 不思議な国 ――

って事だろね。
俺はアリスじゃねーっての……

―― カツカツカツカツ ――

「やあ、ようこそ来てくれました。」
「あ、先生。」

俺が少し考え事をしていると、教会の中からもう1人、男性が現れた。
薄い頭と丸渕のメガネ。人の良さそうな顔を更に柔和にして、いかにも人畜無害って感じ。

「はじめまして、私が唐巣です。」

その人は、間違い無くあの唐巣神父だった。

「貴方が横島さんですね?そっちの娘さんは、もしかして六道さんの娘さんかな?確か冥子ちゃん……だったか?大きくなったものだ。」
「あ、こんにちは。横島忠夫です。」
「六道冥子です〜♪」

丁寧に握手を求めてきた神父につられて、俺も頭を右手を差し出して挨拶を返す。

「貴方の事は六道さんから聞いてますよ。とても優秀なGSだとか?今回はかなりの相手なので心強い限りです。」

そんな風に紹介してくれているんですね、理事長アンタは……
神父の気体に満ちた表情が俺の心に突き刺さる。

―― プレッシャーだっちゅうねん! ――

俺はそもそも、期待されるってのが苦手なんだよ。
昔はこんな事は考えなかったけどな……
どうやら俺は……期待されたら、答えたくなっちまう性質(たち)らしい。
普段はそういう部分はひた隠しにしている。こんなのがバレたらこき使われるに決まっているからな。
それでも時々、一生懸命にお願いされて断りきれなかった………なんて事が有る。もちろん相手にもよるけどね。
気がついたらそういう、随分と損な性格になっちまってた。
でも、まあ……それは特別に大きな問題じゃない。
俺が少し損すれば良いだけの話だ。それで喜んでくれる人がいると正直嬉しいよ。

―― でもな ――

期待に答えられなかった時は、凄い落ち込むんだよ俺。
原因は分かってる。
俺は………一番答えなきゃいけなかった期待に、結局は答えられなかった男だから……
あれ以来、期待されるってのが苦手になっちまったんだ。

「六道理事長の言葉は、話半分に聞いておいて下さい。俺、そんなにたいした事出来ないっすよ?」
「ぷっ!はははは……」

俺が勤めて冷静にそう言うと、唐巣神父は何が面白かったのか、突然肩を震わせて笑い出す。

「ははは……や、失礼。いや、なに……私も丁度、君くらいの頃には六道さんの無茶苦茶に振り回されたくちでね?」
「ああ……」

唐巣神父は苦笑いを浮かべながら、懐かしむように話をした。

「今の君が昔の自分に重なって見えたんだ。」

そうか、唐巣神父もそうとう苦労したんだろうなぁ……
俺は現在の自分に照らし合わせて、唐巣神父の過去を慮ってみた。

「………………」
「…………ど、どうかしたかい?」

俺がジーッと見つめるものだから、唐巣神父は怪訝な顔になる。
俺は唐巣神父の現状に同情しつつ、不安も手伝ってこう言った。

「それでそんなに薄く?」
「放っておいてくれたまえ!」

俺もこうなるのか!?
涙が出てきそうだよ神父……

…………………………


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