椎名作品二次創作小説投稿広場


残像。

過去―七年前


投稿者名:hazuki
投稿日時:02/ 8/ 7

かさりと音をたてて墓へ花束を添える。
それは決して立派とはいえない―ごくごく普通の墓だ。
ただあまりこみいった手入れはしてないせいかどこか、荒れたような印象をうける。
雪之丞は、先程の僧侶から借りた雑巾とバケツを手に掃除を始めた。
墓石に水をかけ、敷地内にある草を取り、汚れを拭く。
炎天下のなかこれをするのは結構な重労働だ。
タオルを肩にかけ、流れ落ちる汗を拭きつつその作業を黙々とひとりでする。

あの時からずっと―

そうして一時間ほどたっただろうか?
来た時にくらべて大分さっぱりとした墓を見まんぞくそうに―笑う。
タオルで顔を拭き、持ってきた線香に火を付けそなえる。
そして両手を合わせ―目を閉じ言う
「今年も、これたよ」
―と。
それは今年も生きていられた
という意味あいの言葉であり、ここに眠るひとの遺言でもあるのだ。
―生きている間は、一年に一回、自分の命日にはここへとくるようにという。
もちろん花は流行りの可愛らしいもので、菊なんぞ持ってきたら呪るからといっていた。
病気になってでも―這ってでもきてねと笑いながらいっていたひとを思い出す。

一年に一度くらいは、ママのこと思い出してもいいでしょう?

と死ぬ間際まで冗談を、言う。

あの時は、そんなことありえないと思っていた。
あんなにも苦しい思いをなくすことなどないと想っていた。
だけども、今は穏やかに―思い出せる。
胸の奥に、消えることのないにぶい痛みを感じながらも、懐かしい昔として思い出せる。
それは、思い出すのが、最期の時だけではないから
最期を迎えるまでに過ごした数え切れない―涙がでるほど暖かい日々を思い出せるから
だから耐えれる。
鈍い―くるしい痛みにも耐えて、穏やかなこころでいられる。

雪之丞は花束に目を移し―すこしだけ、泣いた。
最期の日を思い出して

つづく


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