椎名作品二次創作小説投稿広場


不思議の国の横島

第5話  『GSという職業』


投稿者名:KAZ23
投稿日時:03/11/19

ゴーストスイーパー……それは常に命の危険に晒される、死と隣り合わせの過酷な職業。
殺るか殺られるか。
ゾッとしない文句がそのままの意味で使用される世界。
そんな仕事を俺は選び、そんな世界に俺はいる。
きっかけは些細な事だったかもしれない。いや、くだらない事だったと言った方が適切かもしれない。
軽い気持ちだった。決して真剣に選んだ職業ではなかった。それも間違い無い真実。

―― だが ――

今では抱えてしまったものが大きく、そして多くなり過ぎて……
おいそれと辞める訳にはいかなくなっちまった。辞めようという気持ちも今の所は無い。
だから俺は、今も隣に死を感じて生きている。
なんて、ちょっと格好付けすぎかな?

―― 死 ――

それは、この不思議な世界でも変わる事は無く…
俺の隣には常に付きまとうモノ。
俺の名前は横島忠夫…
ゴーストスイーパー横島忠夫だ。

…………………………










「往生せぇやーーーーーっ!!!」
「ギュルルゥァアアァァァッッ?!!」

―― ドゴーン! ――

「…はぁ、はぁ………はぁ、こいつで最後か?」

俺はそこで、ようやく肩の力を抜いた。

「はぁ〜…」

そして1つ、大きく息を吐く。

「流石にしんどかった〜…」

今回の除霊は、それほど強くない悪霊が相手ではあったが、問題はその数だった。払っても払っても次から次へと集まってきやがる。
なんで1人では無理って言われたのかは、除霊が始まってから嫌って程分かった。
ココはいわゆる霊の吹き溜まり。地脈に沿って、四方八方から霊が集まってくるポイント。

「分かっちゃいたんだけどなぁ…」

今回の仕事は難易度もそれなりに高い。本来なら今の俺には回ってこないはずの仕事だ。それでも俺は今回の仕事に参加している。
そう。参加しているのだ。
つまり、単独じゃ無いって事。
そこそこ名のあるGSを中心にした、7人のGSが集まって行われた共同作戦だったのである。共同作戦なんて言っても、俺は頭数だけの「その他」だけどな。
とは言え、報酬の大きさがなかなかに魅力的で、この仕事に参加させてもらった訳だ。
作戦はこう。
5人の「その他」GSが霊団を引き付けている間に、今回の作戦のリーダーである導師とそのパートナー(チャイナのスリットがなかなか魅力的なお姉ちゃんじゃー!)が地脈の流れをちょこっと操作して、この場所に溜まっていた霊団を逃がしてやろうって作戦。

「…だっちゅうにあの、クソ導師がーーーっ!!」

霊団の中に、予想よりもちぃ〜っと強力な奴が一匹混ざっていた。でもって、そいつは前衛である俺達ではなく、登場するなり後ろに居た導師達を襲ったのである。
どうやら、その程度の知恵はある奴だったらしい。
ま、それは良いんだが、そいつに、導師のパートナーがやられちまって…

「やられたって言っても、命に別状は無い程度だったろうに…」

霊団の体当たりを食らって吹っ飛び、腹から血を流してぐったりしてる……が、それでも息はしている。
それでもその姿に、パニック。一気に動転しちまって…

「ちっ!」

導師は逃げ出しちまった。
ちくしょー!!ムカつくぞ、コラッ!!
悲惨だったのは残された俺達である。霊団の中央に、何の援護も無く取り残されちまったい。
とにかく、後から後からわんさか集まって来ちまう。こっちの体力、霊力は当然無制限って訳にもいかねぇし…

「もう少しで、俺も洒落んならん事になったかも知れん。」

なんとか隙を見て霊団突破して、俺は文珠で地脈の流れを変えた。そうすれば流されるだけの霊団は別の場所に流されて行っちまうわけさ。
俺だって結構除霊知識持ってるんだぜ。伊達に3年も美神さんと一緒に働いて来た訳じゃない!
そうすれば、後に残るのは少しでも留まろうとする意思のある悪霊だけ。
俺は導師のパートナーを襲った悪霊リーダー(仮称)をアッサリと片付け(実際、その程度の悪霊だ)なんとか残りの奴らも除霊する事に成功したのだった。

