縁側お茶会。開設五周年おめでとう企画! 炎の式神。 などと言うと強力なイメージを持つが、それの見た目は小学校中学年で幼児向けの小さいリュックを背負ってワンピースを着た、ただの子ども。 式神よりも使い魔と言ったほうが確かにしっくりくる。 そんな後ろ手にタオルで縛られて転がった敵の配下を取り囲む二人は、 流れるように煌く金髪を後ろで大きなリボンを使ってまとめた少女と、少々目つきが悪いせいでガラの悪さを感じる髪の毛がセットされたようにボサついた高校生。 現在ふたりは尋問中。 「さあもう痛い思いはしたくないでしょう。おとなしく術者の居所を」 「う、お!?おお!?うおぉい!!」 音もなく手品のようにルチルの白い手には真っ黒の拳銃が握られて、銃口がピタリと使い魔の眉間に照準されている。 小学生式神の目が怯えるように見開いた。傍らの紫夜も目を見開いた。 「何やってんのお前!?言動と行動が矛盾しちゃってんぞ!?ていうか何持ち歩いてんだ!?」 ルチルの少女然とした見た目とは裏腹な行動に紫夜は半ば怒るようにして混乱した。怒鳴られたルチルは顔も向けずにこともなげに答える。 「拳銃です」 「そこを答えるんじゃねえよ!見りゃわかるわ!なにそれ本物!?銃刀法って知らねえ!?知らねえかなあ!?ていうかうちを殺人現場にする気か!?白昼堂々と銃声がしたらうちはこれから世間様にどう顔向けしろってんだ!」 「では人の往来がない場所へと移動します」 「ひっ!」 泣きっ面に移行していた使い魔が悲鳴を漏らした。ルチルが空いてるほうの手でぐん!と襟をつかんで暴力的に引っ張ったのである。拳銃は後頭部へと照準を変える。 「うおーい!そんなリアルな発言マジでやめてくんねえ!やめろやめろ!そいつの襟掴むな引きずるな!」 使い魔の襟をつかみ銃口を後頭部にむけたまま外へ出ようとしていたルチルは、止まって平坦な眼つきを紫夜へと向ける。 「…命を狙われたというのに悠長なことですね。まあ、ターゲットである貴方がそういう人柄であるのは好ましいですが」 と、そこで命の天秤がぐらぐらと左右されまくってふるふると怯えまくっていた使い魔の限界がぷっつりと切れた。 「うう………!!うわああああ〜ん!…ひっく、ひっ…うあああああん!!」 上を仰いで大声を出して恥だろうとなんのその、とぼろぼろと大粒の涙をこぼす。 「うおっ!?」 「…あまり大した情報は持ってないようですね。やはり手間をかけずにここで」 その様子に敵の情報源としての価値も見限ったルチルは、泣き喚く子どもになりさがった敵をドサッと無造作に放って転がした。 「うあ!」 「お、おいお前っ!」 使い魔の喚きも、紫夜の非難も意に介せずに 向けられた銃口は再び、小学生のナリした式神の眉間へと照準をつける。 「う…あ……!」 涙で濡れた幼い顔がわかりやすいほどに絶望に染まる。 「ああ!?ちょ、落ち着けって!大したこと知らないなら逃がしたって、」 !? まだ制止の余地があるだろうと思っての言葉の途中で紫夜は、驚愕とともに瞳孔を収縮し認識する。 「おいッッッ!!!」 グリップを握るルチルの指、引き金にかかる人差し指に力がこもり内側に引かれていくのを。 眼前の動作に瞬間的に紫夜の手が伸びた。殴りつけるような速度で不穏に光る銃身を掴みにかかる。 同時に放っていた紫夜の制止の猛りはただ部屋を揺るがしただけで ルチルの細い人差し指はあっけなく、引き金を引いた。 「ッッ!!!」 目を背けるひまも、閉じる隙もなかった。制止しようと見開かれた眼は絶好のタイミングで、その瞬間を目撃していたからだった。 だからこそすぐに気づいた。 カチン、という気の抜けた音が何を意味するのか。 「………………………………………………………おい」 紫夜の気の抜けた呼びかけに、ルチルは姿勢を崩すこともなく数秒そのままで固まっていた、と思ったら 「お、おいっ!」 カチン!カチン!カチン!と連続して引き金を引く。 その音と連動して使い魔はびく!びくッ!びくう!と泣き顔で目をつむり手で顔を守り上半身を跳ねさせた。 そして束の間静寂が部屋を覆った。 ルチルは片腕を伸ばして銃口を使い魔の額中央を狙い済ましたまま。 紫夜は伸ばしかけた手を所在無げに宙に浮かせたまま。 そして守護者だという少女が姿勢は保ったままで警護対象の紫夜に顔だけ向けて、 「弾を込め忘れていたようです」 「…………………………そうか」 しれっと言った。 安心するべき状況で、そんなルチルに紫夜はいろいろと不安になった。 その後、機会を逸したので、紫夜がルチルを丸め込めるように無理矢理に説得してプラムはなんとか帰らせました。 |