―からん。
と音を立ててグラスの中の氷が溶ける。
女性はグラスを手の中で回しながら、琥珀色の液体に映る月を見ている。
窓枠に腕を置き気だるげに、苦しげに─
傍には、健やかに寝息をたてている雪之丞。
そして安物のウイスキ−が置かれている。
今日、雪之丞は一日ミニ四駆の改良に、勤しんでいた。
今度こそ、一番になるのだといいながら―そして守ってもいいって言わせると何度も繰り返しながら。
別に、一番になれたら守れる力を得ることができる訳ではないのだが、それでもそんな風に考える『我が子』の気持ちが嬉しくてゆるりと、口元に笑みが浮かぶ
そして―想う。
自分は、何時まで生きていられるだろうか?と。
多分、もうすぐ自分は、死ぬ。
これは厳然たる事実だ。
この能力―『時間移動能力』のために
何故、この能力の者が狙われるのかなど知らない。
ただ一つ分かるのは、この能力を持っているものは、魔族から狙われるということ、そしてその魔族を退ける力は自分にはないということ。
今まではなんとかやってこれた。
けれども、もう限界だということは分かっていた。
元々自分にはGSの力は、いいとこ二流というところなのだ。
それに、不相応な能力がついているだけなのだ。
はっきし言ってそんなもの―時間能力など自分では一度も欲しいと想った事はないし使った事も数回だ。
けれども、それをもっていると言うことだけで―狙われる。
「モテル女は辛いわねえ」
一気に飲み干し、女性。
言葉こそ軽いがその表情は苦しげですらある。
そして、雪之丞へと視線を移す
健やかに、眠っている『我が子』―
―このままだとこの子は、親をなくしてしまう。
このまま死ねない―と想う。
けれでも、それは無理だと言う事もわかる。
だって強すぎるのだ―今の自分にはどうにもならないくらい。
相手がもう自分の力量を遥か超えているのだ。
諦めないでいればなんとかなるなどとレベルではないのだ。
冷静に、そう判断する。
女性は、そっと雪之丞の頬に触れた。
暖かい、その温度が愛しい―
死にたくない─
この子を置いて、逝きたくない─!!
ぐっと唇をかみ締め、身体の中で暴れくるう激情に耐える。
拳を握り締める。
身体が恐怖のために、細かく震える。
もし、思いでなにもかもが叶うというのならば、きっとこの女性は死ぬ事もないだろう
。
それくらいの強さで思う。
─死にたくないと
それでも、どんなに、思っても、願っても、出来ない事があるということは知っているのだ。
ならばせめて─この子の命を─
月明かりの中、女性は、きっと何かに挑みかかるように顔を上げ─
覚悟を決めた。
つづく
強くない女性(ひと)の制御できない狼狽が聞こえてくるようです。
うーん、引っ張るひっぱる。(笑) (みみかき)
もう、心にずしーんと来ましたね。
血湧き肉踊る盛り上がりですよ!
訳わかんなくなんか無いですよ!
嗚呼……続きが読みたい……(泣←今まで、溜めて一気読みしてたから) (魚高)
時間移動能力者……美神家だけがそうだとは限りませんからね。
事情も知らずに殺されていった能力者もきっといたはずです。
辛い話です。 (U. Woodfield)