椎名作品二次創作小説投稿広場


初恋…?

そのいち。


投稿者名:hazuki
投稿日時:03/ 1/ 7

初恋というものは、誰にでも訪れるものであり、そして忘れる事のできない、思い出のひとつになる。


それは、いつもの日常の風景から始まった。

学校から、直接事務所にきたであろう横島は、ズボンのポケットに手をつっこみ、鼻歌を歌いながら、いつものごとくドアを開いた。

「ちわーっす」

きいっと木製のドアでしかありえない、音を響かせ事務所の中に入り視線をめぐらせた瞬間、横島はがちっとまるで魔法でも掛けられたかのように硬直した。

別に、見るからにムキムキのマッチョのおっさんが居るわけではない。(というかいたら嫌だ)

それどころか、ここにいる人物達は目の保養になると言ってもいいくらいである。

まず、ソファーに座り込み、話し込んでいる女性はここのオーナー、美神令子氏。

腰まで伸びる亜麻色の髪と、露出度の高い服装。そしてその服装に見合うプロポーション。

そして、華やかな、人をひきつける容姿の持ち主である。

年齢は二十台前半といったところだろうか?
だが、その外見の年齢に反し、浮ついたところは見えず、落ち着いたところすら見える。

そして、その美神たちにお盆にお茶を載せ運んでいる少女。
「あ、こんにちわー横島さん」

同僚の、氷室キヌである。(通称おきぬちゃんである)

年齢は十代後半だろうか?

艶やかな黒髪と、美神に較べると少々凹凸に乏しいが、充分ひきつけるに値するものである。

容姿も華やかなものではないが、充分整ったものである。

くるぶしのあたりまであるスカートがよく似合う。

「せんせーっ」

さらには、がばっと、横島が部屋に入るなり抱きついた少女。

(自称)弟子の犬塚シロである。

抱きつくなり、首に腕を絡ませすりすりと頬をよせ、さらには、何故かある尻尾を目一杯
横振りながら嬉しいというものをアピールする。

年齢は、十代前半だろうか?

二人とはちがう、艶やかとはいえない髪だが、よおく日に焼けたどこか健康的なものを感
じる。

前髪はメッシュが入っているが、それもよく似合う。

容姿は整ったとは言い切れないが、魅力てきなものでにっと笑うと見える八重歯がなんとも可愛らしい。

そして、まだもう一人いるのだがそれは、この場にいないため、言うだけ無駄であろう。

だが、横島を硬直させていたのは、それらの人物の誰でもない。

令子と、向かい合わせに座っている少女である。

シロが、犬のよーにまとわりついているが、横島はただ固まっている。

「・・?せんせい?どうしたでござるか?」

いつもは、暑苦しいなどといってくっついてくるシロを引き離すのだが、微動だにしない。

ただただ、目をひらき目の前にいるものを見ている。

シロとしては、横島にくっついていて怒られないのは、嬉しいのだが、こうリアクション
がないと何か不気味なものをかんじる。

横島は、シロの問い掛けには答えず、

「…夏子」

と呟いた。


(ウソだろう…)

横島は、シロにまとわりつかれている、事実にも気付かずただ、美神と話しているひとを
凝視していた。

その人物は、少女だった。

年齢は横島と同じ年齢だろうか?

良く焼けた健康的な肌、腰まである栗色の髪に同じ色の瞳。

標準を遥かに超えた容姿の持ち主であるが、どことなく勝気そうである。

見たことの無い制服を着ている処からこの付近にすんでない事が分かる。

いつもなら、一もにも無くナンパ(←セクハラともいう)をするのだが、
横島はただ凝視しているだけである。

はっきりいってこれは、異常である。

『あの』横島が、美女を前にしてなにもしないなんてっ!!

