椎名作品二次創作小説投稿広場


黒き天使にささげる

最終決戦(1)『人ではない者達』


投稿者名:誠
投稿日時:03/11/15

「いやだ・・・死にたくない・・・誰か・・・」
政治家の坂下は震えていた。最も安全だと思われる場所で・・・。
彼の網膜に焼きついているのはモニター越しに見た悪夢・・・。



坂下はいつものように自分の別荘で行われていた宴をワインを片手に楽しんでいた。
しかし、乱入者によって彼のにやけた笑いは一気に凍りついた。
突然モニターに映ったのは純白の翼を持つ天使だった。
天使の顔は驚愕に歪み、そして怒りに震え、最後には憎悪を浮かべた。
天使の純白の羽は漆黒の翼になり、美しい顔が見るものに恐怖を与える物へと変貌する。
「ひっ!」
坂下は叫んだ、そしてまるで画面の向こうから襲われるのを恐れるように画面から遠ざかる。
天使がこちらを見た。坂下がそう思っただけなのかもしれない、しかし坂下は怯えた。
天使が画面の向こうで咆哮を上げる・・・・・画面がブラックアウトした。

真っ黒くなった画面をしばし呆然と見ていた坂下だったが意識がはっきりするにつれて一つの思考が頭を占める・・・。
(逃げねば・・・隠れねば・・・安全な所へ・・・・・触れてはいけないものに触れてしまった・・・。)
坂下は急いで荷物を用意させ、ごく一部の者しか知らない場所へと向かう。
東京都庁地下・・・彼はそこに向かった。
彼は怯え、そして逃げた・・・彼は天使の怒りに触れたから・・・。






「ここか・・・。あの汚らわしい、忌々しい人間がいる所は・・・。」
そう言うとハミエルは人間が造った建造物の中へと入っていく。
人間達に憎悪を抱く者達を従えて・・・。
中にいるであろう最も憎むべき者を八つ裂きにするために・・・。





広い部屋の奥に男が一人、ハミエルを怯えた瞳で見ている。
「ああ、この時をどれだけ待ち望んだか・・・ティア、この害虫を今・・・この手で!」
ハミエルは叫び、獰猛な光を放つ瞳で目の前の男を睨み、そしてその頭を貫いた・・・。
「なんだ・・・これは!」
ハミエルが貫いたはずの男の頭はまるで立体映像のように消えていく・・・。直後、
「おとなしくしなさい堕天使・ハミエル!あなた達を逮捕します。」
凛とした声が響き、美神美智恵が姿を現す。
それに続いて横島、小竜姫、ワルキューレ、令子、西条、おキヌ、唐巣、雪之丞、シロ、タマモ、ピートが姿を見せた。
完全に取り囲んでいる。
「くっくっく・・・待たれていたというわけか・・・。」
自嘲気味にハミエルはつぶやいた。
「そうです。もう逃げ場はありません、おとなしく捕まり神界で沙汰を待ちなさい。」
小竜姫が投降をすすめるがそれをハミエルは一笑する。
「バカか?おまえ等を殺しせばいいじゃないか。逃げるなど・・・なめるなぁ!」
ハミエルは怒声を上げて右手を上へあげ、光を放った。
十分に警戒していたGS達だったがこの閃光をうけ、さらに身構える。

