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スイーパーズ&ベイビー

戦果


投稿者名:矢塚
投稿日時:02/12/11

 
 あまりの成り行きに、なすすべも無く一同は令子の張る結界に非難していた。
 倒した3人の魂が融合し、とてつもない霊力を秘めた存在になりつつあったのだ。今の
状態では手の出しようが無い。おキヌ、シロ、ピート、忠夫は力のほとんどを使い果たし
ていた。
「ちっくしょう。この為にわざわざ殺されたってのか?」
 忠夫の呟きに、令子が返す。
「そうね、異端を憎んだ挙句の果てが悪霊になりおおせる事とは、あきれ果てるわね。」
「・・・いや、そうじゃあないな、この波動、悪霊というよりも精霊に近い。なかなかど
うして、やってくれるよ。」
 唐巣神父が、皮肉交じりに言う。
「私が、戦おうか?」
 タマモが令子に言う。
「駄目よ!あんたは万が一に備えて、志緒を守りなさい。もしもの時には、あんたしか飛
べないんだから。」
 真剣に諭し、タマモを抑える。珍しく、しゅんとするタマモを見て令子が口を開く。
「みんな、ごめん。うちの子のためにこんな目にあわしちゃって・・・でも、ありがとう。」
 感謝を込めて言うが、まともには皆の顔が見れない。そのしぐさに全員が苦笑する、や
っぱり筋金入りの意地っ張りだと。
 目の前の精霊になりつつあるものに、最後の異変が起きた。どこからかとんできた霊魂
が融合したのだ。それを機に精霊は飛躍的に成長し、人の形をとり始める。
「ママが、残りの奴をしとめたのね、こりゃあもう、時間が無いわ。」
 令子の台詞に呼応するように、精霊の霊力は上がっていく。目鼻立ちがだんだんと現れ
る。それは、ハインリヒの顔に良く似ていた。
「こうなれば、手段は一つ。タマモ、あんたの文珠を私に。『同』『期』『合』『体』で
いくわ!みんなすまないけど、結界の維持を引き継いで。なんとか持たせて。発動に少々
時間を食いそう。タマモは戦況が危なさそうになったら迷わず妙神山へ、いいわね?」
 ほとんど全員がこくりと頷く。
「ちょ、まって。この状態で合体したら俺が死んでしまう。」
 忠夫の台詞に令子が返す。
「なーにを今さら!言葉の割には、やる気まんまんじゃん!!」
 相変わらずの二人にその場の空気がなごみ、一同に活力が戻ってくる。
 突如、人間大になっていた精霊が口を利く。
「我は、かつてハインリヒと呼ばれたGS。運命の導きにより、精霊としての転生をはた
した・・・さあ、異端者ども覚悟を決めよ。」
 精霊の力は強力だった。流石もと一流GSだっただけはある。中級魔族程度であろうか。
 精霊のかざした手から、神聖な霊気が放出される。細く、極限まで収束された一撃が結
界にぶち当たり、きしませる。
「いけない!これは長く持ちそうに無いです!」
 最後の力を振り絞っているおキヌが叫ぶ。
「先生!早く!!」
 意識を取り戻し、結界の維持に努めるシロも叫ぶ。おキヌ、シロ、ピート、タマモ、唐
巣が全力で結界を維持する。
 いつの間にか志緒は目をさまし、泣きもせずに彼らの背中を見ていた。ただじっと。彼
女は今日のことを覚えているだろうか?自分の為に命がけで戦う者たちの背中を。
 霊力の同期には思ったより時間を食いそうだった。疲れ果てた二人の霊力が、安定して
いない。
「まずいわね・・・タマモ、結界はもういいから・・・後を頼むわ。逃げ切るだけの時間
は何としても稼ぐから・・・」
 素直にタマモが従い、志緒を抱えあげる。志緒はその小さな瞳で、最後まで戦おうとす
る両親をじっと見つめていた。
 精霊の渾身の一撃が、その手から解放たれる。
「タマモ!!」
 忠夫と、令子の叫び。
 しかし、直撃はなかった。結界の前に立ち塞がった人物によって、その攻撃は軌道を逸
らされていた。
「ママ!!」
 そこには、アシュタロスの一件での功績により賞与された竜の牙をハルバートに換え、
仁王立ちしている美智恵がいた。
「みんな、頑張ったわね。後は、私が時間を稼ぎます。」
 力に満ち満ちた言葉に、皆が頷く。
「私は結界維持に回ります。」
 唐巣卿は最大出力で結界を強化する。
 精霊は美智恵の力を見て取ったか、おもむろに近寄ってくる。
「いきますっ!!」
 必殺の気合と共に、美智恵のハルバートが突き出される。両手を交差し体の中心で精霊
が受け止める。
「いやあああああああ!!」
 お構いなしに、押し込む美智恵。精霊は堪えたままの格好で、後ろに押されていく。精
霊の肩甲骨に当たる部分から手がもう一本生える。その手から、霊気の弾丸が立て続けに
放たれた。横にかわす美智恵。かわしざま横なぎに、精霊のがら空きになっているわき腹
