椎名作品二次創作小説投稿広場


黒き天使にささげる

堕天使は赤い泉で微笑む


投稿者名:誠
投稿日時:03/11/ 5

目の前の光景に私は声を失った。
私はこんな連中のために今まで命をかけて魔族と戦っていたのか?
神はなぜこんな連中を地上の支配者としたのか?
なぜ、なぜ、なぜ・・・・・。

私を神への不信感が襲う。
しかしそれは私たちが考えてはならない事。
私たちが持ってはいけない感情。

私の純白の翼が黒くぬりつぶされていく・・・。
今まで信じていたものが根元からくつがえされていくように・・・。
ゆっくり、しかし確実に、私の心の変化を表すように。
黒く、黒く、黒く・・・。

そして私は堕ちていった・・・。











ICPO、オカルトGメン日本支部のオフィス、亜麻色の髪の美しい女性が赤ん坊をあやしながら長髪の男に話し掛けていた。

「西条君、捜査の進み具合はどう?」

「正直あまり進んでいないです。被害者の方もなにやら隠していることがおありのようですし・・・。それより先生、育児休暇中に足を運んでいただいて申し訳ございません。」

黒く長い髪をした男性の名は西条輝彦、オカルトGメンの中でもエリート中のエリートの実力者だ。

「いいのよ、それに今回の事件は一筋縄ではいきそうにないしね。」

女性の名は美神美智恵、オカルトGメン日本支部の全権を与えられている女傑だ。西条の師であり上司でもある。

「しかし、何が目的でこんなことを・・・。」

西条が持っているファイルには細かく事件現場の状況が書かれていた。

「これは前みたいに彼女達に応援を要請した方がいいかもしれないわね。」

美智恵は隣の建物にいるであろう自分の娘をどうやって説得するか考えていた。






「こらー!横島!バスルームを覗くなって何度言ったら分かるの!」

「堪忍やー、しかたなかったんやー。」

何が仕方なかったのかはわからないがバンダナをつけた少年が殴られた頬を抑えながら亜麻色の長い髪、そして抜群のプロポーションを持つ女性に謝っている。

「一回死んでこーーーい!!」

怒声とともに繰り出された回しげりが少年の首筋にヒットする。

「せ、せんせー!」

Tシャツに片足の破れたGパンをはいた少女が少年に駆け寄る。

「大丈夫でござるか?」

「うう、シロ俺はもうだめだ・・・。俺が幽霊になったらおキヌちゃんに頼んでやさしく除霊してもらってくれ・・・。」

「先生!弟子として拙者が介錯するでござるよ!」

「横島、きつねうどんくれるのならわたしが火葬してあげてもいいわよ?」

みごとな九房にわかれた金色の髪をした少女が火の玉をお手玉しながらいう。

「横島さんしっかりしてください。横島さんがギャグで死ぬわけないじゃないですか!」

巫女服をきた少女がぎりぎりの発言をする。
それを苦笑しながら眺めていた長い髪の女性、美神令子は言った。

「シロ、タマモ、おキヌちゃん。間違っても成仏させたらだめよ。死んだ後もこいつにはしっかり働いてもらわないといけないんだから。」

雇い主のあまりの言葉に他の三人は同情のまなざしで少年、横島忠夫を見る。
冗談と聞き流すには過去に幽霊を日給三十円で雇っていた実績をもつ美神令子の言葉はリアリティーがありすぎた。

