バレンタインにかこつけて息抜き企画! 刻印をされターゲットとなった月見里紫夜の身辺警護、および敵勢の撃退のために彼の実家へ居候の身である守護者。 ルチル・ヴェリア。14歳。 金髪。美少女。欧風の雰囲気。外国人。白皙の肌。天然。真面目。懐には拳銃を常備。 あどけない外見なのでキレると返って怖いタイプ。大概は戦闘時にそういう状態へとオフをオンにするように切り替わる。 こちらの世界の一般人とは違う感覚で生きてるその少女はいま、木造建築の月見里宅の姿見の前に立ちいまだ成長途中なわりに雰囲気をかもしだす体を映していた。 飾る衣服はいつもの修道女のようなワンピースではなく、それこそ一般人の少女のそれである。 七分丈のボトムスを履いておりすねから下の細く白い足がのぞいている。トップスは長袖のブラウスの上に薄手のチュニックを着て、ふとももあたりでその裾が波打っていた。 それはいつかの折り、守護対象である紫夜に見かねられて半ば強引に買い与えられた彼女用の普段着一式であった。 「・・・・んー」 唇をつきだして柳眉を悩むように寄せて鏡に整った顔を近づける。いつもは大きな赤いリボンでくくっている長い髪はほどかれていて、いまは片手で掴んで持ち上げ、簡易的にアップにしていた。金糸のような横髪の束が顔のサイドでたれている。 「おーい」 「きゃあああああああ!!?」 突然の背後からの呼び声にルチルは背筋を電気が走ったようにびくんっ!と伸ばした。アップにしていた金髪が離したことでふぁさあ、と扇が広がるように背中に広がった。 「・・・・・なにやってんだお前」 「し、ししし紫夜さんっ!?な、なん、なんですか!?」 背筋をこわばらせたままあせって首だけで背後を見ると、少々眼つきの悪いボサボサした髪形の少年が呆れた顔をして開きかけのふすまからルチルを眺めていた。 「いや、いっつも何かと『危ないですよ!』って言って周りをうろつくヤツが珍しくいないからどうしたのかと思ってよ」 「う・・・す、すいません」 「なに謝ってんだお前」 紫夜は怪訝そうにこわばったままのルチルを見た。いつものあの素っ気ないワンピースじゃない。彼が買ってやった女物の私服である。いつもはリボンでくくられてる髪の毛はその背で広がり金色にきらめいている。 「なんだ。気に入ったのかそれ?」 「あ、えと・・・・・・その」 紫夜に背を向けたまま動揺しながらはにかんで、頬を染めながらルチルは下を向く。紫夜からは見えないルチルの両手は意味なく何度も擦り合わされていた。 なにをこいつこんなに照れてんだと紫夜は片眉を上げて疑問に思いながらその姿を見ていた。 「あ、茜さんや、お、お兄さんに・・・・その、褒められまして・・・・・・」 「へえ」 気のない感嘆をしながら、楽しげにルチルを褒めそやす兄と母の穏やかな微笑が浮かんだ。確かにあのふたりに褒められると気分が良い。 「ふーん、そっか」 「そ、そっかって・・・・」 ルチルはうつむき加減で拗ねるように紫夜を見る。なんとも思ってないような涼しい表情がちょっとにくらしい。 頬どころか顔全体が赤くなっているルチルは白い肌なのでその赤はずいぶんと目立つ。水分の潤った肌もあってまさにリンゴのようである。 初めて紫夜にこの姿を見られたときは何も言われなかったが、特に深い仲ではないものの好感の持っている相手にストレートに褒められると、照れくさくも嬉しいものなのだとルチルは知った。 嬉しくてつい調子に乗って鏡でその姿を映しているのを、まさか見られるなんて。しかも紫夜さんに。 あまり表に出てくることのない若い守護者の乙女心が発揮しているところを、よりによって服を買ってくれたそのひとに見られたのがなんとも恥ずかしかった。 紫夜は、なにかやたらと恥ずかしがっている年下の美少女の後ろ姿を見ているのが悪い気になってきた。 だから片手で頭をかいて視線をずらしてなんとなく、言った。 「ま、たしかに似合ってるしな。俺はそっちのほうが好きだよ」 「・・・・へ?」 紫夜は見ていなかった。言われた言葉が信じられないというように顔を上げて、目を見開いてこちらを見る真っ赤なルチルの顔を。 「見られたくないなら今度からちゃんとふすま閉めとけよ」 それだけを言ってぱたんと軽く閉めると、廊下を歩く音がだんだんと遠ざかっていった。 視線をずらしていて、そしてすぐにふすまを閉めていたから、紫夜は気づかなかった。 真っ赤な顔で閉められたふすまのほうを見ながらカチカチに固まってしまったルチルに。 そしてその顔にさらにぼぼぼぼぼぼ、と赤が増していって頭頂部からブシューと湯気まで出始めたのを。 「なんですか・・・・それ」 つぶやいたと思ったらへなへなぺたん、とゆっくりと内股で座り込んでしまった。チュニックの白い裾が羽のように揺れる。 「はあ」 熱いため息とともに畳に手をついて、頭をたれる。金髪がふわりと真っ赤な顔を覆った。 「いまさら言わないでくださいよ、・・・・そんなこと。・・・・・・・・・もぅ」 火照って爆発しそうに真っ赤な顔は、これではなかなか冷めてくれそうにない。 居候という身も服を買ってもらったことやなんやかんやももう一時的に忘れてしまって、とりあえずなんでもいいから。 なんでもいいからとにかくルチルは紫夜に怒鳴りつけたくなった。 「なんなんですかもーーーーーーーー!!!」 「!?」 家中に響きわたる怒号に廊下を歩いていた紫夜の背筋がびくんっ!と伸びた。 |