『007〜誓いのレクイエム』:1970、イギリス
Requiem For Love
<スタッフ&キャスト>
監督…ピーター・R・ハント
脚本…リチャード・メイボーム&サイモン・レイヴン
製作…ハリー・サルツマン&アルバート・R・ブロッコリ
音楽…ジョン・バリー
主題歌…エラ・フィッツジェラルドジェームズ・ボンド…ジョージ・レーゼンビー
エルンスト・スダブロ・ブロフェルド…テリー・サヴァラス
フロイライン・イルマ・ブント…イルゼ・ステパット
キャシー・ダグラス…ジェーン・シーモア
ミン・チャウ…ナンシー・クワン
マイケル・フラバーグ…リチャード・クレンナ
マルク・アンジュ・ドラコ…ガブリエル・フェルゼッティー
M…バーナード・リー
Q…デズモンド・リュウェリン
マネーペニー…ロイス・マクスウェル
<ストーリー>
ジェームズ・ボンド(ジョージ・レーゼンビー)は犯罪組織スペクターの頭領ブロフェルド(テリー・サヴァラス)と秘書イルマ(イルゼ・ステパット)に妻トレイシーを殺された。
ボンドはトレイシーの墓の前で、「必ず仇は討つ」と約束する。情報部から2週間の休暇を貰っていたボンドは、トレイシーの父親でコルシカ・ギャングの首領でもあるドラコ(ガブリエル・フェルゼッティー)の元を訪れる。彼はブロフェルドの情報をボンドに教える。彼によれば、ブロフェルドはカナダに住むキャシー・ダグラス博士(ジェーン・シーモア)と関係があるという。
ドラコと話をしていると、物陰で音がして男が逃げていく。ブロフェルドの手下が話を聞いていたのだ。追い掛けるボンド。モーターボートで逃げる男を追い詰め、岩にぶつかった男のボートは爆発を起こす。職務に戻ったボンドはそのことをM(バーナード・リー)に話す。私情を挟む可能性が高いと考えたMはボンドをプロフェルドを追う任務から外そうとするが、ボンドは言うことを聞かず、勝手にカナダへ行くことを決める。Mはボンドを止めることをあきらめる。
ボンドがQ(デズモンド・リュウェリン)に会いに行くと、彼は新型のリモートコントロール式ミニヘリコプターの開発をしていた。ボンドはQから秘密兵器のレーザーカッター付き腕時計を受け取る。カナダへ飛んだボンド。ダグラス博士の研究所へ行くと、博士は自ら研究について説明してくれる。彼女は“SBM”と呼ばれる薬品の研究をしているとボンドに説明。そしてある部屋にボンドを案内し、どこかへ行ってしまう。
博士が去ってすぐに東洋人の女性ミン(ナンシー・クワン)が現れた。ミンはいきなりボンドに襲い掛かってくる。彼女を撃退してその部屋を出たボンドは、別の部屋に侵入。書類を盗み見て、アメリカのフラバーグ薬品会社とこの研究所がつながっていることを知る。部屋を出たボンドは、そこでブロフェルドや秘書のイルマの姿を目撃する。彼らはダグラス博士と共に研究所から去ろうとしていた。
ブロフェルド達を捕まえようとするボンドだが、ブロフェルド達は「悪いな、今は君と遊んでいる暇は無いんだよ」と言い残し、車に乗り込んで走り去って行く。アメリカへ飛んだボンドはフラバーグ薬品会社のあるデトロイトへ向かう。だが追ってくる車があった。運転しているのはミン。彼女とのカーチェイスの末、何とか振り切ったボンド。フラバーグ薬品会社に辿り着く。
薬品会社に潜入したボンドは、その奥に秘密の扉を発見。扉の向こう側はSBMの研究施設になっており、ダグラス博士と薬品会社の社長フラバーグ(リチャード・クレンナ)がいた。身を隠して研究内容を観察するボンドだが、背後からイルマに不意打ちを食らい、その場に崩れ落ちる。気が付いたボンドの目の前にブロフェルドが立っている。だがボンドは痺れ薬を飲まされており、体が思うように動かせない。
ブロフェルドはSBMが化学反応で大爆発を起こすことに目を付け、それを利用した新型ロケット爆弾の開発を企んでいた。既に研究は最終段階に来ており、ブロフェルドはオーストラリアで実験をする計画を立てていた。ボンドを残し、ブロフェルドはイルマやダグラス博士、フラバーグと共にその場を去る。そしてボンドの前にミンが現れる。ろくに抵抗もできないまま、ミンにいたぶられるボンド。しかしボンドは突撃してくるミンの勢いを利用して彼女を投げ飛ばす。
気絶したミンに対し、「悪いな、今は君と遊んでいる暇は無いんだよ」とつぶやくボンド。一度イギリスへ戻り、状況を報告するボンド。Qからミニヘリコプターの開発が終了したと聞き、そのリモコンを受け取る。そしてボンドはオーストラリアへ渡る。オーストラリアの砂漠にブロフェルドの要塞があり、そこを拠点にして彼らは新型爆弾の実験をするつもりなのだ。
