『必殺影舞人〜闇夜に咲くも華』:2000、日本

<スタッフ&キャスト>

監督…星田良子
脚本…高山由起子
製作…岡本みね子
音楽…菅野よう子
主題歌…長山洋子

佐代(道場主の娘)…黒谷友香
松葉(芸者)…純名理沙
お滝(夜鳴き)…戸田菜穂
多江(寺子屋の先生)…小西美帆
勘太郎(岡っ引き)…細川茂樹
加藤残角(佐代の父親)…林隆三
柊木玄内(旗本)…団時朗
花岡清伴(与力)…河原崎健三
高井六兵衛(筆頭同心)…羽場裕一
益田広正(同心)…大森嘉之


<ストーリー>

剣術を教える道場主の娘・加藤佐代(黒谷友香)。人気芸者・松葉(純名理沙)。夫と死に別れた夜鳴き・お滝(戸田菜穂)。寺子屋の先生・多江(小西美帆)。4人はそれぞれ表の顔を持ちながら、裏の世界では金を受け取って怨みを晴らす殺人稼業に手を染める“影舞人”である。
影舞人の正体を知っているのは、佐代の父親である加藤残角(林隆三)だけだ。しかし、怨みを晴らしてくれる者達“影舞人”がいるらしいという噂は、庶民の間に確実に広まっている。人々は影舞人を怒りの代弁者として評価している。

佐代の父親・加藤残角は、紅月流剣術の使い手。彼は昔、自分を逆恨みする武士に妻を殺された。その復讐を果たしたことがきっかけで、彼は裏稼業の道に入った。今は一線からは身を引いており、影舞人の元締めをやっている。
残角の心の中には、未だに亡き妻が住み続けている。松葉は残角に惚れているのだが、それを知っているために彼の心に踏み込むことが出来ない。残角も松葉に惹かれているのだが、完全に心を開くことが亡き妻を裏切ることになると考えており、自分の中でブレーキをかけてしまう。

筆頭同心・高井六兵衛(羽場裕一)の下で働いている岡っ引きの勘太郎(細川茂樹)は佐代に惚れており、何かと理由を付けては佐代に近付いて言い寄っている。佐代は「軟弱な男は嫌い」と言って勘太郎を受け入れようとはしないが、残角は明るくて優しい勘太郎を気に入っている。
最近、江戸の町では辻斬りが横行している。荒っぽい刀傷が特徴だが、犯人の目星さえも付いていない。お滝の屋台の常連だった吾助も、妊娠中の妻と一緒に歩いていたところを殺される。遺体の刀傷を見た残角は、犯人は剣客ではないと確信する。

ある夜、勘太郎は辻斬りの現場を目撃する。現場から逃走した犯人を追った勘太郎は、その男が旗本・柊木玄内(団時朗)の屋敷に入っていくのを目撃する。勘太郎は自分の見たことを高井に報告。高井は勘太郎を誉め、慎重に柊木の行動を探るよう指示を出す。
勘太郎は柊木を捕まえることで、佐代に自分が軟弱な男ではないところを見せようと張り切っていた。深夜、柊木を尾行した勘太郎は、町外れの林へと入っていく。そこには高井や与力の花岡清伴(河原崎健三)、同心の益田広正(大森嘉之)が待ち伏せていた。

柊木と花岡、高井、益田はグルだった。柊木は適当に人を見つけては殺して楽しむという“殺人遊戯”に凝っており、花岡達は殺人が柊木の仕業であることを隠す代わりに、柊木から金を受け取り、出世の約束も交わしていたのだ。4人に囲まれ、勘太郎は斬り付けられる。
高井に背中から斬り付けられた勘太郎は柊木の腰の辺りを掴む。数名の男が歩いてくる声を聞き、勘太郎の手を振り解いた柊木と花岡達は現場から急いで立ち去る。その時、勘太郎は柊木の根付を掴み取っていた。勘太郎は根付を握り締めたたま、息を引き取った。

翌日、高井は勘太郎の遺体発見現場で指揮を取っていた。勘太郎が根付を握り締めているのに気付いた高井は、慌ててそれを奪い取り、何も無かったような顔をして野次馬を排除しようとする。しかし、現場に来ていた残角は、高井の不審な行動を全て見ていた。
残角が道場に戻ると、一心不乱に稽古に打ち込んでいる佐代の姿があった。残角は話し掛けようとするが、佐代は強い調子で「声を掛けないでください!」と告げ、稽古を止めようとはしない。佐代は打ち込みを続けながらも、勘太郎のことを思い浮かべていた。

