椎名作品二次創作小説投稿広場


黒き天使にささげる

目撃者は神に不信を抱く


投稿者名:誠
投稿日時:03/11/ 6


「今回も、同じね・・・。」

美智恵は現場を見てつぶやいた。

胸の奥からこみあげてくる吐き気を必死でこらえていた。

「あの子達には見せないで正解ね。」

「ええ、さすがに彼女達でもこのような場面に遭遇することなんてないでしょうからね。」

美智恵の言葉に西条も気分の悪さを隠すような微笑みをむりやり浮かべた。

GSはたしかにたくさんの恐ろしい現場に遭遇することがあるだろう。しかし、これはひどすぎた。



部屋の中央、赤い血だまりがある。

血だまりの横、人間だったものが赤い泉から水を飲もうとするような格好で横になっているそれはひどく自然なものにみえた・・・首がないのを別にすれば・・・。

不自然なのにどこか統一性のある光景。

地獄に迷い込んだ首のない旅人が泉で水を飲む・・・。そんな光景だった。

しかし絵画のようにまとまった光景の横では壁に無造作に投げつけられたらしい首が転がっている。その目は安らかというにはほど遠く、そして恐怖というのも生やさしすぎるほどの絶望と死を感じさせる表情だった。



「でも、今回は目撃者がいますよ。彼女が回復すれば何とか話しが聞けるのではないんですか?」

西条は無理やり現場から目を離すと美智恵に言った。

「そうね。それで目撃者は誰なの?」

「はい、目撃者の名前は神山恵子。この屋敷で働いている女性らしいです。敬虔なクリスチャンだということで、十字架をにぎりながらドアのところで倒れていたそうです。」

「そう、私たちはとりあえず現場検証よ。そして彼女が目覚め次第・・・。」

「きゃーーーーー!!」

美智恵の言葉をさえぎるように別の部屋から女性の叫び声が聞こえてきた。

「行くわよ、西条君。」

二人はうなずきあうと女性が寝かされている部屋へと向かっていった。





目を覚ました女性、神山恵子が最初に見たのは天井だった。

恵子はだんだんと意識がはっきりしてきたようだがなぜかうっすらと微笑んでいた。

「目が覚めましたか?気分はいかがです?」

そばについていた医者が話し掛けると恵子は多少考え込む様子をみせ、そして自分が握っていた手を開いて握り締めていた十字架をみた。

目に見えて彼女の顔色が変わる。十字架を医者に投げつけると恵子は叫んだ。

「きゃーーーーーーーーーー!!」





「大丈夫ですか?」

美智恵は心配そうに恵子にたずねた。

「フフッフフフフ・・・。」

恵子は笑う青ざめた顔で・・・。

「先生、彼女は・・・。」

「わかってるわ。」

「どうしますか?医者に見せますか?」

「そうね、これでは事情聴取なんかできないわ。」

美智恵は軽い失望の色を見せたが気持ちをきりかえ、部屋の外へとむかおうとした。

「・・・・・ない。」

後ろから彼女の声が聞こえた。

「なに、なんていったの?」

美智恵は恵子の方を見る。

「神への祈りでは・・・救われない・・・。」

恵子は引きつった笑みをうかべると楽しそうに言った・・・。








絶望・・・。

絶望とはどんな時に人を襲うのだろうか?

最も顕著な例それが裏切られたとき。

自分が信じていた仲間に。

信じていた恋人に。

そして、信じていた信仰に・・・。





「もお!ママも西条さんも人を待たせてなにやってんのよ!こっちだって忙しいのに。追加料金取らないとダメね!」

「まあまあ美神さん、しかたないじゃないですか。いろいろ調べとかないといけないこともあるんだろうし・・・。」

おキヌがいつものごとく美神をなだめる。しかし、

「ちょっと前まで暇だ暇だって言っていたくせに。」

横島がぼそっとつぶやいた言葉がおキヌの努力を無にする。

「もう一度いってみろ!」

美神のヒールで踏みつけられ横島は血を流す。

「すんましぇ〜ん。」

(ちょっと快感になりかけてる自分が怖い)などと踏まれながら思ってることは内緒だ。

「バカね。こうなるのはわかってるでしょうに。」

「先生、情けないでござるよ・・・。」

タマモとシロもあきれている。

―コンコン―

その時ドアがノックされてひとりの眼鏡をかけたやさしそうな中年が入ってくる。

「やあ、久しぶりだね。」

「神父なんでこんなところに?」

令子に神父と呼ばれた中年は頭をかきながら言った。

「いや、この屋敷で働いている女性が実はうちの教会の日曜礼拝に毎週来ているほどの敬虔なクリスチャンでね。今度の事件で目撃者になってしまったらしいというから来たんだよ。彼女は身よりもないし、私で少しでも力になれればいいと思ってね。」

