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バタフライキッス

悠遠の『I』


投稿者名:ダテ・ザ・キラー
投稿日時:02/ 8/25

気持ちを落ち着けて、感覚を拡散するイメージ。それをすべきだと教わった。
相手の存在を気取る、などという妄想を信じる必要はない。
ただ、我を捨てれば自分の神経が本当に体外へ伸びたように、匂いに敏感になれる。
相手の気配などというものは存在さえ危ういが、自分の感覚はれっきとして存在する。
それを延長することは出来る。ソレができなくば、まともに戦うことは出来ない相手だ。
だが彼女は、それをあっさり拒絶した。
それは純粋に――純粋という単語がえらく不似合いだが――彼女の反抗心によるものだった。
本人は自立心と訂正したかもしれないが、とにかく感情的に反発したのは間違いなかった。
風――いや、空間――そうでもない、言うなれば『時間』が軋む。
「来た!」
経験からいって、この科白を発した瞬間を、彼女自身は知覚したことがなかった。
いつもその言葉を反射的に紡ぐが、その自分の言葉を耳に拾ういとまがあったのは、今日がはじめてだった。
ぎゃばばばばばばばばばびりびりびりびりぃ
閃光が、霧状の別の光に引っかかって進行を阻害されていたのだ。
「眷…族?」
閃光は緊張感を逸しつつぼんやりと呟く。
ビュバッ
一足飛びに間合いを詰め、剣戟を閃光に見舞う彼女。閃光は気づけば、人型を成していた。
ガキィンッ
剣を打ち合わせる鋭い音。
リーチで圧倒的に劣っている彼女の攻撃は、見切る時間を相手に与えてしまっていたのだ。
だが、これで充分。間合いを詰めてしまえば、力比べには自信があったのだ。――彼女の考えだ。
視認することもかなわない速度で相手は動き回るが、組み合ってしまえばそれも迂闊には出来ない。――彼女の勝算だ。
「やぁぁぁぁぁぁッ!」
咆哮をあげたのは、その迂闊には動けないはずの者だった。
ギュオォォォッ
「う…嘘でちゅーーーッ!!?」
ヅドォンッ
己が存在する時間そのものを歪められて、彼女――パピリオは力を拮抗させることもかなわず吹っ飛ばされた。
「負けた………また…負けたでちゅ……」
崖の亀裂に巧い具合に天地真逆に埋まりながら、空虚な呟きを発していた。
鼻が痛い。それはそうだろう。逆さ釣りの状態で涙ぐむと、誰でもそうなる――。

