『戦慄!蛾男の恐怖』:1998、アメリカ
The Terror In Summer

<スタッフ&キャスト>

監督…トビー・フーパー
脚本…ウィリアム・マローン
製作…ダニー・ラーナー
製作総指揮…アヴィ・ラーナー&ダニー・ディムボート&トレヴァー・ショート
クリーチャー製作…ヴィンセント・ガスティーニ

メリンダ…キャサリン・ベル
ウォルター…アレッサンドロ・ニヴォラ
バーバラ…アナベル・スコフィールド
チャック…イアン・ジーリング
テディー…ボッシ・パイン・エルフマン
ヘレナ…ダナ・プラト
キャンプ場の管理人…ロバート・イングランド


<ストーリー>

夏の休暇で、山のふもとにあるキャンプ場にやって来たメリンダ(キャサリン・ベル)、バーバラ(アナベル・スコフィールド)、チャック(イアン・ジーリング)、テディー(ボッシ・パイン・エルフマン)、ヘレナ(ダナ・プラト)の5人。彼女達は若い頃から付き合いがある仲間だ。
メリンダとチャックはティーンズの頃に付き合っていたことがあるが、今はバーバラとチャックが結婚している。テディーとヘレナは付き合っている最中。メリンダも夫と一緒に来るはずだったが、夏休みに入る直前に別れてしまったのだ。

仲良くしている2組のカップルを見て淋しさを感じるメリンダ。独りで歩き回っていた彼女は派手な色の植物を見つけて触ろうとするが、背後から「触るな!」と叫ぶ声がして手を引っ込める。声を掛けたのはキャンプ場で管理人の補佐をしているウォルター(アレッサンドロ・ニヴォラ)だった。
メリンダが触ろうとしていたのは毒性のある植物だったのだ。メリンダはウォルターに礼を言う。仲間の元に帰る間、2人は会話を交わす。明るくて優しいウォルターの態度に、親しみを感じるメリンダ。バーバラ達に新しい恋愛相手かと勘繰られて否定するが、まんざらでもない様子だ。

キャンプ場の近くでは、小動物の生態調査に来ていた学者がいた。彼は奇妙な足跡を発見し、しゃがみ込んで念入りに調べてみるが、今までに見たことも無い足跡だ。何かが近くにいる感覚がして顔を上げた途端、彼は何者かに襲われる。
キャンプ場では管理人(ロバート・イングランド)とウォルターが話している。最近、動物の死体を幾つか発見したが、死体の様子が奇妙だというのだ。干からびたような状態で死んでいるのだが、死んでから何日も経過しているわけではないという。気味が悪いと話す管理人。

キャンプ場に来ているのはメリンダ達だけではない。他にも若者グループや家族連れの客なども来ている。ウォルターは鳥を見に行くという家族に注意を呼びかける。再び顔を合わせたメリンダとウォルターが楽しそうに話す様子を、チャックは見つめている。
そんなチャックを見て、バーバラが「まだメリンダに未練があるんじゃないでしょうね」と尋ねる。笑って否定するチャックだが、バーバラの疑いは消えない。チャックとメリンダが別れた時、バーバラはチャックの淋しさに付け込んだような形で恋人になったからだ。

鳥を見るために森の奥に入っていった家族は、大きな横穴が開いている場所を発見する。父親と母親が横穴に気を取られている間に、幼い息子がどこかに向かって駆け出す。息子がいないことに気付き、両親は慌てて周囲を探し始める。
息子の靴を発見した両親が辺りを見回すと、木にもたれかかるようにして息子が座っていた。しかし、それは無残に殺された息子の死体だった。母親が悲鳴を上げた次の瞬間、何者かが両親に襲いかかる。そして両親も殺されてしまった。

日が暮れる頃になっても家族が帰ってこないため、心配した管理人はキャンプ場をウォルターに任せて探しに行くことにした。メリンダ達はバーベキューを楽しんでいたが、バーバラがウォルターを誘い、ウォルターは少しだけ彼らに付き合うことにする。
森の中を歩いていた管理人は、すっかり干からびてしまった家族の死体を発見する。腰を抜かしてしまった管理人の目の前に、黒い影が姿を現す。真っ赤な2つの眼が光り、その物体は管理人を殺して血を吸い、空の彼方へと飛んでいってしまう。