「あの程度の奴にビビッてんじゃねーっての!」

俺がこれだけ怒っているのには、導師が逃げた事の他にも訳が有ったりする。
俺はようやく霊団が居なくなって見渡せるようになった周囲を見回す……
目に入るのはぐったりと倒れこみ、ピクリとも動かない人間。

「………………ちっ…」

……2人死んだ。
俺も、人が死ぬ所を見るのは初めてじゃない。この商売をやっている以上、こんな結末は常に予想して然るべき物だ。

―― 俺だっていつか死ぬ ――

それでもっ!
目の前で人が死ぬってのはすげぇやり切れねぇよ……

「アノ導師…次に会う機会があったらぜってーぶん殴る!」

ま、そんな機会が有るかは分からんがな。
GSってのは個人(若しくはチーム)の力をベースにした、完全な信用商売である。仕事に失敗するってのはそれだけでマイナス要因。特に今回は途中で投げ出しての逃亡だ。

「GSとしちゃあ、もう終わったなアイツ…」

同情の余地もねーけどさ。

『治』『癒』

―― パァァァッ ――

俺は、既に事切れている(一目でそれと分かる)2人を除く、他の重傷者3人に近づくと、まだ息があることを確認してから『治癒』の文珠を使う。俺以外で、最後まで意識を保っていられた奴は居ないみたいだ。
文珠を使う所、見られなくて済むな。
文珠は柔らかな光を放ち、3人の傷口を塞いでいく。

「あ〜…しんど。こりゃあ今日はもう何も出来んな…」

体中ビキビキで、霊力も殆どゼロ。

「あ、なんだか意識がヤバイ…」

集中力が切れたからだろうか?一気に疲労が俺を襲ってきて……

「あ〜…ねみ〜……」

俺は、意識を手放した。

…………………………










…………………………

―― ドゴォオオォンッ! ――

大地が爆ぜる。
モウモウと舞い上がる土煙が俺から視界を奪った。

『くそっ!?なんなんだ、こいつはっ?!』
『なかなかやるね。けど、まあ人間じゃあそんなモノだろう?』

その向こうに、ヤツがいる。シルエットと声だけなのに、俺は凄まじいプレッシャーを感じていた。体中から冷たい汗が噴き出す。

『まあ、お前に恨みなんて無いし、本当なら殺す理由なんて無いんだけどね…』

この化け物がっ!
コイツが何者かなんて知りもしない。突然感じた馬鹿でかい霊気に惹かれて、こんな所までノコノコ来ちまったのが運の尽きだった。

『お前が死ななきゃいけない理由は1つだけさ。』

逃げ切れないって事は既に確認済み。俺は覚悟を決めて戦ってみたのだが……

『ボクがここに来たことは誰にも知られたく無いんだ。お前は運が無かったんだよ。』
『ちくしょうっ!』

あれだけ修行したのに!
最近は、ソコソコ力がついて来たんじゃ無いかなって思っていたのに!
自惚れだったのかよ!?
俺の力はこんな物だったのかっ!!
自分に対する怒りが込み上げてくる。こんな所で俺は死ぬのか?

『じゃあ、そろそろお前にも力の差ってのが分かってきたみたいだし………』

嫌だ!死にたくない!死ぬのは嫌だっ!!

『……死ね。』
『うわああぁぁっっ!!!』

―― ドゴォオオォンッ! ――

…………………………










………………

「………………ん…」

なんだか、体が痛い……
それに気分が最悪だ。
なんだ……夢を見てたような………気分の悪い夢………なんだったけ?どんな夢だったっけ?
クソ………思い出せねぇ…………それよりも、なんだか体が痛ぇな?
あ〜…駄目だ、思考がまとまらねぇ。
全身が気だるく、動かそうとすると節々に軽く、だが全身に均一に痛みが走った。

「…いてぇ……」

その痛みで俺は急速に覚醒していく。ぼんやりと焦点の合わなかった目に、だんだんとはっきりした風景が見えてきた。

「……あれ、ココどこ?」

そして、俺は完全に目を覚ます。
一番最初に目に入ってきたものは、真っ白い天井だった。

「……病院?」

何度かお世話になったこともあり、そこが病院の一室だろうという事は直ぐに見当がつく。
白っぽい内装で統一された、清潔感のあるシンプルな部屋。何よりコノ独特の匂いは間違いようが無い。
俺は………ああ、そうか!
俺、気絶しちまったのか。
ようやくぼんやりとしていた思考が纏まって来る。俺は除霊で力を使い果たして、気絶しちまったんだ。

