【KING・GAME】



「・・・駄目だな。失格じゃ。」
「・・・・は?」
リュート国首都、リュート街。
その表通りの白いテントで、市長(アルベス)の言葉に灰になっている少年。
「何で駄目なんだよ!金も払ったろ、理由を教えろよ市長」
「理由・・・そうじゃな・・・」
少年の意見も、もっともだと思ってか少年が差し出した小袋を取り出して
ため息をつきながらもハッキリと答える
「コレでは足りんのだ。」
「・・・ってオイ、そんな理由か!」
少年はますます納得がいかなかった。
なにしろこれは金貨(ルード)10枚。少年の全財産なのだから。
「これは(キング)になるための資格試験(キングサーム)だろ、何で金がそんなにいるんだ」
今、少年が受けているのは王になるための資格試験。
その名の通り、王になるための資格を取るための試験だ。
国王(キング)亡き今、
『資格試験に金銭制限を加る。』
・・ということらしいのじゃ
残念だが少年、これは元老院(ジルス)の決定事項、 
何所の国へ行ってもそれは同じじゃ。」
「・・・で、その制限はこの町じゃどれぐらいだ」
「・・・ふむ、この街では約金貨1千ぐらいか、まぁ世の中そう甘くは無いということじゃな、少年よ」
言葉が終わるか終わらないかの内に、少年は市長の頭を一発殴り、
「やってられるか」
と、はき捨てて表通りを後にした。
後ろから兵隊が捕まえにやってこようが、全く気にしないでぶちのめし、通りを歩く。
この少年、ハル・イシール。
赤いジャケットにシルバーの鎖のついた銃を持った茶髪の少年。
背丈がめちゃくちゃ小さい。(本人コンプエックス)
さっきまでハルが市長ともめていたのは、ある試験のことだった。
今、この世界では王を決める資格試験(キングサーム)″をやっている。
資格試験とは、王になるための・・・いわば国家試験。
本来は、(キング)、そして皇子(パル)が王の亡き後、その責務を譲り受け、新たなる王になるはずだった。
ただし、幾多の歴史の中で何回かの例外はあった。
王が亡き後、その皇太子・・・皇子がいない場合、もしくは皇子がその権限を放棄した場合、この資格試験を行っていた。
以前までは、王になるために必要な技量、能力さえあれば、市民(ルシカ)でも王になれるケースはあった。
だが、それをこの国の今の元老院(ジルス)が変えてしまった。
資格試験(キングサーム)を受けるには金銭制限をつける』と、
その値は高額なもので、誰一人として候補者はいなかった
政府は王、王妃(クィーン)、元老院で成り立つはずだった。しかし王亡き今、皇子は五年前に行方不明、王妃は病弱で一切の責務を果たすことは不可能だった。
そのため、今この世界は元老院が支配していた。
早く王が決まらぬように、金銭制限をつけ、期間を引き延ばし、自らが政府とし、国を動かしている。
それはまともな状態ではなかった。
市民は貧富の差が激しくなり、元老院に逆らうものは皆公開処刑。
税を上げ、金をむしり取り、都合の悪いものは排除する。
しかし誰にも止められない。
誰も逆らうことは出来ないのだ。
王族のほとんどが暗殺され、王妃はかろうじて生かされ、現在も行方不明の皇子は、市民の間では
「もう殺されているのではないか」
と噂まで立っている。
こんな世の中、犯罪者、賞金首が大勢存在した。
その中には元老院が雇った暗殺者などもいる。
もう、元老院は全ての人を支配していた。
その中で、その賞金首を狙う者、賞金稼ぎも存在した。
賞金稼ぎは、警察(パリス)の公認、元老院は手が出せないことから
市民(ルシカ)英雄(カナタ)』と謡われている。
そこまで、この国は恐怖だった。
ハルも、その『市民の英雄』である。
しかし、ハルの目的は資格試験の金にあった。
王になるために・・・賞金稼ぎをやったり辞めたりを繰り返し続けていた。
ハルは広場の噴水まで歩いた。水がたまっている近くではハトがたくさん張り手いるが、上空では烏が飛び回っている。
噴水のふちに腰掛け、