翌日、メリンダ達は森の中を探索し、横穴を発見。どうやら奥の方まで続いているようだ。バーバラが中を探検しようと言い出し、メリンダ以外が同意する。強硬に反対するわけにもいかず、メリンダも一緒に洞窟の中に入っていく。
一方、管理人が帰らないことを不安に思ったウォルターは警察に連絡。自らも捜索することにした。干からびた管理人や家族の死体を発見したウォルターは何者かが近付いていることに気付き、その場から逃げ出す。ウォルターは慌てて洞窟の中に逃げ込んだ。

洞窟の中でメリンダ達と出会ったウォルターは、自分が見たことを話すのだが、誰も信じようとはしない。それどころか、チャックは「メリンダの後を付けてきたのか。いやらしい奴め」と言い出し、ウォルターにつかみかかっていく。
バーバラに「そんなにムキになるのは、やっぱりまだメリンダが好きだからなのね」と言われ、言葉に詰まったチャックは洞窟の入り口に向かって走っていってしまう。感情的になったバーバラは自分の思いをぶちまけるが、メリンダ達になだめられ、落ち着きを取り戻す。

チャックを追い掛け、洞窟の入り口へと戻ってきたメリンダ達。しかし、そこで彼女達は干からびてしまったチャックの死体を発見する。そして入り口に妖しい生き物が立っているのに気付く。それは全身真っ黒い毛に包まれ、真っ赤な2つの眼を持った、蛾と人間の混合種のような化け物だった。
慌てて洞窟の奥へと逃げるメリンダ達。途中でヘレナがつまづき、助けるためにテディーも立ち止まる。それに気付かずに残りのメンバーは走っていってしまう。ヘレナとテディーは追い掛けてきた蛾男に襲われ、血を吸われて殺されてしまった。

このまま奥に逃げても行き止まりに辿り着くだけではないかとメリンダは心配するが、ウォルターが出口があることを告げる。ウォルターはメリンダとバーバラに先に進むよう指示し、自分は洞窟湖の前にある曲がり角で蛾男を待ち伏せすると言う。
殺されてしまうと反対するメリンダだが、ウォルターの強い口調に押されて彼の指示に従うことに。メリンダとバーバラを先に行かせたウォルターはサバイバルナイフを構えて身を隠し、蛾男を待ち構える。蛾男が角を曲がった瞬間、飛び出したウォルターがナイフを突き刺した。

顔面にナイフを刺され、もがき苦しむ蛾男。そのままバランスを崩して洞窟湖に落ち、沈んで行く。蛾男が沈んだのを確認し、ウォルターはメリンダとバーバラを追い掛ける。追い付いたウォルターは蛾男を退治したことを報告する。
3人は出口にやって来た。急勾配になった坂を登れば外に出ることができる。3人は坂を登り始めるが、バーバラはチャックからプレゼントされたネックレスを落とし、拾うために坂を下りる。ネックレスを拾い上げたバーバラが顔を上げると、そこには蛾男の姿があった。

悲鳴を聞いて振り返ったメリンダとウォルターだったが、バーバラは既に蛾男の餌食となっていた。さらに蛾男はメリンダとウォルターに接近して襲い掛かる。揉み合うようにして坂を滑り落ちて行くメリンダ、ウォルター、蛾男。
蛾男はウォルターの首を絞めて持ち上げる。手を付いてしゃがみ込んでしまったメリンダは、手元に尖った木片があるのに気付く。立ち上がったメリンダは木片を蛾男の腹部に突き刺す。その衝撃でウォルターを離す蛾男。

投げ出されたウォルターのポケットからライターがこぼれ落ちる。それを拾い上げたメリンダは、ライターの火を付けて蛾男に近付ける。蛾男の体が燃え上がり、慌てて坂を登って距離を取るメリンダとウォルター。やがて黒焦げになった蛾男の体が縮んでいき、ついには小さな燃えかすだけになった。
坂を登り切って洞窟から出たメリンダとウォルター。「とにかく警察に知らせよう」と言うウォルター。「でも、信じてもらえるかしら」と言うメリンダ。洞窟を後にする2人の背後で、何やら怪しい影があった。その影は、真っ赤な2つの光を放っていた。


