8月21日(日)


Grindelwaldへの切符  ヒューーーーー‥‥‥
 だ、誰だ! 窓を開けっ放しにしてるヤツァ! 寒いぞ。
 時計を見るとぉ、まだ7時前じゃないか。もう30分は眠っていたかったのに。でも周囲の連中が荷造りを始めていたので、私も倣うことにした。
 見ると、私より先に起きると言ってた松井氏がまだ眠り転けている。
 「松井さん、朝ですよ」
と揺り起こして、ミネラル・ウォーターの中味を入れ換えて(ケースだけ使い回しにしてるのだ)宿を出た。
 松井氏は、宿の女主人親子がいず従業員では100フランのお釣りが出ない、と困っていた。
 今日でツェルマット、そしてマッターホルンにさよならだ。

 私と松井氏は下りの登山列車に乗った。
 途中、私は朝食代わりに買い置きのレーズンパンを数枚食べる。
 この時には既にマッターホルンは雲海の中に隠れていた。
 松井氏とはブリークの駅で別れ、私はベルン行きに乗り換えた。
 ブリークを出発するや、列車は山肌を舐めるようにしてグングン高度を上げていった。
 私の座席は進行方向に向かって左側だったので、眼下に展開する緑の風景を楽しみことができた。
 ミカンを一つ食べる。

 トンネルを幾つかくぐり抜けた後、シュピーツSpiezに到着。
 インターラーケン・オストInterlaken Ost駅行きに乗った。
 そしてインターラーケン・ベストInterlaken West駅で降りた。オスト駅の一つ手前だ。

車窓から撮影  インターラーケンInterlakenとは「湖の間」という意味で、トゥーン湖Thunerseeブリエンツ湖Brienzerseeに挟まれた、スイスでも屈指の観光拠点である。
 標高566メートル。私はここからユングフラウやアイガーを目指す予定なのである。
 インターラーケン自体、それほど高地にあるのではない。この上にもう一つの拠点グリンデルワルトがある。しかしインターラーケンは結構街らしいところなので宿も取り易かろうと思って下車したのだ。湖の遊覧船にも乗りたかったし。
 私はここでもドミトリーに宿泊しようと、これまた恒例『地球の〜』のお世話になることにした。
 インフォメーションで地図をもらって目指す宿を探すが見あたらない。
 おばちゃんや自転車に乗ったおっちゃんらにたずねると、
 「20分くらい先だよ」
とのこと。ウーン。ヨーロッパに到着して5週間。地図見て歩くのは十分慣れたと思ってたのになぁ。
 インフォメーションは昼の12時までとのことだったので、急いで戻り地図を出してきて詳しく宿の所在地を教えてもらった。
 3フランの日本語のガイドブックがあったので、50サンチームの地図と共に手に入れた。

 再度、宿の探訪の旅に出かけた。
 最前の自転車に乗ったおっちゃんとまた会う。
 私のことを、何やらわけのわからん国の名前を言い、そこの人間か?とたずねるので、
 “No, Japan”
とだけ告げておいた。
 方向としてはいいはずだが、距離感がマヒしている。
 『地球の〜』によれば「Balmer's Hostel‥‥‥安い上、若いスタッフが大変フレンドリーで旅の相談にのってくれたり、割引チケットを売ってくれたりする。またチェンジ(両替)もできる。グッドな朝食も含まれていて言うことなし」などと随分持ち上げている。
 通りの向こうから2, 3人連れの外人の若者が呼びかけている。
 どうやら私を呼んでいるらしい。若者の一人が大声で、
 「Balmerですか?」
と尋ねている。私は、
 「Yes!」
と大声で返事した。すると彼は、
 「アッチだよぉ!!」
と指さした。そこの脇道を行けと言ってるらしい。私は、
 「Thank you!!」
と叫んで、礼を言った。自由旅行の若者達の絆は堅いのだ。

 宿はすぐに発見することができた。
 チェックインの受付は5時からと書いてある。
 私は宿帳に名前だけを書き、重い荷物を置いてトイレを借りた後、表へ出かけた。
 ちらと見ると宿の掲示板に今晩7時半からのビデオ上映会は“Sound of Music”と記されていた。

 メインストリートを歩いていると、草っ原の中で何やら大々的に競馬大会をやっているようだ。
 柵も見えないので、ちょっと覗いてやろうと近づくと、係員やら警官やら判別できない服装をした野郎が金をよこせと言う。私がイヤと言うと戻れと言う。ケチ!

 駅近くでハンバーガーを2個食らいコーヒー牛乳を飲む。
 腹は落ち着いたものの気持ちが落ち着かない。なぜだろう。
 しばらく考えて悟った。街だからだ。
 私はもう街に飽き飽きしていたのだ。
 そう気がつくや決心した。
 今日中に更に上のグリンデルワルトまで行こう。
 私は宿へ引き返し、宿帳に書いた名前を二重線で消し“Sorry!”とだけ書いておいた。
 荷物の置引きに間違われないかと、それだけが心配だったが。

 私は直接オスト駅へ行った。
 とてもアンティックな駅だ。
 列車自体も、昔、大阪でもよくみたトロリーバスを連想させる。
 私はギリギリの時間でこれに乗り込んだ。

アイガーの壁  グリンデルワルトGrinderwaldだ。
 標高1050メートルであり、歴然と寒さを肌で感じる。
 見渡すと壁のような山々に囲まれ、周囲一体が緑。
 もっともスイスに着いてから地面というのをみたことがない。
 どこも一面の緑の芝生で埋められているのだ。もちろん観光用ではなく牛などの飼葉になるのだ。
 見上げるとアイガーの北壁。
 まさにスイスの醍醐味。

 『地〜』の宿を探すが、本に掲載されている地図もオカシイ。
 駅へ戻ってインフォメーションをたずねると、アリャ日本人がいるよ。
 彼女に『地〜』の地図が間違っていると言うと、
 「あぁその地図ね。私も気がついたので投書しといたわ」
だって。そして彼女の正確な指示通りに歩いていくと、あった。
 女主人は愛想はよくないが、ドミトリーで安い!
 私の案内された部屋は32人が眠れる部屋。つまり二段ベッドが16ある。
 今日も移動ばかりで疲れていたので早速ベッドで昼寝。
 午後6時に起きて街見物に出かけた。
 日本人が多い!
 小さなパブがあったのでビールを飲み、雨の中を宿まで走って戻った。

 私の隣のベッドには日本人がいた。
 彼は身障者で、一切言葉が喋れないらしい。
 私は久しぶりの日本人だぁと握手。
 ミカンを1個プレゼントした。
 でもこのミカンは種だらけだったのだ。悪かったかな。




《データ》
8月21日 日曜日
天候
訪問地Zermatt, Grinderwald
宿泊先RESTAURANT GRACIER
宿泊料19S.fr(うち6Fは朝食)
食事列車内レーズンパン
ハンバーガー屋ハンバーガー2個, CHOCAO(コーヒー牛乳)
宿みかん一コ
出費切符(Brigまで)12.5SFr (1,500円)
昼食8.7SFr (1,045円)
グリンデルワルトまでの切符3S.fr (360円)
宿泊料19S.fr (2,280円)
合計43.2SFr (5,180円)