9月1日(木)


フランダース・道路の左は川  目覚めは早く、午前7時過ぎには起きていた。
 というのも外で扉を開閉する音や廊下をドタドタと歩く音などがやかましかったせいだ。
 雨戸のない窓から差し込む朝日にもメゲず9時までフテ寝していると浜谷氏がムックリと起き上がったので、私も観念して起きた。
 朝食を食べに階下へ降りた。
 食堂には私達だけしかいなかった。
 女主人がポットからコーヒーをカップに入れて、そのままポットを持っていってしまった。
 「どうやらコーヒーのお代わりはナシのようですね」
 私達はガッカリして食事を始めた。
 すると女主人が慌てたように走ってきて、
 「忘れてたわ!」
とポットをテーブルに置いていった。やれやれ。
 メニューはチーズの薄切り(マイエンフェルトの時とは違って旨かった)、ゆで玉子、ジャムなどの小間物が美味しかった。

 女主人に尋ねると、この宿にはシングルルームがないという。
 私は今夜の宿を探すためにインフォメーションへ行かねばならない。
 食後、荷物をまとめて1階の受付の部屋に置いといてもらった。
 浜谷氏は、昨夜、女主人に頭痛薬をもらったのがよく効いたので、薬の名前をたずね、ついでにダムへの行き方もたずねておいた。
 使える者は宿の主人でも使え、だ。

 宿を出ようとする直前に大雨が降った。
 今は止んだが空は見事に曇っている。
 昨日訪れたマルクト広場前の鐘楼の下にあるインフォで私はドミトリーの宿を予約した。
 シングルもあるにはあるが高いのだ。
 私は何を置いても新しい宿へ行って契約しておきたかったので浜谷氏を残して新しい宿に向かった。
 地図が『地〜』に掲載されていたのですぐに発見できた。
 私は金を払い、宿泊カードを書き、シーツをもらった。
 カードには一部何を書いていいのか不明瞭な箇所があったので主人にたずねると、
 「セーネンハッピ」
と言う。あぁ、生年月日か。
 2階へ上がり、ベッドを確かめてシーツを置いた。
 ベッドの上に他人のバックパックが乗っていたのは少し気がかりだったが。

 浜谷氏は私を待っている間に、銀行で両替し、郵便局で絵はがきを出したとのこと。
 彼によれば、郵便局員は彼の出した葉書に切手を貼る際、口をアーンと大きく開けて、切手の裏をベロリとなめた上で貼り付けたという。
 私もすぐに郵便局へ行き、昨夜書いておいた俣野さん宛の葉書の切手を買った。
 そして脇で郵便物をポストから回収している最中の局員さんにマッタをかけておいて、私は切手を自分の舌の上に乗せ、取れないくらいベットリと湿らせた後、葉書へベタリと貼った。ははは。

 インフォメーションの建物の右横に貸し自転車屋兼喫茶店があった。
 看板には日本語で [自転車は借りられます] と書いてある。
 私達は今日一日自転車でブルージュの街を散策することにした。
 自転車の賃貸料は200BF。うち20BFはデポジットである。
 この店では自転車を借りている間、パスポートを預けておかねばならない。
 自転車屋の主人は私とパスポートの写真を見比べて「エッ」という顔をした。
 そりゃそうだろ。パスポートの写真はごく当り前の顔だが、今の私は眼鏡を掛けていてヒゲも髪もボーボーである。
 主人はなんとか納得したようで、私達を連れて地下へ降りた。
 そこには自転車がズラリと並べられている。
 私の借りたのは一見田舎の駐在さんか校長先生が乗りそうな自転車である。
 私はついでに主人からカメラやミネラル・ウォーターを入れた買物袋を自転車に留めるためのゴムバンドを借りた。
 出発。
 石畳の道は走りにくく、体がガタガタと搖れるため腕時計が暴れて腕が痛い。もちろん尻も痛い。
 川沿いを走っていると2基の風車を発見。写真に撮る。
 橋を渡ってさらに進むと[DAMME->]と行き先表示があったので、その方向へとドンドン漕いでいった。
フランダース・風車  ダムDammeへ到着。
 この辺りはフランダース地方だ。フランドルとも呼ぶ。
 やはり郊外といった感じだ。
 行ったことはないが、北海道に似ているのではないだろうか。
 道の周囲には草原が広がり、浜谷氏いわく“雪印”がいっぱいいた。
 浜谷氏は幼少の頃、雪印乳業のコマーシャルに出演したこともあるという。
 川沿いに進んで行くと白い風車が現れた。
 この辺りになると川の水の高さよりも道路の方が低い。
 水かさが増して街が水浸しにならないのだろうか。

