椎名作品二次創作小説投稿広場


不思議の国の横島

第6話  『六道家の当主様』


投稿者名:KAZ23
投稿日時:03/11/23

―― 六道家 ――

その当主と言えば、それはもう日本GS界の重鎮中の重鎮である。
本来なら、俺みたいな奴ががこの人と面識が有るなんて事は無かったはずだ。
でも俺は、向こうの世界でならこの人と面識が有る。
何故か?
理由は簡単。俺が美神さんの助手をしていたからだ。はっきり言うと、それ以外の理由なんて無い。

「今日は、横島さんにお話が有って来ました〜」

ニコニコと笑う六道理事長は、俺の緊張に気づいているのかいないのか…そんな事とは全く無縁に話を始める。

「お話って言うのは、今日の除霊の事です。」
「は…はひっ、い、いったい何でございませう?」

なにしろこの人、美神さんでも逆らえないっていうとっても恐ろしいお方だ。いや、普通に接している分にはほわわ〜んてした、年の割りに可愛い感じの人なんだがね。
怒らせたらそりゃあもう……

―― ブルブルブルブル ――

とにかく、穏便に済まさねば!

「今日の桜町の除霊に参加していたGS全員に話を聞いて廻っているんですよ〜…あと残っているのは横島さんだけなんです。」
「あ、そうですか!はい、いったいどのようなお話でございましょう?」

六道理事長は俺が横になっているベッドの脇にあった丸椅子にフワリと腰を下ろす。やや淡い色使いの留袖が動きにあわせて優雅に舞った。

「とりあえず〜〜〜今回は大変でしたね〜〜どうですか〜?お体はなんとも有りませんか〜?」
「え?あ、ああ、はい。特に大きな怪我もしなかったですし、ちょっと疲れたって程度で、怪我とはは全然大丈夫っす!」

右手の人差し指を「ん〜〜〜」って感じで唇に当てて、小首をかしげて聞いてくる六道理事長。
この人、仕草がいちいち可愛らしいんだよね。年の割りに………いや、似合ってるんだけどさ。

「それは良かったです〜♪それにしても、素晴らしいですね〜♪」
「はい?」

と、それまで細めていた目を少しだけ開けて、それでもって口の端を持ち上げて、六道理事長が俺の事を褒めてくれた。
なに?俺、なんで褒められてんの?素晴らしい?何が?

「皆さんにお話を聞いて廻って来たって言いましたよね〜?それで分かったんですけど〜、今回の除霊って横島さんが殆ど一人で悪霊と戦ってた〜〜って。皆さんそう仰ってましたよ〜…凄いじゃないですか〜〜♪」

あ、なるほど。
なんでこの人が来たのか?その理由が大体分かった。

「それで、一応横島さん本人に今回の件を確認しておきたいんです〜〜」

当初の予定どおりに事が運んでいたなら、今回の除霊は仕事のレベルとしては中の下程度の楽な仕事だったはずである。
だが、今回は予定がおもいっきり狂っちまったもんだから……はっきり言ってかなりヤバイものに変わっちまった。
例えば…俺が結界を張ったり、地脈の流れを変えてやったり出来ないような霊能者だったとしたら……今ココで六道理事長と話をしてる事なんて無かっただろう。
ほんと、文珠ってのはつくづく使い勝手が良いものである。
もしも俺が文珠を使えなかったとしたら、多分今頃はどこぞの船頭さんに、『渡し賃は六文だよ〜』なんて言われてたに違いない。

「横島さんの事は協会から資料を貰ったんですけど〜〜…GS免許取ってからついこの間まで全く活動してませんでしたよね〜?」
「あ、ええと…今まで海外の修行場を転々として修行をしてたんすよ。GS免許取った所までは良かったんすけどね……」

