椎名作品二次創作小説投稿広場


黒き天使にささげる

彼への想い


投稿者名:誠
投稿日時:03/11/12

「もしもし、・・・本当ですか!・・・はい・・・はい、わかりました。
ありがとうございます引き続き二人の治療をよろしくお願いします。
それで・・・その・・・横島君は・・・・・はい、・・・そうですか・・・わかりました。
また何かあったら連絡をお願いします・・・。」

そこまで言うと美智恵は受話器を置いてため息をついた。

「どうしたんだね?美知恵君。」
「タイガー君と、弓さんが意識を取り戻したそうです。
二人とも回復は順調だそうですわ・・・ただ・・・横島君はまだ・・・。」

襲撃から一夜があけて、オカルトGメンのオフィスには、美智恵、神父、西条、小竜姫、ワルキューレの五人が集まっていた。

「そうか・・・とりあえず二人は助かってよかった。
しかし・・・横島君はヒャクメ様の調査ではハミエルの言葉で精神崩壊を引き起こされたそうじゃないか・・・。
簡単には直らないだろう・・・あのようなことに耐えていたようには見えたが彼が受けた絶望はやはり深かったんだ・・・。」

事件開始当初ハミエルのことを呼び捨てになどしなかった神父だが、今は呼び捨てにすることに何の抵抗もない。
それだけ彼は横島が受けた仕打ちに怒っているのだ。

「そうですね・・・。僕も・・・耐えられないかもしれない・・・。」

横島となにかと対立している西条だが横島が受けた絶望を近くで見ているだけに彼も今回の横島が受けた事を許せない。

「わたし達は、戦いの最初に事実上何もできない状態になり、何もできませんでした。
そんなわたし達に横島さんに何かを言う資格など・・・ありません・・・。」

小竜姫は悔しそうに俯く、ワルキューレも歯を食いしばって何かに耐えている。
神も、魔も何もできず、後から何があったのかを知った事件・・・。
止めるべき者を止めれず、人間に任せざるをえなくなった事件。
そして最後、一番大事な事はまだ高校生のたった一人の少年が決めることになったのだ。
もしその場にいられたら、もし代わりに結晶を砕いたのが自分達であったなら。
彼は自分を責め続けることはなかっただろう。
彼女達も横島にはかなりの負い目があった・・・。

「調査によると・・・ハミエルが堕天した場所は、情報規制されていましたが政治家の坂下氏の別荘があったそうです。」
「『あった』?美智恵さん、『あった』とはどういうことでしょうか。」

小竜姫が訝しげに聞いた。

「故意に情報を伏せておいたのでしょうが最近別荘は・・・。
恐らくハミエルが堕天した際に破壊したのでしょう。」
「ハミエルは・・・そこで何を見たのだろうか・・・。」
「それは、わかりません・・・。でもこれでハミエルの標的はわかったわ。
坂下、彼を狙っているのよ。坂下は今隠れているわ、一応安全な所にね。
でも多分そろそろばれるわ。ハミエルには捜す能力は無い。
だから目立つことをしてわたし達が坂下を見つけ出すのを待っていたんだと思われるわ。
昨日、諜報部員が一人行方不明になったわ。恐らく・・・やつ等に・・・。
間違いなく次は坂下を狙ってくるわ。それを逆に利用してあいつ等を叩く!」

美智恵は調べ上げた事、そして推測ではあるがハミエルの狙いそして奴等を倒すための作戦を述べた。
みなはそれを聞き、改めて美智恵の凄さを思い知る。
しかし、美智恵の顔は優れない。

「横島君の・・・力は必要ね・・・。
文珠の能力、それにそれ以上にみんなを鼓舞して心を支える力・・・。
彼があんな状態のままではみんな力を出し切れないわ・・・。
みんな大小の差はあるけど彼に期待する気持ち、彼の存在を望む気持ちがあるのよ・・・。」

美智恵の言葉に全員が沈黙した。
全員がわかっているのだ、横島の本当の価値を・・・彼の本当の力を。





おキヌは考えていた。
横島の事を、あの事件の事を、そしてあの事件の後のことを・・・。
横島はやさしい。幽霊だった自分にいつも温かく接してくれた。
体を取り戻したとき、また会おうと言ってくれた。
生き返ってからも彼はいつも守ってくれた、側にいてくれた。
あの森の中の洋館で言ってくれた、『おキヌちゃんがいてよかっただろ?』
おキヌは考える、自分でも横島の力になれるのだろうか・・・。

なれるのかじゃいけない!
わたしは・・・事件の後、横島さんの力になれなかった。
今、今が横島さんの力にならないといけないときだ。
わたしは・・・横島さんのことが・・・・・好きだから!

