椎名作品二次創作小説投稿広場


黒き天使にささげる

少年の罪と人間の罪


投稿者名:誠
投稿日時:03/11/ 8




わたし達は目を疑った。
信じられなかった、この部屋の光景が。
信じたくなかった、この部屋の光景を。

―――――『地獄』―――――

それがこの場所を表す唯一にして一番しっくりくるものだった・・・。

『うっ!』

家宅捜索に一緒にきた警官が口を抑えて廊下の向こうへかけていく。

無理も無い・・・。

わたしもハンカチで鼻と口を抑えている。
こみあげてくるものをおさえるために。
こみあげてくる激情をおさえるために・・・。

「令子とシロちゃん、タマモちゃんを待機させておいてよかったわ・・・。」

わたしはつぶやいて隣にいる神父をみた。
神父は祈っている、己の信じるものに。
なぜ祈っているのか?人間の罪深さの許しをこうために。


わたしは考える。
この事件は罰なのだろうか・・・。



人間の犯した大罪への・・・・・・・。










「横島さん遅いな〜。」

おキヌは暗い顔でつぶやいた。
自分が昔から大好きだった少年・・・、横島が迎えにきてくれるといったのだから今日は学校でニコニコしっぱなしだった。

「大丈夫だって、すぐに来るさ。なあタイガー。」

「そうですノー。横島さんが女の子との約束を忘れるわけが無いですジャー。」

おキヌの友人、一文字魔理とその恋人、タイガー・寅吉がフォローする。

「そうですわね。あの人のことだから今ごろ走ってこっちにむかっていますわよ。」

「わかんねーぞ、なんせ横島だからな、その辺でナンパでもしてるんじゃねーか?」

これまたおキヌの友人の弓かおりがフォローするが弓の恋人で自称、横島のライバルの伊達雪之丞が全てのフォローを無にするようなことをいった。

「だからあなたはデリカシーが無いって言われるのよ!」

「んだとー。おれのどこが・・・!」

いつものように弓との口喧嘩をはじめようとしたが巨大な霊圧を感じて雪之丞は黙る。

「どうしたんですの?」

弓がたずね、おキヌ、魔理も怪訝な顔をする。
六道女学院霊能科でゴーストスイーパーになる訓練をつんでいるとはいえ三人ともアマチュアだ・・・。

「タイガー、感じたか?」

タイガーは無言で雪之丞の問いに首を縦にふる。
免許は無いとはいえ彼の精神感応能力は人界屈指のものだし実戦経験も豊富だ。

「二人だ・・・。強力な、多分・・・魔族が。」

雪之丞の言葉に全員が気を引き締める。


―――グチャッ―――

いやな音がして魔理の顔に血がかかった。

「あ、あ、あ・・・タ、タイガー?」

魔理の目の前には緑色の爪があった。
爪は、タイガーの右胸から生えていた。
いつの間にか魔理のそばに移動しておそらく魔理を襲った爪から魔理をかばったのだろう。

「魔、魔理さん・・・大丈夫ですかノー?」

タイガーはいつものようにつぶやくとニコリと笑った。

―――ズルッ―――

再びいやな音がしてタイガーの右胸から爪が抜かれた。

「邪魔しないでよ。もう少しでそのお姉ちゃんの顔を貫けたのに・・・。」

少女・・・といってもいいのだろうか。
ぼろぼろの着物を着て、緑色の腕と爪を持つおかっぱ頭の少女がいた。
もっともいまや右腕は血で赤く染まり、肉片がこびりついていたが・・・。
少女の顔はその小さな体に似合わぬ醜悪なものだった。


「「てってめー!」」

雪之丞と魔理が激昂する。
雪之丞は魔装術を使い、魔理は木刀をつかみ、少女に殴りかかる。
弓は無言で水晶観音を使って水晶の鎧をまとい、おキヌはネクロマンサーの笛を口元へ持ってくる。