―――
先は長いな。
アイツとの約束、果たすまで・・・まだだいぶかかりそうだ。


ため息を一つ。
「・・・またやったな、少しは我慢も覚えろ」
黒い翼を羽ばたかせながら、
ハルの肩に顔を出す一匹の黒い烏。
さっきまで、うるさいほどに鳴きながら
表通りの空を飛んでいた群の一匹だ。
「うるさいな、この馬鹿烏」
烏に向かって話す。
驚きもしない。
ただ当たり前のように。
烏と喋ってるハルの風景は、街の人々から不振がられている。
当然、人はまともに近寄らないが、ハルはそんなことも全く気には留めていない。
「で、お前はこれからどうするんだヨル。もう俺はこの街にも用はなくなったし」
「わしは・・・また空を散歩するさ。美味い獲物が見つかるまでは」
烏は羽を繕いながらも
あの雲の浮かぶ青い空を見上げている
ハルはその烏に顔を向け
「お前も気ままだな。」
呆れた顔でそう答える
「主はどうするのだ?」
「俺は・・・また賞金稼ぎでもするさ。
金が無いなら、集めるまでだ。」
顔を上げ、烏と同じ空を見上げる
「またか、主はまだ王になることを諦めてはいないのか」
「まぁな。アイツとの約束だ。
絶対に破ることの出来ない、約束だからな」
ハルは腰につけていた銃を取り出す。
獣の紋章のついた小型の銃、そしてその紋章と似ているコイン


・・・こいつにかけて、あいつとの約束は果たさなきゃなんねぇ

「さぁ、そろそろこの街とも別れだな。もう美味い獲物は食い尽くしてしまった。また別の街で美味い獲物を探さねばならん」
翼を最大に広げ、羽ばたく。黒い羽があたりに舞い上がり、
ハルに黒い雪を降らせる。
肩や頭に乗った羽を取り払って
「いつまでこの町にいる?ヨル」
空に浮かぶ烏に向かい
「そうだな、明日には仲間と行くさ、わしは気ままだからな。」
「そうか、ならいい。」
建物に張ってあるチラシの賞金首を見て、少しの微笑と共に
ハルは銃を腰に戻す。鎖がかかっているのを確認し、有意義な笑顔で烏を見送る。
「じゃぁな。」
「また会おう、ハル・イシール、戦いの女神の子よ」
そう言い残し、烏はまた一声鳴き、空へ帰っていった。
「・・・・さぁ、今夜も、GAMEの始まりといこう。」

          †

夜のリュート街には、明りがいくつ灯っていようとも、
人の出る気配はなかった。
街に住む人は皆、窓を硬く閉じ、
扉には頑丈と言っていいほどの鍵の数が掛かっている。
その中で,一人その街の外を歩く者がいた。
白いローブに身を包み、その中で目立つように黒い銃を腰に下げている少女が
明りの中を静かに歩いていた。
髪がくるくるでいかにもそこらの街娘っぽい。

