椎名作品二次創作小説投稿広場

第三の試練！

〜鉄砲玉とお姫様だっこ〜

戦況は膠着状態に陥っていた。

美神にとって有利といえる要素は『相手はスピードが遅い』という事だけ。対して白き蛇は霊波攻撃を無効にする鱗を身に纏っている。
単純に考えれば大蛇の方がかなり有利の筈なのだが、なにを思ってか、大蛇は一定の距離を置いて仕掛けては来ない。
そのことが現在の膠着状態を作り出している。

（なにを考えてるか分かんないけど・・・、なめられてんのは確かよね。）
美神は内心の苛立ちを押さえ込むように唇を噛み、蛇から視線をそらさずに横島を呼び寄せた。

「な、何ですか？美神さん。」
「いい、よく聞いて。アイツの鱗がアタシの霊波を弾いたの・・・見てたわね？」

いつに無く真剣な眼差し。その緊迫感は横島にも確実に伝わる。

「は、はい。」
「よし、じゃあこれからヤツに確実に霊波を叩き込む作戦を言うわよ、いい？この作戦には、横島クンの力が必要不可欠よ。」

さらに高まる緊張。横島はゆっくりと息を呑む。わ、分かりました、うなずく横島を横目で確かめて美神は続ける。

「さっきみたいに真正面から神通棍を振り下ろしても、あの鱗のせいでダメージを与えられない。だから今度は内部から霊波をぶち込んでやるのよ。」
「はい！」

「アタシがお札で牽制するから、横島くんはその隙に蛇の左側面に回りこむ。此処まではいいわね？」
「ウス！」

「その間にアタシがヤツの右側面に回るわ。そしたら横島クンは『爆』の文殊をもって・・・」
「文殊を持って・・・？」

横島は固唾を呑んでボスの言葉を待つ。
『必要不可欠』
美神のその言葉が、横島の中の漢（おとこ）に熱い火を燈していた。やはり『いざ』という時には頼りにしてくれているのだと。


「大蛇に食われなさい！！そしてヤツの中から文殊を爆発させてやるのよ！！！」
「ヨッシャ！！分かり・・・ましたなんて言う訳ねーだろ！！！！何考えとんじゃぁ！アンタァ！！！」

横島は思った。なぜ前回この女を見捨てて逃げなかったのかと。こんな人を鉄砲玉かなんかと勘違いしてるような女を！
大体、腹の中で文殊爆発させたら・・・俺も死んじまうだろうがぁ！

「なーによ？言いたいことあんなら言いなさいよ。時給下げる覚悟が有るならね。」

よく『鬼のような人』と言う表現がある。だがそう呼ばれる人は、あくまで人であって鬼ではない。そして本物の鬼はここにいた。


結局、具体的な作戦が浮かばないまま時は過ぎる。蛇の内部から攻撃する作戦は間違ってはいなかったが、流石に美神といえども実行すれば寝覚めが悪い。
どうしたものかと考えあぐね、意識をほんの少し蛇から外したその一瞬を狙われた。大蛇の口――――正確には牙から放たれた毒液が二人を襲う。
とっさに傍にいた横島を蹴り飛ばし、その反動で自分は反対に飛ぶ。
二筋の毒液は、二人の横を掠めて後方へと飛び散りそこにあった樹木を根こそぎ溶かしてゆく。

「酸の毒液！？こんな飛び道具を・・・！」

後方に散った毒液の効果を目の当たりにして動揺したのか、美神は迂闊にも蛇への注意を逸らしてしまっていた。
そして背後から叩き付けられる強烈な殺気。
思わず振り返ると、白蛇の巨大な鍔はすでに目と鼻の先に迫っていた。
（しまった！間合いを詰められた！）
不覚。最初に自分が大蛇に仕掛けた戦法とまったく同じことをやられたのだ。しかも今回は完全に回避のタイミングを逃していた。

『死』
恐ろしいほど単純で、明確な恐怖が美神を包む。
大蛇の牙は今まさに美神の体を貫かんとしていた。

「美神さん！！目を閉じて！！」

横島の声。美神は瞬間的に何が起こるのかを理解した。とっさに瞼を閉じる。
蛇の鍔と美神の間、わずか３０ｃｍの隙間に文殊が飛び込んできた。浮かび上がる文字は、

『閃』



『グアァァァァァァ！！！』

突然の閃光。反射的に蛇は身を翻してうずくまる。何が起こったのか、とにかく目が見えない。蛇は雄叫びを上げながらのた打ち回った。



「美神さん！！今です！バックレましょう！」
「きゃっ。」

不意に抱き上げられ、美神は思わず声を漏らした。
横島は美神を抱きかかえたまま、全力で大蛇から遠ざかってゆく。

「ちょっと！横島クン！降ろ・・・（さなくっても・・・いっか。）」

途中まで言いかけて言葉を飲み込む。
自分を抱えて必死に逃げる横島の表情は悪くない。そんなことをふと考える。
（ふーん・・・真剣な顔してるコイツって・・・結構・・・。）

「・・・？なんか言いました？」
「！？な、なんでもないわよ！！とっとと走れ！」

横島の横顔にパンチを一発。
美神の顔は夕日のように赤かった。

（顔真っ赤にして怒る程の事、なんかやったか？）
横島は走りながら、まだバレてない筈の悪事を必死に検索していた。