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不思議の国の横島

第4話  『エミさんと約束と』


投稿者名:KAZ23
投稿日時:03/11/13

俺の目の前に、ひどく見覚えの女性が立っていた。
どこで?
それは、俺が元いた世界で。
そりゃあこの世界にも俺が居た。だから他にも、俺の知り合いが居たって不思議じゃあねぇけど…
それにしたってこれは突然すぎだ。
何てーか、心構えをしとく時間くらいくれってーの!

「何黙ってんのさ、アンタ!?アタシの話聞いて…」

俺の目の前には、アノ懐かしのエミさんが居る。とにかくこっちに来て初めて逢えた知り合いだ。
さて、俺はどうするべきだ?
とにかく向こうは俺の事知らんのだし…

「…果たして、どういった対応を俺は取るべきであろう?」
「何がさ…?!いい加減、こっちの話を…」

―― ん? ――

なんだか違和感があるな?なんだろ?
俺は、もう一度彼女を良く観察してみる。
この人エミさんだよな、間違い無く?
確かにエミさんなんだけど、何処か違わねぇか?

―― 何処が違う? ――

何か見落としてるような気がするぞ。ん〜…どうにも、もどかしい…
喉のココまで出掛かってきているんだけど、最後の一押しが出てこない。それがなんとももどかしい……

「いい加減にしな、おっさんっ!」
「だぁれがっ!おっさんじゃっ!?俺はまだ20歳だっちゅーの!!」
「ふん!やっと反応してくれたわね。」

―― ん? ――

「………………」

何か、違和感の原因にブチ当たったような……

「ああっ?!!」
「うわっ!?な、なんなのよ、いったい?!」

謎は解けた。犯人はこの中に居る………じゃない!
俺は、コレに違和感を感じていたんだ。
俺はもう一度、目の前に居るエミさんをシゲシゲと観察する。
先ほどから感じていた違和感の正体とは…

「……わ、若い…」
「?……15よ。私から見ればアンタなんて十分オッサンなワケ。」
「15歳ですと?!」

そうだよ!
このエミさん…俺が知っているエミさんよりも全然若いんだ!
ああ!15歳にしては割と大人びてる方かもしれんけど、それでも確かに違う!
あの、美神さんに負けず劣らずな身体が!!
あの、妖しさ炸裂の色気がぁぁ!!
ちくしょう!ちくしょう!ちくしょうちくしょうっ!!なんだかとっても、ちっくしょーーーぉぉっ!!!

「そんな訳で、あと5年したら又会いましょう。じゃ、そゆことで。」
「待てコラ!?そんな訳ってどんな訳よ!?ってか勝手に行くな!!」

はぁ〜…せっかくエミさんに会えたのに、15歳じゃあなぁ…
俺は深い溜息をはく。15歳って、俺の守備範囲外なんだよね。
俺の好みは、もっとこう匂い立つような色気がフェロモンと共に沸き立つ女性なのだ。女の子じゃなくて女!
いや、女の子が悪いと言う訳ではないのだが………そう言えば、いつ位からだったかな?女子高生が守備範囲外になったのって?
俺も昔は…
女子高生のお姉ちゃーーーんっ!!
だなんてときめいていた筈なのに、気が付いたらそのときめきが消えていたっけ。
なんてーか、今の俺の守備範囲は同い年以上ババア以下………ババアかそうじゃないかは実年齢でなくて個人的な判断になるがな。
下は……高校卒業してればギリギリOKってところかな?
う〜む………
俺はお姉ちゃん大好きじゃ!そりゃあもう何は無くても!
でも15歳は子供だよなぁ…
昔は……俺も高校生の頃は、女子高生だってバリバリ守備範囲だったよな?
いつから高校生が子供に感じるようになっちまったんだっけ?やっぱり高校卒業してからだったか?