・・・賞金首かと思ったら、またそれより厄介そうな奴だな・・・

ため息をつき、影から姿を現すハル。
「・・・・何やってるんだ、同業者さんよ」
「!」
ハルが現れたのに、少し動揺を見せる少女。
「・・・何の気配かと思って、少し構えかけてたけど・・・同業者か。」
少女はフードを取って話す。
くるくるの長い髪を、うっとうしそうにしながら強気な顔を見せた。
手はまだ銃を構えているが、ハルは気にしていないようだ。
少しその強気な少女に近づいて話す。
「『シモン・ザーリング、十三歳にして天才賞金稼ぎの腕前を持つ凄腕の少女』・・・ね、イメージとだいぶ違うけど?」
少女・・・シモンはキツイ目でハルをにらみつける。
「何、失礼ね。あんただって、私と同じくらい(・・・・・・・)の年のくせにさ」
「誰がお前と一緒の十三歳のガキだって?」
静かに笑顔で怒るハル、これはよほど怖いらしい。
シモンも少しビビっている
「俺は十六歳だ。お前みたいなガキじゃないんだよ。俺は歳間違えられるのが一番嫌いだ」
まだ怒っているのか恐怖スマイルが続いている。
本気で嫌らしい。
「・・・とにかくコイツは俺の獲物だ。手、出したら殺してやるからな。」
冷たい目でシモンをにらみ、銃口を向ける。
その視線は、シモンにはまるで、
殺し屋のように冷たく感じられるほどだった。
「・・・何よアンタ・・・」
少しの震えがシモンを襲う。こんな瞳、どの賞金首にも見たことがない。
冷たい目つき・・・
「・・・まるで『戦いの女神の子』みたいね。」
その名前に反応するハル。なにせ自分の二つ名を言われているのだから。
「賞金稼ぎ・賞金首の世界で知らないものはいないわ、いつも辞めたかと思ったらまた賞金稼ぎに現れる少年、ハル・イシール=E・・・茶髪で赤いジャケット・・・・って聞いてたけど、そういえばそっくりね」
「単なる空似さ。俺は」
ハルはわざと自分の本名を言わない。
面白がってなのか、少しの含み笑いをこぼしている。
「まぁ噂だけどね。アンタも賞金稼ぎしてるなら、少しぐらい知ってるとは思ったけど。戦いの女神、イシール。その名の女神のように、獣を使い、まるでその獣に憑かれた様に戦うことからの二つ名。・・・知らないの?」
「・・・知らないね。」
「・・・・まぁアンタみたいな弱そうなのが知ってても意味無いと思うけどねー」
シモンの誤解にも何一つ真実を言うつもりはない。
この二つ名、ハルは誰よりも嫌っている。
「・・・・そら、話してるうちに、獲物のご登場だ。」
暗闇から、声が聞こえてくるのにシモンは気づいた。
ずいぶん野太い声と、豪快な叫び声。
「【賞金首ドレンド・ルザコネス。生死を問わず賞金、金貨100】
・・・・久々の仕事よ。」
「おい、だからそいつはやめとけって・・・」
ハルの言うことはすでに聞き耳もたない。
「私もアンタと同じ賞金稼ぎ。脅されようが何しようが止められないわよ。
なんたってこの世はお金が第一!
賞金首狙いでそいつらの情けない叫び声聞くって言う
なんでか知らないけど人に理解されない趣味をもってる奴が
目の前の獲物を見逃すわけないでしょ。
よわっちいアンタとのお喋りもここまでよ」
「(凄い趣味だな・・・こいつ。)」
呆れた顔のままのハル。
とりあえず、かかわると五月蝿そうだと判断。
そんなハルをよわっちい呼ばわりしたシモンは
くるくるの髪を後ろに結い、腰のベルトから銃を取り出す。
「待ちなさいっこの悪党っ」
銃を向けて大声で叫ぶシモンに対し、呆れはてた顔で建物の壁に寄りかかるハル。しかしその瞳はやはり冷たく、静かにシモンの腕前を見極めようとしている。
「・・・・ほぅ、お嬢さんこの俺に何か用かな?」
賞金首、ドレンドは大男だった。背中には一本の大鉞。
ニヤニヤと笑いを浮かべ、手に持っている空の酒のビンを放り投げ、まるで自分が銃を向けられていることに気づいていないようなそぶりを見せる。
それがシモンの気に障ったのか大声で叫ぶ。
「私は賞金稼ぎシモン・ザーリング。アンタを警察まで届けてあげるわっ」
銃の引き金を引き、弾丸がドレンドの腹部に飛ぶ・・・が
ドレンドは持っていた大鉞を背中から軽々と手に持ち直し、弾丸を弾く
「天才賞金稼ぎシモン・・・・お嬢ちゃんが?そりゃぁ期待はずれだなぁ。
もう少し腕のある奴かと思ったが」
話しながらも、撃たれてくる弾丸をまるで風船が飛んでくるように簡単に防ぐドレンド。
そして傷一つ付いていない大鉞
「はぁ・・・はぁ・・・・なんで・・・・当たんないし傷つかないのよぉっ」
連射とたまに振り上げてくる大鉞に体力は削られていく
「この大鉞は鋼より硬い物質だぁ。もうあきらめて殺されちまいな」
陽気にも、まだ残っていた酒のビンを傾け、更に酔っていく。
それでも動きに支障は全くない。

