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UNKNOWN SOLDIER

〜少年兵〜


投稿者名:ヨハン・リーヴァ
投稿日時:02/ 8/ 6

僕が戦争に行ったのは16歳のときだった 国のために戦うのは英雄にふさわしい行為 僕の手には銃が握られていた

僕は志願した 歴史のページに加わる覚悟はできていた

僕は進軍し 戦い 血を流し そして死んだ

時がたち もう誰も僕の名前を覚えてはいない そう それが兵士というものなんだ








〜UNKNOWN SOLDIER〜





うっそうと茂る森の中。気がつくと、僕はそこにいた。いつからいたのだろう。記憶がおぼろげで、はっきりしない。
ふと手元を見ると、銃を握っている。三十八式歩兵銃・・・大日本帝国陸軍の正式銃。
そうだ、俺は戦いに来たんだ。国を、大切な人を守るために。
僕の前に二人、男がいる。見た目は同じ国の仲間のように見える。
「おい、だからやめようって言っただろ!」
「はじめに『この石持ち上げよう。力比べだ』って言ったのはおめえじゃねえか!
・・・どうしよう、きっと封印かなんかが解けたんだ」
なにを言ってるんだろう?よく見ると、肌の色や言葉は僕と似てるけど髪の色が違う。
一人は明るい茶色で、もう一人は白に近い金色。・・・金色!?敵の髪の色じゃないか!
「動くなっ!」
僕は銃を構えた。殺さないと、こっちが殺される。
「うわあああ、逃げろ!」
「お、置いてかないでくれ〜!」
・・・拍子抜けだ。連中は腰抜けなんだな。少佐殿が見たらなんとおっしゃられるか。
あ、少佐殿!?そうだ、僕は少佐殿たちとはぐれたんだ!
それで一人になって、それから、それから・・・
駄目だ、思い出せない。
「美神さ〜ん、どこですか〜?」
女の声?おかしいな、民間人はみんな北の岬に避難したはずなのに。・・・敵か!
「あれ〜、おかしいなあ」
女の声が近づいてくる。
「こっちへくるな!撃つぞ!」
「えっ?」
二十メートルほど先の木の陰に女がいた。まだ少女といっていいほどの年齢で、きれいな黒髪が腰まで伸びている。
しかし、だからといって信用はできない。戦場で信じられるのは、己だけ。
「・・・あなた・・・そうなのね」
さっきの二人組といい、この女といい何を言ってるんだ?
「おい、民間人は北のマッピ岬に避難せよという命令が出ているはずだ。
なぜこんなところをうろついている?」
返答次第では撃つ。肩が大きく開いた妙な服を着ているし、スパイの可能性も考えられる。
そして、女の返答は予想だにしないものだった。
「あ、あのですね、落ち着いて聞いて欲しいんです」
「なんだ、早く言え」
「戦争は、・・・終わったんです」
「・・・なんだと?」
「戦争は、終わったんです。日本が無条件降伏して」
僕の体で、怒りが燃え上がった。
「馬鹿を言うな!神州日本が鬼畜米英などに膝を屈するわけがない!貴様、やはり敵の回し者だな!」
僕は銃の引き金を引いた。弾丸は女の肩をかすめ、女はその場に倒れた。
「はずしたか!?くそっ、とどめだ!」
「待ちなさい!!」
女に駆け寄り銃を突きつけようとすると、僕の右後ろのほうから別の女の声が聞こえた。
「浮遊霊の分際でよくもやってくれたわね!極楽へ行かせてあげるわ!」
その女は、亜麻色の髪をしていて、大きな宝石を耳につけている。この異様な出で立ちからして、味方ではないのは間違いない。
「くそ、新手か!」
すかさず銃を構えた。しかし、女はひるまない。
「はん、上等よ!横島、文珠で攻撃しなさい!」
「あのう、横島さんはビーチでナンパを・・・」
「はあ!?あのバカ、やっぱり連れてくるんじゃなかったわ!見つけたらただじゃ置かないからね!」
「あうあう、横島さんが半殺しにされちゃう・・・」
「うるさい、黙れ!」
僕は銃を乱射した。完全に無視されているようで腹が立つ。
「くっそ〜、シロタマは留守番に置いてきちゃったし、ここはとりあえず精霊石で・・・」
「待って下さい、美神さん。この人は私に除霊させてください!」
「別にいいけど・・・どうしたの、おキヌちゃん?」
「あたし、わかるんです。この人、心の奥底で凄く悲しい思いが渦巻いてるんです。表面上では兵士らしく振舞っていても」
言葉が胸に突き刺さる。何かが、甦って来る。激しい苦痛を伴って。
「お前に・・・お前に何がわかる!!」
「わかります。私は、ネクロマンサーだから」
黒髪の女が奇妙な形をした笛を口に当てた。
「う・・・うああああ!?」
笛の音色が、僕から力を奪う。
「もう、お休みなさい」
女の声が直接頭の中でする。いや、心の中というべきか。
もう、立つこともままならない。僕は膝をついた。
「あなたは・・・もう、この世の人ではないの」