 ブルージュに戻り、川を越えようと橋の場所にやってくると遮断機が降りていた。
 橋は今ちょうど跳ね上がっており、船が通過しようとしていたのだ。
女性船長  よく見ると船の運転手(操舵手か)はまだ若い女性だ。
 どうやら彼女一人で運転しているらしい。
 彼女の後ろには飼犬だろうか、犬が一匹行儀よく前を見て座っている。その横には赤ん坊。何かスゴイ光景。

 空腹を感じたので街へ戻り、マクドナルドに入った。
 浜谷氏はトイレを利用しようと行くと入口におばさんが待機しており、5BF寄こせと言う。有料トイレなのだ。
 その後、浜谷氏は頭痛薬を買いたいとのことだったので街中を走り回って薬屋を探した。
 ようやく見つけて浜谷氏の入っていった店の名前を良くみると『健康食品店』とある。
 おいおい違うゾ。
 この店で本物の薬屋の場所を聞き、浜谷氏はようやく念願の頭痛薬を入手した。
 しかも81BFを80に値切って。

ベルフォールの塔  マルクト広場へ戻ってきた私達は、インフォのある建物の上にそびえ立つ鐘楼であるベルフォールBelfortの塔に昇った。120m、366段の階段。
 最上階にはもちろん大きな鐘があり、そこからの見晴らしは非常によく、ブルージュの街が一望であった。
 屋根屋根の色は赤というより朱色だ。
 車を除けば中世の街として通用するだろう。
 白亜の城のような郵便局も見える。
 突如、そばの鐘が盛大に音を響かせ始めたのには驚かされたけど。

 私はマクドナルドのトイレを利用しなかったため、もう我慢の限界に近づいていた。
 私達は自転車屋に赴き、その場で自転車屋の主人に、
 「トイレ貸して!」
と叫ぶや、ダダッと喫茶の方に駆け込み、トイレで用を足した。
 主人の呆れ顔が見物だった。
 自転車はまだ返さず、さらにツーリングを楽しんだ。
 街中にはゴッホの絵にあるような跳ね橋もある。
 回転する橋もある。
 変な話だが異国情緒がいっぱいだ。
 最後に風車を見学しようと思って訪ねたが既に閉店していた。残念!

 私達はマルクト広場に面する、実に暇そうなイタリア料理店で夕食にした。
 隣りの店は繁盛しているのに、どうしてこちらは一人もいないのか?
 私が残金の少ないことを知って、浜谷氏は千円貸してくれた。
 ゴメンナサイ。日本に帰ったら必ず返しにいきます。

 食後、昨夜の宿に荷物を取りに戻って、その足で自転車を返してパスポートを受取った。
 そしてこれで浜谷氏とお別れである。
 「また日本で会いましょう」
 お互いにそう言って別れた。

 ドミトリーに戻り、私のベッドを見ると
 「シーツがない!」
 私は一人で憤慨していると、下のベッドの若者が、
 「オレのとこにあるぞ」
 なんでや。




《データ》
9月1日 木曜日
天候雨曇晴
訪問地Brugge
宿泊先Snuffel Kafee/sleep-in(Ezelstraat 49)
宿泊料210BF(+シーツ40BF)
食事B&Bにてパン丸2個, ジャム2種, コーヒー2杯, チーズ, ゆで玉子, バター
マクドナルドチーズバーガー, フィレオ・フィッシュ, ポテトチップス, ストロベリーシェイク
イタリア風レストランスパゲティボンゴレ, ビール2杯
出費自転車180BF(900円)
昼食177BF (885円)
塔への入場料30BF (150円)
夕食200BF (1,000円)
宿泊料(シーツ込)250DM (1,450円)
合計837BF (4,190円)