椎名作品二次創作小説投稿広場


黒き翼

邂逅5


投稿者名:K&K
投稿日時:03/10/29

 墜ちて行く!。

 墜ちて行く!。

 ワルキューレは闇の中でもがいていた。いくら目を凝らしても見えるのは、

 闇。

 闇。

 闇は彼女の種族にとって母であった。だが今は、その闇が恐ろしい。

 (飛ばなければッ!)

 翼は開かない。いつもなら、彼女をいとも容易く重力のクビキから開放してくれる翼が、今は凍り
ついたように動かない。

 (誰か助けてッ!。)

 悲鳴を聞きつけたのか、何者かが背後に立つ。振り返ると見知った顔があった。だが、助けを求め
ることはできなかった。なぜなら、彼はもういないから。自分は彼を守れなかったから。
 気が付くと周りを囲まれていた。

 (ああ・・・・。これは・・・・・、)

 罰だ。ならば自分も彼らと共に闇に沈もう。そう思ったとき、

 「おいッ!」

 自分を呼ぶ声が闇を切り裂いた。



 「おいッ、どうしたんだ。だいじょぶか。」

 誰かが自分に声をかけながら肩を揺すっているのを感じて、ワルキューレは目をあけた。いきなり
飛び込んできた照明の光に、開いた目を再度細めながら自分の周りを見回す。全く見覚えのない部屋
。自分はベットの上に横たわっているようだが、寝具の匂いもいつもと違う。そして、自分の顔を
覗き込んでいる見知らぬ青年。状況が理解できずに顔をしかめると相手に向かって訊ねた。

 『おまえは誰だ。どうしてここにいる。』

 見知らぬ青年はあきれたように溜息をつく。

 「それはこっちのセリフだ。あんたは人にいきなり拳銃を突き付けて部屋に押し入り、そのまま
  丸2日間眠りつづけたんだからな。」

 からかうとも非難するともとれる口調だった。

 (そういえば、あの鳥妖を片付けたあと、力尽きて飛ぶのをあきらめ、隠れ場所を探すため地上に
  降りて・・・・・。)

 徐々に頭の中の霧がはれてきた。完全に目を覚ますために上体をおこす。ベットの上で横坐りの
姿勢になった。すると、肩の下まで掛かっていた毛布が体を滑るように落ちて、自分の乳房が目に
飛び込んできた。

 (えッ!)

 毛布を持ち上げて下を確認する。生まれたままの姿だった。血液が逆流し一気に脳が覚醒する。
慌てて翼で上半身を隠すと、青年を睨みつけて叫んだ。

 『貴様、意識の無い私に何をしたッ!』

 青年はワルキューレの剣幕におどろいたのか一瞬顔をしかめたが、

 「なにもしてないよ。あんたは部屋にはいるとすぐに気を失って、その時それまで着ていた服が
  急に消えて今の姿になったってわけ。こちらも誤解されるのがいやっだたんで、なにか着せて
  やろうと思ったけど、あいにくと翼を持つ奴が着れるような服はもってなくてね。下の方は
  ・・・・・、目がさめた時男物の下着をはいていたらもっとビックリするだろう?」

 淡々と話す口調に澱みはなかった。確かに、自分の体にも「何か」をされたような形跡はない。
それに、これまで幾多の修羅場の中で研ぎ澄まされてきた彼女の勘が、青年の言葉に嘘はないと
告げていた。

 「黙っているということは、こちらの言い分を信じてくれたと考えていいのかな?」

 この話はもう終わり、とでも言うように青年が聞いてくる。その口調に微かに混じるからかう
ような響きに、思わず逆上してしまった自分を笑われたように感じて、

 『おい、いつまで女にこんな格好をさせておくつもりだ?。全く、これだからガキはキライな
  んだ。』

 肯定の代りに八つ当たりを返した。だが相手は全く意に介した様子もなく、

 「服を着る前にシャワーでも浴びたらどうだ。大分うなされてたから汗をかいてるだろう。」

と言って、クローゼットの引き出しからバスタオルを出すとワルキューレに向かって放り投げた。
ワルキューレはそれを空中で掴み、

 『ありがとう。』

と一言礼をいってからベットを降りると、今度は敢えて裸身を隠さずに、堂々とバスルームに向
かって歩く。これには相手もさすがに驚いたのか、ワルキューレの方を見ないように視線を中に
彷徨わせていた。ずっと相手のペースだったので少し気分がよくなった。 



 冷たい汗に濡れた体に熱いシャワーは心地よく、人間共との戦闘や鳥魔の襲撃と言った先ほどの
悪夢を一時忘れさせてくれた。
見知らぬ青年、確か部屋の表札には「結城 健一」とかかれていたが、彼の話を信じれば、自分
は2日間眠り続けたことになる。確かに、それくらいの時間は経ったようで、彼女の体の外傷はほ
とんど癒えていた。
 だが、右肺は相変わらず潰れたままで、回復する様子はみられない。それに、精霊石の波動の影
響がまだ残っているのか体も重く、掌に魔力をあつめてみても、普段の半分もあつまらない。
 そして、弾が通り抜けた右胸の傷。ここだけは、傷そのものは塞がっているにも関わらず、ケロ
イドのように引き攣れて、まるで、先ほどの悪夢を忘れぬように、命を落とした者達がワルキュー
レに刻み付けた刻印のようにみえた。
 ワルキューレはしばらくその傷跡を見詰ていたが、やがて、シャワーのお湯を止めると水を頭か
ら浴び始めた。
 冷たい水が体温を徐々に奪っていく。いつしか両腕で肩を抱くようにして冷たさに耐えながら、
彼女は呟いていた。

 『心配するな。貴様らの借りは私が必ずかえしてやる。』

 脳裏には、既に地獄でまっているであろう部下達の顔が、浮かんでは消えていった。


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