ひょうたんから生まれた本格派楽器たち

ひょうたん博士(三木俊治)が20年かけて世界の音楽文化を研究し生みだした新しい楽器たち。全部は紹介できませんが代表的なものを挙げてみましょう。


(日本化させた舶来弦楽器たち)

西洋の弓奏弦楽器の源は、すべてアジアであるという学説がある。だとすると、ヴァイオリンやチェロももう一度「アジアに帰って」もらうべきである。西洋オーケストラで主役のヴァイオリン、ヴィオラ、チェロといった楽器達も、博士の手にかかれば全く異なった深い音色の楽器となって新登場。ひとつひとつが独立した楽器として新しいオーケストラの新しい地位を占めている。弦の長さが同じなので洋楽器の奏者がそのまま演奏できる上に「音色が一台一台ちがう」という強烈な個性が演奏家達の心をとらえて離さない。

「柿右衛門」
初代・二代・三代とあるが、初代が有田焼の柿色を模した漆でぬられていたためこう命名された。
演奏性能はヴァイオリンと全く同等で、現代音楽的表現からローカルな表現まで、すべてに対応できる。音色が柔らかく深いのが特色で、尺八、胡弓といった和モノ系とも大変よく溶け合う。

「尾長」
柿右衛門よりひとまわり大型のヴィオラ音域の楽器。非常に落ち着いた「大人」の響きのする楽器で、西洋のヴィオラがやや鼻にかかった音色であるのに対し、華やかさや深み、を備えた音色である。

「マルチェロ」
チェロよりひとまわりちいさい新しい低音楽器。国外での評価が大変高く、大阪教育大学のチェロ科助教授、大木氏によると
「チェロとことなった特色、特にg線における表現に面白さがあり、またハーモニックス(弦に指をかるく触れて発音する奏法)における音色が美しい」
とのコメント。


(オリジナルデザインで美術としての評価も受けた楽器)

「ベルトヴィオラ・ダ・モンネ」
この楽器は、ひょうたん製の胴体をベルトにはさんで演奏する、というユニークなデザインでハンズ大賞、インターネットアートコンテストなどアート領域で評価された楽器である。
システム的には、4本の共鳴弦をもったヴィオラ音域の独奏楽器で、鼻にかかったような、しかし共鳴の豊かな音色を持ち、ダンスミュージックなどに最適である。


(たてに弾くヴィオラ)

「ひまわり」
これはいってみればたてに弾くヴィオラ型の弦楽器で、鉄弦がはられており非常に豊かな残響を持っている。
西洋楽器と大きく異なる点は、音響インピーダンスが撥弦楽器と弓奏楽器の中間にあるため、はじいて演奏してもよい響きが得られるという点である。


(これまで世界にないシステムの弦楽器)

「とんぼ」
この楽器は弦楽器で、長い棹の先端に横にしたひょうたんがつけられ、上下に一本の弦がわたされた一弦琴である。
胡弓のように弓で横に弾くと、ひょうたんの表面が共振して、「ひょうたんそのもの」の共鳴音が出る。オリジナル性を極めた楽器である。

(昆虫の発音原理で鳴らす楽器)

「光陰」/写真手前
 昆虫は小さいながら非常に大きな音を出す。 それを取り入れた弦楽器で、超小型のひょうたん 「千成」に弦を渡し、弓で弾きつつひょうたん を擦り合わせて共振させるという、画期的なシステムの胡弓である。


(弦をはじく・弾く・弓奏を一体化したスーパー新型胡弓)

「大 木」
この楽器は、3本の金属弦の下に9本の共鳴弦が配置された胡弓の一種で、北東・東・東南・南アジアの楽器のすべての要素が取り込まれ消化された新しい日本の楽器となっている。

胡弓の奏法開発に余念のない木場大輔の手によって、共鳴弦を琴のようにかきならしつつ、メイン弦を弓で弾き、かつピツィカート(はじく)も同時に行うといった劇的表現の可能な芸術楽器となった。

全体が「樹木を中心とした宇宙」をかたどっており、頭部のひょうたんが太陽、棹が大木の幹、調弦装置が葉、胴体が地球を表している。楽器製作のテーマは「現代楽器における世界観の復活」である。 

(新型胡弓)

