うっそうと茂る深い森に、動く物陰が二つ。そこは、地元の人間ですらめったなことでは入らない、古くからの言い伝えのある場所 「鎮守の森」。
まだ9月の始めだと言うのに森の中はひんやりとしていて、しかも密生する木々のせいで日差しがあまり入らない。
そんな中を、背中に20キロはあろうかと思われる重そうなリュックを背負い、死にそうな顔で歩く男がいた。
「み、美神さーん!もうダメっス!ここで少し休みましょーよ!」
美神と呼ばれた女性は足を止め、男の方を振り返る。
綺麗にまとまった栗色のロングヘアー、均整のとれたプロポーション。そして世の中の男の殆どが『美しい』と評価を下すであろう美貌がそこにあった。
「あんたねー、さっきっからそればっか言ってんじゃないの。男の癖にだらしないわよ、横島クン!」
美神は半ば呆れ顔で、後ろを歩いていた男‐横島を叱咤する。
「俺に荷物全部持たせといてなに言ってンスかぁ!もう5km以上歩いてるんスよ!おまけに昨日俺は徹夜で仕事で・・・、アンタ俺を殺す気かぁ!」
横島の必死の反論も美神の耳に届いていないようだ。
「あーあ、本当にこんな歩かされるとは思わなかったわねー。断ればよかったわー。」
などと言いながら横島と目をあわせようとしない。
(こ、このアマ・・・、しかしここで休まねば本当にに死んでしまう。)
横島は何とか休む口実を見付けようと辺りを見回す。すると、前方に苔生した石碑が有るのに気がついた。
「あ!ほらほら、あそこに石碑が有りますよ!あそこで休憩しましょう、ね、ね?」
流石の彼女も多少は罪悪感というものを感じたのだろうか、横島の必死の懇願に
「仕方ないわねー。」
と苦笑いした。
「 ? 摩 諭 吉 羅 帝 莎 訶 」
自分を苦しめていた背中のリュックを下ろし、ペットボトルの水を飲む。一息ついたところで横島は自分が腰掛けている石碑に目をやった。
「なんじゃこりゃ?まったく読めんなー。」
横島は首をかしげた。
「孔雀明王の真言ね、これ。」
美神は石碑を触りながら続けた。
「大昔にここで暴れていた大蛇を、ある高僧が孔雀明王の力を借りてこの地に封じたって刻まれてる。多分今回の私たちのターゲットのことね。」
「なーんだー!この呪文使えばラクショーじゃないっスか!」
とっとと終わらせて帰りましょー、などと言ってる横島を尻目に、美神はさらに続ける。
「ムリよ。ただ呪文を口にしても何の効果も無いもの。仏法に帰依して正しい印を組まないといけないのよ。ま、どの道こんなもん無くても、あたしの力なら楽勝よ、楽勝。大体ここに書いてある高僧ってのもどの程度かわかったもんじゃないしねー。」
(この女、いつか罰が当たるな・・・)
バシバシと石碑を叩いて笑っている美神を見て、横島はそう思ったが口には出さなかった。
充分に休憩を取り再び歩を進めた二人は、石碑のあった場所から15分ほどの場所で足を止めた。
「ここね。かなり強い妖気を感じるわ。」
「深そうな洞穴っすね。」
そう言って横島は、直径3メートル程もある洞穴に何気なく近づいていった。
「ちょっと待ちなさい、横島クン!迂闊に近づいちゃ・・」
美神が台詞を言い終わらないうちに、洞穴の入り口に手を触れた横島の体がスパークしたように光る。同時に放たれる強烈な衝撃。
「いっってぇー!なんじゃぁー!こりゃぁー!」
衝撃をまともに食らって、後方に吹き飛ばされながら叫ぶ横島。
「結界!?それもかなり強い!」
自分に向かって突っ込んでくる横島を鮮やかにかわし、洞穴を睨み付ける。
受け止めてくれたってええやないかぁぁぁ・・・、後方に遠ざかる声に耳を貸す気は当然無い。
ズルリ、ズルリ。
強烈な妖気を放ちながら、洞穴の奥から近づいてくる金色の眸。炎のように赤くチロチロと動く舌。
それはゆっくりと洞穴から姿を現す。
頭だけで1・5メートルはあるだろうか、巨大な白い蛇だ。
『ワガ森ニ踏ミ入ル愚カナ餌ヨ、骨ゴト呑ミ砕イテヤロウ。』
まるで質の悪い銅鑼が鳴っているかと思えるような、不快な声が森中に響く。
その声は、霊的に抵抗力の低い人間ならばその場で気を失うかもしれない程の圧力を感じさせる。
「残念だけど、餌の時間じゃ無いのよ!このGS美神があんたを極楽に行かせてあげるわ!」
大蛇の眼光に押されないように、美神は精神を集中した。
「それじゃっ!後の事はプロにお任せします!!」
逃げる横島、追う美神。
「待ちなさい!このロクデナシ!あんたも一応GSでしょーが!!」
後頭部から『カーフ・ブライディング(子牛の焼印押し)』が炸裂。
「いややー!デカイ蛇はバイオハザードだけで充分じゃー!!!!」
涙を流して叫ぶ横島を見て美神は、
(なんでこいつGS試験合格出来たんだろ・・・?)
そう思ったが口には出さなかった。
今回の第1話と次回の第2話は、すでに『展開予想』に掲載されている物を多少アレンジして移す予定です。
えー、不束者では御座いますが、どうぞ宜しくお願い申し上げます。 (ヨコシマン)
ご存知の方もいらっしゃるかと思いますが、この話は『ストレンジャー・ザン・パラダイス!』のその後の考証という前提を持ってます。平たく言うと、横島君がいつ文殊を14個使えるようになるのか?ってことです。
ちなみにタイトルも変更しています。『展開予想』で「違うタイトルで読んだこと有る」って方、スミマセン。同じものです。 (ヨコシマン)
オーソドックスな除霊話の中にも、美神の傲慢不遜な性格や横島の情けない様子が現れていて、原作の雰囲気が良く出ている様に感じました。導入部としては申し分無いです(^^)。
ちょっと気になった点を挙げますね。
>大蛇の眼光に押されないように、美神は精神を集中した。
>
>
>
>
>「それじゃっ!後の事はプロにお任せします!!」
この間の空け方だと「沈黙の間(?)」ではなく場面転換と混同する恐れがありますので、もう少し別の方法を用いた方が良いと思います。
>後頭部から『カーフ・ブライディング(子牛の焼印押し)』が炸裂。
おそらく美神のツッコミ(笑)でしょうから「(横島の)後頭部に〜」の方が文意が伝わり易いのでは?
あと、個人的な意見ですが、文頭(段落の頭)は一字下げた方が読み易いです。(^^;
では、次話に移ります。 (dry)
導入として読者を惹きつけるだけのものは十分にあると思います。
先に進ませていただきます。 (U. Woodfield)