そして俺は…ああ、こっちの世界の俺はGS免許を取った後、とあるGSの元で見習いGSをはじめたんだ。

―― いや ――

はじめようとしたんだ。と言い直すべきだな。
何故なら、見習いとして働こうとした初日にクビになっちまったから。
ギリギリのラインでその事務所の面接に合格した俺は、その事務所から土壇場で戦力外通告を受けたのである。
なんでも俺の後で面接したもう1人の新人が、俺なんかよりも圧倒的に優秀だったんだそうな。
もともと、自分の力が大した物じゃあ無いって自覚してた(この世界の)俺は、これを気に修行の旅に出た。
結果は……
3年前に比べてどれくらいの力が付いたのか、その結果はこれからの俺の仕事しだいって所だろうか。

「ざっと見積もっても、一流GS並みの能力が無ければあの状態で悪霊を1人で除霊するなんて出来ないと思うの〜」
「いや、運が良かったんすよ。」

だから当然、俺みたいな何処の馬の骨とも知れないGSがどうやってそれだけの事を出来たのか?って疑問に思ったんだろう訳で…

「でも〜…ちょっとやそっとの運だけじゃ〜出来ないわよね〜?」
「いや〜…俺も一応3年間必死に修行しましたんで。」

これは本当の事。成果の程は自分じゃあはっきりと答えられんが、少なくとも霊力は格段に強くなっている。

「ん〜〜〜それだけ〜ぇ?」
「え!?そ、それだけって言うのはど…どう言った意味合いでしょうか〜〜〜?」

うん。明らかに疑われてますな。
六道理事長の視線が少し細くなる。身にまとう空気が重くなった気がした。

「何か〜〜〜特別な力でも身に付けて来たんじゃないの〜?」
「ドッキーーーーン!?」

この人、一見ボケボケしておりますがその実すげぇやり手で、俺なんかじゃあ足元にも及ばない切れ者なんです。というか、美神さんは元より、あの美智恵さんですら敵わないという話を聞いた事がある。
人は見かけによらない。
伊達に超名家、六道家の当主をしていないって事だろう。

「貴方の能力、霊波刀って書いてあったけど〜…本当にそれだけ〜?」
「ドドドドドド!ドッ!キーーーーーーンッ!!?」

なんか、バレバレ!?
いや、待て待て!俺が文珠を使えるって所までは流石に分からんだろう?!
これはアレだろ?カマを掛けてんだろう?

「ははははは!嫌だなあ、六道さん。ほんと、それだけっすよ!今回は本当に運が良かっただけですって。俺が修行で身に付けた力は霊波刀ぐらいのモンですよ。」
「でも〜、今回の件で他のGSにヒーリング使ってるでしょ〜?しかもすっごく強力な奴よね〜?」

そう言えばそうでしたーーーぁっ!!
しまったな。わざわざ当主自らがやってきたって事はそう言う事だったか。
そういう事ってどういう事か?

「それを聞いたからには〜しっかりと確認しておきたいじゃない〜?それで、どうなの〜?」

ヒーリングっていうのは割合とポピュラーな能力では有る。
ただし、使用者によって能力に雲泥の差が出る能力だ。
そして…自惚れるわけでは無いが、俺のヒーリング(正確には文珠)の能力はかなり強力だったりする。
何しろ、その気になれば霊基構造の再生すら可能なんだ。まあ、完全に死滅したものを復活させる事は無理だけど…
そんな事は俺の霊力量じゃあ絶対に無理な話だけど……

―― 理論的には死者を蘇えらせる事も可能なはずよ ――

いつか聞いた台詞が思い出される。俺にアシュタロス並の霊力が有れば……
もしもそれだけの力が有れば……

………………

まあ………前提条件の段階で既に無理なんだけどな。

「どうかした〜?」
「あ、いえ!なんでもありません。」

少しボーっとしてしまった。六道理事長が怪訝な顔をしている。
何だった、何の話だったっけ?
そうだ、俺がヒーリングの能力を持っているって話だ。
文珠を用いた俺のヒーリング能力は、多分トップクラスの治癒再生能力を持っている。
そして、そんな強力なヒーラー(ヒーリング能力者)と言うのは貴重な存在であり…