「ヘビタール」
金属弦の張られた、中型胡弓。
音域的には、ヴィオラに順じた高さで、琉球胡弓、本土型胡弓のどちらにも属さないしっとりした響きを持っている。日本音楽にも、西洋のうたにもフィットする楽器となっている。 

(新型胡弓)

「ヘビタール2」
二胡のデザインの中に、最新式のシステムを詰めこんだ、ハイテク胡弓。
まず、棹が胴体を貫通しておらず、音がダイレクトに裏に抜けるため、音響特性が非常によい。そしてひょうフィルならではのオリジナリティとして、ひょうたんと全く同じ形に焼かれた磁器製の反射胴が、ひょうたんの中に組みこまれた「ニ重構造」があげられる。この革命的システムにより、強大な音響を実現し、チャルメラと同時に演奏しても遜色ない演奏が可能となった。


マッドスルナとヒョコーダー
「マッドスルナ」(中央)は、ひょうたんをまるのまま使い、内部を1ミリの数十分の一という精度で加工して作られた新しいリード楽器。
強いて言えば新しいシステムのオーボエ。ドレミファでも演奏でき、チャルメラのような個性的な表現もできる。「ヒョコーダー」は、尺八のような表現のできるリコーダーをめざして開発された縦笛で、このような笛の仲間は博士が担当している。

「バゲット」
縦笛の一種で、80cm余りの長大なひょうたんの内径をコントロールし、基音aの低音管を設計。いってみればヒョコーダーの親、のようなもので、尺八風な表現力を目差したという点でもいわゆる西洋のリコーダーではない。

(尺八とナイとケナを融合した縦笛)

「モダール」
この笛は、変則的な指穴を持つ縦笛で、特定の音階しか出ないようになっている。

「ローンシャーク」
西洋のクラリネットと、祖型であるエジプトのアルグール系楽器の音色を融合させたような音色をもつ管楽器。
一般的なクラリネットよりも薄いリードを使用することによる、わざと音を割ったようなトルコ的表現や、キー装置がないことを利用した微分音的表現など、非常にアナログな楽器として完成している。


ツルクビゴールド、ツルクビブラック 他
(写真奥から「ぽっぺん」「ツルクビゴールド」「ツルクビブラック」「春風」)

ひょうたんの横笛シリーズ。「ぽっぺん」はインド音楽用に開発された全く新しい笛で、全長1m20cm 余り(そんな長いひょうたんがあるんです!)。低くあたたかい音色が特色。「ツルクビゴールド」「ツルクビブラック」は風の音と優しい響きの混ざり合った多彩な音色。「春風」は春の嵐をイメージしたアラベスク模様が特徴の明るい音色の笛。

 


ヒョーダラブッケ 他
(写真左から「ヒョーダラブッケ」「黒天茸」「だいやな」)

ひょうたんの太鼓群。「ヒョーダラブッケ」は丸い胴で低音を出し、皮の端の部分で高音をたたき分けるアラブ風システムの打楽器。「黒天茸」は細長いひょうたんの上部にのみ皮を張った太鼓。現在はロープが張られてトーキング・ドラム風になっている。「だいやな」は電気的ハウリング現象を利用し低音を共振させて発音する全く新しいシステムの打楽器。他にも多数の打楽器がある。

 

(フレームドラム)

「たまねぎ」
アジア、特に中央・西アジアの文化を語る上で抜きにできないのがフレームドラムである。薄い胴に1枚の皮をはっただけのシステムの太鼓だが、両手指を駆使することによって多彩な音色とリズムをたたき出す。
このたまねぎでは、巨大なひょうたんに山羊の皮を張って両手指で打奏するが、同時に上部に装置されたクラッパーが共振して、「さわり」的効果を出す。さわり、のような雑音を音楽の一部としてとらえるのは、非西洋圏音楽の特色である。

(言語を持つ太鼓)

「ニ連星」
いわゆるトーキングドラムのシステムを取り入れた楽器で、中型のひょうたんふたつを組み合わせ、両端に山羊・豚皮を張ってある。
ロープを片手で圧縮しながら膜面を打つと、音程の高低差と音量で言語表現ができる。


(アジア的要素をすべて取り入れた一弦琴)

「白鳥」
もともとはベトナムのダンバウのように張力を変えながら演奏する楽器をめざしており、ダンバウと大きく異なる点はハーモニックス奏法を使わないで1オクターブ半の音域を持つことと、皮張り、12本の共鳴弦をもち宇宙的な残響を持つことである。
現在この楽器は、ひょうたんフィルベトナム支部
であるしのみどり先生の手許にある。


