椎名作品二次創作小説投稿広場


黒き翼

邂逅4


投稿者名:K&K
投稿日時:03/10/29

 (よし!。)

 一言呟き、ワルキューレは残る全ての魔力を体表に集中し、思念波のバリアで体を覆うとガソリン
の海に身を横たえた。魔力の抑えのなくなった傷口からは激しく出血していたが、それはかえって
都合がよかった。
 やがて、敵が二人ほど近づいてくるのが足音で解った。ワルキューレの生死を確認するためであろ
う。妙な動きがあればすぐにもどれる態勢を保ちながら、慎重に接近してくる。
 ワルキューレは二人が自分の傍までくるのをじっと待った。
 ワルキューレが全く動かないことと、傷口から流れる出血の量に少し安心したのか、一人が彼女の
すぐ傍に立ち、脇腹を強く蹴ってきた。
 衝撃が胸の傷に響いて恐ろしい苦痛であったが、ここで表情を変えたら最後のチャンスがふいにな
るので必死に我慢する。
 やがて、もう一人も近づいてきてワルキューレを覗き込んだ。そいつはじっとワルキューレの様子
を観察していたが、そのうち、彼女の右腕が車体の下に伸びていることに気がついた。
 そこはガソリンタンクの真下であった。

 「おい!、奴の右腕!」

 その声を聞いた瞬間、ワルキューレは最後の引き金を引き絞った。

 ドン!!

 腹に響く音と共に車体は爆発炎上し、二人は火のついたガソリンをもろに被り火達磨になりながら
あたりを転げまわった。
 ワルキューレはバリアのおかげで無傷だったので爆発によって生じた一瞬のスキをついて夜空に舞
い上がると全力ではばたいた。ここで逃げ切らなければ次はないという恐怖がギリギリと心を締め上
げていた。
 どれくらい飛行していただろうか、ふいに上空から強い鬼気が降下してくるのを感じて、反射的に
身をひねった。鬼気はワルキューレの脇腹を掠めるとそのまま彼女の前に回りこんだ。

 『ケーケッケッケッ!人間なんぞにズダボロにされてよ、魔族軍大尉殿もザマアねえな。エッ!
  ワルキューレさんよ!』

 鬼気の主は俗に鳥妖、鳥魔といわれる種族で、以前美神親子をねらったハーピーとよく似た姿をし
ていた。ただ、両腕にはハーピーには無い巨大な鈎爪がついていて、ワルキューレの脇腹は先ほどの
一撃で浅く切り裂かれていた。

 『貴様、あの連中の仲間か。』

 『ケッ!だーれが人間なんざ仲間にするもんかよ。あいつらは道具よ、道具。おかげで俺の仕事が
  楽になったぜ。』

 『貴様の仕事とは私にとどめをさすことか?。フッ。貴様のようなチンケな魔物には無理な話だ。
  怪我をしないうちにサッサと魔界に帰れ。』

 『その生意気な口、いつまで叩いていられるか試してやるぜ。』

 鳥妖はワルキューレの周りを高速で飛び回りその体を切り裂いていった。ワルキューレは急所だけ
を守り、ほかは切り裂かれるにまかせていた。顔には小ばかにするような薄笑が浮んでいる。

 『おい、さっきの大口はどうしたんだ、ワルキューレさんよ。なんにもできねえクセしやがって、
  よく人のことをチンケなんて言えたもんだぜ。』

 『私の周りを散々飛び回って、やったことといえば皮一枚切り裂いただけ。それで得意になってる
  奴をチンケと言わずになんと言うんだ?』

 それまで何とか冷静なふりを保っていた鳥妖の顔がどす黒く染まる。

 『そんなに死にてえなら、いますぐその頭叩き割って殺してやる!!。』

 大きく鈎爪を振りかぶるとワルキューレに向かって真直ぐつっこんできた。ワルキューレは鈎爪が
当たる直前に体を開いて攻撃を流すと、鳥妖の背後に回りこみ両手の爪を相手のこめかみにつきさし
た。

 『そうやってすぐ挑発に乗るからチンケだと言うんだ。』

 それだけを相手の耳元で囁くと、爪から魔力を相手の体内に流し込み爆発させる。ポンという音と
共に鳥妖の頭部が吹き飛びその体は地上に向かって落下していった。
 ワルキューレはしばらく地上を見下ろしていたが、再び顔を上げると羽ばたきを再開した。だが、
今度はいくらも飛ばない内に高度が徐々に下がりはじめ、そのうち羽ばたくのもやめると鳥妖の後を
追うかのように地上に向かって落下していった。


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