・・・ちょいとヤバイかな。
あそこの奴は絶対に手貸してくれなさそうだし、ここはさっさと片付けよ。

シモンは体力の限界を感じたのか、早めにケリをつけようと考え、
拳銃を足につけていた白い銃に取り替えた。
先ほど使用していた銃よりやや小型で、射的距離の短そうな銃。
「ならこれはどう?私の最終兵器」
その銃口から一発の弾丸が飛び出す。
しかしその向きはドレンドではなく、傍の壁
「何所を狙っている、これが天才シモン嬢の最終兵器か?」
笑って見過ごすドレンド。
しかし、シモンは何かを企てているかのように笑っている。
「・・・・なかなか、貴重な銃だな。」
ハルが関心の一言をつぶやく。
そしてその弾丸は・・・
建物から建物へと跳ね返り、地面をもまるで鋼鉄に当たったかのように跳ね返り
「ぐあぁぁぁぁぁ」
ドレンドの右腹を貫く。
思ったよりは弾がひどく貫通していたらしく、
「ち・・・・兆弾だとぉ・・・・」
撃たれた部分を押さえ、血を吐くドレンド
しかしまだ立っている
「ち、さっさと倒れてくれればいいのに。この兆段高いんだからねぇっ」
連射して弾の飛び跳ねる音が当たりに響く。
ハルはその弾の角度の間合いから外れ、その戦いを観戦していた。
まるで全ての結果が見えたかのように
「・・・終わりだな。」
とつぶやく。
その言葉・・・
ドレンドに向けてなのか
シモンに向けてなのか・・・
「かはっ」
シモンが膝をつく、連射した弾の一つが肩を貫いた
「甘いなぁ。」
ドレンドは連射の角度を予測し、その射程に入り、大鉞でシモンに返した。
腹部からの血は止まってはいないが、それでも動いている。
「残念だがなぁお嬢ちゃん、俺はこれくらいでは死にゃしねぇ。なんたって元老院(ジルス)
様の雇い賞金首だからなぁ俺は。」
笑いながら大鉞を振り上げる、シモンは兆弾に毒を塗ったせいで、
攻撃することが出来ないまま地面に倒れている。
頭を上げようにも腕に力が入らない

     パチンッ

「な、なんだっ!」
指を鳴らす音とともに、一斉に闇の色の烏がドレンドに襲い掛かる
その数、数十羽。
空の支配者が爪と嘴で襲いかかっていく
大鉞も当たらず、ドレンドに成す術はなく、腕で振り払っていくしかない。
「情けないな。それで元老院の雇い賞金首か?」
シモンの前で笑みを浮かべる。
肩に烏を連れた茶髪の少年・・・ハル
「主もわしたちを使うのが荒いぞ。」
「まぁな、こんなもんさ。十分だろう」
苦笑しながらもう一度指を鳴らす。
烏は肩に止まっているヨル≠残し空へ舞い戻る。黒い雪を降らせながら。
「くそぉぉおぉおおおぉ!何だって言う・・・・」
ドレンドは言葉を終わらせる前にハルの顔を見て硬直する
まるで幽霊でも見たかのように
「何・・・で・・お前がここにいるんだぁぁぁあああ」
恐怖の顔に変わる。恐ろしいものを見たかのようにハルを見る
シモンはまだ立てない。しかし、
どうしてドレンドがハルに怯えているのかは不思議だった
「単なる偶然さ、さぁ、警察まで散歩と行こうか、ドレンドさんよ」
「い、嫌だぁぁぁぁぁぁ」
必死に首を振るドレンド
「・・・悪いが俺にはどうしても、金がいる。そんなに嫌ならGAMEをしようじゃないか。賞金首さんよ」
その言葉にドレンドは震えを止めた。
ハルは一枚のコインを出す。表に烏の紋章が刻まれた金のコイン。
「こいつが表か裏かを当てるゲームだ、簡単だろう?お前が勝てば見逃してやる」
「・・・・いいだろう」
ドレンドは安堵の息を漏らした。表情も少し明るくなる
「(・・そんなにコイツが怖いのか・・・?)」
シモンは疑問をさらにふくらませる事になった
肩の傷を抑えながらハルの横顔を見る
ハルの顔は、まるで勝負が初めから決まっているかのように自信満々だった
「さぁ、・・・いくぜ」
コインを宙に投げ、空中で幾度か回転しながら降りてくる。
それをじっと見ているドレンドに笑みを浮かべるハル、
まるで全てを見透かしたように、凍りつくような自信の笑顔で、
降りてきたコインを左手の甲にとり、右手ですばやく覆い隠す。
――――判決が決まる
「さぁ、裏か、表か、運命の瞬間だ。選べよ賞金首」
ハルの手の甲にあるコイン。
その裏か、表か乃簡単なGAMEにドレンドは真剣に考えている
これが間違っていれば、確実に警察・・・最悪、死ぬことになるのだとわかっているのだろう。
「・・・・う・・・・裏だぁ!裏、裏、裏だぁぁぁぁ」
まるで狂ったかのように叫ぶドレンドに笑みを浮かべ、コインを隠していた右手をその場からどける。
「・・・あぁ・・・あぁぁぁぁ」
ドレンドの顔が再び恐怖の色に戻る。
「残念だな。コインは・・・表だ。俺の勝ちだ。」
コインの表示は烏の紋章。
GAMEの審判は下された。勝ったのは・・・・ハル。戦いの女神の子。
GAMEに負け、ドレンドはその場から震え立ち上がり
「いいいいぃぃぃいやだぁぁぁぁぁ」
死にもの狂いでハルに向かって飛び掛る
「生死を問わず≠セ。悪く思うな。GAMEに負けたものには・・・」
GAMEに使ったコインを宙に投げる、その瞬間、
肩に止まっていたヨルはそのコインに吸い込まれるように姿を変える
ハルは余裕の笑みを浮かべながらも、そのコインを銃の・・・本来ならば銃弾を入れるべき場所へつめた。

