かさりと音をたてて墓へ花束を添える。
それは決して立派とはいえない―ごくごく普通の墓だ。
ただあまりこみいった手入れはしてないせいかどこか、荒れたような印象をうける。
雪之丞は、先程の僧侶から借りた雑巾とバケツを手に掃除を始めた。
墓石に水をかけ、敷地内にある草を取り、汚れを拭く。
炎天下のなかこれをするのは結構な重労働だ。
タオルを肩にかけ、流れ落ちる汗を拭きつつその作業を黙々とひとりでする。
あの時からずっと―
そうして一時間ほどたっただろうか?
来た時にくらべて大分さっぱりとした墓を見まんぞくそうに―笑う。
タオルで顔を拭き、持ってきた線香に火を付けそなえる。
そして両手を合わせ―目を閉じ言う
「今年も、これたよ」
―と。
それは今年も生きていられた
という意味あいの言葉であり、ここに眠るひとの遺言でもあるのだ。
―生きている間は、一年に一回、自分の命日にはここへとくるようにという。
もちろん花は流行りの可愛らしいもので、菊なんぞ持ってきたら呪るからといっていた。
病気になってでも―這ってでもきてねと笑いながらいっていたひとを思い出す。
一年に一度くらいは、ママのこと思い出してもいいでしょう?
と死ぬ間際まで冗談を、言う。
あの時は、そんなことありえないと思っていた。
あんなにも苦しい思いをなくすことなどないと想っていた。
だけども、今は穏やかに―思い出せる。
胸の奥に、消えることのないにぶい痛みを感じながらも、懐かしい昔として思い出せる。
それは、思い出すのが、最期の時だけではないから
最期を迎えるまでに過ごした数え切れない―涙がでるほど暖かい日々を思い出せるから
だから耐えれる。
鈍い―くるしい痛みにも耐えて、穏やかなこころでいられる。
雪之丞は花束に目を移し―すこしだけ、泣いた。
最期の日を思い出して
つづく
おかあさんのキャラクター付けが、hazukiさん独特(ほめてます)の
意表をついた&リアリティーを感じます。
なんつっても、感情描写の女王さまなので、私的に大変読みやすいっす。
ぐぅっ! (みみかき)
―やや、難点を言わせて貰えば、そういうことになります。
しか〜し!
有り余るテクニックと、胸に残る―温か味の有る文章!
本当に盛り上がります。
次に行きましょう!次! (魚高)
けど、短いのと漢字変換されていない部分が目に付いたのとで
Bとさせて頂きました。 (ウルズ13)