要塞へ潜入するボンド。発見され、ブロフェルドの手下に襲われるが、復讐心に燃えるボンドは敵を全て倒していく。そしてついにブロフェルドとイルマのいる司令室へ。だがそれは罠だった。彼らに捕まり、ロケット爆弾にロープで括り付けられるボンド。ブロフェルド達はボンドを括り付けたロケット爆弾を発射しようとする。ボンドはレーザーカッター付き腕時計でロープを切断。そしてミニヘリコプターのリモコンのスイッチを押し、発射装置のハッチを開いて要塞の外に脱出する。
そうとは知らないブロフェルドは発射スイッチに手を伸ばした。発射用のハッチが開く。しかしボンドはすぐにハッチを閉じてしまう。そして到着したミニヘリコプターに捕まり、要塞から離れる。ロケット爆弾は発射しようとするがハッチが閉じているため、要塞内で大爆発を起こす。
ミニヘリコプターに捕まりながら、ボンドは爆発する要塞を眺めていた。
<解説>
ジョージ・レーゼンビーは『女王陛下の007』でジェームズ・ボンドを演じたが、あの作品はボンドが結婚したり、悪役が生き残ったり、ハッピーエンドで終わらなかったりと、それまでの007シリーズとはかなり趣きの違った作品になっていた。
それは製作者側の意向であった。シリーズが続くにつれ、次第にマンネリ化が問題となっていた。そこでボンド役がショーン・コネリーからレーゼンビーに交代するのをきっかけにして、これまでとは全く違う路線の007を作ろうとしていたのだ。そして、この『誓いのレクイエム』は、新しい路線に基づいて作られた幻の007映画である。というのも、作品自体は撮影が終了していたが、レーゼンビー演じるボンドがあまりに不評だったため、彼のボンドは1作限りということになってしまったからだ。そのため、この作品は長きに渡ってお蔵入りとなっていた。
大きなポイントは2つ。
まずボンドが仕事としてではなく、妻トレイシーの仇討ちという個人的な理由で敵と戦うこと。そしてボンドガールと親密な関係にならないことである。トレイシーのために戦っているのだから、他の女と親しい関係にならないのは当然といえば当然なのだが、007シリーズの定番をあえて外しているというのは、かなり思いきった冒険と言えよう。スタッフは前作とほぼ同じ。製作はもちろんハリー・サルツマン&アルバート・R・ブロッコリで、監督はピーター・R・ハント。音楽は007シリーズ以外にも『ダンス・ウィズ・ウルブス』や『コットンクラブ』など多くの作品にスコアを提供しているジョン・バリー。
今回の主題歌はジャズのスタンダード・ナンバーである「テンダリー」。唄うのはエラ・フィッツジェラルド。レーゼンビー演じるボンドの脇を固めるのはM役のバーナード・リー、Q役のデズモンド・リュウェリン、マネーペニー役のロイス・マクスウェルと、おなじみのメンバーだ。前作『女王陛下の007』の続きという形なので、ドラコ役のガブリエル・フェルゼッティーも前作に引き続いて出演している。
ブロフェルド役は毎回演じる人間が違うのだが、この作品では前作と同じく、『刑事コジャック』で有名なテリー・サヴァラスが演じている。イルマ役も前作と同じくイルゼ・ステパットだ。前作には登場しなかったフラバーグを演じるのは、『暗くなるまで待って』や『ランボー』のリチャード・クレンナ。
ボンドガールは2人。どちらも敵として登場する。ダグラス博士を演じるのはTVシリーズ『ドクター・クイン』のジェーン・シーモア。彼女は1973年の『007〜死ぬのは奴らだ』でボンドガールに選ばれているが、実はあれは2度目のボンドガールだったのだ。
ミン役は香港出身のナンシー・クワン。『スージー・ウォンの世界』で華々しいデビューを飾った彼女は『サイレンサー〜破壊部隊』や『ドラゴン〜ブルース・リー伝説』にも出演している。
<蛇足>
絶対にありえないな、こんな作品。そもそも原作にこんなストーリーは無いし。それにレーゼンビーってスタッフとケンカみたいな状態になって降板したらしいし。ちなみにレーゼンビーの人気云々を差し引いたとしても、『女王陛下の007』は映画自体があんまり面白くなかったりする。
個人的には007はバカテイストの強い作品だと思っている。だからバカテイストの低い007シリーズはそれほど好きではない。もし機会があったら、今度はバカテイストの強い007映画をデッチ上げてみたいですな。
なお、この映画は存在自体がフィクションです。
こんな映画、実際にはありません。