椎名作品二次創作小説投稿広場


第三の試練!

〜文珠は逃げるよ何処までも〜


投稿者名:ヨコシマン
投稿日時:03/11/27

「のわーーーーー!!!」

 大声を上げて横島が飛びのく。その瞬間まで横島がいた場所を、大蛇の牙が通り過ぎてゆく。

「きゃーーーーー!!ちょっとまって!タンマっていってんでしょー!」

 飛び込み前転の要領で、次々と繰り出される大蛇の毒液を必死にかわす美神。かわした毒液はあっという間に大地を腐食させる。
 完成した結界の中で大蛇の猛攻が始まってから、10分近く経過していた。10分間もの間全力で動き回れば、どんな人間でも激しく疲労する。それは二人とて例外では無い。横島は勿論、さすがに美神も呼吸が荒くなる。
 この10分間、二人は一切の攻撃を行わずひたすら防御に徹していた。敵の結界により、霊力の供給が見込めない以上、無駄な攻撃で霊力を消費する訳にはいかないからだ。

『フン、上手ク逃ゲルモノヨ。』

 大蛇は呟く。もともと小賢しい人間をいたぶるのが目的である以上、本気で攻撃を当てようとしてる訳ではない。それでも、こうもチョロチョロとかわされると面白くないのも確かだ。
 やや苛立ち気味に体を起こし、次の攻撃態勢を取った彼の眸に、なにやら小声で何かを話している二人の姿が映る。

『クク・・・。ナニカ良イ策デモ思イツイタカ・・・。』

 嬉しそうに目を細め、大蛇は準備していた次の攻撃を取りやめて少し間合いを空けた。
 かつてこの結界の中に閉じこめられた人間の中では、これほど活きの良いのは初めてだ。
 大概の人間は、あっさりと諦めの表情や恐怖にひきつる顔を見せる。そのたびに大蛇は落胆させられるのだ。彼にとってそういう人間はもはや退屈な『餌』でしかないのだから。
 だからこそ、わざわざ間合いを空けてやったのだ。本来、戦闘においてこのような敵にチャンスを与えるような行為は決してやってはならない。だが、大蛇にとってこれは戦闘では無く、あくまでハンティングなのだ。
 この活きの良い獲物が、いったいどんな小細工を弄するのかは知らないが、その僅かな希望を完膚なきまでにたたきつぶした時の、絶望に打ちひしがれた顔が見たい。
 大蛇は待った。その瞬間を思い描きながら。




「もーあかん!美神さん!ヤツに丸呑みにされる前に、せめて俺を『男』に・・・!!」
「・・・ワンパターンのお約束をするんじゃない!!!」

 横島が台詞を言い終わらないうちに、その顔面に美神の拳がめり込む。
 したたかに溢れる鼻血を抑えながら、横島は反論した。

「しゃーないやんけ!あんな大蛇相手にしてたら命がいくつあっても足りませんよ!一体どーするんですか?!」
「解ってるわよ!そんな事!とにかく、アイツの結界を何とかしたいわね。」

 結界さえ破れれば、最悪でも逃げることが可能になる。上手くすれば、大蛇を倒せるチャンスも生まれるかもしれない。

「俺の文珠で破れませんか?この結界。」

 横島は右手で文珠を転がしながら美神に尋ねる。

「・・・出来なくは無いと思うけど・・・、効果を確実に期待するなら『結界消滅』もしくは『結界破壊』みたいに
最低でも四文字は必要になる筈よ。アンタ、三文字以上文珠組み合わせて使った事無いでしょ?」

 リスクが高過ぎる・・・。美神はそう呟いた。
 実は文珠は皆が思っているほど万能ではない。特に複数個の文珠を発動させるには、その数が多ければ多いほど、使用者に精密なコントロールを要求する。
 文珠の単発使用ならば、発動もコントロールも容易だが、その分得られる効果も大まかなものとなり、今回のように結界を確実に破る効果を得られる可能性も低くなる。
 美神と横島で二個づつ文珠を発動させる方法も有るが、合計四個の文珠のコントロールを二人で連携できるかどうかは怪しいところだ。何より、しくじれば貴重な文珠を一度に四個も失う事になる。
 アシュタロス戦で使用した合体攻撃という手も有るが、これもまたリスクが大きすぎる。合体したとして、その霊波攻撃であの霊波無効化フィールドを打ち破れる確証が無い。なによりアシュタロス戦の時のようなモチベーションを保てるかどうかも疑わしい。さらに長時間合体し続ける事となれば、二人のうちどちらかの精神が崩壊する可能性も否定できない。

(それよりも、単純に物理攻撃の方が有効かも・・・。最初の一撃・・・霊波は通らなかったけど、打撃自体はちゃんとヒットしてた・・・と思う。
まぁ、神通棍程度じゃ大したダメージにはならなかっただろうけど・・・。)

 美神の思考回路は最大速度で回り始める。

(確証がほしいわ・・・。でもマシンガンやクレイモアみたいな物理兵器は車の中だし・・・。何か武器は・・・!)