に向けハルバートをたたき込む。わき腹からは霊波刀が現れ、それを受け止める。
「ちいっ!」
 美智恵はすばやくハンドガンを取り出し、目くらましの銃弾をばら撒くがさほどの効果
は無かった。苛ついたように精霊が霊波を乱れ撃つ。直撃さえなかったものの、あまりの
威力に美智恵が吹っ飛ばされる。瓦礫に挟まった美智恵が荒く息を整える、すでに一線を
退いて久しい為か気持ちに体がついてこない。娘夫妻を見やるが、あと1〜2分はかかり
そうだ。持つのか?一瞬だが、不安がよぎる。その不安を見透かしたかのように、精霊が
襲い掛かる。完全に心の空白を突かれる美智恵。体勢が整っていない。
 しかし、精霊の攻撃は美智恵に届かなかった。精霊は突如として飛び込んできた者に、
弾き飛ばされていた。精霊にタックルをかけた人物が、美智恵に手を差し出す。
「雪之丞!?」
 ピートの叫び。
「なんとか、ぎりぎりセーフよ、雪之丞君。」
 美智恵が言う。
「すまねえ。これでも急いだんだぜ?電話から20分くらいだろう?」
 悪びれた様子もなく、雪之丞が答える。美智恵がヨゼフに向かう途中で招集をかけた雪
之丞が何とか間に合った。
「雪之丞君、2分ほどお願い。これを使っていいわ。」
 いくらか、安堵の混じった口調で美智恵が竜の牙を渡す。雪之丞は結界内で同期に集中
している二人を見やり、了解する。
「ちっ!たった2分の為に呼ばれたのか?いいとこ無しだな。」
 深紅の魔装術に身を包んだ雪之丞が、拳を鳴らしながら言う。
「まあいいや。事情はそれなりに聞いてるし、同じく子供を持つ親としてこいつは気にい
らねえ、俺が始末してやるよ。」
 雪之丞が、立ち上がった精霊に吐き捨てる。
「いくぜ!!」
 そう言うと共に、竜の牙が変化する。変化したそれは、巨大な鎌だった。死神が持つに
ふさわしい、命を刈り取る大鎌。雪之丞の大鎌の一撃が、精霊を襲う。霊剣2本と、もと
の腕の4本で受け止めるが無駄だった。
「うおおおおりゃあああ。」
 力任せに、4本の腕全てを断ち切る雪之丞。
「うぐあああああ!!」
 初めて、精霊が悲鳴をあげる。
 しかし、すぐに腕を復元し雪之丞に霊波砲の雨を降らせる。魔装術の装甲で耐える雪之
丞、追い討ちをかけた精霊の拳がヒットし瓦礫の中に派手に突っ込む。
「こいつは、少々手強いな・・・」
 彼が竜の牙を使用しても手強い相手に、身震いする。
「へっ!久しぶりに、楽しめそうだ。」
 雪之丞は大鎌を振るい、精霊の腕を切り落としていくが、後から後から再生していく。
腕が邪魔で本体に切り込めない。まだ同期は終わらないか?雪之丞が、結界内の二人を見
れば今まさに、合体する寸前であった。それを見た雪之丞に隙がうまれ、精霊が最大の霊
波砲を浴びせる。
「まずった!」
 全力で防御する雪之丞。爆風と土煙が舞い上がる。精霊は、雪之丞のいた方向に目を向
け様子を伺う。反撃はない。仕留めたかと思う精霊は、とてつもない霊気の発生を前方か
ら感じた。土煙がおさまり、視界が戻ってくる。
 精霊の前には、同期合体をおえた令子がかつて無いほどの怒りを湛え、立っていた。最
大の攻撃は、事も無げに防がれていた。その顔は怒りに燃え、キャラクターが彼女なのも
頷ける。
「・・・待たせたわね。さて、フルパワーでお礼をしてあげるわ・・・私にたてついた代
償がいかに大きいか、身を持って知りなさい。」
 静かに、そして慈悲無く言い放つ。その振る舞いは、母である美智恵に良く似ていた。
 桁違いのパワーに、精霊がたじろぐ。
「くらえーっ!!」
 令子の渾身の右ストレートが、精霊を捉える。あまりのスピードに直撃をうけ、後ろに
ぶっ飛ばされる精霊、そこに追い討ちをかける。
「よくもまあ、うちの子をさんざんぼろくそに、言ってくれたわねえ!」
 言いつつ、令子の拳が右に左にと精霊を捉える。殴られるたびに精霊の霊力がそがれて
いく。
「なんと、なんと言うことだ・・・我は、人々の平安の為にこそ・・・」
 口惜しそうに、精霊が言う。勝負の結果はすでに見えていた。
「あんた等の言う正義は、疑わしきは弁明も反論も与えず罰するだけの、陳腐なもんだわ
っ!そんな程度で志緒を殺そうなんて、ふざけてんじゃあないわよっ!」
 令子の怒号が、拳と共に繰り出される。
「いい?これは、おキヌちゃんの分っ!」
「シロの分っ!」
「ピートの分っ!」
「タマモの分っ!」
「神父の分っ!」
「ママの分っ!」
「唐巣卿の分っ!」
「雪之丞の分っ!」
「人工幽霊一号の分っ!」
「今まで殺した者の分っ!」
 次々と拳が、精霊を砕いていく。精霊はもう、立つ力も残っていなかった。
「でもってこれが!うちの亭主と、志緒と、私を馬鹿にした分よーっ!!!」
 最大出力の霊波が放たれ、断末の悲鳴と共に跡形もなく精霊は消え去った。

