特集シルクロード
〜タクラマカンを越えて〜
2004年9月の半月間、シルクロードツアーを敢行しました。
シルクロードは日本文化の源流のひとつで、日本人にとって極めて
重要な地域です。
今回は、 1.タクラマカン砂漠村落部での古ウイグル文化の調査
と音楽交流
2.都市部芸術家との交流
3.学術関係者との交流
4.伝統楽器奏法も含めた資料の収集
という、4大テーマを同時に設定した過酷なツアーとなりました。
全日程を通じ、フィールドワーク・音楽交流・学術交流をすべて
デジタル動画でアーカイヴ(記録保存)し、20時間近いDVD
として結実しました。
行程:新彊ウイグル自治区
ウルムチ市〜カシュガル市〜ヤルカンド県〜メケット県
団員:三木俊治(団長)大森ヒデノリ、三木理恵、高橋直己(撮影班)
1)砂漠の伝統音楽調査と音楽交流
ヤルカンド県の市内風景〜オアシスの町ヤルカンド。
ここから奥地へ入る。

辺境の村へと向う道

村へ到着。200数十戸、1200名余の小村だが、
チャガタイ・トルコ語による芸能の継承など、古ウイグル
文化を温存している地域である。

歓迎の歌と踊りが始まる。
ウイグル族はイスラームであるが、音楽をこよなく
愛する民族で、客人は必ず歌と踊りで歓待する。
また、戒律で禁止されている飲酒もOKで、村の
雑貨店で50度の白酒(高粱焼酎)を売っていたの
には驚いた。
右から2人めの古老が演奏する弦楽器が、今回調査
のメインとなっているもので、指板上で指をすり動
かして旋律を奏したり、バチ様のピックで演奏したり
と、三味線的な要素の感じられる特殊な楽器である。

早速、村人に伝統芸能の実態についてインタビュー
を行う。

「交流の時間」がやってきた!
音楽好きな村の楽師達は、ひょうたん楽器に並々なら
ぬ関心を示して、勝手に演奏しはじめる。
(左端は、柿右衛門を演奏する弦楽器奏者。とは
言っても普段は農民。この人達の音感とセンス、
ただものではない。)

ひょうたん笛「ヒョコーダー」を演奏する長老。
日本ではありえない風景。このような瞬間、私達は
一方的に情報をもらう研究だけでなく、演奏家・楽器
製作者として対等に交流できる立場に誇りを感じる。

三木理恵はひょうたん楽器「ジュラ」を弾いて一座
を沸かす。

この村の特殊な伝統楽器「ダプ」の奏法について
参与的観察(研究者自身が体験して情報収集する事)を
行う三木

宴は盛りあがって、マシュラップ(伝統的舞踊)はいつ
はてるともなく続く。

2)都市部での現地アーティストとの交流
シルクロードのオアシス都市、カシュガルでは、ナショナル
レベルのアーティストを擁するカシュガル市歌舞団との演奏・
学術交流を行い、ひょうたんフィルの‘開発力’‘演奏能力’
が評価され、楽器製作についてのレクチャーも実施した。
歌舞団メンバーの自宅に招待され、「都市部での伝統音楽
の現状」などのインタビューをする三木

タンブール(撥弦楽器)、ドタール(〃)の名手2人による
デモ

高橋が参与的観察をおこなう。

「交流タイム」
日本側メンバー全員による、ひょうたん楽器によるウイグル
近代音楽「カンバルカン」を表敬演奏した後、タンブールの
先生が「実は私もオリジナルの楽器を開発したが、問題があるので
製作について教えてほしい」と、今度は製作交流のひとときに。

この楽器、ウイグルの伝統的な弦楽器の要素を融合させた
新しいもので、こういう楽器を歌舞団の演奏家が開発する
ところに伝統が生きているという実感がわく。
三木が楽器を試奏した後、‘製作レクチャー’となる。

