椎名作品二次創作小説投稿広場


黒き天使にささげる

これから・・・


投稿者名:誠
投稿日時:03/11/10


「雪之丞くん!あなたは大丈夫だったの?みんなは?」
美智恵は病院で知った顔を見つけて聞いた。そばには令子、神父、シロ、タマモもいる。
雪之丞は強く拳を握って言った。
「タイガー、そして弓は今手術が終わった・・・。二人とも助かるか微妙なところらしい・・・。」
雪之丞の拳から血が流れる。
「そう・・・。」
「おキヌちゃんは・・・おキヌちゃんはどこ?」
令子はおキヌの無事を知らされていたがここにいないことに不安を覚える。
「おキヌは・・・寝込んでいる。」
「そうね、こんなことがあったのだもの・・・しょうがな「違う!」
令子の言葉をさえぎり雪之丞が叫んだ。
「違うんだ・・・。おれ達が襲われるのと同時に横島も・・・襲われたんだ・・・。」
全員が怪訝な顔から蒼白な顔へと変わるこの雪之丞の叫びを聞いて全員が横島の死を連想した。
「せ、先生は、先生は大丈夫でござろう?先生が簡単にやられるはずがないでござる!」
「横島は・・・死んでない。体は無傷だ・・・。」
雪之丞の言葉に全員が安堵する。
「ちょっと待って、体はってのはなんなの?」
美智恵が険しい顔で尋ねる。そしてそれを聞いた全員が不安そうな顔をする。
「それは・・・自分達で見たほうがいい。あいつは面会謝絶じゃないからな。でも、正直辛いと思うぜ。
おれも見ちゃいられなかった。小竜姫とワルキューレが一緒にいるはずだ。」
そう言って雪之丞は廊下のつきあたりにある扉を指差した。
「ありがとう、みんな行くわよ。」
美智恵の言葉に全員が頷き、雪之丞が指差した部屋へと向かう。
後には恋人と、親友を目の前で傷つけられたのに助けられなかった己を責め、
そしてかつての戦いで心に傷を負ったライバルに何もすることのできなかった己を責める雪之丞が残されていた・・・。



「横島君!・・・・」
真っ先に部屋に飛び込んだ令子は言葉を失った。
「先生!・・・」
「横島君!・・・」
「横島!・・・」
「横島君、大丈夫かね!・・・」
続けて部屋に入ったシロ、美智恵、タマモ、神父も言葉を続けられなかった。
全員が今まで彼の様々な表情を見てきた。
しかし、今の彼の表情は誰も見たことのないものだった。
苦悩、苦痛、怒り、悲しみ・・・・・。
様々な負の感情が混ざっている彼の表情はまだ高校生の少年が見せるにはあまりにも痛々しい表情だった。
彼の座っているベッドのわきには小竜姫、ワルキューレがいた。
小竜姫は今にも泣きそうな顔で、ワルキューレは沈痛な面持ちで座っていた。
「なにが・・・あったの?横島君に、何があったの!」
令子が詰問するように叫ぶ。
「わかりません・・・。」
小竜姫がポツリとつぶやいた。
「我々が現場についた時には堕天使・ハミエルが横島の後ろにいた。そして、攻撃したのだが奴は逃げた。」
「そんなこと聞いてんじゃないわよ!何で・・・。」
ワルキューレの事務的な説明に激昂する令子、しかし・・・
「ルシオラ・・・」
横島のつぶやきが耳に入り言葉を止める。
「ルシオラ・・・おれは・・・おまえを・・・助けるって・・・」
横島のつぶやきに普段冷静な美智恵が涙を流して取り乱した。
「私が、私が・・・歴史を知っていたのに、全部わかってたのに!
横島君に、全てを背負わせて・・・。まだ二十歳にもなってない少年に!
世界を!人界を!魔界を!神界を!全ての生命を・・・。」
そこまで言うと美智恵は倒れ込んだ。それを神父が支える。
「美智恵君・・・だめだ、気を失っている・・・。」
神父は真っ青な顔で首を振る。
「先生、先生・・・大丈夫でござるか?先生・・・。」
横島のそばで彼に話し掛けるシロ、そして無言で横島を見つめるタマモ。
令子は呆然としていた、目の焦点が定まっていない・・・。
「他の部屋へ行こう・・・。今は、我々にできることは・・・無い。」
神父は辛そうに言って美智恵を抱え、部屋を出た。


「ねえ、聞きたいことがあるんだけど・・・。」
部屋の沈黙を破ったのはタマモだった。皆の視線がタマモに集中する。
気がついたものの、泣きそうな顔のおキヌと沈痛な顔の美智恵。
険しい顔をした雪之丞と報せを受けてやってきたピート。
タマモと同じように説明を求めているシロ。
暗い顔をしている神父と西条そしてワルキューレと小竜姫。
そして、いまだに呆然としている令子。
「私が・・・話すわ・・・。」
美智恵がつぶやき、話し始める。
知ってる者も改めて聞きいる。

令子の魂に前世から存在した結晶。
それを取り戻し、世界を創りなおそうとした魔神。
魔神に創られ、結晶を狙ってきた三姉妹。
連れ去られ、スパイになった横島。
そして二人は出会った、ルシオラは横島に恋をした。
しかしルシオラは死んだ、横島を自分の命と引き換えに助けて。
しかし悲劇は終わらなかった。
魔神は横島に問う、世界か!恋人か!
横島は叫んだ、後悔するのはおまえが死んでからだ・・・と。
そして魔神の計画は破られた。
世界は二人に救われた・・・彼女の犠牲と引き換えに。

