『幻の湖再び』:2000、日本

<スタッフ&キャスト>

監督…橋本忍
脚本…橋本忍
製作…橋本忍

赤星由美子…楊原京子
須野村与玄…西田健
広田雅弘…津田寛治
真行寺常久…諏訪太郎
成本佳代…大村彩子
赤星哲夫…本橋卓朗
田宮涼子…斎藤のぞみ


<ストーリー>

赤星由美子(楊原京子)は都内の高校に通っている。彼女はソウルミュージックを唄う歌手になりたいという夢を抱いている。近くの公園で歌っていた由美子は、たまたま通り掛かった真行寺常久(諏訪太郎)に声を掛けられる。真行寺は幻のソウルキングと呼ばれたシンガーだったが、今は引退してボイストレーナーをしている。
真行寺は由美子の素質を見抜き、もし良かったらレッスンに来ないかと誘う。喜ぶ由美子だが、問題が一つあった。由美子の家は非常に貧乏で、レッスン代を出す余裕が無いのだ。由美子が幼かった頃に父は死んでしまい、母はパートで稼いで由美子や弟の哲夫(本橋卓朗)を育ててきたのだ。

ともかく、レッスンを受けるために真行寺の元に通い始めた由美子。レッスンは順調に進むが、由美子はお金のことが気になって仕方が無い。後払いだから当分の間は大丈夫だが、1か月後にはレッスン代を払わなければならない。
友人の成本佳代(大村彩子)に相談した由美子は、援助交際なら多くのお金を稼ぐことができると聞かされる。抵抗のあった由美子だが、どうしてもソウル歌手になりたいという気持ちは強く、彼女は佳代の紹介で中年男とデートすることにした。

佳代が由美子に紹介したのは須野村与玄(西田健)という男。ダスト企画という会社の社長をしているらしい。須野村はガーデニングに凝っているということを話し、由美子に「ヘルノビウム」という名の珍しい植物をプレゼントする。
由美子はヘルノビウムを持ったまま、アパートで独り暮しをしている哲夫を訪れた。奇妙な植物を家に持って帰るのがイヤだったため、由美子はヘルノビウムを哲夫に渡す。変なものが好きな哲夫は、すぐにそれを戸棚の上に飾った。

自宅に戻った由美子はインターネットでチャットを始める。彼女にとってチャットは日課のようなものだ。特に彼女がよく話をする相手は“ヒロタ”というハンドルネームを持つ人物。彼女が悩みを打ち明ける、良き相談相手となっている。
由美子とヒロタは、最近はICQを使って2人だけで会話のやり取りをすることも多い。2人の間では、近い内に会ってみようという計画が持ち上がっていたりもする。由美子はヒロタに対して、淡い恋心を抱くようになっていた。

由美子とヒロタと会う約束をした。約束の日、由美子は真行寺のレッスンを終えてから待ち合わせの場所である駅前の広場に向かった。初めてヒロタの姿を見た由美子。ヒロタは広田雅弘(津田寛治)という名の健康的な男だった。公務員をしているらしい。
由美子は広田とデートしながら、様々な会話を交わす。援助交際のことは秘密にしたが、ヘルノビウムという植物を手に入れたことは話した。すると突然、広田の顔色が変わった。ヘルノビウムを見せてくれと強い調子で頼む広田を、由美子は哲夫のアパートに連れて行くことにする。

アパートに着き、哲夫の部屋のドアをノックする由美子だが、返事は無い。留守のようだと由美子は広田に言うが、広田がノブを回すとドアは開いている。部屋に入った2人は、哲夫が首を吊って絶命しているのを発見する。
ショックを受けて声も出ない由美子に、ヘルノビウムがどこにあるのか尋ねる広田。戸棚の上にあるとはずと言う由美子だが、そこには見当たらない。部屋のどこを見回しても、ヘルノビウムが無い。「やっぱり……」とつぶやく広田。

広田によれば、ヘルノビウムは新種の細菌兵器らしい。特殊改良された胞子から分泌される細菌によって、近くにいる人間に「死が快楽である」という意識を持たせ、自殺に追い込むことができるというのだ。細菌の有効範囲は狭いが、近くにいる人間には確実な効果があるという。
警察に連絡しようと言う由美子だが、広田はやめた方がいいと告げる。ヘルノビウムは政府が秘密裏に開発してきた兵器であり、もし警察に連絡すれば、自分達の命が危険にさらされる可能性が高いというのだ。