「GAMEの敗北者には、容赦のない罰を(・・・・・・・)

その言葉から、
引き金を引く・・・
「ぁ・・・・」
シモンは呆然とした
引き金を引いた後、目の前に大鉞を振り下ろして来ていたドレンドを
瞬きも出来ない内に何かが貫いた。
シモンは見えていた。その瞬間が。
貫いたのは弾丸でもコインでもなく、烏の姿をした風・・・・・だった
その風圧に押され、大鉞も粉々の破片になり、吹き飛ばされ壁に叩きつけられ、声にならないような小さな叫び声でその場に倒れ伏すドレンド。
「・・・・手、抜いただろう。ハル」
「け、お前に言われたくねぇよヨル」
コインを銃から取り出し、ヨルも元の烏に戻って闇に一回り羽ばたいてピタッと元の肩の位置に止まる。
「さて、悪いな、あんたの二つ名、『兆弾のシモン』の所以を見てみたかったからギリギリまでほっといたんだが。初めからお前には無理だな、この馬鹿とはいえ、一応元老院に雇われた賞金首・・・暗殺者だ。
大抵の修羅場はくぐってるんだろうよ。」
完全に気を失っているドレンドの方を向いて少し冷たい目線を送り、再びシモンの肩の治療に目を向ける。
「自分の撃った毒入りの弾丸喰らって死にそうになってる奴を助けるまでもなかったんだが・・・ま、いいだろう。」
白い布に薬をたっぷりつけ、包帯の変わりに肩にまきつける
手馴れている様子で、シモンはボーっと見ていた
そしてハッと我に戻り
「あ・・・あんた誰」
思いついたかのような言葉が出てくる。
本当はお礼が言いたかったらしいのだが微妙に気が乗らなかったらしい。
「・・・・・俺はハル。ハル・イシールだ。
悪かったな。お前の変な趣味の邪魔してよ、俺も金がいるんだ。
約束のために、王になるために。」
真っ直ぐな目で空を眺めている。
何かを思い出しているかのように、淋しい目。
あの、冷たい目ではなく。淋しい目だった。
「・・・・・・・・その・・・ありがとう」
やっと言えたかのようにシモンは深い深呼吸をする。
「・・ってホントは言いたかったんだけど、先に名前聞くのがでちゃっ・・・た・・・」
「・・・ってあれ?・・・ハル?」
ヘタヘタと据わって顔を隠しているハル。
ジ――――っと見ているうちにシモンはなんとなく気づいて無理やりハルの手をどける。
「・・・やっぱりー」
ハルの顔は林檎・・・だった。似合わず。
「ハルってさー、しおらしい女の子には弱いんでしょー。」
「う、うるさい。それに、お前は・・・・・・」
「?何よ」
「・・・・やめた。」
ハルが言いかけたこと、それはシモンにはわからなかった。

・・・・アイツに似てる・・・と思ったけど・・・
言わん方がいいだろう。

心の中で微妙に思った言葉は闇の中。現実は
首を傾げるシモンにまだ顔を赤らめているハルだったりする。
実際大人しめの気弱な女の子とかは大の苦手なハル。
こうもそのくるくる髪で言われると、無意識に赤くなっていたらしい