しかし、雪之丞の攻撃は途中でほかの手によって阻まれる。
雪之丞のこぶしを止めた魔族におキヌは見覚えがあった。昨日横島たちと戦っていた淫魔だ。

―――バキッ―――

結果的に一人で攻撃にいった魔理の木刀が少女の右手で受け止められ、へし折られた。

「何をおこってるの?おねーちゃん。」

少女がたずねる。

「あんたがタイガーを攻撃したからだろうが!」

「あら、わたしにはリンっていう名前があるわ。それにわたしはおねーちゃんを最初に攻撃しようとしたのよ?この人が勝手に出てきたんじゃない。」

少女・・・リンが左手を振るうと足元に倒れているタイガーの首に赤い筋ができ、すごい勢いで鮮血がほとばしる。

「きゃはははははは・・・・・・・。」

リンはタイガーの血を浴びながら笑い、そして振り向くと後ろから忍び寄っていた弓の腹に左手を突き刺す。

「弓ーーーーー!」

淫魔とにらみ合っていて動けない雪之丞が叫ぶ。




―『止』―

おキヌが投げた文珠が発動し、タイガーの首から出ていた血が止まる。

「一文字さん!はやくタイガーさんを・・・。」

しかし、おキヌはそのあとに言葉を続けることができなかった。

魔理は血だまりの中にしゃがみこみ、自分の両手にかかった血を眺め、呆然としている。

―――ドサッ―――

魔理の横に腹から血を流しながら、傷をおさえている弓が投げ出される。

「きゃはははははははーーーーーー。」

リンは両手についた大量の血を見ながら再び狂ったように笑いはじめる。

「いや、いやーーー!・・・・横島さーーーん。」

おキヌは今こっちにむかっているであろう愛しい少年の名を呼んだ。

「横島?横島忠夫か?あいつは来ないぞ・・・。」

雪之丞と向かい合ったまま淫魔はニヤリと笑った。










時間は少しさかのぼる・・・。

横島は時間通りに待ち合わせ場所へとたどり着けるはずだった。
しかし、彼は今動けない。
動いたら・・・死ぬ。

横島の豊富な戦闘経験が警報を鳴らしている。



いつのまにか後ろをとられていた。
後ろにいる何かは美しい声で『動くな』といった。
有無を言わせぬ声、無視すれば死が待っているだろう。

「おまえは・・・誰だ?」

横島はかすれた声でたずねる。

「わたしはおまえと同じだよ・・・。」

後ろにいる『なにか』が言う。

「なにっ?」

「おまえと同じ・・・世界を、人間を、神を・・・憎むものだ・・・。」

『なにか』の言葉に横島は激昂する。

「なに言ってやがる!俺は誰も憎んじゃいない!」

「そうか?おまえは神がアシュタロスを放置していたから悲恋に出会ってしまったんだろう?」

「違う!俺は彼女にあったことを後悔なんかしちゃいない!」

『なにか』は横島の答えを無視して続ける。

「おまえはこの薄汚い世界と多くの汚らわしい人間達と引き換えに恋人を失ったのだろう?」

「違う!おれは彼女を助けたかった!だけど彼女は世界を・・・世界を救ってって・・・。俺の住むこの世界が好きだからって・・・!」

横島は後ろで『なにか』が笑った気がした。

「それでおまえは恋人を殺さざるをえなかったんだろう?それを恋人が望んだ・・・?好きな相手と離れたがるやつがいるのか?本当は彼女は望んでいたんじゃないのか?おまえが、自分を選んでくれることを・・・。」

―――ドンッドンッドンッ―――

銃の発砲音がして横島の後ろの地面に銃弾がめり込む。

「堕天使ハミエル!人界への過剰関与の罪でおまえを始末する!」

精霊石銃を構えた魔族軍のワルキューレが叫んだ。

「ハミエル!天使の身でありながら闇に身を任せたあなたをこの竜神・小竜姫が始末します!」

妙神山の管理人であり、今回の事件に派遣された神魔族の代表、小竜姫が神剣を構えて言い放つ。

「ふんっ、まあいい、今日のところは引いてやろう・・・。目的は果たしたしな・・・。」

ハミエルはそういうとしゃがみこんで頭を押さえ込んでいる横島を一瞥して黒い翼を広げた。

「逃がしません!」

小竜姫は叫ぶと神剣で切りかかった。ワルキューレも援護射撃を行う。しかし、

―――ヴンッ―――

妙な音がしてハミエルの黒い翼がハミエルを包み込み・・・ハミエルは消えた。



「ちっ!逃げられたか。」

ワルキューレが悔しそうにつぶやく。

「そうだっ、横島さん!」

小竜姫は横島の元へかけよったが息をのんだ。

「どうした?小竜姫・・・。」

ワルキューレが問いかけるが彼女も言葉を失う。

そこにはいつもの明るい彼はいなかった。
頭を抱え、横島はブツブツとつぶやいている・・・。

「おれがルシオラを殺した・・・。ルシオラは自分を選んでほしかった・・・?おれはルシオラが望んだといって、ルシオラのせいにしていた・・・?ルシオラは・・・ルシオラは・・・・・・。」

横島を見つめる二人は泣かずにはいられなかった。
あまりにも彼の姿が、つぶやきが、痛々しくて・・・。
そしてあのとき一緒に戦えなかった自分達が情けなくて・・・。
事件後なんのケアもせずに彼と彼女が守った世界でのうのうと生きていた自分達があまりにもふがいなくて・・・。



「うあーーーーーーーーーー!」

横島は叫んだ・・・・・。










―――――ギーーーーーッ―――――

さびついた扉が音を立てて開く。

「令子、シロちゃん、タマモちゃん。あなた達はここで待っていなさい。なにかあったら呼ぶわ。」

そう言い放つと美智恵は神父、そして数名の鑑識とともにとびらの中に入っていった。



「神父・・・ここに、何があるのでしょうか?」

「さあ、山本君が作った隠し部屋のようだが・・・。噂が本当だとすると・・・。」

「そうですね。覚悟しておかないと・・・。」

二人は黙り込んで奥へと進む。

そこにはたくさんの札が貼られ、大きな鉄のかんぬきのついたドアがあった。

二人はかんぬきをはずすと、うなずきあってドアを勢いよく開けた。



美智恵も神父も呆然と立ち尽くした。



その部屋には、
両手両足を切りとられ、それでもまだ生きている妖怪。
はりつけにされ、体中から血を流している妖怪。
体中に針を突き刺され、目があったと思われる場所に鉄の棒を突っ込まれている妖怪。
逆さにつるされて、首から少しづつ血を抜かれている妖怪。
腹を裂かれ、人間のものとは違う内臓を引きずり出されている妖怪・・・。

部屋は怨嗟にみちていた。
部屋は怨念にみちていた。
部屋はうめき声にみちていた。
部屋は、地獄というのにふさわしい場所だった。



「令子とシロちゃん、タマモちゃんを待機させておいてよかったわ・・・。」

美智恵はつぶやいた。


この地獄をつくったのは人間。
この地獄の被害者は妖怪。

なぜこのようなことを!
どうして種族が違うだけでこんな恐ろしいことができるのか!



美智恵も神父も人間の罪深さを知り、同時に人間の恐ろしさを知った・・・。


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