椎名作品二次創作小説投稿広場


黒き天使にささげる

救いを求める少女に黒い天使は白い手を差し伸べる


投稿者名:誠
投稿日時:03/11/ 7


わたしはお父さんもお母さんも妹も村の人も大好きだった。
だからわたしは神様のところにいく役目をうけた。
お父さんもお母さんも悲しんでくれた。わたしはそれがうれしかった。

わたしはみんなを見守っていた。わたしのために作られた祠で。わたしの眠る橋のたもとの祠で・・・。
みんながわたしに感謝してくれてた。わたしはそれを誇りに思えた。

ある日、村が攻められた。わたしの祠のそばのわたしが命ををささげた橋を通ってあいつらは攻めてきた。

しばらくして、お父さんとお母さんが逃げてきた。手にはもう動かない妹が抱かれていた。

『お父さん、お母さん逃げて!』

わたしは聞こえない声を張り上げた。聞こえるはずのない声で叫んだ。

お父さんが崩れ落ちる。胸から血を流して・・・。
お母さんの首が切られる。血まみれの刀で・・・。

お父さんとお母さんが死んじゃった、わたしの祠のそばで・・・。
わたしの祠が血を浴びる、お父さんとお母さんの血を・・・。




わたしは身をゆだねる・・・憎しみに、怒りに、そして殺意に。



目の前でお父さんを殺した男の頭をつぶす。
目の前でお母さんの首を切った男のおなかにあなをあける・・・。

わたしは暴れた、村を襲ったやつらを相手に。
わたしは殺した、村を襲ったやつらを全員。


わたしは仇を討っただけだった。
わたしは村を助けたかっただけだった。
しかし、わたしは追われた。
わたしは信じられなかった、大好きな村の人たちがわたしを殺そうとするのが。
わたしは逃げた。大好きな村の人たちの恐怖のまなざしから・・・。






あれから300年。あの事件の直後わたしの体は変わっていた。
小さかった手は醜い緑色のとがった爪をしている。
幼かった顔はけわしく、厳しい顔になっている。

わたしは神様にたずねる。わたしは神様の下へいけるんじゃなかったの?
わたしは人間にたずねる。なんで同じ人間を殺すの?

わたしが正気をたもっていられたのはいつか神様のところへいけると思っているから。
いつか神様が受け入れてくれると思っているから・・・。





「ここか・・・。」

黒い天使はつぶやく。彼がやってきたのはある洞窟。

洞窟には人間への怒りと憎しみが渦巻いている。
しかし、同時に求めている。人間を憎む自分への救いを。洞窟の中にいるものは祈っている。

黒い天使は洞窟に入り憎しみと怒りをもちながら救いを求めて祈る少女に理由をたずねる。

少女は話しはじめる。自分の短かった人生を。
少女は話しはじめる怒りと憎しみの理由を。

少女は黒い天使にたずねる。

「わたしは・・・神様のところへいけるの?」

黒い天使は否定する。

「神は・・・おまえを受け入れない。」

少女は堕ちた。300年間求めて続けていたものを否定されて。
少女は人間を憎む。もうそれしかないから。
少女は自分の人生を嘆く。自分はもう救われないとわかったから。

「私のもとに来い。私も人間を憎む。私は神を否定する。私はおまえを受け入れる。」

黒い天使は少女に手を差し伸べる。
それは悪魔のささやき。少女が闇へ堕ちる一本の道。
しかし少女にとっては300年自分にむけられなかったやさしい言葉・・・。

少女は黒い天使の白い手をしっかりと握った。








とりあえずおキヌ、横島、そしてピートの三人は淫魔との戦いのことを報告するために事務所にもどった。

「ピート!あんたもゴーストスイーパーでしょ!淫魔なんかに騙されかけてんじゃないわよ!それに横島くん、なにへんなモノおキヌちゃんにみせてんの!トラウマになったらどうすんのよ!」