「・・・・・で、何でついて来るんだお前は」
道は町を出たところ。
警察(パリス)にドレンドを気絶したまま引き渡し、賞金はとりあえず半分にわけた。
それまでに三時間に渡る言い争いがあったが、結局は両方の納得で、
ハルの報酬は半額の金貨(ルード)50になった。
その後、烏のヨル達に礼の肉と別れを告げ、また空を飛んでいく烏の群れを見送り、今に至る。
さすがにまだ納得がいかないのか、少しイラついた声で話すハルに
こちらはもう
「金さえ入ればいい。」
状態で勝手にハルの後をついてくるシモン。
風が気持ちよく吹いて本人いわくコンプエックスのくるくる髪が良くなびく。
「えー?だってハルと一緒だと、なんか面白そうなんだもんvいっぱい賞金首の悲鳴聞けそうでさー」
「(本命はそこか。)とにかく。俺は金さえ集まればそれでいいんだ。お前がついてこようが分け前はないぞ。」
ついてきてもいいが、賞金はみんな俺のもの・・・・と、念を入れるハル。
もともと資格試験(キングサーム)に金銭制限を勝手な理由で作った元老院(ジルス)にも仕返しがしたいハルは、とりあえず賞金の高いそいつらを狙い目にしていた。
これでシモンに

また儲けを台無しにされても困る。

とのことで、何回もシモンに問い詰める
「わかってるよーうるさいな。あたしは自分の分しか稼がない主義だから。
それに趣味だしv賞金首の悲鳴ってなんか良いよねー」
うっとりしているシモンに対し、
別の意味で恐ろしくも思ったハルだった。
「・・・・勝手にしろ。俺はアイツとの約束のためだけに動く。王になる。お前が付いてこようが実際メリットもデメリットもない。」
「そういえば。アイツって・・・誰?その人と約束したの?
王になるって・・馬鹿?」
シモンは不思議そうにその存在を聞く。
ハルはその質問に
「馬鹿だろうな。普通は。だが約束だ。
アイツ・・・ってのは、俺の弟で、そいつと約束した。
「いつか王になる」ってな。弟は今も信じてるかどうかはわからない。・・・まぁ信じてないだろう。」
「駄目じゃん。」
突っ込みが少々きつかったのか微妙に落ち込み。
が、立ち直って話すハル
「まぁ駄目だろうな。だけど、俺はこのGAMEを信じるさ。
このコインに賭けて。」
コインを照らす。獅子の紋章の銀のコイン。
「・・・ふぅん」
簡単に答えるハルに少しの寂しさが見えたシモン。
「弟ね、あたしも姉がいるけど、ろくな姉さんじゃないし・・・
でも、あたしもアンタと同じ、約束はあるの、姉さんと。
これもくだらない約束けど。あ。でもアンタのよりはマシ。」
「ああそうか。そりゃそうだろうよ。どうせ無謀だ。」
開き直ったハルに向かってシモンは言葉を返し空を見て微笑む。
「いいんじゃん?姉弟の約束。GAMEで例えたらTステージクリア?
見たいなカンジ。ね、まだ始まったばっかだから、あきらめるなよ幼児体型少年!」
「・・・・お前さっきと言ってる事が違う。そして絶対についてくるな」
幼児体型に怒った。
「そうだっけ?と、とりあえず、あたしはアンタにカリがあるし、当分ついていくから。まぁお互い似た者同しなんだし仲良くやろー」
あきらかに深く考えてないシモン。
その明るい表情にが、ハルはなんとなく心地よさを感じた。

そうだな。
まだ、あきらめないさ。アイツは信じてくれてるって俺が信じたから
いつかアイツがこんなこと言ってたっけ
それが俺のこの無謀な賭けの、鍵かも知れない・・・

「さ、行こっ」
シモンが引っ張る腕に、少しの希望を乗せて、そっと言葉をつむぎだす。


    ―――まだ、GAMEは始まったばかり―――    


―――どうでしょうか?一応短編ですが。
送っていいとの先生からの言葉はまさに奇跡!でした。
よって気合入ってます。もともと投稿しようかと思って書いた作品ですが、思いっきり誤字があります。たぶん。
見たところは直したんですが、まだあったらすみません。
えと、賞金稼ぎ・・・の話です一応。
主人公のハルは人と深くかかわることを嫌います。
シモンはその逆っぽいので、結構このあと振り回されてるやも知れませんね。     紗羅


紗羅さんから、短編小説いただきました。

ひゃー・・・凄いですね。どうやったらこんなに素敵文章かけるんでしょう。
キャラクターが凄く魅力的です〜vハル君最高!
でも一番のお気に入りはヨルさん!(ぇ
世界観の方もかなりしっかりしていて。脱帽。
紗羅さん、ありがとうございました〜v

+ひっそり挿絵+