周りが見えない・・・音が聞こえない・・・閃光が膨れ上がると全員が奇妙な浮遊感に襲われた。





「ここは、どこでござろうか。」
「真っ暗だけどなんで周りがはっきりと見えるのかしら・・・。」
「たぶん、さっきハミエルが放った光でこの空間に隔離されたんでしょう。」
シロ、タマモ、ピートの三人が話し合っている。
「どうやったら出られるのかしら?」
タマモが顎に手をやって言う。
「それは、おれを殺すしかないな・・・しかしおれの所に人間は来なかったのか・・・。残念だ。」
三人が声の方を向くとシロそしてタマモは一度戦ったことのある人虎、ドルフがいた。
「お、おぬしはドルフ・・・。」
シロが震えている。相手の強さを知るが故に・・・。
「ふんっ!犬が、臆したか?」
それをドルフは嘲る。
「拙者は!狼でござる!」
シロが己の怯えを振り払うような咆哮をあげてドルフに襲い掛かる。
タマモは狐火を使い、ピートはダンピールフラッシュを放ちシロを援護する。
だがドルフは野生の獣そのものの動きでそれをかわした。
そしてシロの霊波刀を爪で受け止め、そして残った手でシロを殴り飛ばした。
「分かっただろう?おまえ等ではおれには勝てん。何故おまえ等は薄汚い人間どもの味方をするのだ?
おまえ等も人ではない、人間どもに追われた事、迫害されたことがあるだろう?」
ドルフは心底不思議そうに三人に尋ねる。

シロの脳裏に長老達から聞かされた人間に迫害された人狼達の話しがよぎる。
タマモは自分が復活した時に人間達に追われたことを思い出す。
ピートは700年間生きてきて起きた様々な出来事が頭に浮かぶ。

黙り込んだ三人にさらにドルフは言う。
「なのになぜおまえ等は今人間に手を貸す?我々はそれぞれ復讐を果たそうとしているだけなのに・・・。」
「なんで、復讐など・・・。あなたに何があったんですか?」
ドルフの復讐という言葉を聞いてピートが逆に尋ねた。
ドルフの瞳に危険な物が宿る・・・。
「ふんっ。おれは人間達に追われた。おれが人間ではない・・・それだけでだ。
幼い頃からただ追われていた。追われて、かくれて生きてきた・・・。
そんな時だ、怪我をしておれは倒れた。そこに一人の男がやって来た。
男はおれを助け、そして自分の家へ連れて行き怪我を全て治してくれた。
おれはその男といると安らげた・・・生まれてからずっと求めていた安らぎ・・・。
男はそれを与えてくれた・・・。なのに!」
そこまで言ってドルフは怒りにみちた形相で三人を見た。
「人間が、人間達が男とおれを襲いそして家に火を放ったのだ・・・。
おれは死ぬのかと思った。だが死んだのは男だけでおれは生き延びた。
何故だ!何故ほおっておいてくれない?おれがやつらに何をしたというんだ?」
ドルフは声を荒げ、叫ぶ。その叫びには人間への怒り、憎しみがこもっていた。
「そこにハミエルが現れ、教えてくれた。おれを助けてくれた男も、人ではなかったのだと・・・。
おれもその男も人ではないからそのようなことになったんだと・・・。
ならば人間が死ねばいい!他を受け入れないのなら・・・受け入れない者が滅べばいいのだ!
おまえ等も人間ではない。一緒に人間を滅ぼさないか?」
ドルフの過去、それは理解できる。確かに辛いだろう・・・しかし。
「僕は、全ての人間がそんな連中ではない事を知っている。
神父は僕等バンパイアハーフが人と共に生きていく道を示してくれた。
横島さんは僕に普通に、人間と同じように接してくれた。
人間達の中にひどいことをする者がいるのは知っている・・・。
だけど!全ての人間が人ではない者を受け入れないなどという事はない!」
「そうでござる!先生もみんなもやさしい人達でござる。一握りの人間と一緒にするなでござる!」
「わたしも人間に追われたけどね、助けてくれた人間もいるのよ。
人間は正直気に入らないけど・・・気に入ってる奴等もいるから人間が滅んだらつまらないわ!」

三人はドルフの怒りを知った。しかしだからといって人間を滅ぼすなどさせるわけにはいかない。
「おまえ等は恵まれていたからそのような事が言えるのだ!」
ドルフはそう言うと前傾姿勢になり三人に襲い掛かった。
それを三人はそれぞれ違う方向に避ける。
「ドルフ!一つ答えなさい!あなたを助けた男は死んだときも同じ姿のままだったの!」
タマモの言葉を聞き、ピートとシロはその意味に気づいた。しかし、
「ああ、変わらなかった!苦しそうな顔であいつは死んでいった!おれは人間を許さん!」
ドルフは叫び、タマモを爪で引き裂いた。しかし引き裂かれたタマモは消え、別の場所に現れる。
「幻術か?」
ドルフはタマモの術に気づき、再び三人を睨みつける。