おキヌは横島の病室に向かう、横島の力になるために・・・。





ピートは考えていた。
横島忠夫という少年の事を。
ピートはハーフでも吸血鬼、人間に襲われたこともあった。
自分を恐れない人間がいても、なぜか自分を妬んだりして陰口をたたくような者ばかりだった。
しかし、彼は違った。種族とかなどまったく関係なく思うがままに自分の心のままに接してきてくれた。
高校に行くとき、本当は不安だった・・・。
でも横島がいたというだけで、横島が普通と何ら変わりなく接してくれたおかげで学校に受け入れられた。
横島がいただけで自分は救われた・・・。

なのに今、苦しんでいる横島のためになにもできないのか?
自分を救ってくれた者に何もできないのか?
神に祈る?それだけではなんにもならない、祈っているだけの者に救いは無い。

そうだ、僕ができることをしよう。
祈るだけではなにもならない。行動があってこそ祈りが届くんだ。
僕は・・・親友を救いたい!700年生きてきた僕に光をくれた親友を!

ピートは教会を飛び出した。今度は自分が親友を救うために。





シロは屋根裏部屋で思い出していた。
横島に会った時の事を・・・。横島との思い出を・・・。
横島と出会い、横島を師と仰いだ。
最初横島は弱かった、しかし次に会ったとき・・・彼は強くなっていた。
そして横島は今まで見せなかった表情を見せるようになっていた。
どこか儚く、そして悲しい表情を・・・。
横島は自分の師だ、そして父を亡くしたシロをやさしく見守っていてくれる存在だ。

拙者は先生にとって何なのでござろうか・・・。
シロは考える・・・・。しかし答えはでない。
だがシロは考える、自分にとって横島は必要な存在だ。
横島のいない生活など・・・考えられない・・・・。

そうでござる。拙者は・・・先生がいないなんていやでござる!
先生にはいつも笑っていてほしいのでござる!

シロは走り出した。大切に想う男の笑顔を取り戻すために。





雪之丞は考えていた。
自分にとって横島はなんなのか・・・。
最初出会った時は敵同士で、戦った。
あの時横島は弱かった、引き分けだったのが不思議なくらいに・・・。
しかし横島は強くなった、まるでそれが必然のように、世界が横島が強くなるのを求めているように。
あの世界を巻き込んだ戦い、横島は常に前線にいた。
それにくらべて自分はどうだ?
さっさと恋人を守れずにやられ、最終決戦にも参加することすらできなかった。

「フンッこんなおれがあいつのライバルなんて言っていてもな・・・。」

雪之丞は自嘲気味につぶやいた。
その時彼は思い出す、弓に言われた言葉を・・・。
「『奴等を止めれるのはおれ達だけ』・・・か。なら横島、おまえの力が必要だ。
みんながおまえを求めている。おまえの存在を・・・。

雪之丞は立ち上がった、親友でありライバルである男の目を覚まさせるために。
彼に『たくさんの人がおまえを必要としている』と伝えるために。





タマモは考えていた。
横島忠夫というおかしな男の事を。
最初会った時は追われていたとき、たくさんの人間に追われていたとき。
だけど彼はやさしかった、なんの打算もなく助けてくれた。
それから一緒に働いていた、たまに見せる彼の表情。
それは決まって夕日を見たとき、彼の顔は普段見せない顔になる。
寂しげで、とても高校生の少年が見せるものとは思えない深い表情。
事件の事を聞いて理由がわかった。彼に傷を残したのが何かがわかった。

