【FINAL・GAME】



・・・一人の少年が、いくつものレンガ造りの建物の裏路地を走っていく。
風のように呼吸を合わせ、右手には黒い銃をしっかりと構えている。
少年は黒く四角い、この国では少々珍しいサングラスをかけ、
白いランニングコートを黒いTシャツの上に羽織い、
少し長く薄い茶色の後ろに結った髪を走風になびかせている。
もう三十分は走っているはず、
なのに全く息を切らさずに狭い裏路地を走っている少年。
その周りに人はいない。
たまにバケツのゴミを漁っている野良猫が少年に驚いて
叫び声を上げながらその場を逃げ去っていくだけ。
少年の前を走っている女(・・・・・・・・・・)を除いて。
黒いキャミソールの上に薄いコートを着た髪の長い二十歳前後の女性。
少年から見ると後姿だけだが、
たまにこちらを振り向いてくる女の顔は、
真紅の口紅、
すらりとしたスタイル、
整った顔立ち。
そこら辺の男なら、何も言わなくてもついて行ってしまうような
絶世のつく美女。
ただし受ける印象は冬の雪山。
純黒の長いスカートを引きちぎったらしく、
その白い足がむき出しになっている。
しかしその衣装とは裏腹に、手に握られているのは小型の黒い銃。
だが女はその銃を使おうとはせず、恐怖の顔で少年から遠ざかろうとする。
「もうやめときな。」
少年はその言葉を、前を走る女に向かって呟き、その場に立ち止まる。
その声が聞こえていないのか、それとも聞こえているのか、
それでも女は立ち止まらない。
焦りの顔で走る。
少年はその女のそぶりを気にせず、落ち着いた表情で
構えていた銃を女に向けて標準を合わせ構え直す。
女はもう後ろを向くことなく、どんどん先へ進む。
距離はどんどん離れていく
普通の銃なら射程距離はとっくに過ぎている。
それでも少年は銃を構えたまま動くことはない。
「終わりだ。」
少年は女に狙いを定めきり、

―――引き金を引いた。

銃弾は真直ぐにその狭い路地を進み、女を追いかける。
しかし女はもう撃った距離から800mと離れていた。
少年から、女はもう姿しか見えない。
しかし、その少年はまるで気にすることもなく弾丸を発射した。
余裕の笑みを浮かべて。
女は銃弾が来ていることも知らずに走り続けていた。
疲れ果てたのか、
その場に止まり息を整えながらも
少年の姿を確認するために後ろを振り返る。
少年がもうぼやけてしか見えないことを確認した後、安堵の息が零れ落ちた。
そのとき。
「え・・・・?」
女のその少し高い声はすぐに止まった。
何かの風が自分の方へ来るのを感じてか
一瞬のきょとんとした顔は、
そのまま硬直して変わることは無かった。
弾丸が自分のすぐ横を通り抜け、
丁度傍のゴミを漁ろうと、上空から降りてきた烏を打ち落とした。
女はその烏が倒れる瞬間を見て思う。

あと少し走っていたら、私はあの弾に当たって死んでいた・・・

女は恐怖の顔に染まりながらも破いたドレスから白い太股を出し、
隠していた銃を取り出す。
手に持っていた銃と一緒に両手で掴もうとする。
少年から逃れるために。
そのとき、
ふと少年の様子をうかがう。攻撃態勢に入っているかどうかを確かめるために。


・・・持っていた銃も手にしてないわね・・・
少しずつこちらに近づいてくるだけ
十分に逃れられる・・・

頭を整理しながら女は少し助かるとの安堵の笑いを浮かべ、少年を見る。
そのとき、顔がはっきり見えるところまで少年が来ているのに気づいた。
女は少年の顔をじっと窺った。
少年はさっきまでかけていたサングラスを取り外し、
その碧の瞳を見せていた。