残角は松葉、お滝、多江の3人に、高井のことを調べるよう指示する。調査を始めた3人は、柊木と高井達の繋がりや、彼らの悪行についての情報を入手する。残角は佐代に内緒にするよう頼むが、その話を佐代が聞いてしまう。
刀の準備をする佐代を見て、勘太郎の仇討ちをしてはいけないと語る残角。行かせてくれと強く主張する佐代に、残角は「金を受け取って他人の怨みを晴らすのが影舞人。私怨によって動くのは絶対にやってはならないことだ」と説く。2人は言い争いになり、ついに佐代は家から飛び出してしまう。

お滝と多江が佐代の後を追いかけ、早まった行動はいけないと彼女を諭す。松葉は残角に、「確かに、自分の感情で動くのは影舞人としては失格。でも、それだけ勘太郎さんを愛していたということ。私だって、愛する男が殺されたらそうするかも」と言う。何も言えずに黙り込む残角。
その日の夜、佐代、松葉、お滝、多江の4人を集め、裏の仕事が入ったと告げる残角。「依頼人は加藤残角。娘の夫にと考えていた男が殺された。怨みを晴らして欲しい」と話す。「受けてくれるか」と言う残角を見て、4人はゆっくりとうなずいた。

4人はそれぞれ、仕事の準備をする。夜の闇の中、柊木の屋敷に足を進める影舞人。屋敷には柊木、花岡、高井が集まって酒を酌み交わし、話に花を咲かせている。用事で遅れたらしい益田が現れ、屋敷に入って行こうとする。
益田の足元に向けて、多江は白いそろばんの玉を投げ付ける。仕込んだ煙幕が広がり、視界を遮られる益田。そこへ近付いた多江は、赤いそろばんの玉を益田の口に入れて飲み込ませる。仕込んだ爆弾が体内で爆発し、益田は死亡する。

宴席は続いていたが、しばらくすると、小便がしたくなったと言って花岡が席を立ち、厠に向かった。お滝は廊下を歩いていく花岡に忍び寄り、背後から接触。左手で花岡の口を押さえ、右手で持った箸を後頭部に突き刺す。花岡は死亡する。
益田はいつまで経っても姿を現さず、花岡も戻ってこないため、様子を見てくると言って高井が席を立った。柊木だけになった部屋に、松葉が姿を現す。高井達が芸者を呼んだと勘違いして喜ぶ柊木。近付いた松葉に扇子で首を切られ、柊木は死亡する。

酔いの回った高井は庭に出ようとするが、そこへ佐代が立ち塞がる。「なんだ、貴様は」と言う高井に、「勘太郎という男の怨み、晴らさせて貰います」と告げる佐代。
慌てて刀を抜こうとした高井だが、その前に佐代が刀を一閃していた。高井は死亡する。

翌日、佐代と残角は勘太郎の墓参りに行った。手を合わせた後、立ち去ろうとする2人。佐代は振り向いて墓を見つめ、勘太郎の面影を思い浮かべる。「さよなら」とつぶやき、佐代は墓を後にする。残角は何か言おうとするが、佐代の顔を見て口をつぐむ。
多江は寺子屋で生徒に勉強を教える。お滝は夜鳴きの客と言葉を交わす。松葉は宴席で舞を踊る。佐代は道場で残角と稽古に励む。4人は普通の生活に戻った。しかし、誰かが怨みを晴らしてほしいと願った時、彼女達は再び影舞人へと姿を変えるのだ。


<解説>

『必殺仕掛人』、『必殺仕事人』など、テレビの世界では多くの必殺シリーズが作られた。しかし、その必殺がブラウン管から姿を消して久しい。だが今回、新しい“必殺”が、しかもテレビではなくスクリーンの世界でお目見えすることになった。
作品のタイトルは『必殺影舞人』。この作品の大きな特徴は、裏稼業に携わる4人が全て女性だということだ。これまでの必殺シリーズにも、殺しの仕事に携わる女性は何名か登場している。しかし、全て女性というのは初めてのことだ。

女性4人がメインではあるが、決してお色気をセールスポイントにした、必殺シリーズの亜流作品ではない。軟派な時代劇ではなく、ハードな裏社会に生きる女達の愛と苦しみを描く作品だ。4人の影舞人の生き様に、自立する現代女性の姿を照らし合わせることも出来るだろう。
厚い人間ドラマに加え、もちろん派手なアクションもある。影舞人を演じる4人の女優は、この作品の撮影のために武術道場に赴き、そこで練習を積んでいる。彼女達が実際に武術の世界に触れたことが、作品で見られる殺陣に本物の迫力を生み出している。