「で、ココは病室みてーだし…」

俺はグルリと辺りを見回す。白い壁、白い天井、白いカーテンに白い布団と、白を基調とした色使いの部屋に、花瓶に刺さった花やら14インチくらいのテレビ…
まあ、状況から考えてもやっぱり病院の一室って所で間違いないだろう。

「しかし…病院の世話になる程じゃあ無かったと思うんだが?」

基本的には体力と霊力を使い果たしたって程度で、特に大きな怪我も無かったはず…
精々、擦り傷とか軽い打撲ぐらいだったはずだ。
体の節々に痛みはあるが、それは単なる疲労だし。
ん〜?
ま、気ぃ失ってぶっ倒れてたんだし、一応ほっとく訳にもいかんかったって所かな?
現場で気を失って、他の奴に助けられるってのも……なんだか、ちょっぴり格好悪いのぉ……

「はぁ〜…しっかし、今回は散々や〜……」

これなら、もっと難易度の低い1人で出来る仕事を倍こなした方が実績も金も溜まっただろうに。
それもこれも、あのクソ導師がぁ〜!!
状況の確認が済み落ち着くと、再びあの忌々しい導師の事が頭に浮かぶ。変てこな髭を付けた40〜50くらいのオッサンだっだ。
どれだけ実績を残してきたのかは知らんが、こっちを完全に見下した態度がムカついたな。

『お前達は、私の指示に従って動けば良いんだ。要らん事して私の仕事を増やすなよ?』

アレだけ大口叩いておいて、結果がコレか?!
ちっ!

………………

「……ま、しゃあねぇ。」

これくらいのアクシデントはあると思ってたよ、ははは……
俺には自分の個人事務所を立ち上げるって目標が出来た。
しかも2ヶ月で……いや、正確にはあと1ヶ月半で立ち上げないといけない。
そうなってくると、最初に考えてた風に悠長な事なんて言ってられない。それじゃあ事務所の立ち上げまでに何年掛かるか、とても分かったものでは無い。
だから、俺は手当たり次第に仕事を行った。
自分にまわしてもらえる仕事の中でも一番難易度の高い仕事を選び、結構無茶なペースでこなす。
今の俺に回してもらえる仕事は、それほど難度が高い訳ではない。ただし、問題はその数だった。
なんと一日最高4件である。
まあ、美神さんならこれくらいなんて事無いかもしれない。あの人は、除霊して貰えるお金も好きだが、除霊をする事自体も好きだったからな。
昔は俺も気にしていなかったが、実は一般的なGSは同じ日に2つの仕事を行ったりはしないのである。
美神さんに限らず、俺の周りにいた連中ってのが非常識に強い奴らばかりだったのでなかなかそれに気が付かなかった。
だが、実はこれが常識だったのである。
除霊作業は例え簡単なものでも、作業中は常に気を抜けない作業である。だから、体力的にも精神的にも、ついでに言えば霊力的にも消耗が激しいのだ。
そんな消耗した状態で次の除霊に移れば、当然不覚を取る事に繋がる。
実は、今日もこれが2件目の仕事だった。
自分でも無茶してるってのは分かってる。それでも俺は、あえてその無茶を続けてた。
勿論、そんな事を続けていれば何処かで不測の事態が起こるんじゃねえかな?って思うのも当然だ。
実際、今回の事は不測の事態って言ってもいいだろう。

「その不測の事態が……ま、この程度で…」

この程度?

「………………」

………………

―― ぎゃああぁあぁぁっっ?!! ――
―― 助けっ…! ――

………………

「助けられんかったなぁ……」

―― ギチギチ… ――

クソッ!!
これぐらいの事でこんなに揺れるなよ。俺!!
皆、命掛けて仕事してんだぞ!!結果、命落とす奴だっているだろうがっ!!
自惚れんな俺っ!!
俺の目に入る命を、俺が全部助けられるわけねーだろがっ?!
クソッ!!