「やっぱここは逃げた方がいいっすよ!えっと、四文字が無理なら一文字で逃げる、逃げる、逃げる・・・!!」

 横島の声に反応して、思考の海にどっぷりと浸かり込んでいた美神の精神が、急激に現実へと引き上げられた。慌てて横島の方を見ると、すでに彼の右手の文珠に文字が浮かび上がっている。

「ちょ、ちょっと待ちなさい、横島クン・・・!」

 咄嗟に横島を制止しようと声を掛けたが、時すでに遅し。文珠は横島の手を離れ、発動を開始しようと輝き始めていた。
 地面に転がる文珠の文字は『逃』。


「・・・何も・・・起きないじゃない。」
「・・・あれ?おかしいっすね?」

 淡く輝くのみで何の効果も現れない『逃』の文珠をしげしげと眺める二人。そして沈黙。
 じっと見つめる二人の前で、ようやく異変は起こった。

 <ニョキッ>

 なんと『逃』の文珠から、か細い両手両足が生えたではないか。文珠はその足で立ち上がると、やおら森の中へと走り去ってしまった。

「・・・ああっ!?文珠が逃げた?!」
「・・・貴重な文珠を無駄に使ってまで『笑い』が取りたかったんかい!オドレはーーーーーー!!」
「ち、違うんやー!美神さん!そんなつもりは・・・ぐはっ!」

 必死に弁解する横島のテンプルに『ティー・ソーク』がめり込む。もんどりうってノックダウン。

 ホント、ナニ考えてんの?! 美神はそういい捨てながら、のたうち回る横島に冷たい視線を浴びせる。
 そんな横島の背中のリュックの底の部分に、奇妙なほつれが有ることに美神は気がついた。

(あ・・・!これって・・・もしかして!)

 何を思いついたのか、美神は激痛に身をよじる横島を踏みつけて動きを止め、リュックの底部のほつれに指を掛けた。そして一気にそれを引き下げる。
 ゴトリ、と鈍い音と共に地面に落ちる鉄の塊。

「やっぱり!そういえばここに隠しておいたのよねー!これ。」

 微笑を浮かべて、地面に落ちていた鉄の塊を拾い上げる美神。その手の中に有る物体、それは・・・

コ○ト社製 357マグナム リボルバー式 カラーはシルバー

「何でリュックにそんなモン仕込んでるんすか!?道理で昔っからリュックが妙に重いと思ったら!」

 横島の抗議に耳を貸さずに、美神はリボルバーの弾数を鼻歌まじりにチェックしている。
 一通りチェックが終了すると、美神は横島に向かって言った。

「バッカねー。こういう時の為に仕込んでるんじゃないの。正直アタシもすっかり忘れてたけどね。
 さてと、コイツであのバカ蛇のヤツの度肝を抜いてやるわよ!」
「でも・・・、いくらマグナムっていっても、たった六発じゃぁ・・・。」

 横島の至極当然の疑問に、美神は軽くウインクして答える。

「まあ、見てなさいって!何もコイツで倒す訳じゃないわよ。コイツで確かめるのよ!」
「・・・?」

 横島には美神の意図がさっぱり分からなかったが、取りあえずは、この自信満々のイケイケネーチャンに従おうと心に決めたようだ。




 そして二人は、三度蛇と向かい合う。

『評定ハ終ワッタカ・・・?』

 大蛇はうっすらと口角を上げ、二人に問いかけた。この結界の中で自分が負ける事は有り得ない。そう思っているからこそ二人に好きなようにさせていたのだ。

「ええ、お陰様で。アンタのその余裕のツラも、もうじき見れなくなると思うと残念だわ〜。」

 減らず口なら負けてはいないのが美神だ。さらに美神の表情は、その言葉が唯の強がりではない事を証明するかのように落ち着いていた。

 美神は大蛇との間合いを確認すると、後ろ手に隠し持ったハンドガンを素早く構え銃口を大蛇に向けた。

「さぁ、ラウンド3よ!喰らえ!!」

 宣言と同時に引き金を引く。
 重く乾いた銃声が森中に響き渡り、先ほどまでの静寂を打ち破る。一発、二発、三発、四発、五発、六発。続けざまに連射。

『グガァッ!!』

 突然の激痛に大蛇の顔が苦痛に歪む。何が起こったのか大蛇には暫く理解できなかった。痛む部分に目をやると、鱗がえぐれて鮮血が吹き出でいるではないか。
 この痛みを大蛇は知っている。火縄だ。封印される前に殺した人間でこれを使ったヤツが何人かいた。
 その威力は勿論大蛇も身をもって知っている。それ故火縄の臭いには彼も敏感な筈だった。それなのに、あの女からは・・・

『火縄ノ臭イナゾシナカッタゾ・・・!?』


 美神の放ったマグナム弾六発の内、ヒットしたのはたったの二発。明らかに落胆する横島に反して、美神の表情は明るかった。

「よーし!これでハッキリしたわ!横島クン、ちょっと耳貸して。」

 美神は横島を呼び寄せると、手短にこれからの作戦を耳打ちする。
説明を受けた横島の顔がようやく納得した表情に変わる。

「よっしゃ!流石は美神サン!どうやら生きて帰れそうだぁ!そーと決まれば、とっととあの蛇ぶっ殺して、
帰り道の街道沿いに有るラブホにでもしけこみましょー!!!!」

(なんかもー、突っ込む気にもなれないわね・・・。)

 とりあえず横島のアゴに膝蹴りをぶち込みながら、美神はそんな事を考えていた。


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