椎名作品二次創作小説投稿広場


妄映

恋愛


投稿者名:YOSI
投稿日時:02/10/ 4

放課後の学校
夕陽が射し込む教室の中
一組の男女が向かい合っている

「来てくれたんだ・・・」
夕陽を背に古ぼけた机に腰掛けながら
黒髪の女生徒は向き合っている黒髪の男子生徒に語りかける

「何だよ、大事な用って。」
男子生徒は夕陽の光を真正面から浴びながら
いつもと変わらない、ぶっきらぼうな口調で用を尋ねる

「ちょっと歩きながら・・・喋ろ?」
答えを出さない女生徒
男子生徒は、それに無言で頷き、了解する
そして二人は歩き出す
思い出の場所を

「私がアナタと初めて逢った時、酷いことしちゃったね・・・」
遠い過去を振り返る様に女生徒は呟く
男子生徒はそれには答えず黙って歩く

「バレンタインの時も・・・みんなの前で打ち明けられなかったし・・・」
面白いことでも思い出したのか笑いを交えながら女生徒は続ける
男子生徒は思い当たることがあるのか、表情が仏頂面に変わる

「でもね、もうあの時は・・・好きだったんだ。」
女生徒は言葉の後半を恥ずかしさからか
ひどく小さく呟く

「・・・えっ?」
男子生徒は余りに突然な告白に固まり
ひどく間の抜けた声を出し、呆然とする

「アナタがお母様と一緒に海外へ行くって聞いた時、引き留めようと思った・・・」
男子生徒が固まるのを見ながら
女生徒は更に言葉を続ける

「でも私じゃ、お母様は許してくれないと思ったら・・・そう思ったら、笑顔で見送るしかできなかった。」
その時の事を思い出したのか
女生徒の表情がひどく哀しげなものに変わる
そしてその瞳から一筋の涙がこぼれ落ちる

それを見た男子生徒は女子生徒を
ひどく繊細なものを扱うかのように優しく抱き寄せ
安心させるためか、力強く抱きしめた

「横島君・・・」
身長差からか女生徒―――愛子は、男子生徒―――横島を上目遣いに見る
横島も、それから瞳を逸らさずに見つめ返す
そして二人は瞳をゆっくり閉じ、顔を近づけ―――

ブロロロロロロロ  キキッ!!
ドガッ  バタン!!

唇が重なるまで後少し、というところで校庭から物凄い音が響く。

ダダダダダダダダダダダダダ

そしてこの音の後に続く言葉といえばもちろん、
「横島ぁぁぁぁぁぁ!!」
だろう。

「みっ!美神さん?!ちっ、ちが―――」
横島はなにやら言おうとしていたが恐怖からだろう、思うように言葉に出ない。

「問答無よ―――!?」
言葉どうり問答無用で殴りかかろうとした美神の視界に第三の人影が映る。
その影は手に持っていた筒状の物を口に当て、

「カァァァァァァット!!」
泣いている子供ですら驚いて(一瞬だが)泣き止みそうな大声をあたりに響かせる。

「へっ?」
美神にしては珍しい、間の抜けた声がその口から漏れ出てくる。

「何すんのよ!!せっかく撮影していたのにっ!!」
人影はそれを無視し、文句をいい始めた。

「さっ、さつえい?」
まだ事態がのみこめず、影――映研部長、小原の言葉を反芻する美神

「学園祭の出し物で映画を作ることになったんですよ。」
美神から見て横島の後ろに隠れる位置にいた愛子がそこから出てきて説明し、
そして何処に隠し持っていたのか台本を出し、美神に手渡す。

「・・・何なのよ!!この『女子高生が好きな男子に告白』っていうベタベタな設定は!」
美神は暫くその台本に目を通していたが、ある程度まで読んだのか本を閉じ、そして言った言葉がこれだった。

「うっ!・・・わっ、私だってこんなゴミのような台本使いたくなかったわよ!!」
それに同意いしつつ弁護のようなものをのたまわる小原。

「時間と予算があれば、もっと良いものを作るって?所詮『部活』レベルね!」
いつもの調子を取り戻したのか今度は逆に攻めに回り、喧嘩腰で喋り始める美神

「なっ!そっちこそ、何でこの撮影のことを知ってるのよ!?」

「当たり前よ!!この学校の至る所に監視カメラ埋め込んでるんだから!!」
犯罪レベルのことを臆面も無く言い放つ。
・・・こんな自白の様なミスをするあたり、美神はまだ調子を取り戻していないようだ。

「それより、あんた何で前みたいにカットしたりしないのよ!」
しかし、そこを突かれる前に美神は一気にまくし立てる。

「決まってるでしょ!二人の演技がムードだけじゃなく本物の感情を持ったカットする必要の無い物だったからよ!!」
カメラの件を煙にまかれた事に気づかずに反射で答える小原
しかし、この『自信ありげに断言する』という行為。
それは美神を不安にさせるという意味では最高の選択だった。

「ほっ、本物?・・・あんたねぇ!人の丁稚を―――」

ギャーギャーと騒いでいる二人を後に横島はその教室から出ていき、
愛子は一つ大きく溜め息をついて、自分自身でもある机に腰掛け二人の口論を呆然と眺め始めた。
もう撮影は終わりだと知っていたから。

                ・
                ・
                ・
                ・
                ・
                ・

どこかの教室

「落ち着けぇぇぇぇ!あれは演技だっ、演技なんだぁぁぁぁぁぁぁ!!」
誰もいない教室で独り、本能と理性の狭間で揺れる獣がいた。

「でも愛子、抱きしめた時、結構胸が・・・ああっ!もう何が演技で何が現実か判らないぃぃぃ!!」
・・・訂正、単なる獣だったようだ。



一方、愛子は目の前で不毛な言い争いを繰り広げている両者をしり目に
(あ〜あ・・・青春の味、知りたかったなぁ・・・)
と、苦笑しつつも考えていた。


追記―――後日これ(美神が乱入する直前部分まで)は無事、学園祭で放映され色々な意味で話題を呼んだ。
(その中の一つに、『あれではカットされてるが、実際にはキスしていた』と言う噂が流れ、ある男子生徒が校内のほぼ全ての男子生徒と数人の教師に血祭りに挙げられたという事を記しておく。)


今までの評価: コメント:

この作品へのコメントに対するレスがあればどうぞ:

トップに戻る | サブタイトル一覧へ
Copyright(c) by 溶解ほたりぃHG
saturnus@kcn.ne.jp