どんなに、飢えても、己の命があぶなかろーが美女を見たらそのままいくに決まっているのに。

シロも、やっとその事に気が付いたのか、慌てたように横島の腕にしがみ付き横島を揺らす。

「せんせいっせんせいっ!」

そして、その異常事態に他のメンバーも気づいたらしく、一斉に横島のほうを見た。

もちろんその少女もである。

かちりと、その少女も横島のほうを振り向く。

一瞬の、静寂

そして、その少女の表情が憂いげなものから、ぱあっと嬉しげな柔らかいものへと変化す
る。

それは、見るものを思わず惹き付けられるような華やかな、美しい表情である。

「横島…横島かっ!」

夏子はかたんと音をたて、その場に立ち上がる。

「よお…久しぶり。」

一方横島の表情は、どことなく暗いよーな、苦手といった感じで力なくそういうと、シロ
をひきはがしながら
思いっきり心の中でため息をついた。

ちなみに話を中断された形になる美神は、まるで白昼夢をみるように横島を眺めている。

おキヌといえば、あまりの出来事に、お茶をテーブルの上に置こうとして持ってきたお盆
をテーブルの上に置いてしまい、湯のみをもっていた。

「5年ぶりかあっ!横島ってココで働いてるんかっ!!」
と夏子。
その表情はさっきまでの思いつめたものとは違い、嬉しそうに輝き頬も微かだがさくら色
に染まってまるで別人のようである。

横島は、知り合いに(たとえ5年ぶりに会う、単なる同級生だとしても)会って安心して
いるのだろうと思い(第一この事務所に普通の人間(?)がいること自体ただごとでは無いのである。)

「ああ。俺ここで、GSの見習してんだ。」

と少しだけ、照れたようにいった。

だが、女性陣は女性独特の勘で「知り合い」では無く「横島」に会った為に夏子の表情が
変わった事に気づいたらしく、ぴきっと室内温度が下がる。

「ほーかあ、小学生の時は、そんな才能一欠けらもなかったのになー」

けらけらと、美少女にはにつかわしくない笑いかたをしながらぱんっと横島の肩をたたく。

「ってーっ相変わらず馬鹿力だなー」

横島のほうも、たたかれた肩を抑えながら苦笑している。

なごやかな、昔馴染みを思わせる…いわゆる二人だけの世界になりそーになった瞬間

ぞわりと、冷たい視線が集まっているのに気付ききょろきょろと周りを、見回すと

「・・・てあれ?おキヌちゃん?なんでお盆おいて湯のみ持ってンの?」

湯のみを持って、お盆をテーブルの上に置いているおキヌの姿が視界に入った。
んな湯のみを素手でずっと持ってて熱くないのか?というかだれも、何故気づかないん
だ?などと思いつつ、言う。