「いやあ……その〜、なんと言いますか〜…」

どうする?いっその事、文珠の事全部話しちまうか?
一応は内緒にしとこうって方針だったが、絶対に内緒にしなきゃいけないってモンでも無いしな。
ここは六道理事長に全部ぶっちゃけても良いかも……

「ん〜?まあ、良いわ〜…それよりも〜今日の本題に入りましょう〜♪」
「へ?」

あれ?今までのが本題だったんじゃ無いの?
俺が正直に文珠の事を話そうかと思った矢先、六道理事長が不意に話題を変えてきた。

「まったく別の話って訳じゃないのよ〜?」
「は、はぁ…」

俺がそう思ったことが伝わったのだろう。六道理事長は続けてそう言ってくる。
どうでも良いのですが、一度も崩れませんねそのニコニコ?

「横島クンって〜…今は何処にも所属してないんでしょう〜?」
「あ、はあ。確かに今、所属している事務所は…」
「そうじゃ無くて〜いわゆるGSの派閥の事よ〜」

GSの派閥?

「あれ?なんかそう言えば聞いた事あったような?なんだっけ……」

GSの派閥って言えば……そうだ、あれは確か……
俺はソレについて段々と思い出す。
3人いれば派閥が出来るの例に漏れず、GS界にもやはりそれなりに派閥っていうものが出来上がっているのだ。
それで、六道家はその派閥の1つのトップに当たる訳である。
六道家の公認って事で事務所を開けば、看板にその名前が入っているだけでこの世界での信用が全く違う。
それに、フリーのGSをやってる奴以外は、ほぼ100パーセント何処かの派閥に入っているはずだ。ちなみに美神さんは六道の派閥に所属していた。
美神さんの家もそこそこに歴史の有る家柄なので、結構古くから六道家との繋がりがあったとか…

―― 結局、派閥ってなんなのか? ――

ぶっちゃけて言うと、旧家、名家の勢力争いらしいんだけどね。昔、美神さんが「しょーもな」って興味無さそうに説明してくれた事があった。
ただ、いくらしょうもないモンでも日本GS界ではその影響力がすこぶる大きいのも事実。
例えば俺が個人事務所を開くとしても……法律的には問題無くても、現実的にはどこかの派閥に入っておかないと後々問題になるケースが多い。
この場合、派閥に入るって言うのは、契約書が有って云々といったモノではなく、「貴方のグループに入れて下さい〜♪」って程度の仲良しこよしみたいなモンだ。
派閥に入ると、他の事務所とバッティングしないような調整とか、企業等大口の顧客からの依頼の斡旋などを“なあなあ”で行ってくれる。
逆に派閥に入らないと、少なくともこの国では正規のルートからの依頼が一件も入ってこない……という話を聞いた。
派閥に入るのに条件が有る訳でもなくて、入ったから何かするって訳でもない。何て言うか、派閥て言うのはトップの方達の見栄の張り合いらしい。

『うちのグループは現在何人のGSがいるぞー!』
『こっちはこんな能力を持った凄いGSがいるんですよー!』
『この間、こんな難しい事件を無事に解決したんじゃ!』

等々、精々使い道と言えば他の派閥の奴と会った時に自慢するための材料だそうな。
ほんとにしょうもなっ!

『古い家ってのは何処でも見栄張って家を持たせてんのよ。』

と、美神さんがアホだわ、そんな一円にもならない事。ってとことんコケ下ろしていたのが印象深く記憶に残っている。
ちなみにGS協会っていうのは、そんな派閥のトップ達と国が一緒になって創ったんだってさ。
もちろん、日本のGSを組織的に統率するって目的が一番だけど、派閥同士で大きな喧嘩しない様にとか、お互いの手の内を探る牽制的な意味合いがあったりとか…

―― 組織って腹黒い ――

等と思える部分が、一般のGSには関係の無い部分で随所に見られるらしい。
だが、ふむ?
この話の流れからして……

「もしかして、俺に六道の派閥に入れって事ですか?」
「あらあら?やあねぇ〜強制なんてしないわよ〜♪でもでも、出来たら横島クンにはうちのグループに入って欲しいな〜ってオバサン思っちゃうの〜♪」

六道理事長は右手の掌をパタパタとさせてホホホって笑いながら言ってきた。
俺としては六道の派閥に入ることに異論は無い。ってかむしろ歓迎?

