椎名作品二次創作小説投稿広場


横島物語。

第一話 冗談と事実。


投稿者名:香夜月 蕗
投稿日時:03/11/ 9

暗かった。
周りは静寂だ。
そんな中、声が聞こえた。 


『忠夫、お前の定め…覚えているな?』


低い声だ。
誰の声だったか、もう忘れた。
いや、聞き覚えのない声だ。
何故、俺の名前を知っているのかも
別にあまり疑問に思わなかった。
しかし、定め…何だったか全く覚えていない。

「定めって何すか?」

誰の姿も見えない暗闇に向かって聞く。
闇は、何も答えない。

「俺の定めって何だ?」

ふと、疑問に思う横島。

(ま、きっと空耳だろーな。)

そう思って、考えるのを止めた。


『まさか、知らなかったというのか?』


また、何処からともなく声が聞こえる。

「何の事だよ?」

聞き返す横島。
何を言っているのか、さっぱり分かっていない横島。


『横島家と…美神家は敵同士だという事は知っているな?』


「は?」

耳を疑った。

(美神さんと俺が、敵同士?
 いつも、俺をコキ使ってきた美神さんは
 実は、敵だからとかいう理由だったりするのか?
 というか、この声誰だよ?)

横島は、多々ある疑問を持ちつつ…次の闇の声を待つ。


『お前の定め、それは我が横島家の敵――美神家を滅ぼすことだ。』


「み、美神さんを殺すっ!?」


いきなり言われた自分の定めに驚く横島。


『そうだ、忠夫…これは代々から言われ続けている事だ。
 美神家を滅ぼせ。』


声が、一気に低くなった。
殺気が感じられる暗闇の中
ただ、声だけが響いている。



「はっ!!」

ベッドから、勢いよく起き上がる横島。
辺りを何度も見回す。
しかし、先程の暗闇とは正反対に
明るい日差しが、部屋を照らしていた。

「なぁんだ、夢か。」

先程まで見ていた夢を思い浮かばせる。

(美神さんが、敵なんて…ありえないよな。)

少し、夢で聞いた声の話を気にかけるが
あまり、気にしないでおこうと横島は決めた。
あくまであれは、夢であって現実ではそんな事はないだろう。
そう、横島は心中で呟いた。

(もし、美神さんに襲撃かけたとしても返り討ちにされるだけだしなぁ。)

はぁ、とため息をつく横島。
そして、目の前に見える急な坂道を登る為、足を前へと動かした。

(まぁ、美神さんに聞くのが手っ取り早い話だよな。)

見上げてみる空は、蒼かった。
しかし、その空がどうも虚しく思った横島だった。




「えぇ、そうよ。」




美神が表情を変えず答えた。

当然、質問した内容はこれだ。


「俺の家と美神さんの家って実は敵同士だったとかしますか?」


否定されるのを期待した横島だったが
簡単に美神は、肯定した。

「ま、マジですかー!!??」

嘘だ、とまだ信じられない顔をする横島だったが
美神は、いたって真面目に言った。

「しかし、誰がそんな事をあんたに言ったのよ?」

半分呆れた声だった。
だが、さすがに夢でとは言えない。

「親切なおじさんがですね、そうです!!親切なおじさんが教えてくれたんで   す!!!」

無理やり笑顔を作る横島。
しかし、美神は「ふーん。」と言って横島を横目で見る。

「しょうがない。横島、死になさい。」

普段どおりの笑顔で横島に向けて言う美神。

「冗談じゃないっすよーー!!!」



「冗談よ。」

サラリと美神は、横島に言った。

「冗談ですか…?」

やはりあれは夢か、と美神を呆然と見ながら思う。
しかし、さっきの美神さんの殺気は本物だった気もしたような…
そう考えながらも、結論は夢という事で横島はホッとした。

「やだなー、恐い事言わないでくださいよー!!」

横島は苦笑いしながら、美神に言う。
美神は、笑ったままだった。
笑ったまま、それが横島は恐かった。

「そうね、悪い事言っちゃったわ。」

笑顔のまま、美神は謝った。

(美神さんが、素直に謝るなんて…まさか、やっと俺の事を…!!!)

横島は、単純に幸せな方向に物事を考えた。

「美神さん!!」

ガシッと美神の手を握る。
いつもならここで美神に吹っ飛ばされているが
やはり、笑ったままだ。

「やっと、僕の事を愛し…。」
「なわけないでしょ。」

笑顔のまま答える美神。
横島は、美神の手を握ったままである。

(美神さんが、照れてるなんて!!)

まだ、誤解したままの横島。
もう、頭では敵同士の話は全く消え去っていた。

「横島クン、今日はもう終わっていいわ。」

美神は、まだ来たばっかりの横島に告げる。
さすがに横島も驚いて目を見開いていた。

「え、マジでいいんですか?」

横島が聞くと

「いいわよ。」

短い応えだった。

「そうね…少し休みとろうかしら?」

美神は、ふと目線を少し上に向けて言った。

「や、休み……!!??」

横島は、その言葉に焦った。

「休みって、あの休み!?仕事なし!?」

当たり前の事を聞く横島だが、本人はとても美神の言葉に動揺している。

「何か悪いもんでも食べましたか?美神さん。」

美神がこんな優しいなんて、きっと裏がある筈だ。
少し、頭が回るようになった横島。
だが美神は、表情を全く変えずに

「何かあったら、連絡するから。」

美神はそう言って横島を追い返すように手を振った。

それも愛の裏返し、とかとやはり単純な横島は考え
素直に帰ることにした。

「では、今日はこれで!!何かあったら、この横島すぐ参りますっ!!」

元気よく美神に言って部屋を出る。
顔は、とてもご機嫌だ。
そんな横島を美神は見届けてから
美神は、椅子に座った。

何も知らない横島。
美神の心中の本当の姿。

全ては、横島の夢が始まりでもあった。

「ふぅ…。」

横島がいなくなった部屋で
美神は、軽くため息をついた。


「みんなに伝えないと。」


そう呟いて、美神は受話器をとった。


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