ドクンッ

え・・・・・

女はその深い瞳を見たとたん、体の力が抜ける感覚に襲われた。
そして気づいた。
その少年の瞳の意味に、力に、
足から銃を取り外そうとした手も、銃の前で止まっている。
動かないのではない。
動けない。
体はだんだん近づいてくる少年のその瞳から
目を離すことも逃れることもできなかった。
頭には「逃げろ」の信号が体に送られている、
だが体はその信号を受けようとはしない。
少年の目が近づくほど体は言うことを聞かなくなる。
「な・・・・・ぁ・・・」
声も次第に出しにくくなっていく。
表情も恐怖の色から変わらないまま
少年は女の前までたどり着き立ち止まる。
その場から少年は動かない。
「お前のFINALGAMEは終わりだ。」
そう告げて笑う、その笑いはすこし冷たく、そして淋しそうな目。
手にしていた銃はもう腰の鎖につないである。
少年の両手には何一つ武器はない。
女はそれをわかっていた。
しかしその少年の目に囚われたまま、指の一つも動かせない。
「なんなら呪縛、解いてやろうか?賞金首」
少年は笑う、しかし目はやはり変わらない。
女は声も出ない、話せないのを知っていて少年は問う。
狭い路地裏の中で硬直したままの女。
「つまらないですね。あなたも結局雑魚ですか?
元老院(ジルス)のお気に入り暗殺者さん?」
その言葉は女の前にいる少年ではなく、女の後ろの路地の出口付近。
高い声、長い髪を二つに分けて途中まで編み込んである。
白と空色の服を着用した少し幼く見える少女。
「さぁ、一緒にご同行、お願いできます?」
女の首にナイフ突きつけて追い討ちをかけたあげくにその場でお縄。
「・・・あら、もうかまいませんよ、キル・イシール。早くその
邪眼♂いてください。搬送できないじゃないですか。」
すこし命令ぶった敬語で、
女を追いかけていたキルという少年に声をかける
キルはずっと見開いていた目を閉じ、何かの呪を唱える。
その呪は簡単なもので、すぐに女の呪縛は解けた。
女はそのとき逃げようとはしなかった。
解けた瞬間体が重くなり、重力に負け、その場に座り込む。
「あー・・・ちょっとやりすぎたか。まぁ、あとは頼むマッツー。」
「マッツーっての止めてください。私はマツナ・ザーリングです
なんなんですか!警察(パリス)上司(・・)に向かってあなたは!」
「(認めたくねーが)」
キルは怒りながら叫んでいるマッツーことマツナの声を耳栓しながら笑い、
光の溢れる表通りに顔を出す。
キルはこのガーナリア国の警察
『賞金首(暗殺者)手配管轄』の捜査官。
・・・にしては、本人はあまり自覚がないようだが。
あの少女、マツナ・ザーリングはその管轄の捜査部長。
キルが警察になり『賞金首(暗殺者)手配管轄』になったのがつい一ヶ月前。
入ったとき、すでにマツナは管轄の捜査部長だった。
見た目はキルの方が年上に見えて、実際はキルより一つ年上の十六歳。
責任感が強く、いつもキルの世話(説教)をしていたりする。
よく人から間違えられるほどの幼い容姿をしたマツナは、
そのことをだいぶ気にしている。
それをからかうのが、唯一キルの管轄内での楽しみ。
キルはその深い葵の瞳を持つ、その目に魅入られたものは、
その瞳の呪縛から決して逃れられない邪眼の一種
【spell eyes】
そしてあることのでの才能、
運動神経、
戦闘スタイルから、本当はこの国のどの警察(パリス)よりも優れている。
・・・ただ書類整理(デスクワーク)がキライでサボリがちなだけで。
キルは戦闘の相手を選ぶ。
ただの賞金首ではなく、
元老院(ジルス)に雇われた暗殺者』

他の賞金首は暇つぶしに、たまにしか行動を起こさない。
実際のところ、全くと言っていいほどに職務を全うしていないので、この地位。
キル自体はそんなに気にはしていないようだが。
「あー・・・明るいな。路地だと暗くてわからないからなー」
サングラスをかけ直し、街中を歩く。
街の建物には賞金首のチラシが溢れるほど張ってある。
しかし、どの賞金首もキルの目に留まる者は無く、
その場を素通りする。
その中で、ある白い建物が目に入り、キルは立ち止まる
大きなレンガの建物で、市長(アルベス)の仕事場・・・つまりお役所、
二人の兵士が門番をしていた。
その建物の前にある、一つの看板がキルの目に入った。
(キング)になるための資格試験(キングサーム)開催。期間は約二年。』

―――兄貴、本当に信じていいのか?