「最近、三世院(さんぜいん)ちゃんの所が色々と目立って来てね〜…二条(にじょう)ちゃんの家と四乃宮(しのみや)ちゃん家がウチと五代(ごだい)みたいに一族内で婚姻結んで結束するって噂も有るし。一都橋(ひとつばし)家は相変わらずだけど…ウチもやっぱり優秀なGSが入れば出来るだけ集めておきたいの〜♪」

だんだん、細かく思い出してきた。
日本に『六芒六家』有り。
それぞれ、一都橋、二条、三世院、四乃宮、五代、六道と言う。
なんて始まる話だったと思う。
それぞれが古くから脈々と続く家柄であり、当主の力は皆一様に凄まじいとか……
それを聞いて感じた俺のイメージはこうだ。

―― 六人の冥子ちゃん ――

…身体の振るえば、止まらんかったとですたい。

「あの〜…六道の派閥に入るって事については異存ないんですけど〜…」
「あら、本当?オバサン嬉しいわ〜♪」
「いや、一応最後まで話を聞いて下さい。」

くっ!
流石にこの人は冥子ちゃんの母親だな。

「これから俺の事、話します。それを聞いてもらって、それで俺の方からも少しだけ聞いて欲しいお願いが有りまして……どうでしょう?」
「あらあら?六道家当主を相手に駆け引き?随分と勇気有るのね〜♪」

―― ニコニコ ――

だから怖えーーーってば!!
六道理事長は凄んで見せているわけではない。ただ、本当にただニコニコと微笑んでいるだけだ。だが俺には、その笑顔の裏側が……何故かまざまざと見えてしまう。

「そんな風に言われると凄ぇ恐いんですけど……」

ま、少しだけ俺の事……文珠が使えるって事だけ話しておこう。
六道家の派閥に入っておけば、仮に文珠の存在がバレても何とかなるだろうし。
流石に他の世界云々は言えねーけどさ。

「実は俺、霊波刀の他にも……」

俺は居住まいを正し、ニコニコのプレッシャーに必死で耐えつつ、文珠についての説明を始めた。

…………………………










……某所にて。

―― ポコポコポコポコ、シューッ、ガチャン、ガチャン ――

様々な音が入り乱れる室内。
そこは、様々な機器、薬品、書物等が並べられた一目で何かの研究室と分かる部屋だった。

「ふむ………しかし、君は本当にこれで構わないのかね?」
「構わぬ。これが我の望む道なり。」

今この部屋の中には2人の男がいて、何か重要な話をしている最中と言ったところだった。

「ふむ……まあ、あなたがそう言うならば私がこれ以上何を言う事でも有りませんな。分かりました。ご希望通りにいたしましょう。」
「感謝する。」

片方の、特に大柄な方の男が1つも表情を動かさずに感謝の言葉を述べた。

「では、先程の件……こちらからの希望は受理されたと考えて宜しいですかな?」
「無論だ。その時が来たら、貴公の望むだけのモノを与えよう。」

今度はもう片方の男が問いかけ、それに対して大柄な方の男が肯定の意を示す。

「有難う御座います。それでは、早速準備に取り掛かりましょう。開始は明日、今日と同じ時間に又こちらにいらして下さい。」
「承知した。それでは今日はこれで退出する。」

