力を得たと言ってもどうとなるわけでもない―だけども求めてしまう。
―少なくとも、力がなかったからという言葉を言わないために。
太陽が真上にのぼっている。
じりじりと焼け付くような日差しであり、そして日本独特の蒸し風呂のような暑さが不快度数をあげていた。
体中から汗が噴出しぽたぽたと身体から流れ落ちる。
この分だと、今日も真夏日になること間違いなしであろう。
男は、手にもっていた花束を抱えなおし、もう、すぐ其処であろう目的地にむかって足を踏み出した。
郊外にある閑静な住宅街の―はずれにある霊園。
セミの音と子供の声をBGMにひとりの僧侶が、墓へと続く砂利道を掃除していた。
もう、壮年というにふさわしい年齢である。
僧侶は、特になにを考えるわけでもなく掃除をしていた。
この強い日差しに目を細め、遠くで遊んでいるだろう子供を見、日射病になどならねばよいがなどと他愛のないことを考えていたのだ。
―ふと
子供の声に、日射病という単語に、ある少年のことを思い出す。
毎年、この季節にくる少年の事を。
「ああ、もうそんな季節か……」
するとその僧侶はそっと目を伏せ、そして何か考え込むように黙り込んだ瞬間
じゃり
―と石を踏む音とともにひとりの少年が現れた。
その少年は10代後半だろうか?
この年頃にしてはやや背が低いだが、ややきつめのその瞳の浮かぶものは同年代の少年では持ち得ないなにかを映している。
少年は、目があった瞬間生真面目なしぐさで頭をさげる。
どこかぎこちないところを見るとこの少年は、こうゆう行為になれていないのだろう。
だが、それでも慣れないながらに懸命にやっているというところが、微笑ましくおもえ
「―こんにちわ」
と微笑する。
「―こんにちわです」
そしてぶっきらぼうとも言える少年の声。
そっけないともいえるものなのに―どこか暖かい。
「もう、そんな季節なんですねえ―さっきそろそろ君のくる季節だと思ってました」
「え?」
「―いや君がくるとなんだかもう夏なんだなあと思うんですよ」
じりじりとてりつける太陽を仰ぎ見ながら僧侶が言う。
「―そうですね」
こくりと、頷きながら少年
この季節がくるといつも夢をみる。
―もう、永遠に取り返すことのない過去の夢を
「もう、七年になりますね―君がくるようになって」
それは、ここにこなければならないようになってからの時間でもある。
「早いですね」
少年はどこか遠くをみるかのように―言う。
壮年の僧侶はそんな少年の言葉に眉をひそめ、そして腕にかかえられた花束をみる。
それはこの場所にはいささか不似合いな華やかなものであった。
それはまあわかる。
故人となるひとがそんなような花を好きだった場合それを供える―というものはわかる。
だが、そんな花束を少年は二つ抱えていたのだ。
一つは、淡いピンク色の―可愛らしい花束を。
そしてもうひとつは小さいひまわりに彩られた―鮮やかな花束を。
「お母様達も貴方がこられて喜んでいられることでしょう―雪之丞くん」
つづく
何の違和感もなく存在するオリジナルキャラや、雪之丞の客観的な描写は文句なしですね。これからの展開が非常に楽しみです。 (ヨハン・リーヴァ)
今回はプロローグなのでCとさせてもらいます。
次回は雪・・・彼の活躍に期待!!! (NGK)
気だるい夏の午後の墓参りの光景が目に浮かぶようでやんす。
例えば私なんかが書くと、重くなりそうな文章を、
やわらかく、やわらかく書くのがはずさん的ツボです。
えーと、プロローグなのでコレですね。
さあ、つぎつぎっ! (みみかき)
それにしても、気になるのは、ラストのセリフ
「お母様達が〜〜」
ですね。……達?
もう、雰囲気も描写もバッチグー(←死語)ですよ!
ドツボにハマりました! (魚高)
雪之丞でしたか。
雰囲気が良いですね。 (ウルズ13)
「背が低い」で雪之丞であることは確実でした。
7年前に誰かが亡くなったわけですね。実母は赤ん坊の時に亡くなってるはずですから、
育ての母ってとこでしょうか。そうすればふたり合わせて「お母様達」ですね。
一気読みする時間がないので少しずつコメントしていきます。 (U. Woodfield)