☆この歌舞団演奏家達との交流は、単に演奏家同士の
情報交換にとどまらず、楽器の製作についての技術交流
なども飛び出し、日本−ウイグル間の親交を深める
いい機会だった。
3)都市部での学術交流
今回の現地コーディネータは、NHK「シルクロード」の
製作を担当した優秀なウイグル人で、お父上は新彊の大学の
学長、弟さんは伝統音楽の研究者という学者一家である。
お宅に招待され、伝統音楽「12ムカーム」などについて
論議を交わす。
新彊特産の桃を囲んで会食

伝統音楽研究者である一家の次男と情報交換

伝統音楽のアーカイヴ、活用等について三木が提言を
行う。

4)シルクロード伝統文化についての資料収集
新彊でも、近代化とともに伝統的な価値はどんどん失われ
つつある。我々は、今回、辺境での伝統楽器の習得など
参与的観察とデジタルによるアーカイヴ(記録と保存)
を組み合わせ、体系的な「最新情報収集」に努めた。
その1 伝統楽器の奏法等のアーカイヴ
これはメケット県周辺の起源で、伝統音楽の大作である
12ムカームの楽器としても取り込まれている「カロン」
という楽器の講習による奏法のアーカイヴ。担当は三木
理恵。(ただし今回の調査ではカロンは近代改良された
ものしか発見できなかった。)

その2 都市部の楽器製作現状の取材と交流
近代化と伝統のそれぞれの価値のせめぎあいを記録し、
かつ日本の新しい文化である「ひょうたん音楽」もぶつけ
てみる。
この資料は、改良型の弦楽器「レワープ」の皮張り風景
で、もともと羊皮が張られていたが昨今はほとんどがビ
ルマニシキヘビの皮に置換している。ここでは、羊皮
という伝統的価値がニシキヘビと言う本来ウイグルで
産しない輸入文化にとってかわってしまったのである。
この工房では、ひょうたん胴にニシキヘビの皮を張った
我々の楽器「ジュラ」に関心が集まり、職人・店主が
ジュラでウイグル音楽を演奏する、という交流タイムも、

その3 近代楽器の収集
ウイグルの「現在」アンサンブルで使用されている最新の
楽器を体系的に実物・奏法を収集しアーカイヴする。
これらは、帰国後、ひょうたんフィルの公開講座等で
社会還元される予定。

その4 都市近郊村落の音楽等のアーカイヴ
このシーンは、カシュガル西方40kmに位置するムシュ
という地域の親子によるまつりの音楽の演奏シーンで、
その他にも現在日常行われている芸能を色々と披露
してくれた。

その5 街頭音楽、辻音楽師等の演奏のアーカイヴ
メケット県では、比較的伝統的形態を残している弦楽器であ
るドタールを弾き歌う辻音楽師、ウルムチ市、カシュガル市
では中世から存在する太鼓「ナカラ」、リード楽器「スルナ
ーイ」を中心とした街頭音楽等をアーカイヴした。

・・・・・・・・オアシス都市の食文化・・・・・・・・
新彊は、勤勉なウイグル族によって拓かれた豊かな農産物を誇る
地域である。
砂漠の中を走る大小の河川流域には、必ずウイグルの人々が
作り上げた小村落があり、桃、あんず、ざくろ、西瓜、メロン、
葡萄、多様な野菜などが栽培され、小麦の粉食文化「ナン」、
羊肉を中心とした多彩な食が展開する。
水平線まで何もない、茫漠たる砂漠を旅したかつての旅人達は、
このようなオアシスの町に真の「桃源郷」を見たのではないだろう
か。
・露店の果物売り(カシュガル)

・シシカバブ トルコ系の要素を色濃く残す一皿(ウルムチ)

・漢民族の要素を取り入れたウイグル料理のコース(カシュガル)

・ファストフード的感覚の煮こみ鍋料理(カシュガル)

・羊は一匹あますところなく調理する(カシュガル)