ああ、この俺に任せとけ。絶対に王になってやるよ。

わかった。約束だからな

ああ、約束だ――――

キルはその看板から思い出して、またその場から離れる。
「・・・今の時代じゃ、仕方ないか・・・」
キルはふと、この世界の現状を頭に描く。
今、この世界に(キング)はいない。
丁度半年前に、亡くなった。
次の王は皇子(パル)のはずだった。
五年前、行方不明(・・・・)になるまでは。
この世界での政府は(キング)王妃(クィーン)、そして大臣にあたる元老院(ジルス)で成り立つ。
しかし王はもういない。
皇子もいない。
王妃は病弱で一切の責務が果たせない状態。
よって今、この世界は元老院が支配している。
それはまともな状態ではなかった。
王も皇子もいないときに行われる資格試験も、金銭制限をつけ、
候補者がいないようにしたのも元老院。
市民(ルシカ)はその政治に逆らうことは出来なかった。
逆らう者が、幾度となく目の前で死んでいったから。
その家族、友人も、大切なものすべて奪われる。
忌々しいほどの笑顔で、何のためらいも無くむしりとられ、
逆らったものに残されたものは、その儚い命だけ。
元老院は暗殺者を雇い邪魔者を排除していく。
その暗殺者、そして犯罪者は日に日に増していく。
その犯罪者や暗殺者を、少しでも止めるのがキル達の管轄。
もっとも、その管轄は現在キル、マツナを入れて四人。
―――この人数は当たり前だった。
警察(パリス)さえも元老院の雇った暗殺者は手が負えず、もう何百人と殺されている。
異常性格犯罪者に全身バラバラにされた者。
あえて急所を狙わずにいたぶって殺された者。
そんな暗殺のプロに、警察のほとんどが怯えている。
そんな中での『賞金首(暗殺者)手配管轄』の人々は
それぞれ、その怯えが無い者たちの集まり。
キルもその一人。
その四人は皆、暗殺者・賞金首を専門に動き、行動している。


「・・・・・暑ぃなー」
気温は35℃。
さっきまでいた影のある裏路地から出てきたキルは、
この街の地獄のような暑さに耐えながら、ぶらぶらとその辺を歩いていく。

・・・あ―――・・・兄貴、今頃またやってんだろうな。

ボーっと空を見上げ、首に下げていた金色のコインを日にかざす。
猛獣の王、獅子の紋章が刻まれていたコインは、日に照らされ輝きを増す。
キルの頭には誰かの姿が浮かび上がってくる。
「あ――――っこんな所にいたんですか!
早く戻って書類整理(デスクワーク)してくださいぃぃっ」
後ろからの聞き慣れたうるさい声に立ち止まり、コインを戻して振り向く。
案の定、居たのはどう見ても十歳〜十二歳の上司様。
「何考えてんですかっ、さっさと仕事してください。
これ以上賞金稼ぎに頼ってられないんです!」
「・・・・あーはいはい。」
気のない返事を返すキルが、少し気に触ったのか
「いい加減にしないと減給にしますよ」
などと少し脅しをかけてみる。
「・・・減給は困る。でも書類整理はやらないがな。」
「あなた上司をなめきってますね・・・」
結構かわいい顔が怒りの顔になるのを見て
「まぁ落ち着けマッツー。RINGのパフェ奢ってやるから」
気長に傍の喫茶店に視線を送るキル。
「その呼び方止めてください。でも・・・まぁいいでしょう。」
目線をそらして、子供のような喜びの笑顔が顔に浮かぶ
実はここのパフェに目がなかったりするマツナ。
お子様なマツナを手なずけるのがキルは結構自慢だったりした。
「〜♪〜♪」
鼻歌交じりに白い椅子に座り、豪華絢爛ストロベリーパフェを待つ
ルンルン気分のマツナ。
書類整理はすっかり忘れているようだがキルはあえて言わない。
(言うと後々面倒だから)
「で、どうなんだ?賞金稼ぎ達の成果。」
コーヒー片手にマツナに問う。
マツナは落ち込み気味のような、真剣の様な顔で、
水を少し口に運んでから言葉を濁して話す。
「・・・正直頭が痛いですよ。大幅にあちらは成果を上げていて、
手渡す金額も馬鹿にならないそうで。
上の方々からの愚痴が耐えませんよ。
特に最近は天才賞金稼ぎの二人組の動きが活発だとかで、
おかげでこっちに火の粉が飛んできてます」
ため息交じりに警視総監の愚痴を思い出す。
捜査部長も時にはその愚痴を耐え忍ばなければならないと言うのだから
キルにとっては悲惨な地位。この地位でよかった。めちゃくちゃサボれるし。
と心底思う。
「なんも出来ないお偉いさんがよく威張って言えたもんだな。」
呆れた顔でコーヒーを飲み干しおかわりを頼むキル。
「で、その天才賞金稼ぎの名前は?」
「わかりませんよ、そんなこと。キルなら知ってるんじゃないんですか?
昔はその世界にいたんですから!」
イラついていて勝手に口から飛び出た言葉に、
マツナはハッと我に返り口をふさぐ。
「・・・・」
キルは黙り込む。コーヒーの水面を見つめながら冷たい目で。

