「キャアァァァァァァ!?」
家中に響き渡る叫び声。
おキヌは見た。
屋根裏部屋で血まみれになったタマモを。
彼女にとって、今の状況は何がなんだか訳が分からない状態であった。
誰が、
誰が…、
誰がッ。
答えは分かりきっている。
でも。
信じたくない、
信じられない。
しかし、タマモの無意識の呟きが、
そんな甘い考えを打ち砕き、
現実を見せつける。
「うぅ、シ、シロ……。」
やはり。
いや、当然なのか。
とにかくタマモの元に寄る。
彼女はタマモの頭をゆっくり持ち上げ、呼びかける。
「タマモちゃん!!ねぇ、何があったの!?シロに何があったの?」
必死に呼びかけるが、彼女は再び意識を失う。
危険な状態だ。
「美神さん、美神さ〜〜ん!?タ、タマモちゃんが、タマモちゃんが………!!」
どうしていいのか、
それさえも戸惑う中、
彼女はこの家の主を呼ぶ。
その悲愴と困惑で満ちた歪んだ声で。
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
月は雲に隠れ、
雲は雨雲に変わり、
雨粒がアスファルトを濡らし始める。
そして、雨……。
ビル影を飛び交う一つの人影。
その影は、ビルとビルの間を飛び移っていく。
まるで忍者のように。
「………!」
雨が降り出すと、影はあるビルの上に立ち止まり、
鼻を利かせる。
何かのにおいを探っている。
それは楽しげに、
獲物を狙うかのようであった。
「!?」
どうやら、お目当ての『獲物』を見つけたようだ。
人影はニィッ、と笑うと、
再び雨の降る夜影に消えていった………。
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
「ありがとうございましたぁ〜〜〜!!」
とあるコンビニ。
今、買い物を済ませ、
開いた傘を手に、
帰路に着く男、横島。
ビニール袋の中身は、
今日の晩飯の弁当に、
明日の朝のカップめん。
その他、色々と……。
「ヘックシ!!うぅ〜、大分寒くなってきなぁ……。」
雨が降るたびに、秋は深まりを見せる。
それを改めて実感する。
まぁ、彼も薄手のジャージを着ていたのが悪いのだが。
ともかく、それはやって来たのだった。
「ん?」
にわか雨だった雨は次第に勢いを増し、
本降りへと変わっていく。
彼が気付いたのはそんな時であった。
「オイ、シロ!!シロじゃないか?」
街頭の光をスポットライトに、
彼女は傘も差さず、、
その全身雨に濡れた身体を、
街灯の柱に寄りかからせていた……。
「びしょ濡れじゃないか。どうしたんだ?」
彼女は一言も喋らない。
そして黙り込んだまま、
彼女は横島の身体にそっと寄り添った。
「おぉ!?な、なんだよいきなり……」
うつむいている彼女。
そして、横島の顔を見上げる彼女。
泣いてはいないが、潤んだ瞳。
そして、また彼女はうつむく。
それは芝居なのか、本気なのか。
横島は冷え切った彼女の体の感触を感じながら、
その表情を見た瞬間、どぎまぎする。
ぽりぽりと頭をかくと、彼は言った。
「ま、なんだ。こんな所じゃ冷えるから、オレのウチに行こう。な?」
そして二人は歩き出した。
雨が降り続ける中、
二人は同じ傘の中で、
沈黙したまま、
ただ黙々と歩いていた。
重たい空気。
うつむく彼女。
何も言い出せない横島。
ただ時が流れていく。
気が付くと、
いつの間にか、アパートの前。
「さ、来いよ?」
階段の前。
傘を閉じ、階段を上がる横島。
その一瞬だった。
彼が後ろを振り向いた瞬間。
そう、背中を見せた瞬間、
彼女は牙を剥いた。
彼女は背後から首を絞めようとした。
その、隠していた鋭く伸びた爪を出し、
彼の首を血みどろに握り潰す……。
想像しただけでも身震いする。
やりたい。
今すぐやりたい。
そして、血を見たい。
血まみれになりたい。
彼女に沸き起こる、
呼び覚まされた狂った本能。
何をしてる?
やるんだ、
今すぐやれ!!
やれ!
やれ!!
やれ!!!
殺れ!!!!
手を伸ばし、
その鋭い爪を伸ばし、
静かに横島の首に手を掛ける。
ほんの少し力を加えれば、
血が吹き出す。
そう、ほんの少しだ。
だが。
手が動かない。
あと一歩。
それもほんの少し動かせば、
首を握り潰せるというのに。
なのに、手が動かない。
横島はまだ気付いていない。
何故?
彼女の中でグルグル思考が廻る。
殺したいのに殺せない。
何故?