<解説>

ホラー映画の歴史を語る時、1974年の『悪魔のいけにえ』という作品を外すことは出来ない。直接的なスプラッター描写に頼ることなく、一歩手前の不快感を煽る映像によって最大級の恐怖を観客に与えるという、優れたホラー映画であった。
その映画を作り出したのがトビー・フーパー監督である。『悪魔のいけにえ』では監督と製作以外に脚本や音楽にも携わった彼は、その後も『ファンハウス』『ポルターガイスト』といったヒット作を生み出し、ホラー映画監督としてのキャリアを重ねていく。

そんなトビー・フーパーを監督に迎えた今作品は、「謎の怪物が男女のグループに襲い掛かり、次々と殺していく」という典型的なホラー映画の様式を取りながら、もはや典型的であることをパロディー化したような趣きを持った映画だ。
男女のグループが学生ではなく社会人だという部分などは、これまでのホラー映画に対するシニカルなメッセージとも受け取れる。ストーリーがあえて予定調和の展開を見せるのも、ある意味ではアンチテーゼになっていると考えられなくもない。

そんな脚本を担当したのは、『クリーチャー』『ユニバーサル・ソルジャー/ザ・リターン』のウィリアム・マローン。製作を務めたのは、『サイボーグコップ』『アストロ・コップ/地球クライシス2050』のダニー・ラーナー。製作総指揮は、『ワイルド・サイド』『サイボーグコップ3』のアヴィ・ラーナー&ダニー・ディムボート&トレヴァー・ショート。
1960年代のアメリカで目撃された怪物モスマン(蛾男)を作り出したのは、『チャイルドプレイ3』『スーパーマリオ』のヴィンセント・ガスティーニ。古典的な雰囲気を持ちながら現代的な怪しさも兼ね備えた魔物を生み出すという、難しい仕事を見事にやってのけた。

ヒロインのメリンダを演じるのは、テレビドラマを中心に活躍するキャサリン・ベル。映画では『メン・オブ・ウォー』『クラッシュ・ダイブ』などに出演している。ウォルター役は『フェイス/オフ』『完全犯罪』などに出演しているアレッサンドロ・ニヴォラ。
『ビバリーヒルズ青春白書』のスティーヴ役が有名なイアン・ジーリングがチャックを演じ、『クライシス2050』『ブレイク・スルー/クレイゴ島からの脱出』のアナベル・スコフィールドがバーバラを演じる。テディー役は『マーキュリー・ライジング』のボッシ・パイン・エルフマン、ヘレナ役は『リーサルカウボーイ』のダナ・プラト。

キャンプ場の管理人として、トビー・フーパー作品の常連であるロバート・イングランドが出演しているのは見所の一つだろう。『エルム街の悪夢』のフレディー・クルーガー役でお馴染みのイングランドが、この作品でも怪演を見せてくれる。


<蛇足>

「トビー・フーパー監督作品をデッチ上げてみたい」ということから始まったのだが、とにかくキャスティングが難しかった。実際、このキャスティングはかなり無理がある。ホントはもっとマイナーでホラー向きの俳優をキャスティングすべきなんだろうと思う。
あんまりB級すぎる作品をデッチ上げようとすると、キャスティングに困るのね。低予算のB級映画だから、あまり有名ではない俳優をキャスティングする必要がある。でも有名ではないってことは、私も知らないわけだし。

他にも幾つかB級ホラー映画のデッチ上げ候補があるんだけど(ウェス・クレイヴン作品とか、ゾンビ映画とか)、キャスティングの難しさを考えると及び腰になってしまうわな。そもそも、私はそんなにホラー映画って見てないのね。なんせ怖がりだから(ダメじゃん)。
それにしても、『戦慄!蛾男の恐怖』っていう邦題はあんまりだな。B級どころかC級ですな。まあ、わざとバカっぽい邦題にしたんだけど。


なお、この映画は存在自体がフィクションです。
こんな映画、実際にはありません。

 

*妄想映画大王