「彼は・・・横島君は救ったんだ、世界を。なのに・・・我々は何もできなかった。何もできず彼の心を救うこともしなかったんだ・・・。」
悲しそうな顔で神父がつぶやいた。
誰も、何も言うことはできなかった・・・。



美智恵、西条、神父、ワルキューレ、小竜姫の五人はこれからのことを話し合うための会議を開始した。怪我人や横島のことは心配だが今はこれ以上の犠牲者を出さないようにしなければならない。
「淫魔、そちらの情報ではエミリアという名前らしいですね。彼女が殺した山本という男・・・、妖怪などを実験に使っていたようです。」
美智恵は調査したことを話す。一緒に現場を見た神父は顔をしかめ、残りの三人はあまりのことに唖然とする。
「では、もしや彼女は復讐を?」
「そうですね、あとドルフという獣人が言っていたことを考えても他の者もなにかの復讐をしているのではないかと思われます。」
「ハミエルも堕天した時、神への信仰を捨ててしまうほどのなにかを味わったはずだ。それが何かを調べよう。」
ワルキューレの言葉に全員が頷いた。
小竜姫が指し示したハミエルが堕天した場所、それは軽井沢の別荘地にある山。
とりあえずそこを調べることにした。



一文字魔理は目を覚ました。
正気を失い叫んでいた彼女に医者が沈静剤を打ち、落ち着かせていたのだ。
少しの間何があったのか思い出せなかった彼女だが少ししてすぐに思い出した。
自分をかばったタイガー、首筋を切られたタイガー。
「そ、そうだ!タイガーは・・・?」
そういうと魔理は部屋を出た、薄暗い病院の廊下を一人男の看護士が歩いていた。
「動くな!」
魔理は男の後ろに回りこむと病室に置いてあった果物包丁で脅す。
かなりびびっている男に魔理は聞く
「大怪我をした大柄な男が運ばれてこなかった?」
その言葉の中には不安がつまっている。もし、死んでいたら・・・。
「お、大柄な男・・・?そ、それなら145室に・・・。でも、今彼は面会謝絶で・・・。」
「助かるのか!あいつは、助かるのか?」
「わ、わからない・・・、大量に血が出ていたし傷もかなり深かったから・・・」
そこまで聞くと魔理は真っ青になって駆け出した。
(タイガー!タイガー!おまえは大丈夫だよな?死んだりしないよな・・・。)

145と書かれ、横にタイガー・寅吉と書かれた部屋・・・。中には呼吸器をつけた大きな男が横たわっていた。
「タイガー?しっかりしてくれよ・・・タイガーァ・・・。」
魔理はつぶやいてベッドにすがりつき、声を殺して泣きはじめた。
(魔・・・理・・・さん・・・・)
魔理の頭の中に直接声が響いてきた。彼女が今もっとも聞きたかった声が・・・。
「タ、タイガー?」
(魔理・・・さん・・・泣かんで下さい・・・。わっしは・・・大丈夫ですから・・・泣かんでください。魔理さんが・・・無事で・・・よかったですジャー・・・。)
魔理がタイガーの顔を見るとうっすらと目を開けてぎこちなく微笑んでいた。
「タイガー・・・。良かった、本当に、あんたが無事で・・・」
魔理もタイガーに泣きながら微笑んで、ナースコールを押した。



「弓が・・・意識を取り戻した?」
雪之丞は少しやつれた顔で医者に問い掛けた。
「本当か!本当なんだな!」
「は、はい、それで彼女があなたに会いたいといっているのです。患者さんを刺激しないようにして下さいよ。」
そういうと医者は雪之丞を一つの病室に連れて行った。
「ここです。」

病室のベッドには弓が横たわっていた。雪之丞を見て少し微笑んでいる
「弓・・・大丈夫か?」
「大丈夫ですわ・・・。でも、よかった。あなたも無事だったのね・・・。」
「ああ、でもおれはあの時おまえを、みんなを守れなかった。もう仲間に、傷ついてもらいたくなかったのにおまえにまで・・・。」
その雪之丞の言葉の『もう』というところで弓は前に聞いたアシュタロスとの戦いを思い浮かべた。
「大丈夫ですわ、雪之丞。それにあなたがいなかったらもう一人の魔族も動き出してみんなやられてましたわ。」
「でも・・・。」
「いい、雪之丞自分の事を責めるよりもこれからの事をお考えなさい。あいつ等をほっといたらたくさんの人達が傷つけられますわ。
あなたや、おねーさま達しかそれを止めることはできないのよ。
なら、あなたは戦ってちょうだい。私はここで祈っておくから・・・あなたの・・・無事を。」
言い切った弓の顔は微笑んでいた。やさしく、聖母のように・・・。
「ああ、わかった。誰も殺させやしねえ。おれがあいつ等を止めてやる。
おまえのためにもあいつ等はおれ達が止める。」
そう言った時に医者の声がした。
「すいません、そろそろ面会は終わりで患者さんを安静にしてあげて下さい。」
「あ、はいすみません。」
雪之丞は部屋を出るとき真っ赤な顔で、
「弓、さっきのおまえ・・・あ〜・・・マ、ママよりちょっとだけ綺麗だったぞ。」
と言って、恥ずかしかったからか走って部屋を出て行った。医者の注意の声を背中に浴びて。
弓はクスリと笑った。
ママというのがどれだけ雪之丞の中で大きいものなのか知っているから。
だから彼が言った言葉は彼の精一杯の感謝と愛の証だとわかったから。


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