8月18日(木)


ベネチア・橋  午前6時数分前。起床。トイレ。荷造り。宿を去る。
 宿泊費は昨夜清算しておいた。『地球の歩き方』を見せると割引になるハズだったのに、主人はNoと言いやがった。イタリア人って一体‥‥‥。
 駅まで行く途中、古くなったパンを道端のゴミ入れに捨てた。
 テルミニ駅から[ベネチア、ウィーン行き]に乗車する。
 そう、次の目的地はベネチアだ。午前6時45分発。コンパートメントに座りウトウト。

 列車はベネチアのミストレMestre駅に到着。
 本来ならここで乗り換えの筈だが、列車の看板を見て、そして駅員や同乗する客にたずねて、このままサンタ・ルチア駅まで行けると分かったので、落ち着いて座っていた。
 そうなのだ。ベネチアに着いたと慌ててはいけない。
 ここで降りて駅を出てはいけないのだ。
 列車は更に進み、陸を離れて海上を走っている。窓から前方を見ると島が近づいてくる。
 ベネチアは島であり陸路の連絡は列車のみなのだ。

 水の都ベネチアVenezia、そのサンタ・ルチアSt.Lucia駅へ降りた。
 駅構内の両替所で10ドルだけリラにチェンジして、Tourismに行って宿を取った。
 ここで宿の手配を一人で切盛りしているオネエサンは非常に機嫌が悪かった。
 受付を待っている旅行者達は列になって並んでいるのだが、Tourismの入口には2人しか入るなと大声で注意している。混乱するのを嫌っているのだ。シーズン中の名所は大変だ。
 シングルは最低でも2,500リラと聞いて考えを変え、ドミトリーを頼むと地図をくれた。
 YH(ユースホステル)までの道のりを書いた地図だ。
 日本ではYHを利用するには会員にならないといけないが、こちらでは非会員でも可なのだそうだ。

 オネエサンのくれた地図は全くもって理解しにくい。
 質の悪い印刷のため道の名前が潰れていて読めない。
 私は行ったり来たり、人に聞いたりして歩き回るが、それらしい建物が見つからない。
 小さな橋の上で困っていると、遠くでオイデオイデしながら「カモン!」と叫んでいる若者がいる。
 川沿いに近づいて行くと彼の頭上に掛かっている看板に目的の宿名を発見。
 サンキュー! でもどうして私が探していると分かったんだ。

ベネチア・駅前  YHのチェックインタイムは午後4時という。今は2時半だ。
 しばらく川沿いで若者と話す。
 「ボクはモーリシャスの出身だ。今はパリに住んでる。学生だよ」 と若者は自己紹介した。モリサスと聞こえたので、私は彼が漁師の出かと思ってモリを突き刺すジェスチャーをしてしまった。そんなワケないか。私は、
 「ヨーロッパも日本と同じく暑いけど、日陰はすごく涼しいねぇ」 などと言ってると、もう一人来た。
 「ボクはモロッコから来た」
 3人はのんびり避暑を楽しんで時間を過ごした。
 モーリシャス君が川向いの建物の3階から顔をのぞかせた女の子をからかう以外は何事もなく。

 ホントに静かな街だ。
 自動車が1台もないのである。
 そのためいいホテルになると水上タクシーかゴンドラで入ることになる。
 「YHには会員証なしでも泊まれるってホント?」と私。
 「アァ、そんなのいらんよ。パスポートがあれば大丈夫」とモーリシャス君。

 4時になり、YHに入ると確かに宿泊O.K.だった。
 「明日の朝は午前6時40分発の列車に乗りたい」と私はYHの管理人に告げると、
 「ダメです。このYHでは午前7時以降にしか、チェックアウトできない決まりなのです」
と管理人氏。仕方がない。そうわがままも言えんか。
 「とりあえず、出かけたいので荷物をベッドの所まで運びたいんだが」
 「あ、ベッドルームに行けるのは午後6時半以降です」

 いちいち、うるさいなぁ。

 駅の近くで食い物を買って、持ったままブラブラと歩いて来て、川沿いで食べた。
 食ってる最中に、
 「日本人ですか?」
と近づいてきた外人の若者が2人。
 一人が古い“50円硬貨”を私に見せて何かイタリア語?で喋ってくる。
 よくわからないぞ。これは何リラかと尋ねてるのかと思い、
 「300リラやね。チェンジして欲しいん?」
とたずねると、そうでもないような顔だ。英語ぐらい喋れよ。
 結局、彼らとは意志の疎通ができず物別れに終った。

サン・マルコ広場  朝昼兼用の粗末な食事を終えた私は[Per.S.Marco(サン・マルコ広場)]と書かれた看板の矢印通りに入り組んだ街路を進んだ。
 途中、恒例の脇水道があったので、ここでもガブ飲みした。
 イタリアに着いてから腹具合いは至って良好である。
 ごった返す街中を通り抜けて橋を渡り、30分程でサン・マルコ広場へやってきた。
 広場の向こうは海だ。
 地中海だ。
 鐘が時を告げる。
 ゴンドラが波に揺れている。
 マルコ・ポーロはここからジパングへと出発したのだ。うーん。
 人も多い。
 露店ではポンペイにあったのと同種の日本語のガイドブックを売っていた。
 そういや、ポンペイの時のタイトルは『禁じられたポンペイ』だったな。

河と船  YHへ戻る途中、グリーンのかき氷を食べる。ほとんど氷水だ。
 旨い!疲れが消えて行くぅ。
 YHの受付で預けていた荷物を受け取り、管理人の案内でベッドへ。
 まるで体育館だなコリャ。
 だだっ広い床の上にベッドと簡易タンスのペアがランダムに多数置かれているだけだ。
 もちろん男女は別らしい。
 私は早速、共同シャワーを利用した。
 ついでにTシャツもバンツもタオルも洗った。
 本日、旅に要した金はわずかに1,600円あまり。
 もっとも晩飯は食わなかったのだが、食っていたとしても3,000円は超えないだろう。
 暑さのため、この日の寝つきは良くなかった。

 このベネチア。地盤沈下が問題になっているそうだ。いずれ水の都も水の下か。




《データ》
8月18日 木曜日
天候
訪問地Roma, Venezia
宿泊先Foresteria S.Fosca (Y.H.)
宿泊料6,000Lit
食事
駅の近くで買い食いピザ, チョコまじりパン, ぬるいスプライト
出費昼飯3,000Lit (510円)
宿泊料6,000Lit (1,020円)
かき氷水500Lit (85円)
合計9,500Lit (約1,615円)