「ア〜…ドウヤラ怪我モ無イミタイデスネ。ヨカッタヨカッタ。ソレジャア私ハ用事ガ有ルノデコノ辺デ…」
「だから待ちなさいって言ってるでしょうが!?何、あからさまに視線逸らしてるワケ!?とにかくちょっと…」

―― グイッ! ――

「ういっ?」
「一緒に来るワケ!」

エミさん(15歳)は俺の腕を掴むと、そのまま走り出した。腕を掴まれている俺も当然一緒になって走り出さなきゃいけない訳で…

「ぐあーーー!!止めてーーーッ!?人さらいーーーーッッ!!?」
「ちょっと黙るワケッッ!!!」

俺は、あっという間にその場から連れ去られてしまう。

…………………………










俺が連れてこられたのは、とあるホテルの一室だった。
部屋に着くと、エミさん(15歳)は冷蔵庫から炭酸の飲み物を2本取り出して、そのうちの1本を俺の方に放ってくる。
そしてもう1本のプルタブは自分で開けて、飲み口に口付け……コクコクと喉を潤す程度に飲むと、もう一度俺のほうに視線を向けて話し出した。

「で、少しは真面目に話してくれる気になった?」
「いや、俺は初めから真面目だが?」

―― ドゲシッ! ――

「真!面!目!に!話すワケ!!オッケー?!」
「お…オッケー、オッケー…」

イタタタ。そんなポンポンと叩かんで下さいよ!

―― しっかし ――

ナリはこうでもやっぱりエミさんはエミさんだねー…
でもって…ここは多分、エミさん(15歳)の部屋なんだろう。
ホテルの1室にエミさん(15歳)と2人きり!

「………………」
「……何よ?」

はぁ。
これでエミさんがあっちのエミさんならとってもおいしいシチュエーションだと言うのに!
な〜んでこっちのエミさんは15歳なんじゃ〜〜〜〜ぁぁ!

「口惜しい、口惜しい、口惜しい……」

―― ガツンッ! ――

「もう一発殴るわよ!?」
「お約束ですが、もう既に殴ってます…」

ポンポンポンポン頭はたかんで下さい…

「さ、本当に真面目に話をしましょう。アタシの名前は小笠原エミ。」

いえ、実は知っています。
……だ、なんて言えないけどさ。

「………殺し屋よ。」
「こっ、殺しっ!?」

今、エミさんは殺し屋って言ったか?
殺し屋って言ったら、お金貰って人を殺すアレか?!
嘘だろ?エミさんが殺し屋!?そんな馬鹿な!?

「殺し屋って言っても、アタシの依頼者は公安よ。法的に手を出しにくい悪党ってのがいるでしょう?そんな奴らを……ね。」
「あ、ああ……なるほど…」

な……なるほどな。なんかちょっとだけだけど理解できたかも。
向こうのエミさんも、確か公安とか警察とかから依頼されてヤクザに呪いかけたりしてたもんな……

―― でも ――

殺しまでやってたのか………なんだか……な?
まだ15歳なんだろ?
それって……どうなんだろうな…
俺は、なんだか無性にモヤモヤとした気持ちになる。いや、俺がどうこう言う話じゃないんだろうけど……

「ちなみに専門は……呪殺よ。」
「ん…まあ、そうなんだろうけどさ……」

エミさんは呪いの専門家だし。どうやらこっちのエミさん(15歳)も基本的なところは変わってないって事か。
それにしても……エミさんが殺しだなんて…

「ふ〜ん…一目で私の専門まで判るなんて、やっぱりアンタ、只者じゃないわね?」
「えっ?…あ!」

会話をしつつ、俺は別の事を考えていた。だからかどうか、ちと不用意な発言をしてしまう。言ってから気が付いた。
そうだった!俺がエミさん(15歳)の事知ってちゃおかしいんだよ!しまったな…
確かにパッと見で霊能者って事が判っても不思議じゃ無いけど、それでもその人の専門的な事なんて実際に見るまでは普通気づかないもんだ。
なんだか、エミさん(15歳)はそこに不自然さを感じなかったみたいだけど、これからは気をつけないとな。

「そろそろ良いだろ?アンタ、とりあえず名前は何て言うの?」
「あ〜……俺は横島…横島忠夫…」

エミさん(15歳)はリラックスしてる風を装いながらも、なんだか緊張してるみたいだな?なんだろ?
まるで俺の事を恐がっているようにも見えるんだが?
これって一言で言うと、俺にビビッてる?

