椎名作品二次創作小説投稿広場


黒き翼

除霊2


投稿者名:K&K
投稿日時:03/11/19

 美神令子はドアから少しはなれた場所に立つとこちらをふりむいた。

 「みんなも感じていると思うけど、ここの結界はもうそれほどもたないわ。そして、今私達に有る武
  器は神通棍をのぞいて、わたしのイヤリングとネックレスについている3個の精霊石と、この1個
  の文殊だけ。」

 美神はポケットからまだ念のこめられていない文殊をとりだす。

 「このまま結界が破れて霊団が再び外にでたら、除霊はおろか、私達が生きて帰れる保証もないわ。
  だから、そうなる前に一気に速攻をかける。」

 『でも、あたしとおキヌちゃんはもうなにもできないわよ。』

 床の上に坐りこんでいたタマモが疲れきった表情で美神を見上げた。

 「あんた達の力は強襲には向いてないから、今回は自分の身を守ってくれればいいわ。敵をここに誘
  導してくれただけで上出来よ。」

 『拙者はなにをすればいいでござるか?』

 タマモとは対象的にシロはやる気充分という表情でこちらをみている。白いシッポがブンブンと元気
良く振れていた。それがとなりに座っているタマモの頭を叩くのか、タマモは時折煩そうに手で払うよ
うな仕草をしている。

 「シロ、あんたにはタマモとおキヌちゃんの護衛と、万一作戦が失敗した場合退路を切り開いてもら
  うわ。」

 『わかったでござる。』

 「ということは、俺の役目は・・・」

 「決まってるじゃない。斬込隊長。」

 「やっぱり・・・。」

 「なにか文句ある?それともあんた、ボロボロの女の影に隠れるほど情けない男なの?」

 「・・・わかりましたよ。やりますよ。で、どうすりゃいいんですか。」

 「まずは文殊を出してちょうだい。」

 「えっ、文殊ですか?(ヤバイ。昼間2個使ってるからいまのコンディションじゃもうつくれねェぞ
  。)」

 「そうよ。手持ちの武器だけじゃ力不足だってことぐらいあんたにだってわかるでしょう。」

 「そりゃそうですが、俺、徹夜の連続で疲れたまってるんスけど。」

 「なにいってるの。ちゃーんと知ってるのよ。横島クンが学校で始業から終業までズーッと居眠りし
  てること。」

 (あいつら、告口しやがったな)

 横島の脳裏にピートとタイガーの顔が浮かんだ。

 「それともなにか文殊が作れないわけでもあるのかな。」

 美神の大きな目がすっと細められる。現在文殊の生成、使用はとっさの場合を除きほぼ完璧に美神に
管理されていて、横島が少しでもそれを逸脱した場合恐ろしい折檻がまっていた。

 「そっ、そんなことありません。すぐに作ります。」

 身の危険を感じ、反射的に答えてしまった。だが、いくら右手に霊力を集中しても文殊は現れてこな
い。かわりに美神の表情がいっそう険しくなる。おキヌ&シロタマも心配そうにこちらをみている。

 (やっぱムリだよなぁ。でもやらないと美神さんに折檻されるし、かといって煩悩を刺激するような
  物はないし・・・。)

 目の前の女性陣はみな傷つき、疲労困憊していたので、さすがにそれを見て妄想することはできなか
った。
 横島は集中するふりをしながらさらに考える。ふと脳裏に昼間のワルキューレのシャツをはおっただ
けの色っぽい姿が浮かんだ。

 (あれはよかったなー。普段は全くスキのない女がああいうかっこをするとあんなに色っぽいとは思
  わんかった。)

 煩悩のボルテージがだんだん上がっていく。先程かわしたキスの感触が逐一蘇ってくる。

 (まてよ、もしあのとき結城ヤローがいなかったらどうなっていたんだ?。もしかしたら、ふたりと
  も情熱の命ずるまま熱い抱擁を交わしあい、そのまま最終ステップへ突入なんてことに・・・)

 煩悩のボルテージは一気にMAXまで跳ね上がり、同時に急激に霊力が右手に集中しはじめた。だが
横島はすでにそれを意識していない。彼の魂は現し世を離れ、常世をさまよっていた。

 『横島。』

 名前を呼ばれて振り向くとワルキューレが立っている。

 『横島、早くきて。』

 潤んだ瞳で此方を見詰、誘うように両腕を差し出す。

 「(ブチッ)うぉー、まっててやー、いまいくでー。」

 「(((ブチッ)))こんでいい!!」

 雄たけびと共に一歩踏み出した瞬間、やけに耳慣れた声と共に顔面に強烈な衝撃を感じ、全てが暗転
した。

 『あ、出た。』

 どこかでタマモの声がする。必死の思いで目を開ける。どうやらタマモの足元に倒れているらしい。
顔の右側に見える足にそって視線を移動していくと・・・。

 「イチゴ・・・。」

 『なに見てるのよ、スケベ!。』

 「イテッ!。」

 タマモがスカートを抑えながら頭を蹴飛ばした。かなり痛かったがおかげで意識がはっきりして、自
分のおかれた状況が理解できた。どうやら妄想のままに美神に襲い掛かり折檻をくらったらしい。

 「文殊は!、」

 あわてて上体を起こし、あたりを見回す。

 「ここにあるわよ。」

 美神が先程よりさらに不機嫌そうな顔で、拾い上げた文殊をみせる。とりあず文殊をだせたことにほ
っとして立ち上がるとおキヌと目があった。いつもなら心配してすぐ側にきてくれるのに、今日はふっ
と目をそらされてしまった。

 (あれ?)