「え?あれっ!!あっすいません。」
おキヌは顔中真っ赤になり急いで(?)湯のみを置きお盆を両手で持つ。

手のひらは、赤く染まっているが、それを熱いとも言わない。

ほんとーに、大丈夫だろうか?と思っていたら

「同窓会は、後でやってもらうとして、仕事の続きさせてもらっていいかしら 横島クン」

との優しいと言える程の口調でのたまわっている言葉が降ってきた。

もちろんその言葉の主は、敬愛する美神令子オーナーである。

どうやら自分が無視(?)されたのが気に食わないらしい。

しゃきっと横島の背筋が一瞬にして伸びる。

これは、いちおー目の前に、お客さんがいるので一応我慢しています。と言ったところである。

表情はこれ以上もなく優しいが、ぴくぴくとコメカミの筋肉が痙攣しているのがわかる。

それは、これ以上話の邪魔をしたら問答無用でしばかれる。しばかれるったらしばかれる。

横島は尋常ではない、命の危険を感じ、いつの間にか後ろから自分の首に腕を絡ませたシロを引き剥がし、

「ー!はいっ!ほらっシロっさんぽ行くぞっ!」

そして、シロの首根っこをひっつかまえ、事務所から出て行った。

「さんぽっ。さんっぽでござる!」

さんぽという、単語にきらーんっと目を光らせシロ。

この上もなくうれしそーだ。

横島が、シロを引っ張っていたのに、いつの間にかシロが横島をひきずっている。

ずりずりとすでに、壊れて寿命が尽きているではなかろーか?と思ってしまうママチャリを事務所の倉庫の隅っこから引き出し、ロープを括りつけ、更にシロの腰に巻きつける。

傍からみれば、万人が後ずさる光景であること間違いない。

が、巻きつけられたシロはもうこの上なく嬉しそうなのだ。

「さんぽーさんぽー…嬉しいでござる」

うっとりと、まるで夢見る乙女のよーに言うその台詞。

…いや何も言うまい。

横島は、そんなシロの様子も慣れているのかなにやら諦めたように苦笑し

「今日は、ちょっとだけだかんな」

と言った。

「はいっ。でござる。」

うきうきっとシロ。どこまで聞いているのか、とても怪しい。

横島は、必要以上にはきはきっとしたシロの返事に胡散臭いものを感じつつも、かしゃん
と、自転車に乗り込んだ。


そしてお約束どーりというか、なんというか

「のわわわわわわわわあああああっ」
迫り来る景色、頬をうつような、風にさらされながら、横島である。
「さんぽでござるうっー」
とシロ。

シロは横島が、自転車にまたがった瞬間全速力で走り始めたのである。

「・・・うわああああっ死ぬぬぬううう!!
     ししししんご・・・・・あかー!!!!ーーーー」

そして、横島の喧しい(?)叫び声がこだますること50分。

2人(一人と一匹?)は事務所からかなり離れた公園にいた。

「うわー気持ちいいでござるなっー・・いてっ!!」
ちなみにシロの「いてっ」は横島に殴られた為出た言葉である。

シロはなぜ殴られたか理解できなかったので不満の意を込めて睨みつけようとしたが、

横島のこめかみに浮かんだ血管を見た瞬間、自分の顔から血の気がひくのを感じた。

「……」(どうやら叫びすぎた為声がでないらしい)

「せ、せんせい?」

最早シロの表情は、そのなの通り、白かったりする。

横島は、何度か、深呼吸をし

「こんのバカ犬っ!!何度も言わせんなっ!!止まれといったら止まれ!!いきなり全速
力で走んな!今度という今度は安楽死させるぞっ!!」

通行人が、思わず振り返るほどの大声である。

「す…すまないでござる。」

しゅん、と尻尾を垂れ下がる。
一気にまくし立て肩で呼吸している横島は、シロの謝罪の言葉を聞くと今度は軽く後頭部を平手でぱしんと叩いた。

「ったく。今日がさいごだかんな。今度したら サンポつれいかねえぞ。あー喉かわいたなあっ」

と横島は近くにある、ややくすんだ木製のベンチに腰かけるとわざとらしくいう。

「じゅーすでも買ってくるでござる!!!」

がばっとうな垂れていた顔を上げ、シロは、たたたたっと軽やかに走っていった。

「…しゃあねーな。」

どんどん遠くなっていく、シロの背中を眺めながら、横島はぽりぽりと、頭を掻いた。

苦笑めいた表情で、でも、と考える。

なんでシロは、すぐに全速力で走ったんだろうか?

この前、街中でトラックにぶつかって以来(←ぶつかったのはもちろん横島)市街地では全速力で走ることはなかったんだが・・・・

(まーあいつ犬だし)

学習能力なさそーだしなあと思いシロのジュースを待った。

一方シロ

シロは自動販売機の前で、首をかしげていた。

(ううむ)

どうも、おかしい。

何故だろう。シロは夏子の傍にいたくなかったのだ。

いや正確には、横島を夏子の傍に置かせたくなかったといった方が正しいかもしれない。

夏子を見た時の横島の表情を見たくない。

ちゃりん

コインを入れ横島の好きなジュースのボタンを押す。

(ぽかり・・でござるな)

横島の好きなジュースを知った時、シロは嬉しかったのだ。

自分の知らない横島のことを知れて。

それからはシロも「ぽかり」しかのんでないのに、だけど「夏子」を見た時の横島は嫌だ
った。

自分の知らない横島を見れたのに。

横島は、夏子を見て自分の知らない表情をしていたのに。

がたん

ポカリをポケットから取り出す。

(知らないせんせいを知る事はいい事でござるよな?)

うーん?

首を捻り考えるが、わからない。

「考えても、分からないなら仕方ないでござる」

そうひとりごちながら、シロはポカリを手の中でもてあそびながら、横島の元へと向かった。


つづく


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