大柄な男は簡潔に答えると、腰を上げてそのままスタスタと部屋から出て行った。

―― バタン ――

閉めた扉の音だけが部屋の中に大きく響く。

「………………」

もう一人の男、この部屋の主は暫くその後ろ姿を見ていたのだが…

「…………ふふ、彼も必死だという事ですかね。」

不意に唇の端を持ち上げると、薄く笑いを漏らしてそう呟いた。

「まあ、これで彼が格段に強くなる事だけは間違い有りません。強くなって、その先どうなるかまでは、保障できませんがね…………精々私の為に頑張っていただきましょう…」

更にはっきりとした笑いを浮かべて男は呟く。
その瞳は、あからさまに邪悪な色をしていた。

…………………………










だいたい10分くらいで…俺は(この世界の)自分の今までと、若干脚色して自分の能力、文珠の事を六道理事長に説明する。

「…ま、だいだいそんな感じです。」
「へ〜……横島クンってば凄いじゃないの〜」

六道理事長は何かの文献で読んだ事が有るらしく、文珠という能力の存在を知っていた。それも有り、説明は随分とスムーズに出来たのである。

「で、どうでしょうか?俺のお願いのほうは聞いてもらえますかね?」
「うん〜♪全然オ〜ケ〜よ〜〜〜♪」

俺が頼んだ事は2つ。

「横島クンが文珠を使えるって事は、内緒にしておけばいいのね〜?」
「はい。なんだかおおっぴらにバレると面倒臭い事が起こりそうでして…」
「じゃあ、横島クンは秘密兵器って事ね〜?格好良いわよ〜♪」

秘密兵器ですか………凄いですね。いえ、その単語が出てくる貴女がです。
俺が頼んだ事の1つは、俺が文珠を使えるって事はなるべく内緒にして欲しいって事だ。
自分でも文珠は凄く危険だと思う。何が危険かというと、俺以外の人間にも使う事が出来るって所だ。
ある程度の霊能力者なら、俺が作った空の文珠に文字を込める事も出来るし…更に言えば、すでに文字が込められている文珠でも、発動前なら文字の変換という事も可能なのである。
実は……昔、文珠に関して一悶着有った。

―― アレは忘れられねぇよ ――

正直、アレで俺の文珠に対する認識が大きく変わったと言っても良い。
昔は便利な道具…程度の認識だったのだが、今ではそれにプラスして危険な道具だという認識が加わっている。
だからこそ、俺は文殊の扱いを間違っちゃいけないんだ。

「あとは横島クンが事務所開くのを手伝えば良いのね〜?」
「あ、はい。準備資金の前借と、あとは仕事の方紹介していただけると嬉しいです。」

そしてもう1つの頼みというが、個人事務所を開くのに強力して欲しいという事である。
流石に時間が無いからな。利用できるものは利用しておかないと、エミさんにしばかれてしまう!

「でもでも〜横島クンになら全面協力してあげても良いのよ〜?事務所にウチの公認だって入れてくれても良いのよ〜…むしろ入れて貰えたらこっちとしても嬉しいんだけど〜?なんなら開業資金は全部ウチが持ってあげるわよ〜?」
「いや、あまり大げさに目立つのは好きじゃ無いんで。公認は勘弁してください。お金もちゃんと、軌道に乗ったらお返しします。」
「あらそう〜…ちょっと残念ね〜〜〜」

六道理事長はどうやら俺の事を……というか俺の能力を高く買ってくれているみたいだ。なんだか凄く破格の値を付けてくれている感じがする。
だが、いくら利用できるものは利用すると言っても、けじめ的な部分はしっかりしておかないといけないだろう。
これだけで十分だ。ってか、上手くいきすぎだ!逆に恐縮だ!

「でもでも〜…今日は来て見て良かったわ〜♪大収穫〜〜〜♪」
「いや、そこまで言われるとプレッシャーですが?何しろ、実績の無いぺーぺーって事に変わりは無いんですよ?」

文珠は確かに使い勝手の凄く良い道具だけど、除霊ってのはっそれだけで出来るものでもない。もっと言えば、事務所の経営についても同様だ。
だからこそ、こんなに手放しで褒められるのは困るんだけどな。

「横島クンなら大丈夫よ〜♪オバサンの勘は当たるんだから〜♪」

パンと両手をあわせ、六道理事長が微笑む。なんだか一辺の疑いも持たずに発言しているように見えますね?
いや、優秀なGSは勘も鋭い。それは分かっている。分かっているが……