影舞人が裏の仕事をする場面は、残酷になりすぎないようにという配慮から、派手なビジュアルにこだわった演出がなされている。これまでの必殺シリーズには見られなかったような、特殊効果を生かした映像が、女性が主人公ということに加えて一層の華やかさを醸し出している。
佐代が刀を振る場面では、紅の残光が輝く。松葉が扇子を開く瞬間には、金色の紙吹雪が散る。お滝が相手の首から箸を抜き取ると、箸に描かれた絵が血を吸って変化する。多江が白いそろばんの玉を投げると、七色の煙幕が広がる。

配役は、道場主の娘・佐代に黒谷友香、芸者・松葉に純名理沙、夜鳴き・お滝に戸田菜穂、寺子屋の先生・多江に小西美帆。そして4人の影舞人を統括する元締めであり、佐代の父親でもある加藤残角を林隆三が演じている。
佐代に思いを寄せる岡っ引き・勘太郎を演じるのは細川茂樹。勘太郎を殺害して影舞人のターゲットになる旗本の柊木玄内を団時朗、与力の花岡清伴を河原崎健三、筆頭同心の高井六兵衛を羽場裕一、同心の益田広正を大森嘉之が演じている。

監督はテレビドラマの世界で活躍し、これが劇場映画デビュー作となる星田良子。大抜擢に応える見事な手腕を発揮している。脚本は『メカゴジラの逆襲』や『国東物語』の他、必殺仕事人のスペシャル番組『仕事人大集合』も書いた高山由起子が担当。
製作は岡本喜八監督作品を手掛けた岡本みね子。日本が誇る女性プロデューサーが、力強くサポートしている。音楽を担当するのは多くのCMやゲーム、アニメ音楽などを手掛けてきた菅野よう子。主題歌を歌う長山洋子が色取りを添える。女性が主役である今作品は、製作スタッフも女性が中心になっているのである。

<オープニングナレーション>

闇の世界に女が一人
二人、三人、四人と揃い
影を相手に舞を舞う
殺し屋稼業も楽じゃあ無いが
闇に咲いても華は華
同じ咲くなら 見事に咲いて見せましょう

<影舞人>

佐代(道場の娘)・・・紅月流剣術の使い手。刀を使って相手を斬り付ける。
松葉(芸者)・・・金色を基調とした色使いの扇子を開き、敵の首を切る。
お滝(夜鳴き)・・・絵付けされた塗り箸で相手の後頭部の二箇所を刺す。
多江(寺子屋の先生)・・・そろばんの玉に仕込んだ爆弾で相手を爆死させたり、同じくそろばんの玉に仕込んだ煙幕で相手の視界を遮ったりする。


<蛇足>

必殺シリーズの女性バージョンというのは、かなり安直な発想かもしれない。『ロボコップ』に対する中村あずさ主演の『女バトルコップ』みたいなものだろうか(微妙に違うような気もするが)。しかし、意外にアリなんじゃないかという気もしたりする。

ただし、「スタッフも女性中心」という条件を付けると、これが非常に難しくなる。なんせ日本では女性映画監督が少ないし、その数少ない女性監督は芸術映画や文学映画を撮っていることが多い。一般娯楽映画を作っている女性映画監督というのは、わずかしか存在しないのではないだろうか。
だから、この作品をデッチ上げる時にも、スタッフを考えるのに苦労した。例えば岡本みね子さんが必殺映画を製作するのは、かなり無理がある。それでも「脚本の高山由起子さんが監督した映画のプロデュースをしてるから可能性はゼロじゃないな」とか考えて、自分の中で強引に納得してみたり。

なんにせよ、こういう作品がもしも作られたとして、おそらく古くからの必殺シリーズの熱烈なファンには受け入れられないだろう。そういう人達はハードでクールなものを求めているわけで、特殊効果で派手に彩るような“けれん味”に頼る演出は、お気に召さないだろうと思う。
ただし、中途半端に媚びを売るよりは、思い切って作風を変えてしまう方がマシだとは思う。とはいえ、個人的には男の生き様をハード&クールに描いた必殺作品が好きだったりもするので、いずれはそういう作品もデッチ上げてみたいと考えているんだけど。


なお、この映画は存在自体がフィクションです。
こんな映画、実際にはありません。

 

*妄想映画大王