バタフライキッス〜楽園、それは――〜

「大人気ないにも程があるでちゅよッ!パピリオは神族じゃないんだから、お客様としてもっと丁重に――」
「だから先読みの感覚を養う修行だと言ってるでしょッ!?なんですかそっちこそ毒蛾で罠仕掛けといてッ!!」
目覚めて開口一番、小竜姫に文句を言うのは最早定例行事と言えた。
小竜姫も最初は冷静に切り返していたのだが、こう連日にわたって不平不満を訴えられては参ってしまう。
「先に仕掛けるのはいつも姫のほーじゃないでちゅかッ!先読みが聞いてあきれまちゅ」
「名前なんてどうでもいいんですッ!貴女はその大き過ぎる力を律する術を学ぶためにここへ来てるんですよ!?」
「まなばなくったって困りまちぇん!もーやだ帰る帰る帰りまちゅーッ!!」
とはいえ、これはパピリオの方便だった。彼女には帰るトコなどありはしない。
それは承知の上で、小竜姫は彼女がそのように思いつめるのに気をもんだし、
小竜姫のそうした心配を誘うためにパピリオはそうやって駄々をこねた。
「老師…」
そうやって困り果てた小竜姫は師である斉天大聖に助け舟を求めた。
彼はひとしきり髭をしごきながら言ったものだ。
「パピリオはお前をきらっとるようじゃし、それはあまりよい兆候ではない。
なおかつお前自身の独力で解決できないとしたら、いよいよとなったら少々乱暴な方法しかない」
その言葉が指し示す意味は、殺処分。
なぜなら魔族であるパピリオが殺意をもって神族のテリトリーで力を解放するのは非常に困る。
過激派などという勢力が、魔族にしかないと思うのは偏見である、ということだ。
パピリオは元々魔界出身ではないので、彼女の身柄を庇う決定は魔族軍上層部は下さない。
となれば、パピリオをよしとしない神がいれば、彼女の存在は和平において百害あって一利なし。
無論、斉天大聖はそんな手段を望んではないため、そのような「いよいよ」は永久にこないだろう。
だが、非常に聡い彼の弟子は、それに気づいてしまっていたため、彼のこの脅迫まがいの発言は
弟子の尻に鞭を打つ役に立つことはなかったようだった。
「ふんッ、とりあえず基礎訓練はやってきまちゅ。ただしこれは譲歩でちゅからね。
加速状態の姫と仕合うなんて絶対付き合いきれまちぇん。そこは、そっちが譲歩するのが取引でちゅよ」
言って、帽子を忘れずに掴んで飛び出してゆく。
「老師」
もう一度、今度はハッキリと呼ぶ。
「私には…私にあの子を抑え込めるとお思いですか?」
「ふむ…ならば、逆に尋ねよう。あの子に鎖は必要か?抑え込むことなど考えるな。
あの子はただ、はじめてぶつかった壁にとまどっているだけだ。じきにまた羽ばたく。
修行場の管理人として、お前が見出さなければならないのは、お前自身の不安があの子に与える影響だ。
お主には自分が信じられない時があるか?少なくともワシにはある。無理はせず、本人の独力を信じて待て」

滝壷だった。帽子はせっかく持ってきたが、わざわざ濡らすのもバカバカしいだろう、岸に置いておく。
やらなくてはいけないのは基礎・応用の二種類のメディテーションだったが、とりあえず基礎などやる気はない。
時間に余裕が出来たので頭から水中に突っ込んでからプッカリ浮かんでしばしボーッとする。
ここへ来てそうさほど時間は経たなかったはずだが、頭髪はずいぶん伸びた。
おかげでシャンプーの減りが早いと小竜姫がぼやいていた。ザマーミロだ。
「勝てない…小細工とかじゃなく、まるっきり追いつけない……」
この辺が自分の限界なのだろうか?信じたくない――だが現実は残酷にも、身体は疲れ、足掻くことを諦める。
一瞬、姉達の顔を思い出す。まさか、自分は今、彼女らを頼ろうとしただろうか?
有り得ないことだ。あれほど身近にいた時も、協力はあくまで相互。小さいからって甘えはすまい。
本人はそれを自立心と呼んでいる。それが、小さな虚勢に終らないところに、彼女の強さがうかがえた。
今の自分には、彼女らに与える余裕が何もない。誰の協力を得られるだろう?
考えるのをやめて、彼女は妙神山を後にする。