殺したいの?本当に…。
何故?
殺せないわけない。でも。
何故?
何故?
何故?
何故?
なぜ?
なぜ?
なぜ?
ナゼ?ナゼ?ナゼ?
ナゼ…………………………。
本当は殺したくないんじゃないの?
「違う!!」
手を元に戻し、首から手を引くと
シロは突然、大声を出した。
「なんだ?」
その声に驚き、横島は振り向いた。
シロは彼の顔を見る。
「先生!!
センセイ!!
せんせぇ〜〜〜♪」
頭の中でこだまする。
先生、先生、先生……。
せんせい、せんせい、せんせい……。
センセイ、センセイ、センセイ……。
頭を横に激しく振る。
しかし、それは止もうともしない。
むしろ、さらに響き渡る。
「どうしたんだ、シロ?」
再び横島の顔を見る。
助けて。
解き放って。
そして抱きしめて。
いや、抱きしめて欲しい。
でも。
自分が何をしでかすか、怖い。
血まみれにしてしまうかもしれない。
殺してしまうかもしれない。
自分に抑制が効かないのが恐ろしい。
「オイ、シロ?大丈夫か?」
心配して、横島はシロに近付く。
そして、顔を見ようとして、
手を伸ばした瞬間。
「ハッ!?」
シロは我に返り、
横島の手を振り払った。
そして、彼女は横島から、
二歩、三歩と徐々に離れていく。
「先生ぇ……。
来ちゃダメでござる……。
拙者に近付いちゃ危ないでござるよ……?」
「? 何を言ってるんだ、シロ。早くこっちに入れ。」
横島はシロの言葉を無視して、近付こうとする。
しかし。
「ダメでござる!!」
シロは横島を制した。
「来ちゃダメでござる……。
今の拙者は何をしでかすか、自分でも分からないでござる……。
止められないんでござるよ、自分が……。
下手すれば、先生や他の皆を傷つけかねないでござる……。」
「…………」
「その証拠に、
先程はタマモを傷つかせてしまったでござる……。
だから!!
これ以上、皆を、先生を傷つけさせたくないためにも、
自分で自分を抑えられる間に、
姿を隠すでござる!!
先生達に会えないのは残念でござるが、
これが、今の時点でこれが最良の手立てでござろう……。」
「そんな馬鹿な……。それに第一、信じられない。」
「信じられないのも無理でござろう……。
でも、事実でござる。
うっ……。」
頭を押さえるシロ。
それに動揺する横島。
「シ、シロ!?」
「だ、大丈夫でござる……。
……限界でござる。
拙者、もう行かねばならないでござる。」
「ま、待て!?待つんだ!?」
「先生、拙者が遠くにいても見守ってて下さいでござる……。」
ニッコリと微笑み返すシロ。
しかし、余裕のない笑顔。
そして、流れ落ちた涙粒。
彼女は空高く飛び上がると、
雨の降る闇夜に再び消えていった。
横島は階段の中腹にいたが、
そこから一気に下へ駆け下り、
空を見上げる。
「一体、何だって言うんだ!?
お前に何があったんだって言うんだ!?
………………シィィィィロォォォ〜〜〜〜!?」
雨降る虚空に叫ぶ横島。
その呼び声にシロが反応するわけもなく、
だた、夜空に響くだけであった……。
そして無情の雨は夜遅くまで降り続けた……。
続く……。
やたら、ダークで密度が濃いい感じが自分でもします。
てか、書いててやたら辛かったですw
でも、書きたくなったからしょうがない。
書く必要があるから書くわけで、多めに見てやってくださいw(土下座) (ライス)
いや、正直な所「なんてこった!?」とゆー感じです(ノД`)
シロの内に芽生えてしまった「何か」。初めはその「何か」はとても衝動的な性質の物かとも思いましたが、お話の経過を見ていますとかなり冷静な物のようにも見えますね。
行動はとんでもないですけれど_| ̄|○
“獲物”と称されるものがシロの見知った者であることも何か色々裏があるのでしょうか。「何か」の行動理念がまだよく見えない段階なので、ただ与えられるお話を読み続けて行こうと思います(^^)
月に象徴され始まったこのお話。シロに限らず人狼の業のような物が垣間見える気もしますね。豹変したシロの描写は心情的には認めたくない気持ちはあれども、凄惨な迫力のあるものでした。
ライスさんが仰る「書く必要があるから書く」。このお話にライスさんが込める物を、今後のお話の中に期待していきたいと思います(^^) (志狗)
そしてこの「覚醒」が何のために引き起こされたのか。
次、行かせていただきます。 (U. Woodfield)
まずはそれらをなくして、再度自らがお書きになった文章を読んでみては? (真虞)