椎名作品二次創作小説投稿広場


残像。

過去そのに


投稿者名:hazuki
投稿日時:02/ 8/11

そうして二時間後。
雪之丞は、食事の後にしっかりひんずーすくわっとをさせられ(本当は百回なのを土下座

して三十回に負けてもらった)すでに生きる屍ニ、三歩手前といったところだろうか?

ぐったりとくそ暑い中床の上に横たわっている。

「―たくいい若いものが情けないわねえ」

と麦茶をもってきながら女性。

…雪之丞はこのとき十歳である。

この歳で若いなどという言葉を使う事が間違っているのでは……?

そんな女性の言葉に雪之丞はのそのそと上半身を起こし麦茶を受け取る。

「……ああ、麦茶が美味しい」

そういいたくなるのも無理はないだろう。

「―で、そろそろいこーか」

ごくごくと雪之丞が麦茶を飲み干すのを見計らって女性が言う。

「うん」

こくんっと雪之丞もわかっているのか頷き真剣な表情で女性をみた。


「―手のひらに神経を集中させて」

ぽうっと雪之丞の手のひらの中かすかな、光が灯る

「光―をイメージするの、暖かいその光を具現化―手の中に、灯るのを、イメージ」

「―うん」

だらりと雪之丞の額から一筋汗が落ちる。

かすかに、光が大きくなったかと想った瞬間、ぱぁんっと軽い音をたてて光が霧散した。

「だああああっ」

そのままその場所雪之丞はつっぷす。

ぜえぜえと肩で呼吸をする様は、フルマラソンでもしたかの疲れっぷりである。

「―うーん約十秒か…ま、前回よりも、少し長くなったかしらね」

くすくすと笑いつつ女性。

その手にはぽうっと先程雪之丞が出した光より大きな光が出ていた。

「元々力はあるんだから―『できる』と想うことと―あとは集中。」

しゅんと音をたてて光が女性の手のひらから消える。

そんな女性の姿を雪之丞は悔しそうに眺めながらうううっと唸っていた。

「―でも、長くなってきてるしいい傾向なんじゃない」

慰めるように頭を撫でながら女性が言う。

その言葉の響きは優しく、本心からそう言っているのがわかる。

だが、雪之丞の表情は、悔しげ―いや思いつめたものですらあった。

「だけど、さ」

こんなんじゃ、闘えないと雪之丞は、哀しげに言う。

「ママが魔族から追われてるのに、なのにいつもママばっか戦って―俺はなんもできない…」

呟くように言う言葉はひどく大人びたことで。

10歳にしかならない子供の言葉とは思えない。

そんな雪之丞の言葉に、女性は、微笑み―

げしっと頭をはたいた(もちろん、おもいっきしなんの遠慮もなくである)

がんっと頭が床へと激突する。

これは痛い………

額に瘤をできている。

うらめしげに顔を上げると、とても嬉しげに笑う女性がいた。

「なぁに言ってるのこんのガキが」

言葉は悪いがそこに込められた響きは優しい。

「私が魔族に追われてるのは、私の厄介な能力のためでしょ?だから雪之丞がそんな気にしなくていいの。むしろアンタが怒っていいのよ?血も繋がってないのになんでこんな目にあわなきゃいけないんだって」

そんな女性の言葉に首をかしげて雪之丞は言う

「でも、俺は男だから」


女は守らないとってママがいってるじゃないか。

どんなに、恐くて強い存在だって女は、男が守らないとって―

「あ、そういやそうね」

そんなことも言ってたわと女性は笑う。

そしてにやりと口元を歪ませ

「けど、私を守りたいなんぞほざくからには、せめてひんずーすくわっと200回くらいできてほしいわよねえ」

とありがたくもなんともないことを言った。
ちなみにふつー大の大人でも200回は無理である

「……!!!」

「それに暑いからってセミに八つ当たりしたり、ミニ四駆の大会で万年ニ位な子はねー」

ぐっと言葉につまる。

万年ニ位という言葉は雪之丞にとっては禁句なのだ。

いつもいつも寸前のところで大阪弁の少年(雪之丞にとって永遠のライバル)に一位を奪われているのだから。

ぷるぷると怒りに震えさらには半泣きになりながら叫んだ

「ち、ちくしょおおっ!!絶対今年の大会で一位ゲットしてママにお願いですから守ってくださいって言わせてやるからなああああっ!!!」

「ふっできるかしら」

鼻で笑い女性。

元々整った容姿なだけにこーゆう表情がよく似合う。

小憎らしい事この上ない。


「うわああああんっ!!!!」

へとへとで立てる気力もなかったはずなのに、雪之丞はがばっと立ち上がり自室へと走っていった。

次いでがらがらと何かをばら撒く音。
かちゃかちゃとなにやら組み立てる音

―何をしているか考えるまでもないだろう

女性は、自室へこもった雪之丞を見ていた。

さっきまでの子憎たらしいものとは違う、柔らかい、暖かい笑みで


「一位になるといーね」



だが、雪之丞が、その大会へと出ることは、なかった。


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