赤松ますみ氏選  (川柳文学コロキュウム)     

           詩的センスを感じる赤松ますみさんの選に入った句です


         つべこべを煮つめて苦いママレード (2011.3月)

         鉄橋を渡るみかんを剥きながら (2011.3月)

         冬日和 全件消去したように (2011.2月)

         のみ込んだ言葉燃やしている暖炉 (2011.2月)

         ゆっくりと罪を償う観覧車  (2011.2月)

         赤い唇から溢れるナイヤガラ (2011.1月)

         侍になってリンゴを剥いている (2011.1月)

         お日様に一番近い始発バス(2010.12月)

         除菌スプレーとは無縁の冬の月(2010.11月)

  秀句     S極になびくN極の不自由(2010.10月)

         首筋でぶどうの房になる吐息(2010.10月)

         約束の蝶のタオルを干している(2010.10月)

         歯ブラシをくわえたままで聞く話 (2010.9月)

         ロウソクに裸体をさらす原爆忌  (2010.8月)

         ツイッター 歯間ブラシが届かない(2010.8月)

         約束の場所ではじけているラムネ (2010.7月)

 秀句       半熟の黄身をつぶすと非常ベル  (2010.7月)

         手触りは猫毛のようなお詫状  (2010.6月)

         さよならに挿んでおいた温度計 (2010.6月)

         完熟の嘘を一粒もいでみる   (2010.6月)

         花一輪落としどころを知っている (2010.5月)

         月の庭 ころんと石になっている (2010.4月)

         シナリオ通り泣いて女優になるカラス (2010.4月)

         モナリザの眉へと続く森がある(2010.3月)

         あくびしながら素焼きポットで発芽する(2010.3月)

         ミルフィーユになる二月のラッピング(2010.2月)

         夜明けまで白熱灯を抱くメロン(2010.2月)

         向き合えば頷くはずだった首(2010.1月)(コメント2)

           静座して待っている星の告白

         クリスマス フォントを一つあげておく(09.12)

         人間の形のままでポトフの具  (09.11)

         空っぽの心を満たすハンバーグ (09.10)
  
         やさしさにルーペかざしているのです(09.10)
           
         月曜日 しっぽの色が決まらない(09.9)
           
         ジェラシーの海を卒業したクラゲ(09.9)
           
         青汁で摂るヘルシーな嫉妬心 (09.7)
           
         ひとり遊びに慣れたアダムのあばら骨(09.6)

         もう一度会いたい人に借りる傘  (09.5)
           
         すりガラスの向こう側ではゲリラ戦
           
         ミレニアム 阿修羅は鬱を抱いている (09.3)
           
         未熟だけど冬のトマトの無理が好き (09.2)
           
         パスワード変えて停戦合意する
           
         バスの窓 知らない人の指の跡 (09.1)
           
         窓ガラス雨粒たちの出会う街 (08.12)
           
         夢一夜 思い出せないパスワード
           
                                        

         


    コロキュウム誌 フィッシュアイ掲載句


          ミンサーの糸にからまる米軍機

          回廊のところどころに夢の跡

          センサーに触れるピカソのエッチング

          頼りない机の足の置きどころ

          月桃が気力をこめて雫する


          東京で見る沖縄は美らの海

          ホワイトビーチ土足厳禁だったのに

          落石注意 銃弾注意のご親切 

          和ぐ海と私の空が欲しいだけ 

          さとうきび祈るかたちで揺れている      (コメント3)

 


          雀の子 わたしメタボじゃありません

          どしゃぶりの日はケルトの森で鳥になる

          火の鳥になろう 媚薬がきれるまで


          オオカミが白い手袋編んでいる

          偶然が装う赤い静電気

          インディゴの海を掴んでいる竜馬

          サフランで染める窓辺のスクリーン


          蕎麦の実が独りよがりなショーをする

          精一杯尖ってみせるゆで卵

          バージンの涙を流す焼きリンゴ

          涙目を笑顔にさせる冬イチゴ

          おばぁにはいつも味方の島バナナ


          会えるまでひっくり返す砂時計 

          満月に体内時計巻き戻す

          記念日に沈黙をする鳩時計 

          終末時計 刻のしずくを溜めている  (コメント1)


            美らの海重たい波の忘れ物

          歴史化するヒロシマに降る白い雨

          すりガラスの向こう側ではゲリラ戦

          テロリスト神話の中に紛れ込む

          もいでしまいたいあなたの左腕

          藤棚の下で左脳が嗅ぐエロス

          ゲバルトを見ていただけの似非左翼


 ますみ様からのコメント1

 核や自然災害による人類滅亡の危機度を示す終末時計の針が既に2007年に
「地球滅亡まであと5分」を示す位置まで進められてしまいました。
北の核ももちろん大きな原因の一つ、また異常気象や相次いで起こる天災にも
危機感を強くしています。単純にみればもう手遅れだという意見が大きく
なっている中で、「奇跡を信じましょう。」という声についてゆくしかありません。
どうすれば終末時計の針を1分でも元へ戻すことができるのか、
これまでやってきた私たちの努力を更に深く浸透させてゆくことが
急を要することを肝に銘じたいと思います。



     コメント2

 ちゃんと最初から一対一で話ができたら円満に解決する事柄だったのに、
こちらが不利な内容でもOKする心づもりをしていたのに一方的に切りだされた
重要な話。それもほとんど有無を言わせない事後承諾のかたちで・・・・
私の場合は不本意ながら周囲のことを推し量って黙って相手の条件を呑んだ
経験があります。が、作者は違ったようですね。信念の強さが句の力となって
迫ってくる一句。
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