言ってはならない。禁句だったことを言ってしまった。
キルの過去に触れたのだから。

マツナは少しキルの顔をすまなそうに覗う。
「・・・俺が殺し屋やってた頃は、そんな奴いなかったな。」
「・・・・すみません。」
「いいさ。どうせ変えられないんだから。」
少し笑った目をして答えるキル。

嫌なことを思い出した―――
出来れば思い出したくなかった――――

心の底で少しそう思っていたキル。
―――――キルは昔、殺し屋をしていた。
依頼されれば殺す。
例えどんなTARGETでも。
しかし、今は全く逆の立場にある。
本当にここにいることが、夢のように思える時がキルにはある。
あの真っ暗な雰囲気、あの闇の世界で、一人で生きていた。
しかし今は、光の溢れる世界にいる。
そして一人じゃない。
マツナや他の二人もいる。
「ああ、そうだ。あんた妹いるんだな、マッツー」
キルは落ち込み気味のマツナに話題を変えて話す。
気を使ったのだろう。
「え、あ、はい。いますよ、三歳年下の妹が。ろくな妹じゃないですけどね・・・」
言葉に気づき戸惑いながら話す前半と、
後半部分の思い出したかのような嫌味な声の違いがキルには少し笑えた。

そんなに気にすることは無かったか、マッツーは立ち直りが早い。

そう思いながらマツナを見て笑う。周りから見ればまるで気のいいお兄ちゃん
・・・ということはキルもマツナも気づいていなさそうだが。
「で、その嫌味に聞こえるお前の妹はどんな奴だ?」
少し興味があるのか、聞き出すキルにマツナは
「賞金稼ぎなんですよ。
昔から父によく似て気が強くて・・・結局家出して、
今じゃ天才賞金稼ぎとか噂されてるらしいですけど、
実際は変な趣味持ちの妹ですっ」
イラつきながら妹じゃないかのように話す。
笑いながら聞くキルに
「キルはいないんですか、兄弟。」
自分に話題が向けられたキル、その質問にその姿を思い浮かべながら答える。
「ああ、いるぞ。兄貴が。マッツーの妹と同じ賞金稼ぎ。」
「そのマッツーってのは止めてください。」
突っ込みどころを忘れないマツナに笑いが取れない。
「で、どんな人なんですか?きっと私の妹よりまともなんでしょうね。」
「いや、そうでもないぞ。」
注文していたパフェが届き、気分を180度ひっくり返して苺を口に運ぶマツナ。
見ているキルは、まるで妹のような幼い顔で食べる年上を不思議そうに見ながら話す。
「俺の兄貴・・・ねぇ。実際とんでもない約束のためにとんでもないことしようとしてる奴だよ。」
「・・・とんでもないこと・・・ですか?」
丁度口の中の苺とクリームがのどを通ったときマツナは
口についたクリームを拭きながら聞き返した。
「今、資格試験やってるだろ。兄貴はそれを受けるために賞金稼ぎやってるらしい。」
「・・・・は?―――あぁっ」
聞いたことにマツナは口に運ぼうとしたスプーンをテーブルの上に落とした。
「落ち着いて食え。兄貴は昔、俺としたくだらない約束のために、
王になろうとしてるんだ。無謀なことに。」
「・・・・・なんて言うか・・・お兄さん馬鹿にしてますか?」
「お前もだろう。
まぁ兄貴は俺よりは強いが、馬鹿だからな。
昔の俺みたいに、人とかかわるのが結構苦手だし。」
「はぁ、さようで。」
新しく貰ったスプーンでパフェをたいらげるマツナ。
水を一杯口に運び
「もしかしたら、私の妹とキルのお兄さん、実は上の方々の中でも有名な天才賞金稼ぎの二人組だったりして。」
などと笑う。
「あーそれは無いな。さっきも言ったろ、兄貴は人とかかわるのが苦手な奴だ。特に大人しい気弱な女は苦手だよ。」
キルはコーヒーを飲み干して
「まぁとりあえず、兄貴もお前の妹も、俺達にとっちゃ敵に近い存在ってことだな。お互いに」
イスから立ち上がり銅貨(ガード)四枚をテーブルにおいて
「じゃ、俺は先に戻ってるから――――――・・・!」
「甘いですよ。」
がっしりとキルの手につながれた手錠。その先はロープでつながっている、
ロープの先には・・・マツナの手。
「ル〇〇三世の〇〇警部の武器かよオイ」
「まぁアイディアはそれですよ。
じゃ、帰って書類整理です。あと、今日の深夜に賞金首が来るかもしれないとの情報です、しっかりお願いしますね。くれぐれもサボらないように☆
でないと減給です。」