令子はピートにプロとしての心構えを、横島に人の常識をそれぞれ教えこむ。

「まあまあ令子くん仕方ないじゃないか、誰にも失敗はあるよ。」

「美神さん大丈夫ですよ、あの・・・その・・・わたし上半身しか見ませんでしたから・・・。」

神父とおキヌが弁護する。しかし令子はそれを一蹴した。

「ふんっピートもいい年こいて恋人の一人もいないからコロッといっちゃうのよ。」

「おキヌちゃん、あんな文珠を使おうとしたことが問題なのよ!」

令子の言葉に神父はピートの実年齢を思い、おキヌはもし成功してたらどうなっていたかを考え沈黙する。

「で、でも美神さん。『爆』とかを使ってはね返されてたら僕たちは多分やられていましたよ。」

ピートがあわてて事件のことへと話しを戻す。

「そうね、横島くんの文珠をはね返した羽だけど堕天した元天使、ハミエルのものだと思われるわ。」

美智恵が羽を見つめながら言った。

「先生。だとしたら淫魔とハミエルはつながっているのですか?」

西条が疑問を口にする。

「そういうこと、といいたいところだけど正直わからないわ。何らかの理由があってただ助けただけかもしれないし。はっきりいってデータ不足よ。」

「しかし美知恵君、神界と魔界が討伐に乗り出すことにしたんだろう?ヒャクメ様がいれば居場所もわかるのではないかい?」

「神魔の部隊は神界から小竜姫様、ヒャクメ様。魔界からワルキューレ、ジークが参加することになっています。でも遠視の能力でもわからないらしいんです。どうやら結界で妨害しているみたいで・・・。」

神父はヒャクメの能力に期待したのだがそれも無駄だったことを聞かされる。

「その堕天使がなんで淫魔を助けたのかはしらないっすけど、淫魔がゴーストスイーパーを一人殺したっていってましたよ。」

「やっぱり・・・。じゃあ山本氏を殺したのはその淫魔で間違いないわね。」

横島の言葉に美智恵が断定する。

「でもさ〜、あの山本ってやつなんか裏でやってるって噂だったわよ。」

「裏で・・・ですか?」

令子がだるげに言うとピートがいぶかしげな顔をする。

「ええ、腕はたつんだけど妖怪を捕らえて術の実験に使ったりといったことを平気でやるって噂を聞いたことがあるわ。」

「じゃあ淫魔があえていたぶって殺した理由もわかりそうだね。仇討ちといったところか・・・。」

神父は多少苦々しげな顔をして胸の前で十字をきった。

「調べるならそっちからね。天使の方はまったく手がかりがないもの。」

美智恵はあごに手をやって考え込み、言った。

「明日・・・山本除霊事務所の家宅捜索を行いましょう、何かわかるかもしれないわ。」

「わたしも行こう。今回の事件にはなにか強い想いが絡み合っているような気がする・・・。」

神父にむかい一礼すると、美智恵は家宅捜索にともにむかうメンバーをつげる。

「まず、わたしと神父、それから令子もきなさい。あと、シロちゃん、タマモちゃんの超感覚がたぶん必要になってくるわ。西条君はGメンで待機、いつでも動けるようにしといて。おキヌちゃん、横島くん、ピート君は学校があるでしょ?今日のようなことが無いとは言い切れないから十分に気をつけてちょうだいね。」

「わかりました、隊長。おキヌちゃん、なにかあったら大変だし六道まで帰りに迎えに行くよ。」

「えっ!いいんですか!?」

「うん、あとこれ、文珠を持っといて。隊長たちも持っていって下さい。」

「ど、どうしたの?横島くん。あんたいきなりいい人になっちゃって。」

令子の微妙に無礼な言葉に横島は苦笑いしながら言った。

「今日もあの淫魔は躊躇無くおキヌちゃんを攻撃してきましたしね。今回の敵は目的を持ってると思うんです・・・。それに、おれは仲間にいなくなってほしくないんです。」

最後は多少悲しそうにいった。シロ、タマモにはわからなかったが、ほかの者達には十分に伝わった。

彼等は知っているから、彼が感じた苦しみを。
彼等は知っているから、彼が味わった悲恋を。
彼等は知っているから、彼が愛した蛍の最後を・・・。


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