彼が壊れてみんなの雰囲気が一変した。
それだけ彼はみんなにとって大きい存在、失ってはならない存在。

「なんなのよ・・・。」

タマモはつぶやいた、自分の好きだった空間、楽しかった空間が崩壊してしまった。
もしかしてこのまま・・・・。

「そんなの・・・いやだ!」

タマモは叫んで走り出した。楽しかった空間を取り戻すために・・・。





令子は考えていた。
自分にとっての横島忠夫・・・・・。
最初は、荷物持ちだった。本当にただの荷物持ち。
彼はGS試験に受かった、情けなかった彼が棄権しろと言われても『いやだ』と言って向かっていった。
到底勝てそうにない相手に。
次は香港、彼は捕まったわたしを助けにきた。
そして魔族の襲撃、わたしと共に戦うために彼は力をつけた。
月・・・、もうだめだと思ってた。わたしは死ぬのかとも思った。
彼はわたしを助け出し、そして最後まで守ってくれた。自分は死ぬかもしれなかったのに・・・。
そして彼は彼女に出会った、そして自分の意思で戦うことを決めた。
彼女のために・・・アシュタロスを倒すと・・・・・。
『あんたの思う通りにしなさい』結晶を手に持った彼にわたしは言った。
何であの時、破壊しなさいと言わなかったのか。
何でわたしは彼に全てを背負わせるようなことをしたのか・・・。
胸に沸くのは後悔・・・あの時こうすれば・・・だけど時は戻せない。

わたしは・・・あいつに助けられてばかりだ・・・。
令子は思った。
あの事件の時に思った・・・わたしはあいつが好きなのかもしれない。
今、彼と話せなくなって彼の今の状態を見て改めてわかった。
わたしはあいつが好きなんだ。あいつがいないとこんなに心が冷えている。

令子はコブラに飛び乗った、あいつを取り戻すために、心のぬくもりを取り戻すために・・・。







横島忠夫は暗い絶望の淵にいた。
彼は苦しんでいた、恋人を助けられなかった・・・。
戦うことを決意したのは彼女のためだった、なのに・・・。
彼女は横島の命を救った、そして横島は彼女の生きる望みを・・・絶った。

おれは、なんで・・・彼女は・・・おれを・・・なのに・・・。

彼が考えるのは後悔、彼が抱くのは負の感情・・・。
横島の心は死にかけていた・・・・・。



『・・・マ』
『ヨ・・マ』

なんだ?懐かしい声・・・ずっと聞きたかった声・・・。

『ヨコシマ・・・目を開けて・・・ヨコシマ・・・。』
「ルシオラ!ルシオラなのか!なんで・・・おれが・・・おれがおまえの命を奪ったのに・・・。」
『そんな事を言わないで・・・。わたしはあなたが好きだったから・・・。
あなたやあなたが住む世界が好きだったから守りたいと思ったのよ・・・。』
「でも、でも・・・おれは・・・おまえは生き返れたのかもしれないのに・・・。」
『ヨコシマ・・・わたしが・・・許すわ。
あなたの苦しみはわたしの苦しみ。
あなたの痛みはわたしの痛み・・・。
わたしはあなたとあえて幸せだった、わたしは一年間だけ道具として生きるはずだったのよ。
なのにあなたのおかげで道具としてじゃなく一つの命として人生を終えた。
わたしにはあなたが必要だったの・・・。
あなたがいない事なんて考えられないわよ・・・。』
「ルシオラ・・・。」
『あなたを必要とする人はたくさんいるわ。だから・・・生きて。
次はパパって呼ばせてくれるんでしょう?』



「ルシオラッ!!」

横島は涙を流し、右手を伸ばしていた・・・まるで何かをつかむように。

「ルシオラ・・・・・・・・・・・・。」

夢だったのかもしれない・・・幻だったのかもしれない・・・。だけど・・・。

「後悔するのは・・・全てが終わってからだよな・・・・・。」

横島は立ち上がり、涙をぬぐって窓の外を見た・・・。



―――バタンッ―――

ドアが勢いよく開いて横島の良く知る者達が入ってきた。

おキヌ、ピート、シロ、雪之丞、タマモ、令子。全員が驚いて横島を見ている。
横島は彼等の方を向いて微笑んだ。

「ごめん、心配かけた・・・。もう大丈夫・・・。
これ以上犠牲者を出しちゃいけない。あいつ等を・・・止めよう。」





少年は立ち上がり、事件は終末へと向かう・・・。


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