「………分かってんだろ、そんな事くれー…」

俺はあの除霊で命を落とした奴ら……上半身と下半身が生き別れになった奴と、顔の真ん中がポッカリと無くなっちまった奴の事を思い出す。

―― お前は引っ込んでな、邪魔くせぇ ――
―― 何故かって?ククク、除霊ってのはこんなに楽しいじゃないか? ――

2人とも今回初めて会った奴らだ。2人とも自信家で、どっちかって言うとあんまり好きなタイプじゃ無かったと思う。
それでも俺達は、あの時は仲間だった。

「良くある事さ、こんな事は……」

そう。こんな事は良くある事だ。生きてる奴はいつか死ぬ。それは避けられない事だ。
そうさ、そんな事……

「………アノ時から肝に銘じてる…」

………………

―― パンッ! ――

「はい!ココまでだっ!考えんのもうお終いっ!!それよりこれからどうすっかだろ?」

俺は無理やり自分に言い聞かせ、沈みそうな気持ちを切り替える。両手で強く挟んだ頬がちと痛い。
これからまず、俺が1番にすること、しなければいけない事。
それはそう。1つしか無い!

「看護婦さん呼ぼうっ♪」

これが一番大事だ!間違いないっ!

「うんうん♪白衣の天使は最高じゃ〜♪」

病院でこれ以上に大事な事などあろうか?
いや無い。
そしてこれが重要だ!

「可愛い看護婦さんプリ〜ィズ!」

今、この時!俺の全霊力を込めて……

「届け、俺の想いっ!今だ必殺…ナ〜ァス、コ〜〜〜ォォルッ!!」

―― ピーッ ――

俺はベッドの横に備え付けてあるボタンをプッシュする。

「どんな娘かな〜♪可愛い娘〜…めっちゃ可愛い娘〜♪」

―― ワクワク、ワクワク ――

ふふ〜ん♪ふふふ〜ん♪

―― ガチャッ! ――

「きたーっ!!看護っ婦すわぁ〜〜〜んっ♪」
「気が付かれたみたいですね、横島さん?」

扉を開けて入ってきた看護婦さんは、うちのオカンよりちょっと年上くらいのでっぷりとした肝っ玉母さん風味な人でした。

「こんなこったろーと思ったよドチクショーーーっ!!!」

傷は深い。俺はもう駄目かもしれない……

「婦長の笹倉と言います。宜しくお願いしますね。それでどうですか、身体の調子は?」
「はいはい、いたってりょーこーで〜す。それより今はこのポッカリと開いた心の傷のほうが重症で〜す…」

看護婦さん!美人看護婦さんっ!!俺の白衣の天使―っ!!!

「どうやら、その様子だと身体のほうは大丈夫みたいですね?精密検査の結果も、特に問題も無かったそうですし……早ければ明日にでも退院できると思いますよ。」
「え?ああ、そりゃあどうも。ええと、それで俺…どういった経緯でココにいるんでしょう?」

ま、美人看護婦にアレコレ世話して貰う野望も終わった事だ。とにかく少しでも状況確認しとくか。
俺は婦長さんに尋ねた。

「そうですね。横島さんは除霊作業が終わった後で気を失って倒れていたそうですよ。その場にいた他のGSの方々と一緒にこちらに運ばれてきたんです。目立った外傷も無かったので、単純な疲労だろうという事で……一応、精密検査をしても問題が出なかったですし、気が付かれるまでこちらで休んでもらっていたんです。」
「ああ、それはそれは…お手数をお掛けしました。」

どうやら、俺が考えていたような事で正解だったらしい。

「それでですね、横島さんが起きたら会いたいと仰られている方が居まして…」
「え?どういう事です?誰ですか?」

婦長さんの言葉はちょっと意外なものだった。
俺に会いたいって言う奴なんて数えるほどしかいないけど、こんな入院しているような俺に会いたがる奴となると想像がつかない。
一番有りそうなのは………まあ、仕事関係だって事は間違いないんだろうけど、それにしても……
いったい誰だ?

「なんでもGS協会のほうから話が回ってきたみたいで……私も詳しい事はちょっと、申し訳ありません。」
「あ、いえ!お構いなく!そんな、謝られたりすると恐縮ですんで!」

ふむ。協会からって事は……
多分、今回の除霊についてだろうな。他に考えられる理由もねーし。
全員が気絶してたって事は協会には除霊終了の報告が行ってないって事だ。その確認作業とかかな?

