【『雪色家族』お正月番外編・・・お正月家族】 |
寒い寒い三十一日午前八時三十分。暖冬といわれたこの冬、いったいどこが暖かい冬なんだと、ついつい突っ込みたくなる今日この頃。私も陸上やってるから、寒いのは嫌い。そりゃあ、陸上自体は好きだから文句は言わないけど、とにかく寒い中走ると余計に寒いのが理由。大会とかだとランニングシャツと短パンだし。 そういえば、今日は奇雪、大掃除らしい。まあ、あいつら主夫がいるから何とかなるだろうが、はてさて…… 篝家では…… 「おはよぉー二人とも」 白いセーターとロングスカート、長い髪はすこしばかり乱れている。 奇雪はフワフワするロングスカートの端を握りながら、まだまだ眠そうに目頭をこすっていた。 「あれ……奇雪もう起きちゃったの」 「今日に限ってなんでまた」 伊月は目を丸くして、持っていた箸を落としそうになり、帷都季は飲みかけのコーヒーを吐きそうになる。つまりは、思い切り驚いている。そんな二人をみて、奇雪は首を傾げた。 「え……と、だって二人とも今日大掃除するって言ってたでしょ」 「……奇雪に言っちゃったの。兄貴」 「断じて言ってない。無実だ俺は」 あまりにも伊月の笑顔が恐ろしく、後ろで何か黒いものが渦巻いていたために、帷都季は真剣に弁解した。 「奇雪、お前……いつその話聞いた」 「昨日寝る前に、二人が話してるの聞いたの」 奇雪がそういうが早いか、帷都季と伊月は同時に肩を落とした。 「とりあえず、ご飯食べたら二階掃除しちゃうね」 にっこりと笑みを浮かべ、奇雪は悪びれもなくそう言うと、帷都季は顔色を変えて奇雪に出そうとしていた目玉焼きとベーコンの皿を落とした。 「だ、大丈夫? 帷都季」 「あ、ああ……」 動揺しながらも皿の破片と駄目になったおかずを片付ける。 顔が笑っているが、冷や汗が流れていた。 「大掃除、がんばろうねー伊月ちゃん」 その言葉に、今度は伊月が飲んでいたココアに咽た。 咳き込み、帷都季の用意した水を飲む。 「い、伊月ちゃん落ち着いた?」 「あ、うん……何とか」 にっこり笑みを浮かべているが、まだ咳が完全に止まっていない。 帷都季が伊月の背中を摩りながら、奇雪に真剣な眼差しを向けた。 「奇雪。お前は今日一日部屋から出るな」 その一言に、余計に疑問が浮かぶ。奇雪は朝ごはん優先だった頭を切り替え、 「何で、どうして、大掃除なのに」 と問いただす。二人は力なく肩を落とした。 奇雪は知らない。去年、どれだけ帷都季と伊月が大掃除に働いたのかを。いや、実際は知っているのだが。 それは去年の冬、大掃除のこと。そもそも家事全般が壊滅的に駄目な奇雪に、掃除などという行為をやらそうとしたのが間違い立ったのかと、二人は後で後悔した。なぜなら。 「奇雪、台所の流し台洗っといてくれ」 「うん、わかったっ」 その十分後、台所の浄水器が破壊。水道も破裂。 「奇雪―、玄関前を掃除できる?」 台所の有様を、帷都季が唖然と見つめているなかで、伊月はリビングに掃除機をかけながら頼んだ。 「うん、いいよー」 そして十分後。玄関の靴棚は戸がはずれ傾いているし、革靴は汚れ、泥がつき、他の靴についてはびしょびしょに濡れて、挙句の果てに玄関は埃まみれ。 帷都季が水道管の修理にあたっている中、伊月は玄関の有様を、目を丸くして見つめていた。 なんとか水道管が復活。浄水器は、新しいのを買うしかないと、ため息をついて台所を出た帷都季は、玄関前で必死に靴棚の戸を修理している伊月を発見。なんとなく、予想がついた。 そして元凶を探すが、見渡す限りどこにもいない。 「……おい、奇雪はどこへ行った」 「は? 知らないよ。忙しいから、兄貴は邪魔……」 しないでよね。と言う前に、二階からものすごい音が響き渡る。 二人は顔を合わせて、しばらく停止したあと。 二階への階段を、尋常でない表情で走った。 結局、奇雪は二階で「そうじ」をしていたらしいが、埃は立つわガラスは割れているわ掃除機は壊れて、塵が散乱しているわ……。 「……戦争でもあったのか」 「……そうなんじゃない?」 