(弦をはじく楽器〜フレットのあるもの)

「ひょん」
頭部の鳥の彫刻や、仏教的彫刻のほどこされたサウンドホールにみられるように、東南アジアを意識しながら、世界中の撥弦楽器のシステムを取り入れて開発された。
金属弦が3本はられており、音色的にはアラブのウードとギリシャのブズキ、雲南省のダビアといった様々な弦楽器を融合させたような個性を持つ。フレットをつけるメリットは、ひとつの音楽の中で同じ高さの音程をスピーディーに繰り返し使用することが多い場合に有効であることで、このひょんでは、平均律に近い調律にしてある。

(弦をはじく楽器〜フレットのないもの)

「スブタール」/写真奥
金属復弦3コースの新しい楽器で、かなり強く中央アジアの音色を意識して開発した。現在の日本の楽器にはみられない奥の深い非常に豊かな残響をもつ楽器で、特に低音弦がオクターブの復弦になっているため、コーラスのような効果がでる。
このように表面に薄い皮のはられた弦楽器としてはアゼルバイジャンやトルコなどにみられるタールという楽器があるが、スブタールは音色、
音響構造的な面から言って全くオリジナルなものである。
フレットをつけないメリットは、同じ音楽の中で微妙に音程に高低をつけたい場合に大変効果的であるということである。フレットはフレットで便利なシステムではあるが、基本的にフレット間隔よりもせまい音程を出すために大変な努力をしなければならないという弱点もある。そういった意味で、安定した音程を得るための訓練は必要とされるがノーフレットの楽器のほうが可能性には満ちていると言えるだろう。

「ジュラ」
ヘビ皮の張られた、琉球を意識した撥弦楽器で、弦の構成はスブタールと同様金属弦の3複弦で、三線とはまた異なった音色を持っている。

(中央アジアのデザインと日本の音色を持つ楽器)

「にんにく2」
このように首の長い撥弦楽器は中央アジア圏特にウイグルによく見られるデザインで、絹糸または鉄弦などが張られていることが多い。
この楽器は、琵琶のような音色と、微分音のコントロールを目的とした長い棹を、ひょうたんを活かしつつ設計した。

(共鳴弦のたくさんある撥弦楽器)

「ヘルムホルツ・レゾネータ」
私の予測では、一番最初に弦楽器に共鳴弦をつけようと考えたのは、おそらくペルシャのサントゥールのような「弦のたくさんある楽器が演奏中に共鳴するのを注意深く観察し」魅力を感じた人間であったと思われる。
しかし残念なことに、調弦するのが面倒なためか、現在アジアや北欧の楽器を中心としてしか残っていない。この楽器は、共鳴弦のある琵琶、といった趣の楽器で、2本張られた太い金属弦と、12本の細い共鳴弦でできており、小さな共鳴胴にかかわらず、大変豊かな響きを持っている。(写真奥)

(ディジェリドゥーよりもよく鳴るラッパ)

「ドラゴン」
200cm近い長大なひょうたんの内径を漆でコントロールした、ひょうたんラッパである。オーストラリア先住民の楽器ディジェリドゥーのように演奏できるが、音量ははるかに大きい。


ひょうたん楽器の音とは!?

ひょうたんは木でもプラスチックでもありません。まさにひょうたん独自の音の世界を持っています。たとえばひょうたんでヴァイオリン型の楽器を作っても、ヴァイオリンの音色にはなりません。日本のひょうたんなら、日本的なしっとりとした音色が出ます。

ここではひとつひとつの楽器、または合奏のいくつかのサンプルを聴いて下さい。


独奏編

・「りんどう」/三木理恵作曲

「りんどう(オリジナル曲)」演奏:[.mp3][real streaming]

・だいやな即興

エレクトリックひょうたん「だいやな」とひょうたん一弦琴「白鳥」によるエスニックなサウンド!!

だいやな演奏:[.mp3][real streaming]


合奏編

・「にんにく」組曲『シルクロードの四つの野菜』より/三木俊治作曲

(CD『シルクロードの四つの野菜』収録曲)

「にんにく(オリジナル曲)」演奏:[.mp3][real streaming]