じっとりと、小さな水滴が琥珀色液体の入ったグラスを濡らす。
─からん。
女性は、ぐるりと半分以上中身のはいった─けれど、もうなかにある氷は当初の半分以上の小ささになったグラスを回している。
視線は、じっと空に固定されたままだ。
なにか、考えことをしているのだろうか?その表情は恐ろしく真剣で、そして、切羽詰まったものがある。
なのに、その瞳の色だけは冷静だ。
この女性は、冷静さを失ったら負けだということを知っているのだろう。
─ぴくりと、女性のグラスを回す手が止まった。
そして、空へと固定されていた視線が、雪之丞へと、向かう。
(気持ちよさそーに、よく、寝てるなあ)
一瞬口元が緩やかに、上がる。
「起こすのは、可哀想だわよね」
逃げ切れるのならば、その可能性が、あるのならば、問答無用で叩き起こして、共に逃げるけれども…
いままでずっと、そうしてきたのだけれども…
「この、状態じゃ無理だわよねえ」
女性は、苦笑まじりに、言い。目の前にいる、【ニンゲン】を見た。
それは、ニンゲンの、男だった。
歳は二十台後半だろうか?
顔の作り自体は悪くない、まあ二枚目半といったとこだ。
肩まである栗色の髪をゴムで一つにくくっており、濃紺のシャツにデニムのパンツといったいでたちである。
ごてごてと、首やら、腕やら金属製の飾りをつけており似合わないということはないがどこか煩い印象がある。
まあ、ごくごく一般の若者といえばいいのかもしれない。
が、その空気、そして表情が、彼をニンゲンというには、「普通」のニンゲンというのには一線を画するものがあった。
彼は、流れるような動作で一礼をし、まるで唄うような口調で、言う。
「黄泉の国へとお迎えにきました」と
人好きのしそうな、だが、気持ちのいいものではない笑みで
きっと、ひとのいいと言う事のできるであろう、その笑顔は、不気味としかいいようがない。
両端に吊りあがった唇は笑みの形を確かにつくっているのに、歪んでいるとしか表現のしようがないのだ。
「あんた、魔族じゃないわよね?」
グラスを手にしたまま、女性。
「ああ、れっきとしたニンゲンですよ、私は」
まあ、ちょっとばっかし、普通とはいいがたいけどな。と笑う。
「なんで、ニンゲンが私を、殺しにくるの?」
なごやかな、自分を殺しにきた人間を前にしているとは言い難い、穏やかな態度である。
「そりゃ、まあアナタは、魔族と相性最悪ですから、非力なのに、【感知】するのだけは、一流以上のものをもって…闘うなら、ともかく逃げる事に徹すられると、捕まえるのが難しいだとのことだそうですよ」
いっぽう男のほうも、穏やかな、ものである。
「そして、私に白羽の矢がたったのです、あることと引き換えに」
能面のように、穏やかな笑顔を貼り付けたまま男は、言う。
今時の軽薄な外見には、似つかわしくない。
「─だから、可哀想ですけど、死んでくださいね」
つづく
つーかスランプだなあ(苦笑 (hazuki)