 精霊の消滅を見届けると、二人は合体を解く。それと同時に、雪之丞以外がその場にく
たくたと座り込んでしまった。
 志緒を守り抜いた喜びは別にして、全員の胸はあまり晴れなかった。後味の悪すぎる戦
いだった為であろうか。GS同士が殺し合う、凄惨な戦い。双方の理解が違うだけでこう
も立場が変わるのだろうか?どちらがGSとして正しかったのか?
 答えなどない思いに、皆が囚われる。
 もしかしたら明日には、自分が第二のハインリヒになるのかもしれない。その、あまり
にも苦々しい思い。
 そんな一同を眺めていた雪之丞が、つと立ち上がりタマモから志緒を取り上げた。腕に
抱えた志緒を美神夫妻に見せる。
「どーした?らしくねーな?この顔を見ろよ!この笑顔が報酬じゃあ不満か?まったく、
困った両親に当たっちまったなーおい!厭になったらいつでも俺のとこに来いよ、3人が
4人になっても、ちっとも困らんからな!」
 器用にあやす雪之丞に、志緒が笑う。
「雪之丞・・・」
 忠夫の親友に対する、感謝の込もった言葉。他の一同もつられたように、志緒の周りに
集まる。
 ふいに、志緒の手から光がこぼれる。その光は、感謝の想いと幸福感に満ちていた。
「志緒?これは・・・」
 令子がそっと志緒の手を開くと、文珠が発動していた。文字は、
『幸』
 唐巣卿がやさしく言う。
「ほら、言葉はまだですが、心はしっかりしているようだ。」
「ええ。」
 美神夫妻が万感を込めて答える。
 志緒の笑い声と、笑顔が全員に振舞われる。先ほどまでの憂鬱が、嘘のように氷解して
いく。
 その笑顔はこの戦い唯一の報酬であり、彼らが手にしてきた中で一番価値ある報酬だっ
た。

 その後、第二のハインリヒは現れなかった。志緒は何の危険にさらされることなく、成
長していく。

 この戦いの20数年後、美神志緒というその容姿は美しく、慈愛に満ちたGSが勇躍し
たのは、言うまでもない。

                       
                     おわり


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