今日も今日とて、美神除霊事務所は仕事中というのに…いや、仕事中だけに賑やかなことだった。
「シぃぃぃぃぃロぉぉぉぉ…タぁぁぁぁぁマモぉぉぉぉぉぉぉぉ……なんとかしてーッ!」
「心得てござる!今しばし辛抱してほしいでござる」
「どこの囚われのお姫さんだっつーのよ、アンタは…?」
助けを求める声に、かたや発奮し、かたや自分の瞼を数回撫で回して疲れた吐息を絞る。
場所は高速道路の高架下。
こんなところに上を走る車から引きずり込まれた哀れな横島を救出にこれたのは人外二匹というわけだ。
ごあぅ
聞きなれない叫び一つあげて、悪霊が周囲をスパークさせると、そばに廃棄されていた自動車がごっそり抉れる。
――痛そう…
タマモは思わず顔をしかめる。あんなもの喰らったら、人間より丈夫に出来てたところでダメージあるのは変わらない。
「どーする?狐火で横島ごとあぶって、力及ばず横島を悪霊から守りきれなかった、とか報告する?」
『こらこらこらぁ!!』
師弟が唱和して怒鳴りつける。
「だって美神さんはよくやるじゃない」
「そんなのが理由になってたまるか!?とにかく、あんな攻撃、拙者の前にはおそるるに足りんから余計なことするな」
ぽん、と手を打つタマモ。
「そっか。人狼ってアホみたいに頑丈だもんね」
「アホ……?なんか肯定し難い物言いだが、それ以前にあんなの喰らわないで霊波刀で弾けば…」
ごぉ
また一声。狙いは――タマモ!
「犬バリアー!」
掛け声とともにシロの手を引き足を払って自分と敵の直線上に引きずり込む。
ばちばちばち
「ぎゃあぁぁぁぁぁッ!?」
「ふ。ごらんの通り、アンタの攻撃は完封されたわよ!」
「シ、シロ…俺だけはお前の気持ちを痛いほどわかってるからな……頼むから俺助けるまで死ぬなよ」
この男もすがすがしいくされっぷりである。そんな彼に、悪霊が忙しく身振り手振りする。
「ふむ…ふむふむ?「その長髪の娘、死んだんじゃないか」って?「敵を倒しているなら完封されたとは言えない」?」
「ふっふっふ…そんなことないわ。ほぅらシロ、左手上げてみー?」
言いながらタマモは、脱力しきったシロをつかんだまま左手を上げる。
「タマモ、お前の左手が掴んでるのはシロの右手だ……」
…………
場を、凍てついた時間が支配する。
「ま、白状するとちょっと意識飛んでるけど、安静にしてればじき目を覚ますでしょ」
ぐぉう
「腐乱犬バリアー!」
びしびしびし
「うぎぇぇぇぇぇぇぇッ!!?」
「安静はどこへいった…?」
「安静にしてればと言ったけど、安静にさせるかどうかはそちら次第ね」
悪霊はそこで再度横島にコンタクトする。
「なに?「自分は散々な人生だと思ってたけど友達に盾にされたことはない」?「彼女が気の毒だから成仏します」?」
「ふ。あたしの作戦勝ちね」
「いや、もー突っ込まんがな、自分のやってることに疑問はないのか?」
「偉いわ横島。悪霊ともども黒焦げにされたってシロのためならへっちゃらだなんて、ね」
「う…タマモのおかげで最小限度の犠牲で除霊が完了した。ありがとう!」
この後駆けつけた美神とキヌがシロを回収して緊急入院させることとなり、
横島は依頼終了の諸手続きを任された。タマモは単にハッタリ効かすために後方にいるだけ。
それはただ、シロだけが大怪我してたので二人は職務怠慢と見られ、徒歩で帰る罰ゲームへの伏線だった。

そしてその邂逅は、やたらあっけなく実現した。
『あ。』
見つめ合う。地上に縛められた少年と、脆い空に温もりを奪われた少女――。そして一人蚊帳の外。
「知り合い――では、あるようね。訊いていい?」
タマモは言った。気安く。それは無邪気というのではなく、むしろあからさまに好奇心という欲に憑かれていた。
「悪い――ちょっと、話すと長いしな…」
横島は断った。きっぱりと。それは拒絶というのではなく、愛想笑いを浮かべた、軽い口調。
「ふぅん…じゃ、先に帰るわね」
タマモは、横島のことを知らない。アパートを知ってるし、休憩時にどんな銘柄のコーヒーをねだるか知ってる。
でも、横島のことを知らない。別段知ろうとも思わない。
今知ってることだけで、自分とコイツの関係は充分成り立つ。成り立たなくてはいけない。
深く知るということは、深く知られることを了解するという交換条件が、暗黙の内に成立するのが人間だ。
お世辞にも、人間に自分のテリトリーを深入りされるのは歓迎できない。
この男はお人好しだが、それがどれほど保証されてるだろうか。
または、信用できない何者かに情報をリークするかもしれない。
――あたしは深入りしない。深入りしていいほど、コイツは安全じゃない。
くるりと踵を返し、見慣れぬ少女と横島を置き去りにする。
あとに残される、横島と、パピリオ。