二人は、それ以上何も言わず、奇雪を無理やり理由を付けて外に出し、後片付けに費やされた。その後片付けが、どんなに大変だったを奇雪は知らない。もし知っているなら「私も手伝う」といって、さらに状況悪化させてしまうに違いない。 だから、今年は思ったのだ。あまり意見の合わない二人ともが、 「奇雪を大掃除に借り出してはいけない」 と。なのに、いつも朝が遅い奇雪は起きてくるし、話は聞かれて大掃除だとばれている。日にちを帰ると新年だから、大掃除の意味もなくなるのだ。 伊月が、笑って言った。 「奇雪は最近鼻炎が治ったばかりだから、埃を吸うのはよくないよ。今日は僕たち二人でやるから、奇雪は大人しく部屋にいてくれないかな」 奇雪はその答えに、笑顔を振りまいた。 「大丈夫だよっ、マスクするし!」 さすがに、二人は何もいえなかった。悪気の無い笑顔で言われたら、もう奇雪には適わない。 そうして、去年に戻る。 午後七時。くたくたでへとへとな二人が、台所から二階に監禁?されていた奇雪を呼んだ。 テーブルの上には、スーパーの激安タイムサービスで鬼人と化した一般家庭を守る奥様方に伊月が笑顔を振りまいて手に入れた蕎麦が湯気を立たせながら置かれている。 「ぅわーい、年越し蕎麦!」 一階に降りてくるなり、はしゃぐ奇雪。その気力は、二人にはもはや無い。お箸を持って、今年最後のいただきます。 「うはあーっおいしいねえ」 蕎麦を食べながら、ニコニコと微笑む。 「……よかったな」 「僕が手に入れた蕎麦だからね」 ふたりにとっちゃ、奇雪の笑顔が万病に効く薬らしい。 帷都季が洗い物をやり終え、紅白をコタツの中でじっと見る。 終わった頃には、なにやら静かなことに二人が気づいた。 ふと、隣を見てみる。 「……騒ぎ疲れたんだな。よく寝てる」 「奇雪、毎年最後まで起きてられないよね」 クスリと伊月が微笑み、帷都季は棚から毛布を取り出し、奇雪にそっとかけた。気持ちよさそうに、寝息を立てている。 「……来年は三色団子……」 そんな寝言に、二人は小さく笑った。初夢になるのは、団子の夢。 奇雪らしい。寺の鐘が鳴り響く。新年になった。 「あけまして、おめでとう」 「おめでとう、兄貴」 ふたりは新年の挨拶を交わす。そして、夢の中の奇雪にも。 それからすこしの間起きていたふたりだが、大掃除の疲れからか、三人仲良くコタツで眠った……。 同じく、一月一日午前一時。休みの課題を済ませて、私はベッドに入った。明日は、奇雪達と初詣。遅れちゃいけない。 そういえば、大掃除はどうなっただろう。大体予想はつくけれど。 部屋の明かりを消して、机に立てかけた写真を眺めた。 今年はどんな年になるだろうか。伊月はますます悪魔的になるのだろうし、帷都季は二人に振り回されるんだろう。あの兄弟は、もう主夫の道を迷いなく突き進んでいるなあ。その原因である奇雪はさらにその天然な性格に磨きをかけるだろう。ま、そこが可愛いのだけれど。吾月は……全く変わらないな、きっと。私は、今年の自分を明日神様に話すことにしよう。 それぞれの、新しい年。願わくばその年は、幸色でありますように。 ところで今回の大掃除で破壊されたものは、 網戸、水道管、棚が三つ、掃除機、乾燥機、洗濯機。うち、棚一つと掃除機は修理不可能だったそうな。 おしまい |
雪色やしくテンションハイで!と思って、そうなると主夫生かして大掃除で!!と思い書いたのですが・・・・・・なぜかこんなものに。そして、なぜ最初と最後は壮?突っ込みどころ満載な駄目文でした(涙 とりあえず、コレを気にしながらも、今年も雪色を愛してやってくだされば幸いです。 紗羅 |
紗羅さんからお年賀小説。
何でしょう、この賑やかなお話は!
きゆっち、料理だけでなくお掃除も駄目だったのですね・・・!(笑
そして帷都季と伊月の困り果てる姿がたまりません・・・!!
普段の二人からは想像できない姿で、ギャップに盛大に笑わせていただきました。
こういうほのぼのとした終わり方、大好きですv
今年も、この家族が幸せな一年でありますよう。
紗羅さん、素敵な小説、ありがとうございました♪