―― はは、まさか ――

まあ、そうだな。良く考えたら別に自己紹介したって何も問題無いじゃんか?
俺は一応、こっちの世界でもきちんと戸籍のある人間なんだし。
ん、良く考えたら知ってる人間がいるって言うのは心強いような気がするぞ。うん!
俺はそんな風に結論を出すと、簡単な自己紹介をする。

「…しがないGSさ。この間から、ってか今日から活動を始めてね。格好良く言えばフリーランスのGS……現実的には所属する事務所の無い根無しGS…う、なんだか情けないかも。」
「ふーん…横島ね……それで?」
「は?いや、それだけだけど?」

エミさん(15歳)は用心深くこちらを伺っている。
なんだ?本当にコレだけなんだけどな?何かおかしい所あったか?

「小娘だと思ってあまり舐めないで欲しいワケ。アタシだってこれでもオカルトのプロよ?アンタがその辺のGSなんかじゃ無いって事は分かってるワケ。」
「いや、そうは言っても現実に……」

確かに、ちと特殊な状況もあるが、基本的にはその辺に転がってるGSで間違いないんだけど?
俺には、彼女が何に引っかかっているのかが良く分からなかった。

「フン!まあいいわ。詮索されたく無いってワケね?それじゃあこっちから言いたい事だけ言わせてもらうわ。」

ああ!?なんだか勘違いしてるんじゃないでしょうか?
エミさん(15歳)は飲み干したジュースの缶をくずかごに投げ入れると、今までよりもキツイ目つきで俺を睨みつける。

「さっきはよくもベリアルを殺ってくれたわね!?この落とし前は付けて貰うワケ!」
「なっ!?なんだよベリアルって…さっきの悪魔か?!アレ?アレってまずかったのか?もしかして俺、とんでもなく早まった事した?!」

なんだ!?エミさん(15歳)は何に怒っている!?もしかして、あの悪魔って退治したらまずかったのか?
あの時、俺にはエミさん(15歳)が襲われててやばそうって見えたけど、もしかしたら何か呪術の途中だったのかも?!
って事は!?
って事はだよ?

「あの〜……もしかして俺、とんでもなく余計な事してしまいましたか?」

恐る恐る尋ねる。

「ええ!余計も余計も大きな余計(?)よ!一体全体どうしてくれるワケ?!ベリアルは私の商売道具なのよ!?アンタが殺っちまったんで、契約切れちまったじゃないのさ!?あいつがいないと、下手したらオクムラだって仕事回してくれなくなるじゃないのよ!まだあと3年もこき使える予定だったのにっ!!この馬鹿ッ!馬鹿っ!!」
「うわああああ!御免なさいっ!御免なさいっ!御免なさいっ!御免なさいーーーっ!!!知らんかったんやーーーっ!!てっきり襲われてるモン思たんやーーーっ!!助けるつもりだったんやーーーっ!!ほんまやっ!堪忍やーっっ!!!」
「それがっ!!!」

くっそー!!たまに格好付けるとこんなんばっかし!?俺ってばいっつもこんなんばっかしーーーぃっ!!

「余計なお世話だって言うのよっ!!」
「えっ?」

と、そこでエミさん(15歳)が俺の胸倉を掴んで更に大声で怒鳴った。

「そうよ!襲われてたのよっ!あのままだったら間違い無く殺られてたワケ!!私じゃあ間違ってもベリアルには勝てないのよっ!!それをっ!!!」

―― ホロッ ――

「うへっ?!」
「それをっ!!うっ…なんであんなにアッサリと……」

そこで、俺の胸倉を掴むエミさん(15歳)の両腕の力はフッと抜けて、そしてその双眸からは光るものが溢れて頬を伝う。

「悔しいじゃない!?悔しいじゃないのよっ!!こんなに圧倒的な力の差っっ!!!」

それは堰を切ったように既に留まることなく…

「うああああああああああっ!!!!」

あのエミさんが外聞も無く大声で泣きだした。襟に触れる腕からは身体の震えが敏感に伝わってくる。
俺はそれをどうする事も出来ずに、ただ立ち尽くすだけだった。

…………………………










「………………」
「…で、どうだ?落ち着いたか?」

あれから暫し、エミさん(15歳)は泣き続けた。俺は頃合を見計らってそう声を掛ける。

「…ふん。スッキリしたわ……悪かったわね、迷惑掛けて。」

プイっとそっぽを向いてぶっきらぼうに答えるエミさん(15歳)。どうやら落ち着いたみたいだ。

「あ〜…いや、別に迷惑って程でもね〜し。」
「ふ〜ん…ま、そう言うなら。」

見知らぬ男の前で大泣きしてしまったからだろう。エミさん(15歳)はうっすらと頬を赤くして、照れくさそうにしている。

「アタシはね、10歳の時に両親が死んで、13歳の時に家を出てからずっと1人で生きてきたのよ。自分だけの力でね。」
「え?」
「今までに、自分より霊能力の強い奴にだって何人か会ってきたけど…」