必死に手錠をはずそうとするキル。だがまったく外れない。
「あ、無理ですよ。それは絶対に開きません。
この武器を作らせたら国一番の私が言うんです。
あの射程距離が普通より五倍長い銃を作ったのも私ですよ」
にっこりと自慢げに話しながら、キルを引きずって連れて行くマツナ。
それに引きずられていくしかないキルだった。

―――夜。大抵この時間、賞金首は夜行性なのか、いつも夜に行動する。
まぁほとんどが暗殺者だから当たり前なのだが。
「さて、今日はどの武器貸してくれるんだ、マッツー」
「貸しません」
「ああぁぁ悪かった、悪かったからなんか貸して下さい捜査部長様」
「わかりました。」
そう言って有意義にトランクの鍵を開ける。
・・・キルはなんとなく負けた気がした。
トランクの中身は
「これです。」
黒い短銃が一丁。
「revolverなので性能はあまり良くないですが、その代わり弾丸は強力です。
射程距離は普通の距離の約二倍ほどでしょうか」
「・・・まぁ悪くないだろ」
銃を持って試しに壁に撃ってみる。
弾はレンガの壁に練り込んでいる。
鉛の鉄板なら貫通するほどの威力だ。
「今回は結構楽な筈です。頑張ってくださいね。」
「・・・で、今更だが何で毎回俺なんだ?他の二人がいるだろう。」
銃弾を詰め込みながら面倒くさそうな顔をするキル。
今回の敵は元老院が雇った暗殺者ではないという情報なので、
キルはイマイチやる気が出ない。
「仕方ないんです。二人とも単独で賞金稼ぎとの商談に向かってますから。
キルだけその命令無視して残ったんですよ、忘れないで下さいね。」
「悪かったなマッツー」
「止めてください。」
「何だぁお前ら・・・」
「?」
話の途中で声に気づき、後ろを振り向けば大男。
後ろには大鉞を背負っている。まだ新品のように光沢があり、満月に照らされている。
「・・・やる気、沸きますね。」
「あーそうだな。」
そう言って二人は大男の大鉞を軽々かわす。
外見はただの人っぽいがやっぱりキルは元殺し屋。
マツナは危険管轄の捜査部長。
それなりの動きをする。
「こいつ、賞金稼ぎにやられたドレンドだろ」
「そうです。きっと脱獄したんですね。何やってるんでしょうか、あちらの国の警察(パリス)は・・・」
呆れた顔で話すマツナ。その言葉に大男・・・ドレンドは反応した
「今度はつかまらない。戦いの女神の子にさえ会わなければ」
「・・・・なるほど。お前倒したのは兄貴か。」
戦いの女神の子に反応し、笑いながら大鉞をよけ続ける。
「戦いの女神の子?」
マツナが応戦に銃を撃ちながら問う。
「ああ、兄貴の二つ名だ。戦いと獣の女神イシールのような戦闘スタイルからついたらしい。もっとも、俺はもっと違う戦闘スタイルだがな」
大鉞を振り下ろしたドレンド、これもまた簡単に、
余裕でかわす。
「お前・・・前に俺達の方にいただろう?」
「・・・・」
心臓の脈が速くなる。