広田は自分が公務員ではなく、秘密科学研究所(秘科研)の元研究員だったと告白する。ヘルノビウムは政府と秘科研の共同開発によって作られていたのだが、広田は殺人兵器を作り出すことに反対し、辞職したのだ。
由美子は援助交際のことを明かし、須野村という男からヘルノビウムを渡されたことを話す。広田は「須野村は弟ではなく君の命を狙っていたはずだ」と由美子に話す。そして、アパートからヘルノビウムを持ち去ったのも須野村だろうと推測していた。

由美子と広田は、須野村を探すことにする。由美子に須野村を紹介した佳代に会う2人。すると、佳代は知り合いの女子高校生グループから須野村の情報を知ったと話す。援助交際を斡旋するガングロギャルの集団があるというのだ。
そのグループが集まるという店に行き、須野村という男について尋ねる由美子と広田。だが、客の情報を明かすわけにはいかないと言われる。それでも食い下がる由美子だったが、グループの用心棒だという屈強な男達に囲まれる。しかし、広田の活躍で男達を撃退する。

用心棒を倒されて、ガングロギャルは仕方なくグループのリーダーである田宮涼子(斎藤のぞみ)の居場所を教える。自分達は詳しいことは知らないが、涼子なら色々と知っているはずだというのだ。由美子と広田は涼子に会いに行く。彼女は地下にある怪しげな喫茶店にいた。
涼子は須野村についての情報を教えてくれた。須野村は浜名道広という男の紹介で客として登録されたらしい。浜名の名を聞いて広田は驚く。浜名は秘科研でヘルノビウム開発の責任者をしている男だったのだ。

浜名の自宅に向かった由美子と広田だが、いきなりドアが開き、中から男が慌てて飛び出してきた。その男は真行寺だったが、彼はそのまま逃亡してしまう。急いで浜名の家に上がり込んだ由美子と広田は、そこで腹を刺されて死んでいる浜名の姿を発見する。
浜名は書斎で殺されていた。本棚を見た2人は、そこにノストラダムスや世界滅亡に関する書籍が大量にあることに気付く。そして由美子は思い出す。真行寺のレッスン場にも、なぜかノストラダムス関連の書籍がたくさん置いてあったことを。

レッスン場に向かった由美子と広田。そこには真行寺がいた。「私は浜名を殺していない。やったのは須野村だ」と言う真行寺。そして彼は、「あいつは、須野村はノストラダムスの生まれ変わりなんだ」と驚くべき告白を始める。
実は須野村はノストラダムスの生まれ変わりで、真行寺は予言管理組織の人間だった。ノストラダムスの「1999年に世界が滅亡する」という予言が守られなかったため、予言不履行によって須野村を処刑するのが真行寺の使命だった。

しかし、真行寺は自ら手を下すことを恐れ、だれか別の人間に処刑させようと考えた。そこでノストラダムスの恋人だった女性の生まれ変わりである由美子を見つけ出し、歌のレッスンと称して洗脳を繰り返し、殺人者に仕立て上げようとしていたのだ。
しかし、そのことに気付いた須野村は自分の信奉者である浜名に接近してヘルノビウムを入手。由美子に接近し、ヘルノビウムを使って彼女を殺そうとした。だが由美子が哲夫に渡してしまったため、暗殺は失敗に終わったのだ。

真行寺は既に須野村の隠れ家を突き止めていた。琵琶湖の近くに彼は潜んでいるという。由美子と広田は須野村の隠れ家に向かった。由美子がやって来たことに驚き、慌てて逃げ出す須野村。その時、由美子の脳に衝撃が走る。由美子は台所に行って包丁をつかんだ。
包丁を持ったまま、外へ飛び出していった須野村を追い掛ける由美子。そんな由美子を「殺してはいけない!」と叫んで追い掛ける広田。だが須野村と由美子のスピードに追い付けず、力尽きて「予言者は滅びるのか…」とつぶやきながら広田は倒れる。