タマモは二人を尾行することにした。うずき出した好奇心はなまなかなことではおさまらない。
暇を持て余していたし、下手な説明を受けて借りを作るよりは、多少情報が不足しててもマシというもの。
深入りはしないが、それは深入りさせないための牽制として。
相手に悟らせずに、相手の秘密を暴くのは心地よい。
そして、標的達に動きがあるのを見てとると、タマモは意識を耳によせた。
「なんか意外に変わってないな、お前」
「背は伸びまちた。髪も伸ばしっぱなしだし」
むすっ、として応える。どうやら、多分に自意識が高い性格の娘のようだと、タマモは分析した。
横島が、基本的に他人を男、美女、どちらにも分類できない人の三種でしか区別しないのは今に始まったことではない。
確かにそれは噴飯ものだが、えてしてそういった人間に気を荒げても暖簾に腕押しである。
「ふーん…それはそうと、今日はまたなんだって下界に来たんだよ?」
「………別に」
刺を含んだ口調で答える。答えたくはない。いや、訊かれる事それ自体、我慢ならないことだ。
彼女にとって、それは嫌な問いだった。許容しがたいほどに。理由を求められているのだ。理由を、必要とされている。
たまらなく不快だった。理由を持たずに来た事を責められているのと同義だ。事実が違おうと、受ける痛みは――。
理由なく会おうとすることを、相手に共感してほしい。それはエゴだろう。だが、そんなエゴが叶ったことはあった。
この、地上で。彼女の、傍らで。彼が体現した。そして姉が、その夢の中に融けて――逝ってしまった。
「…へぇ。んじゃ、立ち話もなんだし事務所に……」
「そこまで行くのはメンドくさいでちゅ。立つのが疲れるなら近場に公園でもなんでも…」
「あいっかわらずわがままなガキだな…別にいーけどよ」
そんなやり取りを交わして、二人は場所を変えた。二人の会話を信じるなら、公園だろう。緑の香りも満ちている。
「…修行、してまちゅか?」
不意にそんなことを問われた者としては、ごく当たり前にリアクションがある。
「修行って何?なんで俺がそんなことを?」
「力がないと、また寂しい思いをするから…家族を護る――力…」
「ふーん…そんなちっこいナリで、よく考えてるんだな。
いや、俺は人生の山場はもうあそこがピークだと思ってっから。
いまさら修行してもうまみはすくないっつーか、けつに火が着いてなきゃ頑張れない性分っつーか」
のらりくらりとした口調で遠まわしに答える。否、と。
「……どーっでもよかったんでちゅか?」
「んなわけあるか。だからって「このままじゃダメだ。とりあえず強くなろう」なんて発想にはならねーよ。
強けりゃそりゃーなんかの足しになんだろ。タナボタで強くなれるなら大歓迎だ。でも、修行は無理だな」
なおも弛緩しきった声音で語る横島。
「パピリオは…毎日修行してまちゅよ……なんかがっかりでちゅ」
「バッカお前なに言ってんだ。納得して小竜姫様についてったんだろ。先々役に立つからって。
俺も自分で選んで、修行しない道なんだよ。それでなんでがっかりされなきゃなんねんだ」
「パピリオは……!――バカッ!!お前、ドバカでちゅ」
「な…なんだ、いきなり!?ふざけんなよ!
すべからく力づくで解決しよう、なんて貧困な発想しか出てこない奴にバカ呼ばわりされる筋合いがあるか!!?」
「うるさい…うるさいうるさーいッ!パピリオは…パピリオには他になにもなかったから……」
修羅場ってる。タマモは思った。バカとガキ。どっちにも相手を理解してやる甲斐性はない。
まぁもっとも、それは自分にも言えた事だが。子供には、カリがある。あの風船のカリ。
多分アイツは、もう一度会える類の友達じゃないのだろう。だから、とりあえず子供。子供にカリ。
しかるに、子供に適当に施してやりたいところだが、この状態を修復するのは無理。さじを投げる。
「子供ってみんなそう。ガキだから焦って大人ぶる。ガキだから、平静を装う。そして、第三者面する――」
けっ、と肺の空気を吐き棄ててその場を立ち去るその挙動――パピリオとタマモはその瞬間を重ねていた。
「確かにね。あたしだって神様じゃない。あたしが無理だと思ったからって、奇跡がないとも言い切らない」