その言葉、つまりこいつは、俺の過去を知っている。
俺が、昔何をしていたのか・・・

キルは蘇ってくる血しぶきの映像を押さえつけ、冷静を保つ。
そのことをお構いなしにドレンドは話し続ける。
「そうかぁお前殺し屋のangelkillerかぁ・・知ってるぜぇ・・・お前は有名だったからなぁ。依頼されりゃぁ誰だって殺す。失敗は無い。噂ではもう死んだとばかり聞いてたがなぁ、お前が警察とは・・・・」
キルの瞳のことも知っているらしく、サングラスをかけるドレンド。
キルは意気込んで自信満々に話す。
「だったらどうした、兄貴に負けたお前が、この俺に勝てるはずが無い。
俺はお前と違う」
「それはわかるまい。お前は俺たちの世界の人間だ。その血の匂いは消えるこたぁねぇ。それが嫌なら・・・・
殺してやろう殺してやろう。その女共々っっ」
キルに向けられたはずの大鉞は、マツナへと方向を変え、その刃をマツナに振り下ろす。
「きゃっ・・・・っ」
「マッツーっ!」
刃はマツナの背中にかすり、その長い髪を首元まで切り裂いた。
油断したのか、マツナは避け切れなかった。
まさか自分に向かってくるなど、あの状況では思わなかったのだろう。
「ぐはははははははぁぁ、油断したなぁお嬢ちゃん、」
マツナを捕まえ、盾にする、背中からはかすったとはいえ、血が流れ出している。
その赤い血は、何よりキルが恐ろしく思っていたものだった。
「・・・・・そいつを放せ」
「それは出来んなぁ。・・・しかし、噂ほどでもなかったか、悪魔の女神の子。
お前は表でどんなに償いをしても、どんなに善人ぶろうとも、所詮俺達と同じ世界に住む人殺しだ。たいした理由もないくせに殺せと言われ、簡単に殺す。
命の玩具で遊ぶ俺たちと同じなのさぁ。」
「・・・」
何も言えはしなかった。キルは銃を構えてはいるが、手出しは出来ない。
マツナは出血多量で気を失っている。
手を出せばまた、同じ。盾にされる。マツナが殺される。
いや・・・