「ひどいっすよ!何で死んでからも安い給料で丁稚やらなあかんのですか!」

「あら、だれが安い給料でっていったの?幽霊だったら食事しなくてもいいしお金なんていらないじゃない。」

さらりとひどいことをいってのける美神に横島はいつか絶対見返してやる!と心に誓った。

―――ピンポーン―――

「はーい。」

巫女服の少女、おキヌが来客を迎えるために玄関へとむかう。

「あ、美智恵さんにひのめちゃんに西条さん、いらっしゃい。」

「こんにちは、おキヌちゃん。令子はいる?」

「はい、今日は仕事がないから書類整理してますよ。」

「そう、ありがとう。で、おキヌちゃん横島君となにか進展はあったの?」

「えっいや、あの、その・・・。なにも・・・ないです。」

いきなりの質問におキヌは顔を真っ赤にして答える。

「おキヌちゃん、僕は応援しているよ!一刻も早くあの男に首輪をつけてくれたまえ!」

いままで黙っていた西条がおキヌにエールを送る。



『ずっと前から好きでした!』

『俺もだよ、おキヌちゃん。』

『横島さん・・・。』



「どうやら先に行ったほうがいいようね・・・(汗)。」

「ええ、そうですね。行きましょうか(汗)。」

どこか遠いところへトリップしたおキヌをおいて二人は歩き出した。



「あら、ママ、西条さんいらっしゃい・・・。おキヌちゃんは?」

令子は二人の客を迎え一人足りないことに気づきたずねる。

「おキヌちゃんなら今ちょっと遠いところにいっちゃってて・・・。」

「ふ、ふーんそうなの、まあいつものことね。」

「令子ちゃん、今日は君達にお願いがあってきたんだ。」

「なに、またなんかやっかいな事件?高くつくわよ。」

「令子!あんたはまたそんなことばかり言って!そんなにお金が大事なの?」

「あたりまえじゃない!この世で一番大事なものはお金よ!!」

こぶしを握りしめて言い放つ娘のすがたをみて美智恵はため息をついた。西条もとなりで苦笑いを浮かべている。

「令子、協力するなら相応の報酬を約束するわ。でも、断るのならこのあなたが脱税をしているところを撮ったビデオを公開するわよ。」

「な、何でそんなものをママが持ってるのよーーー!」

頭をかきむしりながら叫ぶ令子にむけて天井の方から声が聞こえてきた。

「すいません、オーナー。美知恵さんに脅されて仕方なく渡してしまいました。」

声の主はこの建物の管理をしている人工霊、人工幽霊一号だった。

「なっ脅されたって・・・何をネタに脅したのよママ!」

そこにいた全員が幽霊を脅す美智恵を心底恐ろしいと思った・・・。



「それでだね令子ちゃん。」

何事もなかったように西条が話し出す。

「シロくんとタマモくんを貸してほしいんだが・・・。」

「なんだ、それならそうと早く言ってよ。レンタル料は一日一千万でどう?」

「うっ、しかたがないね。分かった条件を飲もう。」

横では美智恵が再びため息をついているのだが今度は何も言わないようだ。

「ちょっとまってよ。私たちを無視して話しを進めないでくれる。」

「そうでござる。拙者はこれから先生と散歩に行く予定なのでござる。」

「ちょっと待て!俺はそんな約束した覚えないぞ!」

シロ、タマモ、横島が騒ぎ出す。

―ばんっ―

令子が机をたたくと三人はとたんに静かになる。相変わらずよくしつけたものだ。

「タマモ、成功報酬は極楽寿司の極楽ジャンボ稲荷寿司でどう?」

「し、仕方ないわね・・・。やってやるわ。」

あっさり懐柔されるタマモ。

「シロ、成功報酬は高級霜降り肉と横島くんとの一日散歩券よ!」

「はいっ!やるでござる。やはり武士として悪人をほっておくわけにはいかないでござる!」

シロもあっさり陥落。

「ちょっとまったー。美神さん勝手に俺を一日シロに貸し出さんで下さい!死んでしまうやないですか!」

横島が涙ながらに訴える。しかし、

「横島くん、あんたに反対する権利はないわ!」

あっさり一蹴されてしまう。

「先生、先生は拙者と散歩するのがいやなんでござるか?」

上目づかいでたずねてくるシロの期待を裏切ることもできず横島は一日散歩とスケジュール表に書き込むはめになった。

その時おキヌは・・・。

『横島さん・・・。』

『だめだよ、忠夫って呼ぶ約束だろ?』

『は、はい、忠夫さん。』

さらに遠い世界へいっていた。







―クン、クン―

事件の現場となった場所、某政治家の屋敷でシロとタマモは必死に手がかりを探っていた。しかし思うようにいかない。

「ダメだわ。ここで人間が殺されたのは分かるけど誰が殺したか、どこへいったのかは分からない・・・。」

「タマモもでござるか?拙者もでござる。死臭が部屋の中央で途切れてるでござる。」

人間にはない超感覚を持つ二人がさじを投げたのでは警察犬なども無駄だろう。

―ぴりりりりり―

「はい、西条です。なに!またやられた?」

西条の携帯電話が鳴り、また新しい被害者の情報が伝えられた。

「西条君!急いで現場に行くわよ!」

美智恵、西条、そして美神除霊事務所のメンバー達は新たな現場へとむかった。

それが事件の幕開けになるとも知らずに・・・。










それは美しかった。
赤い泉で赤い水を両手ですくう黒い天使・・・。
それはそのまま一枚の絵画になりそうだった。

私は震えた。美しさに、そして圧倒的恐怖に・・・。

しかし、なぜか声をあげることはできず私は彼を呆然と見つめていた。











私はいつものようにご主人様に呼ばれ部屋へとむかった。

ご主人様はいつも私を好色そうな目で見つめる・・・。

私にはそれがたまらなくいやだった。

「失礼します。」

私はドアをたたきそして開けた。

そこには地獄のように恐ろしく、そして天国のように美しい光景が広がっていた。



まず目に入ったのは部屋の中央で恍惚の表情をみせている美しい金髪の青年。

その青年が天にむかってささげている私の主の首。

青年の背中に生えている黒い翼。

青年の足元に広がる赤い血だまり・・・。



私は動くことができなかった。
首に下げている十字架をにぎり、私は神に祈った。

青年はゆっくりこっちを振り向くと私に近づきささやいた。

「神への祈りなどでは・・・誰も救われない。」

彼の美しい声を耳に響かせながら、私は意識を手放した・・・。


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