椎名作品二次創作小説投稿広場


黒き天使にささげる

敵は去り、少女は己の罪を知る


投稿者名:誠
投稿日時:03/11/ 8


なんでおれが追われなければならなかった?
おれが人間じゃないから?
おれが獣人だから?

おれは安らぎがほしかった。
人間に受け入れられなくてもよかった。
安全に暮らすことができればそれでよかった。

おれは倒れた、疲れ果てて。
おれは覚悟した・・・。
今人間がおれを見つけたら殺されるだろう。

ああ、人間がきた・・・。
こいつはおれを殺すだろう。
おれの体は動かなかった、多くの傷と疲れで。

『大丈夫かい?』

なんだ?この人間はおれを殺さないのか?
なぜだ?なぜこの人間はおれの手当てをしている?

『これは、ひどいな。大丈夫わたしの家はすぐそこだ。治してあげれるよ。』



そうか・・・この人間は敵じゃない・・・この人間の心は、温かい。






周りが真っ赤だ。真っ赤な炎が迫ってくる。
おれを助けた人間も、頭から血を流して炎にあぶられている・・・。
おれは・・・この人間といれば安らげると思った。
こいつは死ぬのか・・・。おれも・・・死ぬんだろうか?





おれは生きていた。獣人としての生命力がおれの死を許さなかったようだ。
おれはほえた。おれを助けたばかりに人間に焼き殺された男をみて・・・。

許さない・・・。おれは許さない・・・。



―――バサッ―――

おれの目の前に黒い翼をもつ男が降りてきた。
「なんだおまえは?」泣きはらした目でそいつをにらみ、おれはたずねる。

『人間が憎いか?わたしも人間を憎む・・・。やつらは平気で弱者を虐げる。』

男は言った。

『やつらに虐げられるのがいやならば、我々が虐げてやればいい。おまえにはそれだけの力があるし、わたしが力をやろう・・・。』

黒い翼を持つ者はそういうと、おれに手をかざす。

黒い光がおれを覆う。
力があふれてくる。
闇が心を支配していく。

『わたしとともにこい、人虎。わたしもおまえとともに人を憎もう・・・。わたしは、堕天使・ハミエル、人間を憎む者だ・・・。』

黒い翼を持つ者はいった。

「おれは人虎・ドルフ。おれも・・・おれも人間を憎む!」

おれは叫んだ。















タイガーは血を流しすぎたのか真っ青な顔で自分が出した大量の血の
上に倒れている。
端から見ても危険な状態だというのがわかる。
そんなタイガーのそばで一文字魔理は放心している。怪我はないだろう、だが精神的にかなりのショックを受けている。
弓かおりは腹から血を流し、のた打ち回っていた。