微笑みながら神父、唐巣和宏はいった。





唐巣神父が部屋から出ていった後、令子は疑問を抱いた。

「なんで犯人は目撃者を殺さなかったのかしら?」

「この屋敷の主人だけをうらんでいたとかじゃないんッスか?」

横島がだされているお菓子を頬張りながら意見を述べる。

「それはおかしいわ。今まで関係ない人も殺していたのよ。まったくつながりのないような人達を皆殺しにしたのに今回に限って目撃者を殺さないなんてありえないわ。」

「殺したくなかったなんて事はないんですか?」

おずおずと甘い意見を言うおキヌをみて美神はその甘さを心地よく思い微笑んだ。しかしプロとして、雇い主として厳しい顔になりたしなめる。

「そうね。そうだったらいいけどまずないわ。私たちはプロなんだからちゃんと現実を見ないといけないわ。」

「ねえ、美神は犯人は人間だと思ってるの?」

タマモがけわしい顔でたずねる。

「まず間違いなく生身の人間の仕業じゃないわね。部屋の中央でいきなり死臭が消えるなんてありえないでしょ?」

「そうでござるな・・・。犯人は魔族あるいは妖怪でござろう。」

「私たちには関係ない・・・といいたいところだけどなんか胸騒ぎがするのよ。」

―ムニュッ―

「このへんッスか?」

横島が後ろから令子に近づき胸をわしづかみにする。

「死ねっ!!」

間髪いれず令子のひじが横島のあごにヒットする。

「横島さんの・・・バカ!」

おキヌのつぶやきが微妙に部屋に響いた・・・。







唐巣は考える・・・。

神への祈りでは救われない・・・。

その言葉を敬虔な信者だった彼女の口から聞くとは信じられなかった。

確かに祈るだけでは救われることなどない。

しかし、救われないなどと決めて絶望してしまっては救いなどあるはずがない。

彼女に、彼女の心に何があったのか?

それは・・・彼女にしかわからない。





「恵子君、お邪魔するよ。」

唐巣は恵子に微笑みかけた。
ふと床を見ると真っ二つに折られた彼女が大事にしていたはずの十字架があった。
唐巣は少し顔をしかめたがそれを拾い恵子にやさしく語りかける。

「これは君が大事にしていたものでしょう?」

―パンッ―

唐巣の手から十字架がとんだ。

「何をするんだい?恵子君。もう大丈夫なんだよ。君の主はかわいそうだったが君は助かったんだ。」

唐巣は恵子を必死でなだめようとする。しかし、恵子は落ち着いていた。

狂った落ち着きではあったが・・・。

「ふ、ふふふ・・・。神父、神に祈っても・・・救いはないんですよ・・・。」

「なぜそんなことを?なぜ・・・君が・・・?」

唐巣は目の前の女が本当にあの恵子なのかと疑わずにはいられなかった。
唐巣の知っている彼女は明るくて、すべての人の幸せを願うやさしい女性だった。

「天使が・・・。」

「えっ?」

「天使さまが神に祈っても・・・救いはないって・・・。出てって神父!もういや。神様のお使いがあんな・・・。出てって!!」

恵子は叫ぶと唐巣を部屋から追い出した・・・。






「神父・・・。」

「ああ、西条君。」

考え込んでいた唐巣に西条が話し掛ける。

「犯人は誰か・・・聞けましたか?」

唐巣は考えて・・・言った。

「彼女は・・・天使といったよ・・・。天使が神に祈っても救いはないといったといっている。」

「天使・・・ですか。」

「ああ・・・天使だ・・・。」

二人は信じられないと思い、そして悩む。
もし、相手が天使ならばどうやって裁けばいいのか?

神の使いを裁く権利など人間にあるのか?

今まさに自分達は裁かれているのではないのか?




そして・・・事件は新たな展開を迎える・・・・・。


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