―――手を出せば、俺がマツナを殺すことになる。

頭の中は真っ白になった。ドレンドの言葉が過去の映像を映し出す。

・・・俺はまた、あのときのようになるんだろうか・・・

なにもできないまま、アイツが死ぬのを黙って見ているだけなんだろうか・・・

殺し屋をしていたときのように、

昔、アイツが殺されるのを見ることしか出来ない・・・・

そんなことをくりかえす・・・

頭が混乱する、キルはそのとき何かの言葉を思い出す。忘れかけていた言葉。


「まだ、FINALGAMEじゃない。」


そうだ。

冗談じゃない。

力が無かった、光が無かった、何も出来なかったあのときの俺は
もうアイツと一緒に死んだんだ。

俺には力がある。

光がある。

アイツはもういない。

それなら今、

殺し屋のときの、昔の俺じゃなく、


――――今の俺として、こいつを倒す。



キルは顔を上げた。
持っていた銃をしっかりと構え直す。
手に握られた黒い銃は、マツナの方向に向いてた
「裏切るのか、この女を。やはりお前は闇の住人・・」
「黙れ」
冷たい目で言葉を突き刺す。まるで氷のような顔は、ドレンドを怯えさせる
「俺は昔の俺じゃない。お前の言う善人でも償いでもない。
俺が動くのは、銃を持つのは、そうさせる存在がいるからだ。」
引き金を静かに引く。弾丸は壮大な音を辺りに聞かせて突き進む。
「馬鹿め、そんなもの、この大鉞ではじいてくれるわ、お前を殺すのは、目の前で女が切り裂かれるのを、ただ見ているだけのような姿になるときだ」
その銀の大鉞はドレンドの前に壁を作る。
しかし
弾丸はその大鉞に辺り・・・
「な、なんだ・・・弾丸がはじけて・・・泥水かぁっ・・・」
弾丸から飛び出した泥水が、サングラスの視界を奪う。
「くそぉ・・・だがなぁ、こんなことに何の意味がある。何も意味は無い。
お前はこのチャンスを逃した。俺がサングラスを取ってしまえば
視界はすぐに戻るからなぁ」
ドレンドはサングラスを取り外し、足で踏み潰す。
その瞬間、悪魔の笑みを浮かべた。
「さぁ、お前のFINALGAMEだ。」
ドレンドは、そのとき初めて自分のしたことが恐ろしくなった。
サングラスをとった。ただそれだけの行動に。
その葵い瞳を見てしまったのだから。
「・・・・・な、なんだっ」
その瞳を見た次の瞬間、辺りは真っ暗な闇になった。
ドレンドはキルの姿が見えないのに気づく。
マツナはまだつかまっている。意識はうっすらだがあった。
「・・・こ・・こは・・」
「黙れ女ぁ!アイツに聞こえ・・・ぐぁぁぁぁぁぁぁぁ」
言葉が途切れ絶叫に変わる。
「な・・」
マツナはその絶叫の意味がすぐに理解できた。
ドレンドの手が自分の首から離れている。
マツナはドレンドから少し離れて、気づく。
その手が血しぶきを上げて皮一枚だけでつながっているということを。

・・・吐き気がする・・・

マツナは暗闇の中、そう思う。
目の前で、ドレンドの両手が、両足が、次々と血しぶきを上げていく。
これはさすがに女性の見るものではなかった。
もはや声にならない絶叫を上げ、その場に仰向けに倒れるドレンド。
そしてマツナは見ることになった
闇の中の一つの銃に。
あれは自分が作ったものだ。ではキルが使っているのか?
何のためらいも無くここまで命をいたぶり、苦痛を味わせる必要がどこにある?
頭が混乱する中
「やめて・・・・・・やめてくれぇぇぇぇぇぇぇ」
その雄叫びはその銃に向けられている。
しかし銃は引き金を引き・・・
「や・・・止めてぇ―――――――っ」
マツナは叫ぶ。
そして・・
「FINALGAME・endだ。」
一瞬で闇は消え、元の位置にいる。
目の前にはキル。銃はもう鎖につないであった。

・・夢・・・・?

一瞬そう思うマツナの目に飛び込んできたのは、大量の血。
「キル・・・あなたまさか殺したんですか!あの闇の中で、あんな殺し方・・・・」
「・・・・この血はマッツーのだぞ」
「・・へ?」
キルは「なに寝ぼけてんだ」口調でびっくりして答える。
その血は・・・確かに自分の背中からだった。
あの夢の血しぶきが、妙に頭に張り付く。
「・・・・はっ!そういえばドレンドは・・・」
「ああ、奴ならあっち。」
笑って指をさす方向を見てみると、ドレンドは気絶していた。
両手両足に一発ずつの弾丸を受けて。
「あ・・・・・・よかった・・・」

ホッとした。
やっぱりあの夢は、現実じゃなかった・・・

そう思えてならない。
「・・・ってどうやって倒したんですかっ、また邪眼つかったんですか!」
「・・・悪い」
少し冷たい目で話す。
「今まで使った邪眼とは違う。能力を80%使った邪眼だ。」
「・・・どう違うんですか」
「・・・お前、アイツが次々銃で撃たれていく姿を見ただろう。」
「・・・」
言われてまた思い出す。
そうしただけでも吐き気がきそうなくらい頭に残っている。
「あれは俺の邪眼が映し出したものだ。痛みは弾丸一発分の約十倍、最後の心臓の弾丸は小石を落としただけだが。
そんな感じで痛みを倍にしながら恐怖の映像を見せるんだ。
そのかわり、これを使うと俺も見返りが来るんだがな」
キルの肩から血が地面に静かに落ちていくのにマツナは気づいた。
「い・・・いったい何でここまでしたんですか!」
服の裾をちぎり、応急手当をするマツナを見て
「悪かったな・・」
そう謝るキルにマツナはきょとんとした顔を見せる。
「あれは傍にいるものも引きずり込まれる。お前も見ちまったろ、あれは・・・」
「いいです。」
包帯代わりに巻いた布をきつめに締めて、笑顔で言葉を止める
「私は警察の捜査部長ですよ、これくらいで精神ダメになったりしません。それに、いつも最大で使わないのは、キルのその気持ちだと思っていますから。」
その笑顔に、キルは張り詰めていた気持ちが解けたような気がした。