エミさん(15歳)は、突然にトツトツと自分の過去を語りだす。

「それでも、そいつらに絶対勝てないって思った事なんか無いわ。だから、人間ではアンタが初めてよ。」
「は?」
「…絶対勝てないって思った相手はね。世の中って広いわ、アンタみたいな奴が居るなんて。」

いや、そんなこと無いだろう?エミさんなんだから、俺に勝てないなんて事無いって。そりゃあ今はまだ…

「アンタ、まだ15歳だろ?俺とは5歳も違うんだぜ?その歳でそれだけの力持ってるなら、直ぐに俺くらい追い越すだろうに?」
「俺くらいって……それ、本気で言ってるワケ?」

エミさん(15歳)は、まるで変なものでも見るように眼を丸くして俺の事を観察してた。
ん〜…どうも俺に対する評価が過大になってるような気がする。

「ほんと…変な奴。他人の力は測れても、自分の力は分かってないってワケ?」

そう言うと『呆れたわ』ってな感じで更に俺の事を観察する。なんだかなぁ…
そりゃあ、昔に比べたら俺だって……ちょっとくらいは強くなれたと思うけど、それでも俺より強い奴なんてザラに居るだろうに……

「ま、今日は悪かったわね。こんな所まで引っ張って来ちまって。」
「ん…別に大丈夫さ。」

と、どうやらこれで話も終わりか。あ、そう言えば…

「そう言えば、さっきちらっと仕事がどうとか言ってたけど……」
「え?ああ。まあ大丈夫よ。ベリアルはアタシの切り札でね。アイツを失ったから、今後回って来る仕事のランクがちょっと落ちるでしょうけど、何てことは無いわ。これでも呪いの知識に関しては相当なモノなんだから。」

ん、それは知ってるけどさ。ん〜…やっぱり微妙に悪い事しちまったのかなぁ?
あの時は、とてもそんな事まで頭が回らなかった。いや、回っていたとしたらそれは変人だとは思うが。
でも、結果がこうなっちまうとどうにもアレだな。

「…そうね。せっかく悪魔との契約が切れたんだから、GS免許取るってのも悪くないかもしれないわ。元々あと3年したらそうするつもりだったし、予定よりちょっと早いけどね。」

ん?もしかして、気を使ってくれてるのかな?
少し穏やかな顔になってそう言ってくるエミさん(15歳)の言葉や態度からは、そんなニュアンスが伺える。

「あ、でもそうすると正式な戸籍が必要になるワケよね?まいったなあ…オクムラに頼めば何とかしてくれるかしらね?」
「え?正式な戸籍って?」
「ん?ああ、さっき家を出たって言ったでしょう?両親が死んで引き取られた先ってのが叔母の家。でもってその叔母とソリが合わなくてね……つまり家出したワケよ。その後の確認なんかしてないけど、当然もう縁は切れてるんだろうし。だからアタシには戸籍が無いの。」

