椎名作品二次創作小説投稿広場


黒き翼

邂逅3


投稿者名:K&K
投稿日時:03/10/29

 すこし先を歩くターゲットの背後からワルキューレ達が音も無く近づく。
 追い抜きざまにターゲットの両腕を − ワルキューレは左腕、部下が右腕 − 抱え込んだ。

 「な、な、・・・・グッ。」

 ターゲットが大声を上げる前にワルキューレが口を塞ぐ。脅しの意味で猛禽を思わせる爪を相手の
頬にくいこませる。反対側では部下が脇腹に銃口を押し付けていた。

 『森村丈太郎だな。話を聞きたいことがある。しばらく付き合ってもらおう。』

 「なっ、なんだ貴様ら。」

 恐怖と、ワルキューレに口を塞がれているため不明瞭な声だった。

 『貴様のせいで非常に迷惑している者だ。本当ならこの場で引き裂いてやってもいいのだが、貴様
  を裏で操っている者をしりたい。素直に話せば命だけは保証してやろう。』

 「貴様ら、人間じゃないな、魔族か?」

 ワルキューレは問いを肯定するかのように、その肉感的な唇をニヤリと歪ませ人間にはない大きく
発達した犬歯を見せつける。
 ターゲットはこんどこそ本当の恐怖に打たれガタガタ震えだした。
 三流とはいえGSだけあって、魔族の恐ろしさはいやというほど理解していたため、これから自分
のたどる運命も瞬時にわかったのだろう。

 『こちらが聞きたいことを素直に話せば、貴様のような小物の命などとりはしない。我々に関する
  記憶を抜いた後釈放してやる。』

 恐怖のあまり発狂されたらこれまでのことが無駄になるので、とりあえずなだめてやる。
 多少落ち着いてきたのを確認し、車に戻るため部下に合図をおくり、体の向きを変えようとした
瞬間、ワルキューレは、ヒュッというなにかが風を切るような音を聞き、ターゲットの体が行き成り
重くなるのを感じた。
 彼女は反射的に左手の方にある駐車スペースに停めてある車の影に飛び込もうとしたが、足が地面
を蹴る前に熱い塊が背中かから胸を貫いた。そしてその直後、微かに2発分の銃声が耳にとどいてき
た。

 (狙撃?)

 その言葉が浮かんだのは、倒れた勢いを利用して車の陰に転がり込んだ後だった。そこで、これま
で目立たぬよう人間に偽装していた術をとく。
 一瞬で身に付けていたスーツが弾け飛び魔族軍の軍装が体を覆った。
 弾は背中上部から右胸の乳房の下に抜けていた。精霊石弾ではなかったらしく霊基構造の自壊等の
症状はでていないが、右肺は完全に潰れていた。
 ターゲットは即死したのか、血の海の中にうつ伏せに倒たまま動かない。部下は道を挟んで反対側
の建物の影で、通信鬼に怒鳴っていたが、それを投げ捨てた所をみるとだれも応答しないようだ。
 先ほど入ってきた入口の方を見ると、いつのまにか1台のワゴンが止まっていて、なかから10人
程の人間でてきた。シルエットから判断すると、みなマシンガン等の重火器で武装しているようであ
った。

 (罠だ。襲撃計画がもれていた!)

 ワルキューレは戦慄と共に悟った。敵はどうやってか襲撃計画の情報を入手すると、それを逆手に
とって周到にアンブッシュを仕掛けてきたのだ。自分達はいわば釣り針に食いついてもがいている魚
と同じである。
 だが、いつまでも衝撃に浸っている訳にはいかない。敵はいきなりマシンガンを撃ち始めた。

 タタタタタタッ!

 低い発射音に続いて、竦めた頭上を無数の風切音が通過する。

 ダン!ダン!

 ワルキューレも反撃するが、すぐに車の陰に身をひそめねばならなかった。
 敵の武器はその低い射撃音からすると、サイレンサーつきらしい。さらに、こちらに飛んでくる
弾丸は、

 (精霊石弾!)

 これは断じてGメンやGSのやりかたではない。連中には大分甘い所があり、行き成り攻撃してく
るということはほとんどない(まれに例外があるが)。その気はなくても、一応は降伏をもよおす
言葉くらいはかけてくる。だが、この攻撃は有無を言わさず殺すことのみを意図していた。
 敵の行動は非常に統制がとれていて、高度な訓練を受けているのが感じられた。
 まず一人がワゴンの影からマシンガンを撃ちながらこちらを牽制し、その間に別の二人が車の陰を
つたいながら接近してくる。しかも、一人が移動する時はもう一人がバックアップをするという周到
さで、有効な反撃をする隙がほとんどない。
 敵の射撃のリズムを読み、一瞬の空白を捕らえて撃ち返すことしかできなかった。
 武器の差も圧倒的であった。
 本来魔族軍はその戦力を個々の兵士の魔力や術に依存しているため、武器には補助的な役割しか与
えらていない。まして、今回の任務ではこの様な戦闘の発生を想定していなかったため、携帯してい
る武器は精霊石銃が一丁のみである。それに、やはりワルキューレ達も魔族軍兵士であったため、最
後に頼るのは己の魔力のみと考えていた。
 だが、そのプライドが完全に裏目にでた。空気中の魔力が極端に薄い人間界で強力な術を使うため
には呼吸によってそれを蓄積する必要があり、使う術が強力であるほど大きな溜が必要である。(と
はいっても、上級魔族であれば1〜2呼吸で十分である)。
 しかし、今のワルキューレは右肺が完全に潰れ、十分な魔力の蓄積ができない。さらに、炸裂する
精霊石弾の撒き散らす波動がワルキューレの心身に深刻な影響を与えはじめていた。
 一つ一つはたいしたことは無いが、大量にばら撒かれた場合、それはまるで放射線のように魔族の
心身を蝕む。魔力を使って塞いでいた傷口から少しずつ出血が始まっていた。
 ワルキューレはジリジリと駐車場の隅へ追い詰められていった。残弾は残り一発。部下も既に殺ら
れたのであろう。先ほどまで聞こえていた、精霊石銃の射撃音がしなくなった。
 マンションの住人もさすがに騒ぎだしていたが、いつまでも警察がこないところをみると、戦闘開
始と同時に通信回線を切断し、携帯電話の電波も使用不能にしているようだ。

 (あんたらには解んないだろうけどさ、本気で殺りあったら一番恐ろしいのは恐らく人間だよ。
  なぜそんなことが言えるかって?あたしは連中と直接殺りあったんだよ。あの時の恐怖は今
  でも忘れないよ。嘘だと思うならいつかパビリオにも聞いてみな。きっと同じことを言うは
  ずさ。)

 以前魔界でベスパと話たときに彼女の発した言葉の意味が、恐ろしい実感を伴ってワルキューレを
襲ってきた。ここまで追い詰められたのは初めてだった。敵は徐々に包囲を狭めてくる。
 いっそこのまま飛び出して一人でも多く道連れに自爆してやろうと決めたとき、ワルキューレの足
元からツンと鼻を刺激する匂いがただよってきた。流れ弾が当たった車から漏れたガソリンが、こち
らの方に流れてきていた。

 (これだ!。最後の一発を最大限有効に使う方法!。)

 ワルキューレは自分が隠れている車の運転席を覗き込む。ガソリンの量を示す針はFをさしていた


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