それは、僕が最後に見た光景。





僕は森林の中を走っていた。
敵の艦砲射撃が僕の部隊のすぐそばに着弾し、部隊長の有山少佐や同じ隊の戦友たちとはぐれてしまったのだ。
『今米軍ニ一撃ヲ加へ太平洋ノ防波堤トシテサイパン島ニ骨ヲ埋メントス』
司令長官の訓示を少佐から聞かされたときには「これぞ帝国軍人の本懐」と覚悟を決めたつもりだったが、こうして一人になってみると「死の恐怖」が頭をもたげ、生に執着してしまう。
僕は木にもたれて座り込んだ。もう走れない。
遠くで砲撃らしき轟音が聞こえる。頭上を敵の爆撃機が通る。地獄のようだ。
何とか気力を振り絞って立とうとしたその時、急激な痛みが脇腹を襲った。
僕はがっくりとひざまずき、何か自分でもわからない言葉を叫びながら血を吐いた。
そして泥とはらわたと血の中に横たわり、すすり泣いた。
薄れていく意識の中、M3マシンガンを構えた敵兵が歩み寄ってくるのが見えた。
彼は、僕に向かって引き金を引いた。





僕は・・・僕は死んだのか?

「・・・思い出したみたいね」

いやだ・・・いやだ、死にたくない!

「でも、成仏しないと他の人を苦しめることになるわ。もちろん、あなた自身も」

なぜ、どうして僕が死ななくちゃいけなかったんだ!

「あなたがしくじったわけでもなければ、あなたのせいでもないわ」

だったら、なぜ!?

「ごめんなさい、私にもわからないわ。戦争で死ななくちゃいけない理由なんて、私にはわからない。
でもこれだけはわかって欲しいの。私たちはもともと命なんて持ってなかった。
だから、消えてなくなるのは生まれる前に戻るだけなの。
生きているってことは、短い間だけ天の神様にもらった贈り物なのよ。
一呼吸するだけでも、ほんの少し何かを感じることができただけでも、何もないよりずっとよかったでしょ?思い出して・・・!!
いいことがいっぱいあったはずよ!?気持ちいいことや楽しいこと・・・あれがあなたの人生だったのよ」

僕の、人生・・・。

「あなたの人生は短かったけど、決して無駄なんかじゃなかったわ。だから、もう苦しまなくていいのよ」
心の中に染み込んでくる温かさ。胸がいっぱいになり、とても満ち足りた気持ち。
そう、僕は守りたくて銃を取ったんだ。・・・この温もりを。優しさを。
今、感じているのは紛れもなく。
「おかあ・・・さん・・・」





「ほらおキヌちゃん、もう泣かなくていいのよ」
「あのひと・・・お母さんを守るために、戦場へ行ったんです。大事な人を守るために。
・・・人なんて殺したくなかったのに」
美神が、しゃくりあげるおキヌの肩を抱いている。
「でも、おキヌちゃんのおかげで彼はきっと救われたわ。きっと幸せだったでしょうね」
「はい・・・」
「ほら、いつまでもここにいても仕方ないでしょ?もう行きましょ。あのバカを海に沈めないといけないし。
まったく、実入りのいい仕事が続けて入ったもんだから奮発してこんな南の島まできたのに、とんだバカンスになっちゃったわね」
「そうですね。行きましょうか」
おキヌは気を取り直し、この場を離れることにした。
(いつか私がそっちに行ったら、沢山お話しましょうね)
一度振り返ると、おキヌは駆け出した。
おキヌは気付いただろうか。苔むした石の横に名もない野花が咲いているのを。優しく、手を振るように揺れていたことを。








−昭和19年7月7日、サイパン島守備隊の日本軍約3,000名は、最後の「万歳突撃」を敢行して玉砕−          





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