8月7日(日)
昨日、昼寝したせいだろうか、今朝は目覚しが鳴る前に起床した。9時だ。私が「あと2晩ここに泊まる」ことを宿のお姉さんに告げているとき、後ろから
“Can you speak Japanese?”
と声がした。振り返ると日本人。確かマドリーへ来る途中の列車でみた男だ。
「今日、闘牛を見に行くんでしょ?」
「はい。毎週日曜日にやってるそうですから」
「私も行くんですけど、一緒に行きませんか?」
闘牛観戦のチケットは、本『ヨーロッパ1日4000円の旅』によると、宿に近いプエルタ・デル・ソルでも売っていると書いてあったが、お姉さんによれば、
「闘牛場で買うより高いわよ」
とのこと。私達は目指す闘牛場Plaza de TorosのあるVentasへ直接、買いに行くことにした。
Ventas駅の階段を昇ると左手にそびえ立つ円形の建物が目に入った。闘牛場である。これが本物だ。マドリーには他にも闘牛場があるが、ここが一番大きいそうだ。私達は特等席といわれる“Sol y Sombra(ソル・イ・ソンブラ)”のチケットを購入した。料金は1475ペセタ。アンチャンとはここで別れて、闘牛が始まる夕方まで別行動を取ることにした。
私はひとまず宿へ戻った。赤のウィンドブレーカーを持って、さあ出かけようかと思った矢先、ザァーッと降ってきた雨。なんてついてないんだ。時間が惜しかったので、気にせず蚤の市へと出かけた。ガラクタやら綺麗な小物やら、まるで学園祭のバザー。ムチャクチャ面白い所だ。
昼飯は恒例のマクドナルド。親が見たら泣くような食生活だなぁ。冷えたコーラが旨い。食後、プエルタ・デル・ソルへ。そしてさらにスペイン広場へ。あったあった、ドンキホーテとその下男サンチョの像。後ろには作者セルバンテスの座像だ。周囲は高層ビル群に囲まれており、なんだか異様ではある。ここでひと休みした後、ドンキホーテの像のほぼ向いにある王宮を訪ねる。名を「アルメリア王宮」という。白く四角張ったこの建物は、その一部を観光客のために開放しているらしいが、今日は王様が来ていたので入場することはできなかった。確かに目を凝らすと、銃を持った若い兵士が多数見張っている。コッこわい。そう言えばさっき素通りした銀行の前にも銃を肩に掛けて若い兵隊さん達が警備していた。何に対する警戒なのかは知らないが。でもあんな近くで大きな銃を持つ兵隊を見たのは生まれて初めてじゃないかな。
時間が迫ってきたので、ソルまで戻ってメトロに乗り込んで闘牛場へ。
先にも書いたように、闘牛は毎週日曜日に各闘牛場で開催される。だからマドリーにいる旅行者はすべて闘牛場へ集まることになる。こうやって見ると闘牛場の周りには日本人観光客もちらほら。闘牛が始まるのは午後7時から。今はまだ5時半なのに、闘牛場の周りは沢山の人だかり。それを狙って露店が軒を並べている。闘牛のポスター、牛のおもちゃ等。もちろん飲料水やつまみなども売っており、なんとなく甲子園球場を連想した。スペイン語で物売りが声を掛けてきたが“No Spanish”と言って逃げた。
6時20分になり、入口が開いた。入場券売り場の長い行列を見つつ、私は闘牛場の中へ。アンチャンを探すが見つからない。
闘牛場は甲子園ほどの広さはないが、狭くもない。私は腰を降ろそうとしたが、ここには特に座席というものがない。階段状のコンクリートにそのまま座るだけである。これは尻が痛くなりそうだと思い、「座布団貸します 50ペセタ」のおっちゃんから1枚借りてしまった。やがてアンチャンもやって来て彼も座布団を借りた。
さあ7時を回った。まだ昼間のように明るい。
そして、いよいよスペイン名物、闘牛の始まりだ。
まず最初に黒い服を来た2人が馬に乗って出てきた。彼ら(ピカドール)は槍を持っており、馬の上から闘牛に槍を刺して弱らせる役割を担当する。馬は闘牛を恐れないように目隠しを施している。そのあと闘牛士達が登場。相手をする牛は1匹でも闘牛士は1人じゃないのだ。正闘牛士(マタドール)は唯1人で、当然彼は真っ赤な布を持つ。その彼を数人の副闘牛士(バンデリリェーロ)達が離れてガードしており、彼らの持つ布はピンクである。
駆り出された牛の数は黒牛のべ6頭。つまり、全部で6試合が催されたわけだ。闘牛士も毎回交代する。闘牛とは言っても単に牛を倒せば良いというものではないらしい。幾つかのパフォーマンス・シーンを見ることができた。中には闘牛に真正面からジリジリと体を近づけていくという離れ技(?)を見せた闘牛士もいた。
4匹目の相手をつとめた闘牛士は、最後の一突きで見事にしとめたので、本日のヒーローとなった。会場全体の拍手喝采を浴びて、剣を天に振りかざした彼はグラウンドを一周して人々の歓声に答えた。客の中には水筒を投げるのもいて、彼はそれを一口飲み、投げ返した。それにしても観衆の興奮はものすごいものがある。老いも若きも男も女も全く関係なし。さすが国技(?)だ。しかし、5匹目のときハプニングがあった。闘牛士は黒牛に布を取られた上、追っかけ回された。デビューして間もない闘牛士だろうか。見てる方がハラハラしたが、観衆にはそれも余興という感じである。
私が闘牛場で撮影した写真の枚数は27枚にものぼった。この枚数は私の興奮度を物語っている。見方に寄れば残酷ともいえる闘牛を、私は結構楽しんでしまったのだ。この日、殺された牛はすべて食用になるそうだ。闘牛の霊よ、安らかなれ。
アンチャンが是非とも行ってみたいと言ってた日本料理屋『どんぞこ』は、惜しくも定休日だった。ソルまで戻った頃はもう陽もとっぷりと暮れていた。私達はファーストフードの店Wendyに入った。しかしイギリスのWimpy並だ。タコサラダのまずいことったら、筆舌に尽くせない。
宿に返り着いた私達を待っていたのは、蛍光灯の一つもない階段だった。これは昇れないと思い、エレベーターをこじ開け、アチコチを手探りし、なんとか動かして5階に到着。なんちゅう建物じゃ。「おかえりなさい」とお姉さん。本当にここは宿かいな。
《データ》
日 | 8月7日 日曜日 |
天候 | くもり時々雨 |
訪問地 | Madrid |
宿泊先 | Hostal Residencia RUBIO |
宿泊料 | 800pts. |
食事 | 朝 | マーケットで買物 | パン2つ, ジャム, ファンタ |
昼 | マクドナルド | チーズバーガー×2, ハンバーガー, コーラ |
夕 | Wendy | タコサラダ, ハンバーガー, コーラ |
出費 | 地下鉄 | 60pts. |
闘牛(bull fighting) | 1475pts. |
宿泊料 | 800pts. |
マクドナルド | 325pts. |
地下鉄 | 60pts. |
コーラ | 75pts. |
座布団 | 50pts. |
晩飯 | 444pts. |
合計 | 3,269pts. |