「パピリオ」
背後から投げかけられた呼びかけに、不機嫌そうに振り返る。
不機嫌そう、というのは、ホントにそこまで不愉快なら振り返らないのではないかと思うほどの渋面だったからだ。
「なんていうのかな…お前って、カッコいーんじゃないかな」
「え?」
今しがた、意見を違えた男から、思ってもみない言葉を聞く。
「オレには…選べないからさ。そーゆー歯を食いしばんなきゃなんない道は。
強いんじゃないかな。選べたお前は。だから、お前は負けないよ。あきらめるなよ」
「あ……」
ふと、全身の皮膚から、鎖が浮上して、崩れて消えたようだった。
この時彼女ははじめて自分の意図を悟った。理由もなく会いに来たかった、などというのは自身へのごまかしだった。
明確な狙いがあって、彼女はここへ来ていた。楽園へと自分を運ぶ羽――その縛めを解こうとしていたのだ。
楽園、それは日出づる未来。羽、それは己が信じた明日の可能性。
信じられなくなっていた――広げられなくなっていたその羽に、この世でもう一人だけ、力を注げる者がいた。
そのヒトを、その注がれる言葉(チカラ)を求めて、ここへ来た。
――あいっかわらずわがままなガキだ。
そんな評を受けたが、とんでもない。自分は以前より数段わがままで狭量な子供だった。
「その…言いたいことは、そむぐ!!?」
横島の言葉の後半が、知性を帯びないただのくぐもった声になったのには、それなりに物理的な要因があった。
ひょっとしたら、いくばくか、あるいはそれ以上に、心理的要因も含まれていたかもしれないが。
ゆったりと我が身を空へと預けていく過程で、彼女は両腕でしがみついていた彼の頭部を開放した。
「へへッ。次会う時は、きっと免許皆伝になってまちゅ。それまでに、心の準備しときなちゃい」
「こ…この……一方的に…!!なんつーガキ……!!?」
それだけしぼりだすのがやっとだった。

エピローグ――
パピリオは、やはり岩盤の上で立ちんぼし続けた。相変わらず気配は察せない。
ただいい加減、小竜姫の癖、というか、飛び出す契機みたいなものがあるのはわかる。
「来た!」
数百度目の台詞。だが残念なことに、相手が飛び込んでくる方位までは判らない。
ざんっ
時の流れを歪めた世界で、一旦地に降りる小竜姫。己がミスを悟ったがゆえに。
「眷属と服で作ったダミー?」
周囲を見回すが、パピリオらしき人影はなし。しかし、ここにもミスがあった。あまりのことに、足を止めてしまった。
周囲の時間を遅らせて、光の到達速度さえも遅らせて無敵を誇るこの移動術も、自分が止まってしまえば神通力の無駄遣い。
じゃっ
「うぁぁッ!?」
小竜姫の胴に鋭い斬撃が決まった。パピリオの全身から、鱗のように密着していた眷属達が舞い上がりながら。
この様子を見ていた斉天大聖は腹を抱えてひとしきり大笑いした後パピリオを絶賛した。
「うむ。奸智にすれていない小竜姫の経験上の弱点を、経験面で大きく劣ると思われていたことを隠れ蓑に巧く突きおったわ」
そして、やはり壁を飛び越えれば従来の実力でこの程度はできたか、と満足そうにひとりごちた。
「師は、あくまで師よ。心の支えになれるかどうかは保証の限りではない」


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