「……それでも不安っす。」

俺は、そんな風に言われて良い奴じゃ無いですよ。

―― トントン ――

「あれ?誰だ?」

と、丁度話もひと段落した所で、病室のドアがノックされた。

「お母さま〜〜〜お話ってまだ終わりませんの〜〜〜?」
「!!?」

こ、この声はっ!!?
そして、外からは六道理事長に似た、それでも理事長よりももっと若い声で声が掛かる。

「あら?ごめんなさい。娘を外で待たせておいたの〜…そうだわ〜!横島クンにも紹介しておこうかしら〜?どう〜〜入ってもらっても良いかしら〜〜〜?」

―― コクコク ――

間違い無い!この人の娘!!それはつまり!!!

「入っても良いですって〜〜〜…入っていらっしゃ〜い。」
「は〜〜〜い。失礼します〜…」

―― ガチャッ ――

ああ、やっぱりそうだよ!?

「はじめまして〜こんにちは〜♪」

ドアを開け、室内に入ってきたのは制服姿の女の子。黒い髪を肩口で切りそろえた、上品な髪型。ほわわあ〜んとした雰囲気は六道理事長に良く似ている。
そして勿論、この娘が誰なのかを俺はよ〜く知っている訳でして…

「六道冥子です〜〜〜♪」

―― 冥子ちゃん女子高生だーーーぁっ!! ――

ご存知、六道冥子ちゃんその人でした。でも六女(六道女学院)の制服を着ている事から、俺の知る冥子ちゃんよりもいくらか若いって事が分かる。
エミさんに引き続き……だ!

―― でも ――

あんまり変わらんな〜?
制服ってオプションが無ければ高校生だって分からないかも。あっちの世界の冥子ちゃんと殆ど変わんないや。
いや、別にこっちの冥子ちゃんが老けてるんじゃない。向こうの冥子ちゃんがあどけなさすぎなんだな。

「は、はじめまして。横島忠夫です。」
「娘は今、17歳でこの間六道女学院の3年生になったばかりですわ〜♪」

お〜…やっぱり女子高生。

「今度GS試験を受けるんですの〜…それなのに〜……」
「ひっ!?」

と、そこで六道理事長の声のトーンが少しだけ下がり、その瞳がキラーンと光った気がした。
対照的に、冥子ちゃんの顔にはビクッとした焦りが浮かぶ。

「この娘ったら〜!未だに式神の制御もままならないなんて〜〜〜!!」
「え〜〜〜んっ!お母さま御免なさい〜〜!!許して〜〜〜っ?!!いやぁ〜〜〜!!苦しいの〜〜〜!!?」

出たぁっ!!?
冥子ちゃんの影から、蛇の式神サンチラが飛び出してくる。そのまま冥子ちゃんに巻きついて締め上げた。
そうだった。六道理事長がそばにいるときは、式神を操る主導権は冥子ちゃんから理事長に移るんだっけな!

「いっつもいっつもプッツンプッツン!!このままじゃあGS試験だって受かるかどうかーーっ!!!」

―― ビビビビビビビビビビビビ ――

「いやいやいやいや!!シビシビシビシビ?!!や〜め〜て〜〜〜!!!お〜か〜あ〜さ〜ま〜〜〜〜〜!!!!」

あ、サンチラ電撃。
サンチラは冥子ちゃんに巻きつくと、全身から電撃をほとばしらせる。冥子ちゃんは感電してシビレて……言葉が震えていた。
その震える言葉で必死にお願いしているが、六道理事長はお仕置きをやめるそぶりは見せない。

「南無〜…」

俺はとりあえず、両手を併せて冥子ちゃんのご冥福を祈ったのだった。

…………………………










―― ビビビビビビビビビビビビビビビ ――

「わ〜た〜し〜ま〜だ〜生〜き〜て〜る〜わ〜〜〜〜〜!!」

それは失礼。


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