バスルームを出ると、ワルキューレはバスタオルで髪を拭きながら、先ほどの居間に戻ってきた。
着衣は、脱衣籠のなかにTシャツと綿のシャツ、まだ開封していないビニール袋にはいった男性用の
トランクスがあったのでそれを着た(人間に変化するだけの魔力は回復していた)。
結城はパソコンラックの前の椅子に坐り、時折缶ビールを飲みながらテレビのニュースを見ていた
が、ワルキューレの足音に気が付いたのか、声をかけてきた。
「腹が減っているなら、冷蔵庫から好きなものを出して勝手に食ってくれ。」
ワルキューレは缶ビールを一本取り出すとベットに坐り、一口飲んだ。枕もとの時計を見ると既に
夜の9時を回っていた。
そういえばまだ、お互いに自己紹介もしていなかったな、などと考えながら改めて結城の顔をみる
。態度や口調には落ち着いた青年といった雰囲気があるが、顔だけ見ればまだ二十歳前の少年といっ
た感じであった。奇妙な奴、という初対面の時の違和感が再びわきあがってくる。
そんな視線に気付いたのか、結城もワルキューレをみると口を開いた。
「そういえば、あんた、名前はなんていうんだ?」
『・・・・・、ワルキューレだ。こちらでは春桐 魔奈美という名前も使っている。』
一瞬迷ったが本名を答えた。
「正体は妖怪かなにかか?」
『まあ、そんなものだ。』
「もしかして、主食は人間とか?。」
『そんな事ない。だが、もしそうだったらどうする?。』
「おれは不味い、と最初にことわっておくさ。」
また、からかうような調子がでてきたので話題をかえる。
『おまえ、名前は?』
「結城 健一。」
『職業は?』
「学生さ。」
『一人暮らしか?。親はどうした。』
結城はビールを一口飲むと、
「まるで尋問されているみたいだな。」
と言ったっきりしばらく黙り込んでいたが、やがて、おもむろに口を開いた。
「親はいない。子供のころに死んでしまった。だが、そこそこの財産があったから今こうして
暮らしていけるってわけさ。」
『すまない。わるいことを聞いた。』
「気にしなくてもいいさ。昔のことだ。」
部屋の中に気まずい雰囲気が流れ、二人とも黙り込む。なんとなく口を開きづらかったが、どうし
ても確認したい事があったので、再びワルキューレの方から話かけた。
『そういえば、初対面の時、私の姿を見てもあまり驚かなかったようだが、なぜだ?。それに、
私が眠っている間にGメンかGSに連絡する機会はいくらでもあっただろうに、なぜそうしな
かったんだ?』
「連絡しなかったのは、あんたがそんなに悪い奴には見えなかったからさ。怪我もしていたし。
それに、個人的に警察は嫌いなんだ。一時期グレていたこともあったしな。GSを呼ぶのは
無理だよ。いくら遺産があるといってもそこまで余裕はない。」
ここでまた一口ビールをすすると、
「それに実際のところは自分でもよくわからない。もしかしたら春桐さんに一目惚れしたのかも。
いきなり綺麗な裸をみせつけられたわけだし。」
ワルキューレは飲んでいたビールを思わず吹き出し、続いて激しく咳き込んだ。ようやく咳が収ま
って結城の顔をみると、ニヤニヤと笑っている。思わず怒鳴りつけてやろうと思ったが、このタイプ
はこちらがむきになればなるほど喜ぶのが解っているので、なんとか自分を宥めて話しの続きを促す。
「あんたの姿に驚かなかったのは、あんたみたいなのに慣れているからだよ。」
『慣れている?』
「ああ。俺の学校には純粋な妖怪が3匹いてその内の1匹は美術の教師をしている。それにバンパ
イア・ハーフが一人と、そいつ等よりずっと化け物らしいと言われてるGS助手が二人いて、
よく除霊さわぎなんかも起きているから、人間外の存在にもあまり驚かなくなっているのさ。」
話を聞いていてピンッとくるものがあったので確かめてみた。
『おまえの言うGS助手とは横島忠夫とタイガー寅吉のことだろう。』
「そうだけど、あんた、横島達を知っているのか?」
結城が驚いたようにたずねてきた。
『ああ。ちょっと訳ありでな。』
ワルキューレ自身もこの意外な巡り合わせに驚いていた。
まさか結城が横島と同じ学校に通っていたとは・・・驚きです。
これからに期待できそうです。 (鷹巳)