      ◆◆◆◆

「さぁ、もう一度監獄行きですよ。」
傷はもうすっかりふさがっている。
脅威の回復力を見せながらドレンドをお縄にするマツナ。
本人は「ただかすっただけだから当たり前」とか言っているが、実際は凄いことだと思いながら搬送されていく車を見送るキル。
もう朝の日が昇りかけていた。
徹夜と傷が堪えるのか座り込むキルに、マツナはしゃがんで目を合わせる。
「ところでキル、「そうさせる存在」って誰のことですか?」
「ゲッ・・・お前・・・気絶してたんじゃ・・・」
「ああ、あんなの半分意識ありましたよ。ただ動けなかっただけで。ひそかにやってた護身術も、あの筋肉には到底役に立ちませんでしたけど」
笑顔。

この戦闘直後によくまぁこれだけ笑えるなー

その微笑を、なんとなく懐かしいと思ったキル。
「・・・アイツもよくお前に似ているよ。」
「だからアイツって誰ですかっ「そうさせる存在」の中に入ってるんですか?あ、もしかしてまたお兄さんですか」
勢いよく声を張り上げて肩をつかむマツナ。キルが方に傷があることすっかり忘れて。
「とりあえず話す。話してやるから手、どけろ。血つくぞ」
「っあぁ!」
すぐに手を離すマツナ。
結構痛かったのを我慢しながらキルは話す。
「アイツ・・・・ってのは俺の親友の妹だ。もう十年前に、自分の兄に殺された。
俺はその瞬間を見ることしか出来なかったんだ。後でそいつが暗殺者の息子だと知った。」
「・・・トラウマですか」
「そんなもんじゃねぇよ。ただ・・・もう二度と、見ていることしかできない自分をゴミ箱からあさるつもりはねぇさ。
「そうさせる存在」ってのは、・・・そうだな、そいつと兄貴と・・・・」
朝日は二人を照らす。キルはなぜ殺し屋をやっていたのか、この管轄に入ったのか、その子のことでマツナはなんとなくわかった気がした。
「・・・・忘れようとしても、忘れられないことはあるけど、それを受け止められたなら、素敵ですね」
誰に向けてなのかはわからない。
その朝の光に向けて話した。
「・・・お前、俺があの管轄に必要か?」
「何言ってんですか、必要に決まってます。
あの管轄だからじゃなくて、キルだから必要(・・・・・・・)なんですよ。わかってます?それに、さっきの「そうさせる存在」に私も入れといてくださいよっ」
その言葉はキルにとって心地よかった。
マツナは手を差し伸べて、その手をキルはつかむ。
キルは暖かい光にまたコインを照らし、思い出す。
過去、殺した命をキルは忘れない。
これからもずっと忘れない。
そう誓う。
―――俺を必要としてくれる存在は、
      俺が動く、そうさせる存在は、
もう会えないアイツと、
くだらない約束を信じさせた兄貴と、
幼い顔の年上の捜査部長。
―――また歩いていこう。
 マツナの言う通り、受け止められるように。
   信じよう、兄貴の言う通り、必要としてくれる存在を。
忘れない。
アイツが俺にだけ、残した言葉。

まだ、FINALGAMEじゃない



誤字があったら ごめんなさい
えぇと、マッツーことマツナが影の主人公?かも。
ってくらいお気に入りです。キルは殺し屋ですが、今は警察というなんともややこしいというか正反対の立場ですよね(爆笑
KINGでラスト出てきたアイツってのはキルです。ここでのアイツは別人の女の子ですが。
もう本っっ当ややこしいです。でもまぁわかれば・・・おもしろいかどうか・・・(汗
とりあえず読んでやってください。                                    紗羅


紗羅さんから、短編小説いただきました。

かなりわくわくしながら読ませていただきましたよ♪
邪眼・・・いいですね特殊能力って。特殊能力萌えです。(帰れ
やっぱりキャラが物凄く素敵で、マツナお姉さん、私のハートをがっつり掴んでいってしまわれましたよーvv
戦いのシーンが格好いい〜
本当にこんな素敵なお話をかかれる紗羅さんを尊敬します!
紗羅さん、ありがとうございました〜v