戸籍が無い!?
そ、それは又………
10歳で両親失って、13歳で家出して、15歳で殺し屋ですかい!?
うう…なんてヘビーな人生を歩んでいるんだよ……

「くうぅっ!!……お、俺に出来る事があればな、何でも言ってくれ…」
「よしとくれよ。同情されるってのが一番嫌いなんだ。」

眼を潤ませる俺に、エミさん(15歳)は凄く嫌そうな顔を見せた。
ああ、この娘はやっぱりエミさんなんだなぁ……

「ん、でもそうだね……」

等と俺が思っていると、エミさん(15歳)はそこで何かを思いついたように言葉を止め、あごに手を当て、何やらフム…と考え事をする。

「アンタ…フリーのGSって言ってたわね?」
「え?ああ。まあそうだけど。」

なんだかエミさん(15歳)の目がちょっと妖しい。こ、これは!何か企んでいる時の目?!
美神さんに鍛えられた、俺の中の勘がピコンピコンと警報を鳴らしてきた。

「アタシがGS免許取ったら、アンタがアタシを雇ってよ?」
「は?いや、雇うも何も、だから俺はフリーなんだってば?」

とてもじゃ無いけど、他人を雇うなんて出来るわけありません。
と、エミさん(15歳)は…そう答えた俺にフフンと鼻を鳴らして笑う。

「だからさ、あと2ヶ月。GS試験までに事務所立ち上げて欲しいワケ。」
「は?」

―― は? ――

「なんですとぉぉぉっ!?」

事務所を立ち上げるってアーたっ?!

「そげなこと、2ヶ月で出来るモンでも無いやろが!?いや、立ち上げるだけなら出来るかもしれんけど!俺みたいな実績無い奴が事務所立ち上げても、1件も仕事なんて来ねぇっつうのっ!!おまけに準備資金も開業資金も運転資金もねえ素寒貧だぞっ、俺はっ!?あんまり無茶な事言うんじゃねーーーっ!!!」
「さっき、何か出来る事があったら言ってくれって言ったじゃない?」
「そら言ったがなーーーっ!?出来る事と出来ん事っちゅうんがあるやろーーーっ!!」

冗談じゃねえ!俺はもっとこっそり、ひっそりと堅実に…

「はぁ………やっぱり大人は嘘つきね。まぁ、そんな事分かってたけどさ……」

だーーーーぁっ!!!
そんな顔すんなーーぁっ!!分かってるぞ!それは嘘泣きだろっ!?常套手段だもんな。女ってのは大概こうだよな!?
いつも泣くんだ。分かってる!分かってるんだよっ!!
だからってクソーーーー!!分かってるから何だっちゅうんじゃいっ!!
こんな顔されたら…こんな顔されたら……

「……善処する!それ以上は約束出来ん!!それで良いならお…オッケー……だ。」
「ん♪それで良いわ、それじゃあ宜しくね。」

はーーーーんっ!!!
分かってたのに!分かってたに!分かってたのにーーーぃぃっ!!!
俺は膝をつく。それはもうガックリと……
負けた。俺は完全に負けたんだ。

「じゃあ、そういう事でちゃんと頑張ってね♪2ヵ月後に又会いましょ。ね、え〜と……横島さん。」
「よ、横島さんっ?!」

あ、そうか!俺のほうが年上なんだもんな。

「私の事はエミって呼んでくれて良いわ。」
「ん…じゃあエミさん?」

ま、この呼び方は前と変わらんし大丈夫だ。

「エ・ミ!もう一回!」
「え?え〜と……エミ?」
「おっけー♪」

よ、呼び捨てですか!?
いや、まあ確かに…しかし、いや、あのエミさんを呼び捨て……

「なんだか違和感が有るかも…」
「?」
「いや、こっちの事…」

…………………………










そんな訳で、俺の人生設計プラン「ほどほどの仕事をコツコツと」はいきなり却下になってしまった。
そんな事じゃあ事務所の立ち上げなんてとても出来ないからな。
いやあ、それにしてもまさかエミさんに会えるなんて思っても見なかった。
しかも15歳。
ほんとにたまげたよ。
でも、だ。
それなら他の奴らにもそのうち会えるのかも知れない。
どうなんだろうな?
会えるのかな?それとも会えないのかな?
もし出きるなら、会えたら良いんだけど………

―― ま ――

今はそれ所じゃねえ!
エミさ……じゃなくて、エミに吹っかけられた無理難題を何とかしねえと!
俺みたいなのが事務所立ち上げようとしたら、本来ははココから……順調に行ったとしても年単位の計画になるというのに!
だなんて、泣き言言っても仕方が無い。俺はもう約束しちまったからな。
約束は、守らないと………いけないしな。
だから、とにかく欲しいのは実績と金だ。

―― ったってな〜 ――

くっそーぉっ!どっちも一朝一夕で手に入るモンじゃねーぞ!?

「とにかく、何か良い方法を考えんと…」

その日、俺は無い知恵を絞って朝までを過ごしたのだった。
無論、一発逆転で一気に事務所立ち上げまで行けるような案など浮かぶ筈も無く、在り来たりな答えしか出なかったが………


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