「あ、それで俺がどうすれば良いのかってのは聞いてます?」
「あ、はい。20:00位にこちらに見えられるそうです。その時に横島さんがまだ回復していないようだったら次の機会って事だったんですけど…」

今はえ〜と……あった。19:40か。じゃあ結構いいタイミングだったんだな。
後20分だ。
まあこれについては考えて分かる事でもないし、おとなしく待っている事にしよう。

「しかしそれにしても……」
「あら?どうかされました?」

そう。やはりこれだけは……

「せっかく入院しとるっちゅうに、なんで……わざわざ婦長さんが来てくれんでも…あ、いや、婦長さんが悪いと言っとる訳じゃあなくてですね?男のロマンっちゅーか…やっぱり若い看護婦さんに手取り足取り世話して欲しかったな〜…なんて思ったりなんかしちゃったりして、ハハハ。」
「あら?そんな事考えちゃいけませんよ横島さん。」
「ちょっとくらいえーやないですかーっ?!これは男のサガなんじゃーっ!!」

女には分からん世界なんやーーーっ!!!

「クスッ!そうじゃ無いですよ、横島さん。」
「え?」

そんな俺の様子を見て、婦長さんがおかしなモノを見るように微笑んで説明をはじめた。

「横島さんってGSなんですよね?しかもこんなにお若くて、見た目もそれなりですもの。看護婦達の間でも結構話題になっているんですよ?」
「は、なにそれ?」
「横島さんと良い仲になったら玉の輿かも…って、誰が世話するのかで随分揉めたんです。結局仕事にならないから私が来ましたけどね。」

ははははは、なんだソレ?

「婦長さんもお世辞が上手いんだから〜…もう、俺本気にしちゃう所だったよ〜……」
「だから、辺に気のあるそぶりなんか見せたら大変な事になっちゃうんですから、十分注意してくださいね?」

おお、なるほど。こうやって入院患者が看護婦に手を出すのを防いでいる訳か。
やるね。さすが婦長!伊達に長年看護婦やってないね!

「はははは!分かりましたよ。おとなしくしてますって。」
「はい、お願いしますね……と、じゃあ私はこれで失礼します。トイレは部屋を出て右に行けば有りますから、20:00にはきちんと部屋に居て下さいね?」
「はいは〜い。了解で〜す。」

―― バタン ――

そう言い残して、婦長さんは部屋を出て行った。後に残ったのは俺だけ。
あと10分ちょっとか……
ま今は便所に行きたい訳でもねーし、このまま待ってますかね。

…………………………










そして20:00時ジャスト。

―― コンコン ――

ピッタリと測ったようにその時刻に、病室のドアをノックする音が響く。

「あ、どうぞ!」

俺はドアの外の人物に向かって声を掛けた。

―― ガチャッ ――

「失礼します〜」

なんだか間延びした声だな。
でも、あれ?なんだかこの声……何処かで聞いた事無かったっけ?

「こんにちは〜、はじめまして〜」
「!?」

扉を開けて入ってきたのはなんとも予想外の人物。予想外ってのはどういう事か?
俺の目の前にいる人物は、向こうの世界の俺が知っている人物だったのである。
エミさんに続いて2人目だ。

「貴方が横島忠夫さんですね〜?」

さて、誰かって?

「わたくし〜」

誰だと思う?

「六道家当主、六道 冥香(ろくどう めいか)と申します〜」

日本GS界に大きな影響力を持つ六道家の当主にして、六道冥子ちゃんの母親…
六道理事長その人でした。実は、フルネームを聞いたのって初めてです。

「なんてこったい!?」
「?」

これはある意味、エミさん以上のインパクト!
この人もいたんか!?いや!この人にも出会ってしまうなんてっ?!!いやいやいやいや!!!この人が俺に用事!!!?
うあああああああああああああっ!!!!
俺は、俺は、俺は……

「俺はいったいどうなるっ!?」

そんな俺の怯えや震え、悩み、葛藤を全て飲み込むような…

―― ニコニコ ――

六道理事長のやけに眩しい笑顔が印象的だった。
俺の、明日はどっちだろう?


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