 なにか引っかかるものがあったが、これ以上ヘマをするとマジで殺されかねないので仕事に集中する
ことにした。

 「この後はどうするんスか。」

 「作戦自体は単純よ。まず横島クンがこの文殊でじゃまな霊体どもをふっとばす。」

 美神が「浄」の文字が浮き出した文殊をコロコロと掌の上で転がす。

 「そのスキに私が「縛」の文殊で敵を縛り、動けなくなったところで神通棍でとどめをさすわ。」

 「中にどのくらいの霊体がいるんスか?。」

 「だいたい150から200ってとこね。」

 「えーッ!、文殊一個でそんな数相手にできるわけないっすよ。」

 「そんなこと解ってるわ。だからこうするの。」

 美神は両耳のイヤリングについている精霊石をはずすと文殊といっしょにハンカチにきつく包んだ。

 「たかが5千万の仕事に6億の出費、今月は大赤字だわ。でも、世界屈指の評価を維持するためには
  この程度の除霊に失敗するわけにはいかないのよ。」

 ぶつぶつと愚痴をこぼしながら、それを横島にわたす。

 「こうすれば、精霊石のパワーが文殊の力を増幅してくれるはずよ。ただ、おそらくこれでも全ての
  霊体を浄化することはできない。それにもうこの結界も文殊の力に耐えられないわ。残った霊体が
  どんな動きをするかも解らない。だから、横島クンは文殊を発動させたあとは自分を守ることに集
  中しなさい。」

 「わかったっス。」

 「シロも、残った霊体が襲ってくるかもしれないから充分気を付けるのよ。」

 『ハイでござる。』

 「じゃ、3秒後にドアをあけるわ。横島クン、用意はいい?。」

 美神がドアノブに手をかける。ゴクリと横島の喉がなった。

 「いくわよ。ワン、ツー、スリー!」

 ドアが開くと同時に横島は姿勢を低くして部屋の中に飛び込んだ。そこは部屋の外と同じくあちこち
に破壊された家具の破片が散乱し、壁のいたるところに傷がついている。そして、無数の霊体がひしめ
きあっていた。
 横島は右手に霊波刀を出し、いつ襲い掛かられてもいいように構えながら辺りの様子を窺う。だが、
霊達はただふらふらと漂うだけで、横島になんの関心も示さない。部屋の奥には白骨が服を着たような
、しかも上半身だけの霊体がいて、そのまわりを大勢の霊体達が取り巻いている。

 (あいつが今回の除霊対象だな。)

 自縛霊のごたぶんにもれず何事かぶつぶつと呟いている。確かにタマモの言うとおり、そいつからは
たいした霊気は感じない。周りの連中の霊気の方が強いぐらいだ。だが、横島はまるで飢えた虎の前に
裸で放り出されたような、得体の知れない戦慄を感じていた。やがてそいつは横島の存在に気付き、二
人の視線がぶつかった。

 ゾワッ

 いきなり部屋中に殺気が満ちる。漂っていた霊達が雪崩のように一斉に横島めがけて殺到した。

 「うわああああああ!」

 横島は悲鳴を上げると本能的に持っていた文殊を叩きつけた。

 キィィィィィィン!

 澄んだ音と共に文殊が発動する。同時に放たれた閃光は普段の数倍の明るさで、危険だと解っていて
も思わず目を閉じてしまう。露出している顔や手の肌に無数の細い針が突き立つような激しい痛みがは
しった。

 「横島ぁ!、ボサッとするな!」

 美神の怒声に目を開けると目の前に霊体が迫っていた。まるで食いつこうするかの様に大きく口を開
けている。横島は反射的に上体を左に振ると、霊波刀を薙ぎ上げた。ねらったわけではないが、そいつ
は両断されて消滅した。次に襲ってきたやつは、右にステップして突進をやりすごすと相手が振り向い
た所を切りつけて消滅させる。
 文殊の効果なのか相手の動きが遅いのと、攻撃が単純なおかげで武術の経験がない横島でも落ち着い
てさばくことができる。周りをみると30体ほどを残して全て浄化されていた。文殊と精霊石の組み合
わせは思ったより効果があったようだ。
 余裕がでてきたので美神の姿を探す。その闘いぶりは凄まじかった。鞭状になった神通棍の一振りで
最低でも3体の霊体を消滅させる。それを数回繰り返すと彼女の前から全ての霊体が消えていた。
 美神はそのまま一気に除霊対象に接近した。それに対し、相手はまるで美神を押しとどめようとする
かの様に右腕を上げるだけだった。

 (この分じゃ、あと神通棍の一振りで終わりだな。)

 横島が最後の霊体を切り伏せながらそう考えたとき、相手の手首あたりから美神の頭部に向かい、赤
い直線がのびた。彼女の身体がバタリと倒れる。それはそのまま反対側の壁に到達し、そこに小さな穴
を穿った。
 
 「美神さん!!!」

 横島は自分の全身から血の気が引くのを感じた。


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