琵琶湖のほとりを走って逃げる須野村。必死に追い掛ける由美子。やがて須野村は疲れ果て、逃げるのをやめて由美子の方に向き直る。由美子も足を止め、息を落ち着かせようとする。そして包丁を構え、須野村をじっと睨み付ける。
須野村は「君は私を殺すんだな」と言う。その言葉を聞いた由美子は「予言者の言葉は守られるであろう」と抑揚の無い言葉を発し、ダッシュして須野村の腹に包丁を突き刺す。もつれるようにして、2人の体は琵琶湖に沈んでいくのであった。


<解説>

黒澤明監督の作品を始め、数々の大作映画で脚本家としてのキャリアを積み上げていた橋本忍。
そんな橋本が1982年に東宝創立50周年記念作品として産み落としたのが、『幻の湖』という作品であった。彼は監督、脚本、製作の3役を務め、心血を注いで作品を作り上げた。

しかし、あまりに不可解で珍妙な内容は観客に受け入れられず、あっという間に上映は打ち切りとなった。さらにテレビ放送はおろか、ビデオ発売もされることがないという、まさに幻の作品となってしまったのである。

この映画で評判を大きく落としてしまった橋本忍は、この後に2本の映画で脚本を手掛けるがいずれも不評で、そのまま映画界から遠ざかってしまった。自分から遠ざかったというよりは、むしろ映画関係者から敬遠されてしまったというのが事実だろう。
だが、橋本忍は決して映画を忘れたわけではなかった。映画に掛ける彼の情熱は、ずっと消えずにいたのである。そしてついに2000年、彼の映画に対する熱い想いは報われることになった。彼は久しぶりに、映画の世界へ戻ってきたのである。

橋本忍が映画界復帰に選んだのは、『幻の湖』の続編であった。それはあまりにも危険な賭けである。確かにカルト作品として一部で人気があるとはいえ、散々な興業成績に終わった映画の続編を作るというのは、普通に考えれば愚かな行為である。
しかし、彼はあえてそれに挑戦した。もしもこの作品が再び悲惨な結果しか残せなければ、橋本忍はまた映画界から遠ざかることになるかもしれない。彼の思い切った挑戦が吉と出るか凶と出るか、それは観客が判断することである。

『幻の湖』の続編となっているが、関連性はほとんど無い。しかし『幻の湖』と同じく、これは一見すると全く統一性の無い多くの要素を詰め込んだ作品だ。
インターネット、細菌兵器、援助交際、ダイオキシン、ガングロ、ソウルミュージック、ガーデニング、ノストラダムスなど、まさに“ごった煮”なのである。

そこで提示されるのは、クレイジーでサイケデリックな物語だ。現実も非現実も乗り越えたストーリー展開に、観客はもはや混乱さえ忘れてしまうことだろう。脳内麻薬が分泌され、恐るべきムービー・ドラッグの罠に落ちていくのである。

ヒロインの赤星由美子には、MBSの昼ドラマ『命賭けて』で主演した楊原京子が抜擢された。親友の成本佳代には人気番組『開運!なんでも鑑定団』のオープニング映像が有名な大村彩子、コギャルグループのリーダー田宮涼子にはグラビアで活躍する斎藤のぞみが起用されている。
広田雅弘役は、『119』や『鮫肌男と桃尻女』の他、北野武監督の映画に多く出演している津田寛治。哲夫役はテレビドラマ『3年B組金八先生』に出演していた本橋卓朗。さらに数々の作品に出演するベテランの西田健や諏訪太郎が脇を固めている。


<蛇足>

『幻の湖』という作品自体、私は見たことが無い。とにかく違う意味で凄い作品らしいのだが、詳しいことは知らない。その作品の続編ということで、とにかくクレイジーで破綻したストーリーを作ってみたつもりだが、たぶん『幻の湖』はもっとイカレてるんだろうなあ。
日本映画の場合、アメリカ映画のようにネタになりやすい素材がなかなか見つからない。もっと邦画をデッチ上げたい気持ちはあるけど、どうしてもアメリカ映画が中心になる。ホントはウルトラマンとかゴジラのような特撮映画をデッチ上げてみたいんだけど、著作権とかウルサそうだしね。


なお、この映画は存在自体がフィクションです。
こんな映画、実際にはありません。

 

*妄想映画大王