「てめえ・・・横島になにをした?」

雪之丞が淫魔にたずねる。怒りを押し殺して・・・。

「わたしは何もしちゃいないよ・・・。むこうがどうなってるのかはわからないね。」

淫魔はニヤリと笑っていった。

「よ、横島さんが・・・。」

おキヌは目に見えてショックをうけた。来てくれると思ってた、すがっていた存在が来ないということを知って・・・。

「そんなことどうでもいいよ〜。このお姉ちゃん動かないしつまんないから殺しちゃお!」

リンはそういうと爪を魔理にむけてふりかぶった。

「やめて〜〜〜〜!」

おキヌが叫ぶが爪はふりおろされる。

―――バキッ―――

しかし、爪が刺さる寸前にリンは蹴り飛ばされた。

「ジーク!」「ジークさん!」

雪之丞とおキヌが同時に乱入者の名を呼ぶ。乱入者は魔族軍のワルキューレの弟、ジーク・フリートだった。

「だいじょうぶですか?二人とも。」

ジークは横で倒れている三人をチラリとみて、そしておキヌと雪之丞にたずねた。

「ええ、でも横島さんが・・・横島さんも襲われてるらしくて・・・。」

「大丈夫です、あちらには堕天使・ハミエルがいっているということですが、姉上と小竜姫殿がいっています。」

ジークの言葉におキヌと雪之丞は安堵する。

「ふんっここは分が悪いね、リン!引き上げるよ!」

「逃がすと思ってんのか?」

「早くそこのでかいのと女を治療してやらなくていいのかい?死んでしまうよ?」

淫魔のあざけるような口調に雪之丞はこぶしを震わせるが、たしかに早く治療しなければならない・・・。

結局、淫魔とリンが去っていくのを追う事はできなかった。

「おキヌさん、二人の様子はどうですか?」

ジークがたずねる。

「早く、早く病院に運ばないとまずいです・・・。二人とも、血が出すぎています!」

おキヌが涙目で叫んだ。

彼等は近くの白井総合病院に二人の重症者を運んでいった。

















―――ピリリリリリリ―――

部屋に携帯電話の音が鳴り響く。

「はい、美智恵です。おキヌちゃん、どうしたの?
・・・・・なんですって!
わかりました、今すぐそっちにむかうわ!」

美智恵は電話に出ると真っ青な顔になり、叫び、電話を切る。

「どうしたんだい?おキヌくんになにか?」

心配そうに聞く神父をみて美智恵は答える。

「おキヌちゃんたちが・・・襲撃をうけたそうです。おキヌちゃんの友人の弓さんと、タイガー君が重傷。
一文字さんが・・・多少精神をやられたそうです。」

神父は驚愕の表情をうかべた。

「ここの調査は警察、Gメンに任せてわたし達は病院に行きましょう!」

美智恵の言葉に神父はうなずき、美智恵は捜査員に指示を出したあと神父とともに部屋をでた・・・。














「ちぇっ、ママったらここで待っとけなんてね・・・。」

「美智恵もなんか見られたくないものとかあるんじゃないの?」

「暇でござる!タマモ、ちょっとそこの森に行くでござる・・・。」

令子の言葉にタマモが答え、シロが森を指差しタマモを誘うが途中でやめ、険しい顔になる。タマモも同じものを感じたのか、表情を一変させ森を睨む。

「二人ともどうした・・・。」

令子は言いかけるが彼女も気づく。強力な魔力に、強烈な殺意に。

―ドサッ―

何かが三人の前に飛んできた。

それは真っ赤な肉の塊だった。鑑識とかかれた腕章をつけていることから一緒にきた捜査員だったものだということがわかる。

その壮絶な死体をみた三人は吐き気をおぼえるが、グッと我慢して森を睨みつづける。

「来るわよ!」

令子の叫び声にタマモ、シロも気を引き締める。

―――バキバキバキッ―――

目の前の大木がなぎ倒されてそこに現れたのは・・・虎だった、ただし二本足で立つ。
その口と爪は血で真っ赤にそまっており、こいつが捜査員を殺したのだとわかる。

令子は最初タイガーと同じ獣化能力かと思ったが違った。
目の前にいるものの雰囲気は獣そのものだった。
獣人、その言葉が令子の頭の中をよぎる。

「おぬし・・・人虎でござるな?」

シロが霊波刀を油断なく構えてたずねる。

「そうだ・・・。おれは誇り高き人虎、ドルフ・・・。おまえは人狼だな?
そっちにいるのは妖狐か・・・。もう一人、おまえは・・・人間だな!」

最後の一言を言うと同時にドルフは令子に飛び掛ってきた。

「クッ!!」

令子は紙一重で攻撃をかわし、神通棍で殴った。同時にシロも霊波刀で切り、タマモは狐火をドルフの背中にぶつける。

「グオオオオオオーーーー!!」

大きな雄叫びとともにドルフは魔力を発して令子とシロを吹き飛ばし、狐火を消し去る。

「なっ、なぜ獣人が魔力、それもここまで強力なものを・・・?」

タマモが身構えながらつぶやく。

「フンッ、おまえたちが追っているものがおれに力をくれたのだ。憎たらしい人間達を殺すためのなーーーーー!」

ドルフは叫び、タマモに襲いかかる。しかし、

「待ちなさい!」

部屋から出てきた美智恵が叫ぶ。横には神父もいる。

「どうして・・・どうして君はそんなに人間を憎むんだい?」

神父はドルフに悲しげにたずねる。

「ふんっ、おまえら人間が種族が違うというだけで我等になにをしているのか、知らぬわけでもないだろう?」

ドルフの言葉に美智恵と神父は言葉をつまらせる。

たった今、その象徴といえるものを見てきたから・・・。
たった今、人間の罪深さを知ってしまったから・・・。

「まぁ、いい。さすがにこんなにいては殺しきれんな。」

「待ちなさいよ!」

令子は叫んだがドルフは軽い身のこなしで森の中へと去っていった。

「令子、シロちゃん。大丈夫?」

美智恵の心配そうな声に、二人はそれぞれ無事をアピールする。

「だいじょうぶでござる!」

「大丈夫よママ・・・それより調査は終わったの?」

「今、調査はGメンと警察に任せているわ。それよりおキヌちゃんたちが襲撃にあって、今病院にいるそうよ・・・。今からむかうわよ。」

「ちょっと、おキヌちゃんは無事なの?」

令子が慌てる。

「ジークがきて助けたらしいから死者は今のところいないようだけど・・・弓さん、それからタイガーくんが重傷らしいわ。」

美智恵の言葉に三人は絶句した・・・。













わたしが入った部屋のベッドにはわたしの大好きな少年が座っていた。

ベッドのわきには小竜姫様と、ワルキューレさんが座っている。
二人ともわたしが部屋に入ると悲しそうな顔をしてうつむいた・・・。

「横島さん?」

わたしはベッドで虚ろなめをしているわたしの大好きな少年の名前を呼んだ。

横島さんは泣いていた。
泣きながらつぶやいていた・・・。
聞こえてくる言葉は小さかったけど、それでもなんとか聞き取れた・・・。

『ルシオラ』、横島さんが愛した女性の名前だ。
『許してくれ』、なにを?何を謝っているの?
『助けたかった』、誰を・・・。ルシオラさんを?

わたしは流れ出る涙を止めることができなかった。
横島さんがどれだけつらい思いをしたか知ってたのにわたしには何もできなかった。
横島さんが普段道理の行動をするのをみて立ち直ったんだと勝手に考えていた。

横島さんはあんな目にあったのに、
まだ大人になりきれていない少年が自分を命がけで愛してくれた女性を失ってしまったのに。

世界と引き換えに・・・。




立ち直れるわけないじゃない・・・。横島さんはあんなにやさしいのに。
忘れられるわけないじゃない・・・。横島さんはあんなにやさしいのに。

横島さんはコスモ・プロセッサを破壊したあと泣いてたじゃない。自分を責めて。
横島さんはあれから泣いてたじゃない。夕日をみて・・・、彼女との思い出を思い出して・・・。



「横島さん、ごめんなさい、横島さん・・・。」

わたしは謝った。近くにいたのに何もできなかった、何もしなかった自分を責めて・・・。

でも、いつもならやさしい声をかけてくれる横島さんはいなかった・・・。
横島さんはまだ涙をながし、虚ろな目をしたままだった・・・。

わたしの目の前が暗くなる。

わたしは、自分が横島さんに重大な罪を犯してしまったことを自覚しつつ意識を失っていた・・・。


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