今度はピートに向かって走る、爪を振りかざして・・・。
―――ザシュッ―――
その時、ドルフの脇腹が切られた。目の前にはかなり遠くにいたはずのシロがいる。
「ぐっ!幻術・・・か。」
遠くにいたシロは幻。本物のシロは気配を隠し、近づいていたのだ。

動きが鈍ったドルフに容赦なくピートが光弾をタマモが狐火を放つ。そしてシロが隙を見て切りつける。
最初の一撃で勝負は決まっていた・・・。だがドルフは血を流しながら応戦しつづける。
その姿は勇敢で、雄雄しい孤高の虎そのものだった。

しかし、ついにドルフは力尽きた・・・たくさんの血を流し、体力を失ったドルフは地面に膝をついた。
「・・・・・殺せ・・・。人間に殺されるよりはましだ・・・。」
シロ、タマモ、ピートはドルフに近づく。三人もドルフの攻撃により多くの傷を負っている。
もし一対一ならば怪我をした後のドルフにもやられていただろう。
「あんたを助けた男・・・人間よ・・・。」
タマモがいつものクールな表情を少し歪めて言った。
「なにを今更言っているのだ?ハミエルがあいつは人ではないと言ったのだぞ?」
多少怒ったような表情でドルフは言う。
「いえ・・・多分人間です。どんな者でも死んだ後変身したままというのは・・・不可能です。」
ピートは怒りをかみ殺しながら言った。怒りの先にはハミエルがいる。恐らくドルフを騙した堕天使にピートは怒りを覚えた。
それを聞き、ドルフは男の事を思い出す。

男の匂いは確かに人間の物だった、本当は自分は気づいていたのではないか?
しかしそれから目をそらしていたのではないか?
あいつを殺したのは人間、そしてあいつも人間・・・。
その矛盾から逃れ、憎しみの矛先を向ける物を探していた・・・。
そこでハミエルの『あいつは人ではない』という言葉に飛びつき、人間を敵だと思おうとしたのではないか?

ドルフは男が言っていた言葉を思い出した。
『なぁ、ドルフ。人間を許してやってくれないか?人間は臆病で、自分達より強い者を恐れてるんだ。だからおまえを追いかけたりしたんだ・・・。
だけど、みんながそんな奴等じゃないとおれは思う。いつか、いろんな人に出会ってごらん。
きっとおまえを受け入れてくれる人がいるから。きっとやさしい人達がいるから・・・。』

「おれは・・・・・そうだ・・・あいつは・・・人間を許してやれと・・・死ぬときも、おれに『ごめんな』と・・・。」
ドルフの瞳から涙が流れる。彼の大切だった者が言っていた言葉・・・。
なぜ思い出そうとしなかったのか?なぜ忘れていたのか?
ドルフは泣いている。男の言葉を忘れ、憎しみに身を任せた自分がなぜか可笑しかった・・・。

その時、シロとタマモがドルフの傷をなめ始めた。ピートは残り少ない自分の霊力をドルフに送りドルフの自己治癒能力を助ける。
「な、何の真似だ!おれはおまえ等の敵だぞ!おまえ等を殺そうとしたんだぞ!」
ドルフは何がなんだか分からないといった表情で三人を見る。
「でも、ドルフ殿は今後悔しているのでござろう?」
「そうよ、あんたは騙されただけなんだから・・・あんたを助けた男の為にも死んじゃだめよ。」
シロとタマモはそう言ってヒーリングを続ける。
「大丈夫です、後悔する者にはやり直す機会が与えられる・・・。先生が言ってました。僕の好きな言葉です。」
ピートはやさしく微笑んだ。
ドルフの両目から溢れる涙の量が増え、胸の奥から温かいものが込み上げてくる。
「かたじけない・・・。」
ドルフの一言には万感の想いが込められていた・・・。


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